~ミシュラム 船着き場~
各々仕事があるシルフィア、レイア、そしてヨアヒムと別れたアスベルとアリサ。そのまま港湾区から出ている水上バスでクロスベルの保養地・別荘地として知られるミシュラムに到着した。ホテルや別荘、元議長であるハルトマンの邸宅―――現在は迎賓館として接収され、活用されている。
「さて、宿泊券はあるからただで泊まれるんだが……空きはあるのかな?」
「聞くところによると人気だものね。流石に野宿は嫌よ。」
「それは俺もなんだが」
ともあれ、目の前に見える大きな建物に入り……2階にあるフロントにて話を聞いたところ……土日ということもあって満室のようだ。だが……フロントの人がアスベル達の名を尋ね、その名を聞くと……クロスベルに滞在する間の宿泊先の地図を描き、アスベルに渡した。その目的地は別荘エリアの最奥……そう、ハルトマン元議長の邸宅。そして、現在は迎賓館として使われている場所を指し示していたのだ。
「ぜ、贅沢ってレベルじゃないんだけれど。」
「うん。俺もそう思った。」
各国のVIPクラスの人間が寝泊りする場所……アスベルは生まれが特殊なうえ、経歴から言えばその資格足りうるわけで……アリサは言わずもがなである。だが、疑問はある。『一体誰がこんな手引きをしたのか』……ということだ。シルフィアとレイアはしそうな雰囲気はあるが、前もって言っていたとは思えないので除外。その他にも色々な可能性は考慮したのだが……一番可能性があるのは、アリサの実家絡み。とりわけ、あのスーパーデラックスメイドなら平気でやりかねない。
「……そりゃ、欲がないと言えば嘘になるけどさぁ……」
「アスベル?」
「いんや、こっちの話。流石に疲れたからシャワーでも浴びたいけれど……お先にどうぞ。レディーファーストで。」
「私はアスベルが先に行ってほしいんだけれど。」
「……りょーかい。」
アリサがいろいろ思いつめた表情をしているのに気付きつつも、それに触れないようにして先にシャワーを浴びた。ズボンにTシャツというラフな格好でぬれた髪をタオルで拭きながら上がってくると、入れ替わりになる形でアリサがシャワーを浴び始める。……流石に覗きはしませんよ?
「ふわぁ……ん?」
ふと、自分のカバンのポケットから鈍い光を放つ物が。出てきたのは栄養ドリンク。だが、こんなものを入れた覚えなどないし、嗜むこともない……誰かとぶつかったこともなかったので、誰かが放り込んだのは間違いないのだが……紛れもなく、栄養ドリンクであり……その匂いも栄養ドリンク特有だと解る匂いだった。
「う~ん……こりゃ、普通の栄養ドリンクか。てっきりシャロンさんが何か仕込んだものかと……」
蓋を開けてしまったからには、飲まないでおくよりも飲んでしまった方がいい。試しにほんの少し飲んでみたが……普通の栄養ドリンクのようだ。それでただの変哲もない代物だと判断したアスベルは一気に飲んでしまったのだ。……アスベル本人に対しては、特に大きな効力はなく、疲労回復と滋養強壮の効力なのだろう。
何せ、アスベルが全部飲んだその栄養ドリンク……アスベル本人には自覚がないが、ある効力を発揮する代物だった。そして、その影響を受けるのは本人ではなく、異性……つまり、
「あ………アス……ベルぅ………」
「………(そういう類の奴かよ!!)」
気が付けば、アスベルの背中に抱きついているアリサ。その表情は蕩けて、頬をうっすらと赤く染めており……シャワーを浴びた直後のせいか、シャンプーとボディソープの匂いが鼻を擽る。流石にシャワーを浴びるということで髪飾りは外している。そして、最大の特徴は……体に巻いたバスタオル一枚でアスベルに密着するように抱き着いているのだ。何が言いたいのかって?タオル越しとはいえ当たってるんですよ、アリサの瑞々しい身体が。
先程飲んだ奴は、推測ながら男性フェロモンの分泌を促進し、栄養ドリンクの中に含まれていた惚れ薬の類がフェロモンを伝って女性が呼吸で吸い込むことにより、興奮状態にするというものなのだろう。やっぱ抜かりねえなシャロンさんは!……と思ったアスベルだった。
「私……もう…我慢できない………」
「えーと、あの、アリサさんや?」
……救われないな、俺。
ともあれ、自然と交わされる口づけ……アスベル自身もこの日が来ないとは思ってはいなかった。薬絡みとはいえ、どこかもの欲しそうな感じの表情を浮かべているアリサ……癪であるが、認めざるを得ないようだ。
「成り行きとはいえ、女性にそこまでされて成すがままというのは俺のポリシーに反するんでな……今度は、こっちからいくぞ。」
「ん……来て、アスベル……」
互いの身に着けているものは脱ぎ捨てられ、互いに羞恥心を投げ捨てるかのように抱き合う二人……まるで、今までの失った時間を取り戻すかのごとく、ベッドの上で愛し合う……二人が一息ついたころには、日付が変わった直後であった。流石に疲労を感じているので、二人とも横になっているが。
「もう……アスベルったら、がっつぎすぎよ。もう少しで意識が飛んじゃうところだったわ。」
「ちょっと羽目を外し過ぎたな。流石に久々だと加減が難しいんだよ……」
「あ、やっぱりシルフィやレイアとやってたんだ。」
「発端はレイア。その挑発に乗せられたのがシルフィって塩梅だ。」
「あ、やっぱり。そんなところだろうとは思ったわ。」
色々歯止めが利かなくなると、大変なこともあるもので……“そっち方面”は問題無いということだったが、念のために“保険”は掛けている。そもそもその“保険”を学ぶきっかけは、自分の部下の正騎士が夜這いをかけまくって来たことなのだが。というか、これで“既成事実”になってしまったわけで……覚悟はとうの昔に決めていたことなので、今更ではある。
「というか、アリサと一緒にいるのに、他の人の話をするのはどうかと思ったんだが……」
「私から振ったんだから問題は無いってことで。」
「それでいいならいいんだが……おやすみ、アリサ。」
「おやすみ、アスベル。」
そして口づけを交わすと……互いの身体を温めるように抱き合いながら眠りに就いた。そして翌日……まぁ、若気の至りということで抱き合ったのですが。ちゃんとそこら辺に伴う対策は抜かりなくしているので問題は無い。今日はクロスベル観光でもしようと街区に出てきたのだが、
「おはよう。さくやはおたのしみだったみたいだね。」
「レ、レイア!?」
「遊撃士の仕事の方は大丈夫なのか?」
「先程全部片づけて来たよ。アッチは譲ったけれど、アリサちゃんに抜け駆けはさせないんだからね。」
女性の勘というか、猟兵で培った勘というか……一発で見抜いていた。ともあれ、今日に関しては“四人”で行動することになりそうだ。で、その四人目―――ルナシア・セフィルート……シルフィア・セルナートはというと
「まったく、レイアってば……」
「その辺はしょうがないと思うが。」
ため息を吐いていた。それよりも、男一人に女三人……肩身が狭いというのには、とうに覚悟していたことだ。当てもなくブラブラしてみるのも一興だが……そこに、レイアが一つの提案をした。
「それだったら、大聖堂は?」
「自ら死地に飛び込めというか、お前は。」
「冗談だよ、冗談。」
ともあれ中央広場のお店でいろいろ物色することとなった。お土産もそうだが、クロスベルならではの流行の服を見るのも中々楽しい……その中で、存在感を放っている人間がいた。
「ん~、リーシャはもう少し露出度を上げてもいいんじゃないかしら。こういう服なんかすごく似合いそうね。」
「胸元丸見えじゃないですか!」
「過激ってレベルじゃねえな。」
露出度の高い服を、連れのトランジスタグラマーの少女に勧める活発さを絵に描いたような女性。それを見て若干呆れつつも、自分のスタイルを悔やんでいる少年ルックの少女。だが、女性の攻撃は終わらない。
「こういう服って言うのは、男を惹きつける効果もあるのよ。そういう男性はいないのかしらね~?リーシャぐらいのナイスバディだったら引く手数多でより取り見取りじゃない。」
「イリアさん!!」
公衆の面前で隠すこともなく堂々と言いのけるその物言い……すると、その女性―――イリア・プラティエはアスベル達の中に居るレイアを見つけると、
「あ……久しぶりね~!レイア。」
「っ!!」
「むむっ、ガードが固くなったわね。」
「嫌でもそうなるよ。初対面でいきなり胸を揉む人間なんて貴方位ですよ。」
(………)
一度セクハラ被害に遭っていたレイアに対して同情を禁じ得なかったのは言うまでもない。何はともあれお互いに自己紹介をする……シルフィアは偽名の方だが。三人は公演前の息抜きということでここに買い物に来ていたのだが、其処で出くわしたということだ。
「それにしても、貴方……ガイさんを思い出すわね。」
「えっと、ガイ・バニングスのことですよね?どういうことです?」
「何を隠そう、仲人を務めたのはアタシなのよ。貴方のように付き合っているということではなく、何かと女子と居ることが多かったのよ。」
女子三人といるアスベルを見て、イリアはそう話した。何でも、ガイは無自覚のフラグビルダーで、セシルがそれを見てため息を吐くことが多かった。それを見かねた親友として、
『恋愛は戦争と同じ。戦わないと負ける……それと同じよ。』
そう一言諭したらしい。その後も親身になって相談やアドバイスを続けたその結果、セシルはガイのハートを射止めたというワケだ。
「あの子、いつになったらちゃんと忘れられるのかしらね。」
「そうですね……(ま、あの人は生きてるんだけれどな。)」
これも何かの縁……と言いつつ、イリアは去り際にアスベルにチケットを渡して去っていった。それは紛れもなく今日の夜公演のVIP席チケット。値段にすると数十万ミラ相当の代物であった。それを臆することなく渡せるあたり、“女傑”と呼ばれるのかもしれない。
その後はというと、四人でアルカンシェルの夜公演を見ることになったのだが……その感想は言葉で言い表せないほどの圧巻。全ての演出や動き……その全てが主役である二人のアーティストをより一層輝かせるための要素として余すところなく発揮されている。他国でも公演依頼が殺到しているが、それを断っているのは“この一体感”を出せる環境が他でもないこの場所だからなのだと率直に感じた。
公演終了後に労いということで楽屋を訪ねると……
「あ、みなさん。」
「もう、せっかくいいところだったのに。」
「何がですか!?」
危うくセクハラされそうになったリーシャは安堵した表情を浮かべ、一方イリアは不満げそうな表情を浮かべていた。これには一同苦笑いであった。ともあれ色々話をし……その中で、今度この公演での演目である“金の太陽、銀の月”をリニューアルするそうだ。その内容は流石に秘密であったが……何はともあれ、楽しみにしていると告げ、その場を後にした。
「………(“紫炎の剣聖”“銀隼の射手”、それに“朱の戦乙女<ヴァルキュリア・ルージュ>”……)」
その後ろ姿を、見つめるようにしていたリーシャ。一昨年……直接対峙した経験のあるシルフィア、“赤の戦鬼”“血染め”といった実力者相手に善戦したとの噂を持つレイア、そして数千人の猟兵相手にたった一人で殲滅したという常識外れというか都市伝説と言っても差し支えない所業を成したと噂される“紫炎の剣聖”。見た目は普通の青年や女性……だが、その奥底に秘める力をひしひしと感じ取っていた。自らの“裏の稼業”……それを果たして全うできるのか。
……その後のアスベル達はって?……アスベルとアリサの泊まる部屋にレイアとシルフィアが乱入して、時間無制限のバトルロワイヤル(夜的な意味で)と相成った。それに打ち勝ったのは紛れもなくアスベルであった……ちゃんと回避するところは回避していますので、ご安心を。
一言だけ言っておきます……こういう展開は言葉選びが難しい(マジで)
“先人”のものを参照しつつ、表現を抑えめにしました。日本語ってやっぱり偉大です。
ちなみに栄養ドリンクネタというかフェロモンネタは私が気に入っているところからヒントを得て……こういうネタは、他にもあるので……これ以上は無理ですよ?いや、マジで。
それとアルカンシェルネタ……ミシュラムネタは、後々何かでやろうかと……ハイ。
ちょっと足早みたいな感じになりましたが……クロスベル編はあと1,2回ぐらいの予定です。そこから他の人の自由行動日を書こうと思います。あと……ルドガー、更に受難が待っています(確定)リィンは述べるまでもなくです。
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第42話 フラグは既に立っていた