ぶらりと立ち寄った珈琲店。芳醇な香りが私の鼻孔を擽って、突き抜ける。大きく息を吸ってみた。
歩いた桟橋。ウミネコが今日も元気に鳴いていた。猫のような鳴き声を海の上から私に。
アパートの一室。何をするでもなく、そこに居る。外のけたたましい群衆の流れから隔離されているのが認識させられた。
静まり返った神社の中。吹き抜ける風もなく、ただただ静寂が過ぎていく。ふと、顔をあげたら鈴の音がカランカランと響いていた。
高層ビルの中、一つの学校。雑然たる空気がビル風となって吹き抜ける。舞い上がる塵屑をぼうっと眺めていた。
止まらない滝の水。艶艶しく輝いた水の雫は、滝壺の中に落下する。水面の王冠は見ることが出来なかった。
活気あふれる商店街。ぶつかり合う人と人。誰もが口にする『すみません』言葉の合唱。ぶつかってもいないのに、すみませんと呟いた。
雪が降る山の中。凍える寒さを歩いて行く。洞穴の中には、冬眠する熊の姿があった。死んでるように眠っているその姿を見て、私はそこを後にした。
朽ち果てた工場。使い古された重機械がタールまみれのまま捨てられている。壁にはスプレーの落書き。退廃の中の完成された世界がここにはあった。
田んぼの稲穂。緑と黄色の波がゆらゆらと揺れている。無数にもある粒が、縮図のように思えた。
罵詈雑言の世界。全てが記録される媒体の中は、醜かった。浅ましい本性の現れがここにはあった。
カラッカラの砂漠の上。乾涸びた地面が、パズルのピースのようにバラバラと離れていく。輝く太陽が、悪意の塊のように思えた。
舗装されたアスファルト。並ぶ点字ブロックの上に、放置自転車の壁。盲導犬を蔑む人。老人に手を貸す少年。多種多様な人が入り乱れていた。
夜の闇のカーテンの中に、光輝く星の群れ。こぐま座のポラリスよりも、月が煌々と私を照らしていた。
全部、あとのこと。感じることは出来ても、感じられることはない私のこと。
夜道に一人佇む私。何に憚れることもなく、何かを憚ることもできない私のこと。
死にとし死ねる人は孤独と知った。そんな、あとの世界から見た、この世界のこと。
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生きとし生ける人へ。