佇む夕日を眺めている。日が沈む夕日を眺めている。廃工場の中、油臭いその空間から、赤い赤い日差しを眺めている。雀が窓際にとまって、僕を見る。無垢な瞳が、僕を貫いている。飽きたのか、どこかに飛んで行く。僕も連れてってくれよ、と嘆いてもそんなことは空を自由に飛べる鳥に理解できるわけもない。
窓から見える景色に、工場の裏に咲いた花が見えた。名前も知らない、ただの黄色い花。タンポポのようにも見えるが、どこか違う小さな花が羨ましく見えた。いずれ種をばら撒き、そこから動ける植物が羨ましい。
タール塗れのドラム缶の中、僕は居る。泥のように、埋もれていく。
いつも来る廃工場は、いつも通り何も変わってなくて、血なまぐさい臭いが漂ってくる一室もいつも通りあって。
その、いつも通りに僕は殺されていた。骨が砕けて、痛覚などもはや無く、何を吐き出したかも分からない口の中はタールに浸かって、黒くなっている。頭のネジどころか、脳みその片方ぐらいは抜け落ちて、そこらに落ちている。右目が沈むその時まで、僕は廃工場の様子を眺め続ける。死体がこの工場の生産物だった。
立ち込む土埃。もげたコンクリート。人の死体。僕の肢体。殺したい。死にたい。
それは不可能なのは明らかだった。動かすことは出来ず、無意味に垂れ流される映画のように、流れこんでくる。
夕日が綺麗だった。僕の身体を照らしてくれていた。赤かった壁は、どこか黒ずんできており、柘榴の実を齧ったみたいな色をしている。真っ白ではなく、歯垢が溜まった歯のように、黄色を帯びた骨は不健康な僕らしいだろう。
夕日は名前も知らない黄色い花をも照らしていた。赤く照らされて、その花の姿がよく見える。それは、造花だった。この工場で作られていたのはその造花だったと気付いた。
まるで今の僕と同じだな。意味のなく、価値のないのに、そこにあり続ける。
そう思った刹那、僕の目はタールの中に沈んでいった。
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