No.73856

真・恋姫†無双 愉快な殺し屋さん 第三章 駄目人間LVが400を超えました!……まさか、暴走w(前編)

紅い月さん

どうも、紅い月です。
愉快な殺し屋さん、第三章前編。

オリキャラ主人公なので、嫌いな方は戻ることをお勧めします。

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2009-05-16 00:29:12 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10336   閲覧ユーザー数:7216

俺の目の前にあるモノ、死体―――――そう俺が殺した死体だ。

 

 

俺は躊躇をせずソレの腹を掻っ捌いた。……既に死んでいるのにも関わらずだ。

 

 

別に誰かに命令された訳ではない。自分の意思でだ。

 

 

悪魔のような人間と罵るか?結構、言われ慣れた言葉だ。気にはしないさ。

 

 

こんな人間が今、周りでは天の遣いと言われてるんだ。笑えるだろ?

 

 

そう言ってる間にも俺は手を止めない。腹の中に手を突っ込みグロテスクなモノを取り出す。

 

 

当然死にたてのホヤホヤだった。いい色をしている。

 

 

つい笑みを浮かべてしまう。やはり脳の回路がどこか切れてるんだろうな。普通じゃない。

 

 

そうだ、俺は殺し屋だ。これこそが俺のすべき事だ。

 

 

思わず、声をあげて笑ってしまう。

 

 

 

 

 

ハハ、ハハハ、アッハッハッハッハ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたのか、桐生。鶏を捌いているのか?上手いものだな。……だがなぜ笑っているのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタばらしすんなよ、秋蘭さんやw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双 愉快な殺し屋さん 第三章 駄目人間LVが400を超えました!……まさか、暴走w

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、秋蘭の言ったとおり俺は鶏を捌いているだけだ。紛らわしいって?ほっとけ。

何故、俺がこんな事をしているのか、それを説明するには少し前に戻らなくてはいけない。

それを今から説明しよう。

 

ジャジャーン!『回想映写機~』w

ではVTR、どうぞ~♪

 

 

 

(再生)

あの日、華琳たちと出会った日から既に数日が経過していた。

あの後、例の三人組を捜索、発見、捕縛。(その際に繰り広げられた春蘭とのツープラトン攻撃を見せられなかった事は残念でしょうがないw)

んで捕獲したはいいが、あの三人は流れのものだったらしく、古書は持っていなかった。骨折りぞ~ん。

まあ、賊ということには変わりなく、官軍としてはそのままにはしておけないのであいつらは牢屋行きとのことらしい。

おそらく、その内、何らかの罰があるだろう。知ったこっちゃ無いが。

さて、三人組の一件で華琳に召し抱えられた俺であるが、役職もなければ兵を預けられているわけでもないので決まった政務があるわけもない。

従って扱いの上では部下でなく「客将」という事になっている。

だが、働かざる者食うべからずとの華琳の言葉。

最初は気まぐれに練兵に顔を出したり平民に交じって農作業で畑を耕してみた。

空気に合わずすぐに止めたが。

 

本来の俺の職業、殺し屋業は開店休業中。

殺す対象がいなければする事がないのは当たり前。

そもそも華琳は暗殺を好むタイプじゃないな。

 

で、だ。この年でニートは勘弁なんでほかに得意な事をやってみた。

そう、家事だ!

炊事、洗濯、掃除と全てハイレベルなオールラウンダー、それが俺、桐生 久遠。

頑張った。とにかく頑張った。その結果、来て一週間で侍従長以上の権力を渡されたw

華琳からは『天の御使いを侍女代りにしていたのでは私の恥となるわ!』と言われたが、あえて無視!やがて、俺の神技wを認め諦めた。

 

仕事が忙しくても勉強は忘れない。

何せ言葉は通じるみたいだが、文字が読めん。

ここでく~ちゃんの108の処世術 NO.23『久遠式超暗記術』の出番だ。

まず、ぶっとい針を頭に………ゲフンゲフン!いやいや、ただの要領の良い暗記法なだけだよ♪

……………ウソジャナイヨ?

 

効果は抜群。3日で文字をスラスラと読めるようになった。さすが『久遠式超暗記術』!

………その代償として文字に襲われる幻覚に3日間悩まされたがw

とにかく、文字が理解できたので最近の趣味はもっぱら読書だ。現代のとは一風変わってて面白い。読んでいるのは倉庫にあるエロ小説だがねw

 

そしていくつか政務も任されるようになった。いきなりかよw

簡単なもので軍議含め政に直接の支障を来たすものではないが、大事なことだ。

信用を得て困るという事は困らない事より少ないからな。

 

順風満帆!………と、言いたいが全てが上手くいってるわけではない。

ちょっとある人と少し諍いがあった。

今からそれをお見せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、なんつった!ああ!?」

 

恰幅のいいおっさんが俺の胸倉を掴み上げる。だがそれを気にせず、俺は相手を睨みかえす。

 

「大したことじゃない。あんたの料理を食ってこの程度かといっただけだ」

「んだとコラァ!テメエ舐めんてんのか、オイ!」

「別に。人を舐めまわす趣味は俺にはないな」

「―――――ッ!!テメエ!」

 

おっさんは俺に殴りかかるが、その動きは鈍い。

苦もせず、掴まれていた手を解き避ける。

 

おっさんの正体はここで雇われた料理人だ。たまに華琳達に食べさせている。

この場で何が起こったのかと言うとおっさんは出来上がった料理を作って通りがかった俺に味見さしてくれた。天の使いに旨いと言わせて箔をつけたかったんだろう。だが結果は凄惨たるものだ。

 

「俺の料理はな、食通で有名な曹操様も認めたモノだぞ!それを―――」

「大方、ギリギリで水準を満たしてるだけだろう?いつも言われてるんじゃないか?精進しなさいって」

「ぐっ!……」

 

図星だったらしい。おっさんは口を閉じる。

確かに料理はそれなりに美味しい。華琳も認めるだけあって非常にレベルの高いものだ。

だが、何かが抜けている感じもしないでもない。そのため満点を与える事が出来ない。

 

「この程度なら、俺の作った料理の方が数段マシだ」

「へっ、だったら作ってみろ!もし旨くなかったら―――――」

「はっ!いいだろう!煮るなり焼くなり好きにすればいいさ」

「その言葉忘れるなよ!」

 

おっさんは怒りながらも台所の隅に向う。

俺はまな板の前に立ち―――動こうとしなかった。

 

「どうした!?今更臆したの―――――」

「――――――なあ、おっさん。あんたは運がいいな。レアなシングルナンバーを見ることができるなんてな」

「………あん?」

 

訳が分からない顔でおっさんは俺を睨む。

本当にこのおっさんは運がいいと思う。

この技は見るのはあんたで3人目だからな。

 

「光栄に思え、今から見せるは調理の一つの到達点!究極の秘技!

ハアアアァァァァァァァァァ!!!!!く~ちゃんの108の処世術! NO.6!」

「な、なんだ!?ガキから発せられるこの気迫はぁ!?」

 

俺は二本の包丁を掴み目を閉じる。そして―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――体は包丁で出来ている。

 

 

 

 

    血潮は出汁で 心は鉄鍋。

 

 

 

 

    幾たびの戦場(調理場)を越えて不敗。

 

 

 

 

    ただの一度も食中毒はなく、

 

 

 

 

    ただの一度も苦情はない。

 

 

 

 

    彼の者は常に独り 台所の中で美酒に酔う。

 

 

 

 

    故に、生涯に意味はなく。

 

 

 

 

    その体は、きっと包丁で出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           『アンリミテッド・クッキング・ワークス!!!!!』

   

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、何が起きたかは記さない。

世界には知らなくていい事がたくさんある。これもその一つだ。

今回のは神秘的な要素は一切含まれてはいない。ただの調理技術とだけいってやろう。

 

他に述べる事があるとすれば、その時おっさんは奇跡を目の当たりにして、ただ跪き涙を流した。

何らかの天啓を得たようで大陸を長期において渡りその道を究める為旅立った。

 

目をつけていたお抱えの料理人がいなくなり華琳は大激怒。

代わりに俺が強制的に料理当番に任命された。

 

そして、いまに至るわけだ。

(再生終了)

「んで、どうしたん?まだ、飯時じゃ……なんで鎧を着込んでるんだ?」

 

ふと、気付く。秋蘭は最初にあった頃の様に鎧を着ている。

まさか、普段着ではあるまい。―――――となると……

キタァーーーーーーーーーーーーーーーーーΨ( ̄∀ ̄)Ψ

 

「アレっすか!?戦っすか!?出陣っすか!?」

「ああ……近頃、隣県で賊による略奪行為が頻発しているようでな……華琳さまの追っている賊の可能性もあるので追討に赴く事になった」

「あの『書』のことか。あいあい、んで、いつ出発?」

「準備ができ次第発つから従軍出来るよう準備しておけ。それと再点検した糧食の帳簿を取ってきてくれとのしておけとの華琳さまの命だ。恐らく監督官は今馬具の調整を行っているはずだ。厩舎の方に行ってみるといい」

「あんがとよ、秋蘭。いってきま……っとこれを始末せんとな」

 

俺は鶏をさっさと捌くと他の料理人に調理法を教え厩舎の方へと向かう。

 

 

 

「ミスった~………」

 

俺ははその監督官の顔を知らない。まあそれは誰か捕まえて聞けばいいだけの話なのだが……

 

「いつまでダラダラやってやがる!馬に蹴られて、山の向こうまで吹き飛ばされてぇのか!」

「は、はいっ!」

 

怖いわぁw出撃前だからピリピリしてるし。うっかり怒鳴られでもしたら殴っちゃいそうだぜ。テヘッ♪

呼びとめるのは比較的手の空いていそうな人間かつ、怖くなさそうな人間ではなくてはな。

さて、どいつにしようかなと………おっ。

一人、現場から少し離れて働きぶりを眺めているような少女を見つけた。どうしますか?

 

たたかう

呪文

どうぐ

にげる

 

ちがうちがうw話しを聞かなくては。

 

「へ~い、そこのキミ、元気~?俺とお茶しない?」

 

ナンパしてどうするよ、俺。しかも口説き方メッチャ古いし!

 

「……………」

「はっはっはっ!無視かな?この小悪魔さんめ。ちょっとお話をきいてくんない?」

「……………」

「無視すんなよ~♪ほんの少しのお時間でいいから。ね?」

「……………」

「はっはっはっ……無視されると辛いなぁ。お兄ちゃん、そろそろ怒っちゃうぞ~♪」

「……………」

「………ブレインクラァーシュ!!!」

 

少女の頭を鷲掴みにして持ち上げ高速シェイキング。

少女が悲鳴をあげるが気にしません。他の兵士の目も気にしませんw

30秒ほどして少女を地面に下ろす。フラフラしてるが大丈夫か?

 

「大丈夫か?くそっ、いったい誰がこんな酷い事をw」

「あ、あんたでしょうが!よ、よくもこの私を……アウッ」

 

そう言って倒れこむ少女を俺は支える。うっわ、コイツ軽っ。

 

「ちょっと!気安く触らないでよ!感染しちゃうじゃない!」

「ナニに!?俺はなんかの病気を持ってるととでも言うのか!?」

「むしろ、あんたそのものが病原体よ!」

「なんでよ!?」

 

あっるえぇぇぇぇ?……俺とコイツは初対面っすよね?

 

「女のふりをして人を謀る最低最悪、愚劣にして醜悪極まりない男。それがあんたでしょ?噂になってるわよ」

「別に謀ってないから!っていうか誰がそんな噂を!?」

 

おかしい。俺の性別は城の中では有名だ。だが、そんな目で見られたことは一度もないが………

 

「私よ」

 

コイツ、ナグッチャオウカシラ♪

 

「それで、何の用?私は暇じゃないんだけど」

「いや華琳に言われてな。ちょっくらと………」

「なっ…………!!ちょっと、なんでアンタみたいなミミズのような奴が曹操さまの真名を……!!」

 

………なんで、ミミズ?

 

「さあね………華琳直々に呼べと言うんだからいいだろうが」

「嘘よ! 曹操さまが、ご自身の神聖かつ崇高なる真名をあんたみたいなミミズのように雌雄同体な奴にお許しになるワケがないわ!」

 

………あ、そっか。ミミズって雌雄同体だっけ?っておい!どういう意味じゃ!

 

「誰が雌雄同体だ!体の構造は完璧に男だからな!」

「だから、汚らわしいんじゃない!シッシッ!」

 

ヤッベ、ちょっと蹴り飛ばしたくなってきました~♪

 

「とにかくだ!そこまでいうなら華琳に聞いてみればいいだろうが!」

「ああ……なんてこと。曹操さまの真名が、こんな見るからに手足、頭、触角等、目につく顕著な器官が体表に何もないごく下等な動物みたいな男に穢されるなんて……」

「あるから!見るからにあるから!いい加減ミミズネタひっぱるの止めようよ!」

 

食い下がる少女の思考もやがて俺の言葉に偽りがない事に気づいたのだろう。手の甲を額にあてよろよろと後ろに下がると、天を仰いで嘆いていた。こっちの方が嘆きたいわ!

 

「もういいわよ!とっとと私の前から消え失せてよ!永久に!」

「……いや、あの華琳に言われてね。兵糧の帳簿を監督官から貰ってこい、と」

「曹操さまの命!? それを早く言いなさいよ!この馬鹿!」

 

……………なにコイツ?

 

「……で、責任者はどこよ?」

「私よ」

「お前かい!?」

「悪い、文句あるの? 私がここの監督官を務めていることであなたの人生に致命的な問題があるとでも言いたいわけ? もしそうだと言うならそこの所を論理的に説明してみなさいよ。少しでも論理の破綻があれば嗤ってあげるから。そしてもう二度と口をききたくなくなるくらいに徹底的に論破してあげるから言ってみなさいよ!」

「………今、僕の心が貴方様の言葉によって大変深い傷が出来てしまいました。これはもう由々しき問題ですよ。貴方が監督官を務めていることで僕の人生において出来た致命的な問題です。僕はどうすればいいでしょうか?」

「死ねば?」

 

デビイィィィィィィル!!!凄いよこの人!正真正銘の悪魔だ!

 

「………もういいです。で、帳簿どこ?」

「これよ。それを持って早く消え失せてよ。シッ!」

 

―――――――ぷっちんしちゃいました~♪レッツキリングタ~イム♪方法は~♪

 

1.秘孔を突いた。お前の命はあと三秒だ。

2.夜空のお星様にしてあげる♪

3.これが新必殺技!キン○ドラ○バーじゃあ!

4.あの男に連絡だ!………バキューン!

 

「おい、お前。1から4で適当な数字言ってみろ」

「は?なによ、急に?」

「いいから言ってみろ。それ聞いたら帰るから」

「……………じゃあ…………2?」

 

即座に俺は少女の首根っこを掴み、全力を込めて投げ飛ばした。

 

飛んでいけ~w

 

手加減は一切してません。する気もありません。

 

「超スッキリしました~!………さて帰るか」

 

俺は晴れ晴れとした気持ちでその場で去った。

後方から鳥のさえずり・・・というかキャーという怪鳥音が聞こえる。めずらしいな。

最後に大きな水音が聞こえた。何かが池にでも落ちたのか?俺には関係ないな。

さ~て、華琳のところにでも行くか♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――すぐに後悔することになろうとは当時の俺は知る由もなかった。

「ごめ~ん。待った~?テヘ♪」

「遅い、待たせすぎだ!しかも気持ち悪い!」

「クスン、春ちゃんのイケズ~」

「やかましい!いい加減ちゃんはやめろと言っているだろうが!」

「いいじゃないか、春ちゃん、惇ちゃん、春蘭、etc。気分で俺は呼び名を変えるつもりだし」

 

せっかく俺が場を和ませようとしたのにな、春蘭ってば怒ってるよ。いや皆か。

 

「あいよ。華琳」

「待ちくたびれたわよ。早く見せなさい」

 

受け取ろうとする華琳に俺は悪戯心が芽生えた。

俺は報告書を限界まで高く上げた。

 

「や~い!取れるもんなら取って………って皆さん武器を構えない!冗談ですからね!?寧ろ命ごと取る気ですか!?」

 

怖いよぉ………皆本気でしたよ。……クスン

華琳は大変機嫌を損ねたようで俺から帳簿をひったくり、パラパラと目を通していく。

やっぱり身長云々はタブーなのかね~?

ん?なんか機嫌がさらに悪くなってきたような?

 

「……秋蘭」

「はっ」

「この監督官というのは何者?」

「はい。先日志願してきた新人です。手際が良かったので、今回の食糧調達の任に当たらせてみたのですが……なにか?」

「ここに呼びなさい。大至急よ」

「はっ!」

 

ヤッバ!あいつ来んのかよ!?しかもなんか空気重いし!ここは逃げるしかないよね、うん。

 

「こほん、すまん。急用を思い出した。それじゃ―――――」

「――――――逃げるな。ここにいなさい」

「………はい」

 

わ~い、逃げ場なし~♪もうどうにでもなれ~♪

 

 

 

 

 

 

「華琳さま、連れてまいりました」

 

俺が世を儚んでいると、秋蘭がくだんの監督官を連れて来た。

俺の予想通り、先ほどの毒を吐きまくった少女である。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――ずぶ濡れだったが。

 

 

 

 

 

「………何?その格好は?」

 

華琳も予想外だったのか、目を大きく見開いている。

肝心の少女は、唯一点――――俺を見て呪詛を放っている。

 

「殺す……絶対殺す………何が何でも殺す……命に代えても殺す…殺す殺すコロ―――――」

「怖っ!?」

 

どんだけ黒いオーラを放ってるんだよ、コイツ!

やっべ~、こいつ本気だよ!マジだ!目がめっちゃマジだ~!

華琳もその視線に気づき原因を理解したのか、大きくため息をつく。

すいませんねえ、手のかかる子でw

 

「……まあ、いいわ。お前が食料の調達を?」

「………………はい。必要十分な量を用意いたしました……何か問題でも?」

「……どういうつもりかしら? 指定した量の半分しか用意できていないじゃない」

「ほっ?半分?」

 

こいつ、あれだけ偉そうなこと言ってながらそれかい。

これじゃあ単純に考えて片道分しか用意していない事になり、このまま出撃すれば行き倒れは必至だ。

しかし、この無駄に偉そうなデスポイズン(命名俺w)がこんな分かり易いヘマを?

 

「ですから、それで十分だと申し上げています」

「何……どういう事?」

「理由は三つあります。お聞きいただけますか?」

「……説明なさい。納得のいく理由なら、許してあげてもいいでしょう」

「……ご納得いただけなければ、それは私の不能のいなす所。この首、如何様にでもされて結構にございます」

 

おいおい、華琳は本気でヤル女だぞ。正気か?

 

「……二言はないぞ?」

「……はっ。ではまずひとつ目……曹操さまは慎重を期す方にございます。必ずご自分の目で糧食の最終確認をなさるでしょう。その際兵糧に問題があればこうして責任者を呼ばれます。故に、兵糧が枯渇することはありません」

「ば………っ!馬鹿にしているの!?春蘭!」

「はっ!」

 

げっ!本気だ!本気で殺ル気だ!

 

「待てい!まだ、二つあるだろ!仏の顔も三度まで。もう少し聞いてから判断しろ!」

「桐生の言う通りかと。それに華琳さま、先ほどのお約束は……」

「……そうだったわね。で、次は何?」

「次に二つ目。輸送する食糧が少なければ必然、身軽になり、輸送部隊の行軍速度は上がります。現在想定されている工程より大幅に討伐行全体にかかる時間を短縮できるでしょう」

 

そりゃ、物理的に考えて荷を軽くすればそれだけ行軍速度は増すだろう。それは考えるまでもない。

増して本来想定していた負担重量の半分ならばその効果はかなりのものだろうな。

だけどな……

 

「ん……? なあ、秋蘭?」

「どうした、姉者。そんな難しい顔をして」

「行軍速度が早くなっても移動の時間が早まるだけだろう?それだと討伐にかかる時間までは短くならない……よな?」

 

おお!春蘭に極小だが知性の光が!

 

「ならないぞ」

「良かった。私の頭が悪くなったのかと思ったぞ」

「そうか。よかったな、姉者」

「まあ、元々救いようのないほど頭は悪いけどなw」

「なんだと!?誰の頭が救いようもなく、知恵を働かせるより漬物石代わりにしたほうがいいんじゃないですか、だと!?」

「そこまで言ってねえし!まあ、武器の代用品には使えるんじゃないか?惇ちゃんの超地獄頭突き~!ってな風に」

「ムキ~~~~!!!」

「猿かお前は!?」

 

遺憾ながら(嘘)ここでバトルを開始させていただきます。……無理だな、華琳がめっちゃ睨んでるし!ひぃw

………コホン、とりあえずだ。春蘭の言うとおり戦いに要するのは、なにも行軍時間のみではない。敵を討伐する以上、戦闘があるのだ。また常に動きっぱなしであるわけにもいかず、いやがおうにも休息が必要である。食事もとれば、睡眠もとるし、トイレにだっていくw。

そもそも、単純に積み荷を半分にしたからと言って行軍にかかる時間まで半分になるとは限らない。積み荷がゼロだからと言って移動時間はゼロにならないんだからな。

 

「まあ、いいわ。最後の理由を言ってみなさい」

「はっ!三つ目ですが……私の提案する策を採れば、戦闘に要する時間ははるかに縮まります。私の想定した兵糧の量で事足りると判断しました」

 

お前の提案する策って、お~い。その気って事ですか?

 

「曹操さま! どうかこの荀彧めを、軍師として幕下にお加えくださいませ!」

「な…………っ!?」

「何と……」

「……荀彧!?」

「っ!?………桐生、荀彧の名を知っているのか?」

「荀彧……って言う字、蒟蒻(こんにゃく)って字に似てるなと思っただけだw」

「こんにゃく?」

「………桐生、お前は少し黙っていろ」

「へ~い」

 

俺は秋蘭の言葉に生返事をする。実際俺が考えているのは蒟蒻の事ではない。

 

荀彧、字を文若。王佐の才と評された、曹操配下が随一の謀臣。

こいつがかよ?……あれ?もし俺がこのガキを殺してたら歴史大変なことになるんじゃね?アッブネ!セェーーーフ!もう少しでその時歴史が動いた!ってな風になっちゃうとこだったよ。

 

「荀彧、あなた、真名は?」

「桂花と申します」

「――――為すべき任を果たさず、一文官の身で軍をかき乱し、その上、策を用いろと?

………春蘭、絶を」

「は、はっ!」

「……お~い、華琳さんや、まさかと思いますが――――」

 

言ってる間に春蘭が絶、華琳の大鎌を渡す。

華琳は片手で大鎌をヒュッと一つ振ると一足進み、そっと左手を柄尻にかけた。

そして大きく頭上へと持って行き――――

 

 

 

 

 

 

ん?なんだ。ったく、華琳のやつあんなことやってるが――――――――

 

 

 

 

 

 

 

振り下ろされた刃は鎌独特のうなりをあげて、細く白い荀彧の首に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――この上なく嬉しいんじゃないか。

『…………ッ!!』

 

荀彧を含め周りに寄った三人が息を止めた。

だがその白い肌から血が一滴も噴き出すことはなかった。

 

 

「やっぱり、寸止めかい」

 

退かれた刃からは、淡い色の髪がはらりと数本落ちただけであった。

 

「当然でしょう。………けれど、桂花、もし私が本当に振り下ろしてたらどうするつもりだった?」

「天命を預けんとした御方の所作なれば、それは拒むものではありませぬ。もとより私は文官、曹操さまの刃を避ける武技はありません」

「そう………………ふふっ、あははははははは!」

「か、華琳さま……っ!?」

「最高よ、桂花!その知と度胸、気に入ったわ!貴方の才で我が覇道を支えなさい。私の真名を呼ぶ権利をあげるわ」

「はっ!」

「まずはこの討伐行を完遂させて見せなさい。あなたの軍師としての力量、どれほどのものか……見せてもらうわよ。糧食は半分で良いといったのだから……もし不足したのならその失態、その身をもって償ってもらうわよ?」

「御意!」

 

ほう、これが覇王と王佐の才の出会いか。今、正に大変歴史的価値のある瞬間に出くわしてるわけだが。……フムッ。

 

「これで、片方が水浸しでなければ大変絵になるんだけどな。あはははは………あれ?荀彧さん?な、何を怒ってらっしゃるんでしょうか?」

 

あっれぇ?なんか荀彧さんの禍々しいオーラがめっさ浮き上がってるんですけど………スタンド?

 

「………そうよ、私はこの時を待ち望んでいた。どうすれば曹操様に仕える事が出来るかを考えた。時は来た。………なのに…なのにアンタのせいでぇ~~~~~!!!曹操様との初めての対面が、こんな…こんなっ―――――」

「はっはっはっ!超滑稽。でも大丈夫!華琳にとっては一生の思い出になるから。初対面が水浸しって多分絶対忘れないだろうよ♪水も滴るいい………オンナ?ガキだな、うん」

 

―――――――――ブツンッ―――――――

 

「ぜっっっっっっっっったいに、許さない!!!!!殺してやる~~~!!!」

「ひゃっほう!鬼さんこちら♪手の鳴る方へ~♪」

 

逃げる俺、追う荀彧。結果は早々についた。

 

「ゼエゼエ……絶対に……ガクッ…」

 

こいつ体力なさすぎだろ。

 

焦燥した顔で眠っている荀彧を俺は生暖かい笑顔で運んだ。(そこいらの芝生へ放置w)

しっかり墨で落書きをさせてもらった後、来るべき戦に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――あとで喧嘩両成敗と言う事で、華琳さんにお仕置きをされました。

墨でなんて書いたの?いや、教えてよ!あ、消すな、コラ!………ああっ!気になるぅ!

所は陳留刺史、曹操さんこと華琳ちゃんが率いる討伐軍の軍中である。

だが、今現在居る場所は山一つ越えた見慣れぬ土地。どこも見慣れないけどさw

 

俺こと桐生 久遠は馬上でフラフラしている。

 

「うおっと!やはり馬は難しいな。そう思わないか?惇ちゃんや」

「………そうだな」

「いや~ほんっとキッツイわぁ!なあ、淵ちゃんや」

「……………ああ」

「………………………くすん、皆が僕を無視する~。どう思うよ?桂たん?」

「………死ね」

「おおう!言葉の刃が胸を抉る~!ってかなんで皆俺を苛めるんだ!?」

「そう思うなら真面目に馬に乗れ!」

「あ、やっぱりそれっすか」

 

天地逆の視界。鞍に乗っけていた頭を上げくるんと前転して元の視界に戻す。

 

「全く、ちょっと逆立ちして馬に乗った事で無視するなんて心の狭い事だ」

「え~い!桐生、貴様は栄誉ある曹操軍の一員であることを自覚しろ!」

「そうよ!あんたは恥部よ!恥部!生きるていることを恥じて自害でもしてなさいよ!」

 

左右からスピーカーのような騒音が響き渡る。あ~うぜえ。

 

「秋ちゃ――――――――――」

「断る」

「まだ、何も言ってないよ!?」

「場所以外の事なら聞いていやるが?」

「ちょっと~~~!!!右に春蘭に左の桂花ってどんな布陣ですか!?これ以上なく最悪の挟み方じゃねえか!?」

「ははは。両手に花だな、羨ましいぞ。桐生」

「二本とも獰猛な食人植物ですよ!?いつ噛みつかれるかたまったもんじゃないですよ」

「噛むか!」

「噛まないわよ!」

 

いや、牙を剥けて唸られても説得力無いんですけど………

 

「それより桂たんよ。おまえこの調子で大丈夫か?華琳との勝負に勝てるのか?」

「あんたに心配される覚えはないわよ。っていうか何よ、桂たんって!?普通に真名を呼ばれるだけでも非常ぅっっっっに物凄く腸が煮えて沸騰して千切れそうなくらいに不快なんだけど!!!」

「(無視)気にするな。そもそも真名で呼ぶのは華琳の命令だぞ?」

「……華琳さま、なぜこの桂花に男などという醜い生き物の中で特に最低なミミズ男に真名を犯されるなどと言う地獄を………」

「はっはっはっ!まだ言うか、この野郎♪」

 

俺は無理やりに桂花を引っ張り自分の前に乗せて後ろから抱きしめる。

 

「ちょっ!変態、何すんのよ!このっ!………ッ!!!まさか、あんた―――――」

「大丈夫だ。お前の思ってるようなことじゃないさ。いっくぞ~♪」

 

スウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂たん桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花ハアハア桂花萌え~♪桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂っち桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花けいぽん桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂々桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂どん桂花桂花桂花桂花桂花桂花桂花~~~~~!!!ラ・ブ・リー!け・い・ふぁ~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあああああああああああああああっっっっ!…………ガッ、グッ…」

 

あらま、痙攣して泡吹いたwやりすぎたか?

 

「こ、ろ……す…あんた、だけ…は」

 

凄いわこの子w黒い殺意だけは気絶してもだしてるよ。

 

「王佐の才、荀彧こと桂花―――――君の事は忘れない、一週間くらいまでは。

せめて、安らかに眠れるように俺の胸の中で―――――」

「本当に死んじゃうわよ!バカアァァァァァァァァァ!!!」

 

あ、生きてた生きてたw

俺は桂花を元の馬に戻す。戻す前にビンタを食らったw腕力ないから痛くないけど。

 

「んでさ、実際大丈夫なんか?これで失敗したら終わりだぜ?」

「ふっ、これだから愚人かつ馬鹿ミミズは………大丈夫に決まってるでしょ?全て私の計算の上で――――」

「春ちゃん、俺と勝負しない?帰るまでにより多くの飯を食べれるかって勝負だけど」

「ほう、面白い。乗った!お前にだけは負けぬぞ」

「ふっ、俺もさ。ガンガン食おうぜ~」

「何言ってんのよそこぉおおおおお~~~~~~!!!アンタ達ねえ!?馬鹿は馬鹿なら人の迷惑かけずにそこらで草でも食ってなさいよ!」

「ボク、バカダカラナニイッテルカワカンナ~イ♪」

「グギ…ギギ」

「怪獣じみてきたな、お前」

「そんな化け物は春蘭だけで十分よ!」

「なんだと!?誰が奇声の騒音で近所から苦情が止まないほどの化け物だと!?」

「そこまで言ってないわよ!」

 

あ~、うっとうしいうっとうしい。左右両方から喧嘩しないでほしいぜ。俺のせいだがw

………秋蘭は…あ、聞こえないフリしてる。逃げやがったな。

 

「しっかし暇だ。暇だから、何か芸でもしてよ惇ちゃん」

「なんで私が!?」

「はっ!いいんじゃない。あんたの脳内、面白可笑しく出来てるんだから、お手のものじゃない?」

「なんだと!?桂花、キサマァ!」

「はいはい!そこまでそこまで!だったら俺が面白い事を言ってやるよ。

はじめるぞ――――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――そこは、幾多もの花が咲き乱れるこの世の楽園―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は?』

 

うむ、面白くないって?当たり前だ、最後まで聞けよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「獣達は踊り、鳥達は歌い、魚達は舞う。

 

争いもない、この世すべての人間が平和に生き続ける楽園。

 

そんな楽園で一人の女性が百花繚乱の丘で今日も平和の為に神に踊りを捧げる―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――桃色のフリフリした服を着た女性……春蘭が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶはっ!』

 

あ、兵士含め全員吹いたwいえ~い、完全勝利!

 

「まてぇ~~~~い!それのどこが面白い!?」

「でも皆大爆笑でっせ?春の姉御」

「く、くっ…あはは!面白いじゃない、すっごく滑稽で」

「桐生……桂花!きっさまらぁ!!!」

 

うおっ!キレてるし!

 

「ひい~!勘忍してけれ、アネゴ~!殴るならこの桂花だけにしてけれ~。オラには手は出さないでくんろ~」

「桐生!アンタねえ!」

「ウガー!!!どっちも殴る!笑った兵士含めて全員ぶっとばす~!」

 

キャ~♪バーサーカーよ~!おおう、兵士がポンポン飛んでるしw

 

 

 

 

後にこれが『狂戦士夏候惇、戦場の乱』と名付けられた(嘘)

「伝礼!」

「なんだっ!」

「ひっ!」

 

軍の中陣で暴れていた俺らの元に、後曲から一人の兵が駆け込んできた。

可哀相に春蘭の怒号で馬から落ちてしまった。

 

「怯えさすなや、春ちゃん。……で、どうした、言ってみ?」

 

驚いて尻もちをつく伝令役に馬上のまま俺が発言を促す。

 

「は、は……はっ!そ、曹操様より、夏侯惇、夏侯淵、荀彧、桐生久遠の四名はすぐに本陣へ集合せよとのお達しであります!」

「なんか動きがあったようだな」

「うむ。すぐに伺うと曹操様に伝えてくれ」

「ぎょ、御意!」

 

秋蘭が伝令に命じたのを見計らい、春蘭が馬首を返して全軍に号令した。

 

「お前たちはこのまま行軍を続けよ!! 下知があるまでは足並みを乱すな!!」

「はっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

 

ここらへんは春蘭も将軍らしいな。……周りの兵士がちょっとぶっ倒れているのは御愛嬌だがw

 

 

 

 

「華琳さま! 夏侯惇以下四名、参上いたしました!!」

「ごくろうさま。崩していいわ………なんで皆憔悴した顔でいるの?」

『聞かないでください!』

 

全員ハモッたw

華琳に促されて俺達は軍礼を解く。もとより俺はしてないがw

 

「んで、どうしたんだ?華琳」

「偵察から報告が入ったのよ。前方に軍と思しき集団が確認できたそうだわ」

「数は?」

「数十人程だそうよ。身に着けている鎧や武器がまちまちだったと言うから、山賊の類である可能性が濃厚ね」

「であるならば、もう一度斥候を派遣しましょう。春蘭、桐生。あなた達が指揮を執って」

 

「おう」

「………やだ」

 

カラっとした返事をする春蘭とは対照的に、俺は即拒絶。だって春蘭とですよ!?

その言い様に春蘭は眉間にしわを作るが、知ったこっちゃない。

 

「なんだ桐生。私に何か不満があるのか」

「……手綱を離したらすぐにぶっ飛んで行きそうな暴れ馬に乗せられた気分だ。しかも間違いなく冥土への片道切符だ!秋蘭の方がいいです!」

「何ぃ!?」

「何処に行くかわからない暴れ馬だから乗り役が必要なんじゃない。大丈夫よ。………多分」

 

多分ってなんすか!?その曖昧なところに自分の命かかってるんですけど~!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!!なんだその私がまるで敵と見れば誰彼かまわず突撃するような言い草は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うの?」

「違わんだろうが」

「違わないでしょう?」

「……すまんな姉者」

「ううっ……華琳さままでぇ~……」

 

言っては見たが敬愛する主を含め全員の思いが合致。これには流石の春蘭も泣いていた。

 

「指名はありがたいが、私も出るとこちらが手薄になり過ぎる。それに万が一戦闘になったなら私よりは姉者

 のが適任だろう」

「そういうこと」

「シィッ~ト!わあったよ!いきますよ。もしもの事があったら桂花の枕元に立つからそのつもりで」

「ふざけないでよ!?もし死んだら即行で肉体が腐敗して土に帰った後、魂を成仏させることなく消滅させなさいよ!」

「そっちこそふざけんな!死後の生活すら踏みにじるのかよ!」

「本気よ!」

「なお悪いわ!」

「こほん……とにかく二人とも、頼むわね」

「はい! おまかせください!」

「こっちはこっちで立ち直り早っ!なんなのこいつら!?」」

 

マミ~、この世界では常識が通じません。……え?お前が常識を語るなって?うるさいわw

 

「すまんな、桐生。姉者のお守りは頼む」

「……もういいけどさ。でも、なんかあったら本気で春蘭をドツくぞ?」

「ああ、そこはお前の判断で任せる」

 

よ~し!春さんへ、できるだけ早く先走って下さいw腕がなるぜ~!

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、惇ちゃんや~。ちと速いっすよ~」

「…………ふん!」

 

偵察隊は、春蘭の率いる隊から供回りのみが先発された。

数としては心許ないが、元々戦闘をする部隊ではなく、また機動性を考えるなら妥当な人数であろう。

戦闘が目的ではないのだ。あくまでも。春蘭には馬の耳に念仏だろうがなw

 

「何か怒ってない?」

「あたりまえだ! 寄ってたかって暴れ馬だの猪だの脳みそが筋肉で出来ているだのと……」

「誰もそこまでは言ってねえよ……万年突撃将軍だの単細胞だのお前の辞書には突撃ししかないだとか、こいつもう救いようがないほど頭がアレだとか…」

「ウガー!」

 

うおっ!キレなすった。悪口言われたくらいで暴れるなんてまるで子供だな。

―――――――――――ったく、しゃあない……

 

「おい、春蘭」

「なん……………っ!ムグッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は春蘭を俺の前に向けると頬を掴み唇と唇を合わせた。うみゅ、キッスというやつだ。

お、意外にこいつの唇柔らけぇ。やっぱこいつも女だもんな。

春蘭からの抵抗は一切ない。抵抗されても困るが。

春蘭含め周りの兵士達も微動だにしない。そんな驚く事か?

 

何秒たったかは分からないが、頃合いを見て唇を離す。

離した唇から唾液が糸を引く……なんか官能的だな。

 

「落ちついたか?」

 

呆けた春蘭からゆっくりと眼に光が戻ってくる。

そして――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「%&”#$*!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うおっ!駄々っ子パンチ!?待て春蘭!自分の腕力考えてくれ!地味に痛いです!何でそんなに怒ってる!?俺なんか悪いことしたか?(自覚なし)

イタタタタタタタタっ!!!誰か助けて~!……くそっ!ならば――――――――――

 

俺は暴れる春蘭を力づく(テンパってなかったら無理w)で抑えもう一度キスする。

そうなると、また春蘭から全身の力が抜ける。助かったw

しっかし、なんで春蘭は怒ったんだ?俺が女が癇癪起こした時はいつもこれで落ち着かせてるんだがな。

………はっ!まさか春蘭男!?………んな訳ないか。間違いなく俺の腕の中にいる春蘭は色々とアレだが間違いなく美しい女性だ。

……ほえ?……美しい?何言っちゃってんの、俺ぇ~~~!?

ちょ、ちょにかく!(噛んだw)これで春蘭も落ち着いて………ねえ~~~~~!?

目をあけると春蘭の瞳に修羅がみえました~~~!!!殺される~!

 

俺は春蘭の力が戻る前に腕に力を込め強く抱きしめる。

桐生久遠!108の処世術 NO.68『ゴートゥヘブン』!……元々は竿師から教わった技なんだよね…え?竿師ってなんだって?自分で調べなさい!…いや、調べないでください。

俺の女性にたいして全知識、全能力を用いて天に送ってやる。(卑猥な意味じゃないよw…多分)

桐生久遠、一世一代の大勝負!

 

 

 

 

 

 

 

――――――――結果、

 

 

 

 

 

 

 

 

「グヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌゥ~~~!!!」

 

負けました~~~~~!!!

マジ、阿修羅降臨3秒前~~~!!!

どうしようどうしよう!NO.68が無理だとしたらもう打つ手なし!NO.69は18禁の奥義なんで見せることはできない。……期待スンナよ?

いや!諦めるな!曹魏の諸葛孔明こと、桐生久遠よw!

遺伝子の奥底から知恵を呼び覚ませ!究極の策を!今こそ赤壁に東南の風を~~~!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――――春蘭、愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オワタw

 

よりにもよって策がこんな言葉かよおぉ!!!グッバイ、世界!グッバイ、俺!死んだ~~w

俺が現世に別れを告げてる間、誰も動こうとはしない……誰も?……あれ、春蘭は?

 

ふと見ると春蘭は体を小刻みに震わせている。怒っていると思ったら全身、頭の天辺からつま先まで真っ赤だ。

瞳を潤ませ、俺の眼を直視しようとせず、たまにチラチラとこっちの様子を窺っている。

 

あっるぇぇぇぇぇぇぇ!?この反応ってまさか………うそん?

まさか、これが伝説のフラグというやつか!?

新たな道を拓きました~、アイムフロンティア~!……言ってる場合じゃない!

 

どうしよう、この状況?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途方に暮れる俺でしたw

 

く、空気が重い…どうすればいいんでしょうか?教えて、ママン……

先ほどから誰も言葉を発さない。誰か喋ってください、マジでw

神よ(信じてないけど)!俺を祝福しろ!

 

「夏侯惇様、前方に敵影を確認しました!!」

 

神キターーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!

 

「……………ふにゃ?」

 

先鋒の兵の報告に前を向くと、なるほど一団に固まった数十人ほどの軍団が見て取れる。

 

が――――

 

「……妙だな」

「………にゃあ?」

「動いてない……ってかにゃあじゃねえ!猫か、お前は!?いい加減正気に戻れ!」

 

だ、だめだコイツ…手の施しようがない…とりあえず状況の確認だけでもするか。

見ると人塊になった集団は、行軍するでもなく、そこに留まって動かない。

何やら剣を抜いて、しきりに中心に向かって動いている。

ひょっとして――――

 

「……何かと、戦っているのか?…もう少し寄るか」

 

なにやら遠く聞こえる怒号が激しくなるにつれて、にわかにその人だかりが割れていく。そしてそこから垣間見えたものとは――――

 

「……おい、あれ子供じゃないか!?」

「ああ、子供だ! 子供が……一人か!? 一人で戦ってる!!」

「なんだと!!」

 

あっ、春蘭正気に戻った。よかったよかったw

 

そこから見えたのは、それを囲む人間たちよりも大きく背丈の劣る、子供。それがたった一人で、数十人の中心で奮戦している。

その光景を認めた兵たちはそのあり得ぬ光景に色めき立ち――――春蘭はそれ目掛けて飛び出した。

 

「いやいや惇ちゃん、待て!!正気に戻っていきなりそれかい!」

「待たん!!」

 

くそっ、制止振り切っていきやがった!あの馬鹿!

 

「……っ!おい、そこの兄ちゃん!」

「……はっ! 自分でありますか?」

「正体不明の部隊と接触、戦闘に入ったと本陣に伝えてくれ。……残った奴は馬鹿猪な夏侯惇に追従、

 突出した彼女と合流しあの子供を救出する!ついでにあの山賊らしき奴らが逃げ出しても追撃はするなよ。尾行して山賊どもの拠点を調べろ!では、行くぞ野郎ども!(山賊臭い言い方だw)」

『はっっっっっっっ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

「貴様らぁ!たった一人の少女に寄ってたかるとは、卑怯と言うにも生ぬるいわ!!その狼藉、この夏侯惇が

許さんぞ!!てやあああああああっ!」

 

おおっ!ばっさばっさとさすが春蘭。バカだけどな。

突然現れた春蘭に、賊数十人はどよめく。バカだけどその武は凄まじいからな。

うむ、包囲を破る突破力こそが、春蘭の真骨頂。………果てしなくバカだがな!

 

「夏侯惇ってえと……あの曹操の所の夏侯惇か!?」

「なんでンな化け物がこんなトコに居んだよ!?偽物か!?」

「馬鹿野郎、じゃあてめえかかって行けや! 見ただろうが、さっきの!!」

「待てよ待てよ……夏侯惇が居るってこたあ曹操の軍勢も……!!」

「何をゴチャゴチャと言っておるか! だぁらあああああっ!!!!!!」

 

ざわめいている兵たちをお構いなしに、春蘭はコレ幸いとばかりに敵をなぎ倒していく。

その裂帛の気迫と脳裏にちらりとよぎった「曹操軍」の存在は、奴等にに戦闘を放棄させるには十分だったようだ。

 

「……チイッ、退け! 退けえーーーー!!!!」

「逃がさん!貴様らのような馬鹿どもは一人残らず叩き切って―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――うおっと、至高の馬鹿猪肉発見!月見ザクラか牡丹鍋にしてくれるわぁああぁぁ!!!!!」

 

 

 

俺は渾身のチョップ、岩山両斬波(嘘w)を春蘭の後頭部に叩き込んだ。

 

「ギャン―――――ッ!!!……っぅ!!!桐生っ!貴様何を……っ!」

「問題です。『おい!!なんだその私がまるで敵と見れば誰彼かまわず突撃するような言い草は!!』……誰の言ったセリフでしょうか?」

「……………………………………………あ」

「………あ、じゃねえよ!こんの馬鹿猪ぃぃぃ!!!美味しく調理したろか、!?煮ても焼いても食えねえだろうがな!」

「ぬう……」

「反省しろや。お前は人の上に立つ立場なんだからよ」

 

全く、暴れ馬の方がまだおとなしいっての。

 

「あ、あの!」

「あん?」

 

無鉄砲女を責めていると、横合いから先程の少女が話しかけてきた。

 

 

「お姉さん!さっきは助けてくれて、ありがとうございました!!だから、その……」

 

少女は春蘭に勢いよく頭を下げた後、ちらり、と俺の方を見上げる。

なるほどな…まったく。

そんな少女の様子に少しばかり口元を緩める。

 

「はいはい、わあったよ!……確かに、こいつを助けられたのは春たんのおかげだしな。……こっちは迷惑をかけられたがな!」

「…………ふん」

「だが、反省するのは忘れるなよ?」

「…………ううっ……ふんっ!」

 

春蘭は俺かから視線を外してそっぽを向いてまたむくれてしまっていた。

大人しくしてりゃ猫のように可愛げがあるんだがな。やれやれ。

 

 

 

そんな話をしていると、けたましい地なりと共に砂塵が後方からやってくる。先ほど俺が遣いをやった、華琳の本隊である。

「春蘭、久遠。その正体不明の部隊とやらは? 戦闘があったという報告は受けたけど……」

「ああ、春蘭がその娘を助ける時に追っ払ったよ。一応、追跡するように何人か斥候を出しといたから、ねぐらは

 すぐわかるんじゃないか?」

「あら、気が利くじゃない」

「い、いつのまに……」

「ん~?馬鹿猪狩りをしてる道中にちょいちょいとやっておきました~♪なにか?」

「あう~~~……」

 

藪を突いて蛇を出して黙ってしまった春蘭を見て、俺は笑う。

 

さっきの事は忘れてるようだ。助かった~w

 

「……ねえ、お姉さん」

「どうした?」

「お姉さんたちって……ひょっとして、国の軍隊……?」

「まあ、そうなるが………ぐっ!」

 

……………は?

 

春蘭がその問いに同意を見せるや否や、少女は訝しげだった表情をキッと険しくし、大きく後ろに飛びのいたあと、春蘭めがけて携えた巨大な鉄球を振り下ろした。

 

………鉄球!?あの小柄な体でどんだけ豪快な武器を!?春蘭でなく一般兵士だったらグロテスクな音が聞こえるぞ、おい。

巨大な棘付き鉄球(つうかケン玉!?)、それを小柄な体で軽々と振り回す怪力。

この子、何者ですか?人間の常識をぶち破ってない?

 

「貴様っ、いきなり何を!!」

「うるさい!!国の軍隊なんか信用出来るもんか!!僕達を助けてもくれないくせに、税金ばっかり持って行って!!」

「ぐうっ!! そうか……だから、お前は一人で……!!」

「そうだよ!! ボクが……ボクが村のみんなを守らなくちゃいけないんだ!盗賊からも……お前たち、役人からも!!」

 

少女は鉄球を引き戻し、頭上で回転させたあと、また猛烈な勢いで春蘭の方に飛ばしてくる。

その鉄球を正面から受け止め、地面から引き抜かれるように春蘭の身体がズレる。

 

 

――――――――――駄目だな、あれじゃあ春蘭は勝てない。迷いのある人間に覚悟のある人間は倒せない。

相手を倒そうとする怒りの鉄球と、倒す意思のない迷いの剣では、どちらが勝つかは明白だ。

 

――――――しゃあない。おれが止めますか。

 

「やめな、お嬢ちゃん。そんな事をしても無意味だ」

「うるさい!黙――――――」

「やかましい!!!お嬢ちゃんや、黙って聞きやがれぇぇぇ!!!!!」

 

俺の怒号に少女の動きが止まる。まずは一つクリア。極悪人ぽいって?ほっとけや。

 

「お嬢ちゃん、お前に言いたいことがある」

「な、なんだよ……騙されないからな、僕は!」

 

青いな、名も知らぬ少女よ。生憎とこの俺は騙す天才なのだよw

 

 

 

 

 

「そこにいるお姉さんはな、肉体の痛みを喜びに変えてしまう変態さんなんだよw

苦痛に喘ぐ顔も嘘でな、心の中ではな『ああ~ん、いい♪この子すっごい遠慮なく殴ってくる~♪あ…ああっ!いいっ!気持ちいい~♪』ってな風にな。

一度でもまともに攻撃を食らったら味を占めて、お前にすがりつくぞ。『いいわ~♪もっと殴ってぇ~~~♪』って。それでもいいのか!?」

『……………………………………………』

 

俺以外の奴、少女含めて全員絶句w

 

「……い、いや!違うぞ!信じてくれ!」

「ひっ!」

 

あ、少女が春蘭に脅えて距離をとったw

うおっ!春蘭がめっちゃ怖い目で睨んでくる。知りません、不可抗力です(嘘)。

 

「こほん、そろそろいいかしら?」

 

全員誰も何も言えない中、華琳がそう言いながらこちらに歩いてきた。

少女はそれを見て立ち上がり、華琳に向き直る。不審者を見る目でw

そこには、先ほどの怒りはほとんど感じられなかった。代わりに変態達に捕らわれた子羊のような感じだったw

 

「あなた、名前は」

「きょ、許緒です」

「そう……許緒、ごめんなさい」

「……え?」

 

華琳は彼女の瞳を見つめると、視線を外すことなく、漏れたのは謝罪の言葉。

………明日は槍でも降るか?

 

「私は曹操。ここから、山向こうの陳留という所で、刺史をしている者よ」

「山向こうの……? あっ!! それじゃ……あ、あの、ごめんなさい!!」

 

華琳の話を聞いて何か思い当るところがあったのか、今度は許緒が華琳に頭を下げる。

 

「噂で聞いてます!! 山向こうの刺史さまは凄く立派な人で、悪い事はしないし、税金も安くなったって……

 でも、ボク、顔とか名前とか全然知らなくて、だから、その……」

「いいのよ。悪いのは私達官僚だもの。官と聞いてあなたが憤るのも、仕方がないわ」

「でも、山向こうの刺史さまは全然悪くないのに、ボク、勘違いしちゃって……」

「気にすんな。傷ついたのはこのお姉さんの体と心だから。謝る必要はないさ」

「うお~い!?その前に誤解を解いてくれ!これでは変態だろうが!?」

「間違うことなく変態さんだろうが」

「ムキャ~~~!!!」

「うおう!猪、馬、鹿の次は猿かよ!?」

 

取っ組み合う俺たちを見て呆然としていた許緒も初めて笑みを浮かべる。

子供が笑うのはいいことだ、うむ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――ってか、誰か助けろよ!痛っ!引っ掻くな!本当の猿か、てめえは!?

 

 

(後編に続く)


 
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