命日和1
【命】
私が子供を持つことが来るとは思わなくて、今手元で抱いている赤ちゃんを
見つめながら不思議な感覚になっていた。
だけどそれと同時に胸に愛おしいという思いが溢れてくるようだ。
「あー・・・」
「なぁに、みき?」
「だうあぁ~」
「うふふ」
部屋を照らす日差しが心地よくてうとうとしてしまいそう。
大変な出産をしたあとだからお医者さんからは体を癒すように
体を激しく動かすことはしないでくれと言われたので子供の世話以外は
割と退屈な日々を過ごしている。
しかし、子供の世話は予想以上に大変だったけれど。
特に夜泣きとわがまま。夜泣きは眠れることができないから
前と比べると睡眠時間は激減していて、常時寝不足なのだけれど。
でもまぁ・・・。
「ママー・・・」
寝言を言いながら寝ているこの子の姿を見ると報われることも多いなって思う。
こくん、こくん。眠すぎて意識が朧に霞んでいって頭が下へ下へいこうとするのを
気づいたときに修正してるのを繰り返しているとちょっと辛い。
萌黄も瞳魅さんも今は会社で働いているからほかに手伝ってもらう人は・・・。
そんなときタイミングよく居間に顔をひょっこり出してきて小さい声で
私に声をかけてきた。
「わ、私が見てあげようか?」
「マナカちゃんが?」
わけありで一緒に暮らしている子の一人。当時心を完全に閉ざしていたけど
少しずつ開いていって、今では物事をしっかり捉えて助言をくれたり、自分なりの
意見を聞かせてくれる。ちょっと頭が固いけどやさしくていい子である。
「ちょっとだけ仮眠してる間お願いできる?」
「うん!」
そういって私の傍に駆け寄ってきて、そっとみきを抱えて近くのソファに座る。
すごく頼りになって色々助かってるのに困ったことといえば・・・自信の無さかもしれない。
私も孤独な時はひどく自身のふがいなさに呪ったこともあったけれど。
萌黄との出会いで変われた。
そう考えると、何かの出会いで彼女の自信を取り戻すことができれば
今まで困難だったことも克服できるかもしれないと思えるのだが・・・。
まぁ、慌てない慌てない。今では独学とはいえ勉強はきっちりしているため
中学に入るまでに間に合えば問題はなさそうかな。
それをいったら私の方が問題で、人と関わったこと自体が指で数えるくらいしか
なかったから私が世間に入っていったのって大人になってから・・・。
周りの人たちに恵まれていなかったら私は人型の姿で野生化してたんだろうなって
考えてたらゾっとした。もう、萌黄には感謝してもしきれない。
萌黄以外にも近所の人だったり瞳魅やマナカちゃんにも支えられていて
今の私があるわけで。あ、あと両親がいなかったら私は存在すらしてなかったわけか。
「・・・」
うとうとしながらマナカちゃんを見て思った。お母さんやお父さんもこんな気持ちで
私のこと見て育ててくれていたのかなぁ・・・って。初めて親の気持ちがはっきりと
感じられた気がした。
***
いつの間にか眠っていたようで居間のテーブルに顔を乗っけていたことを
頭の中で確認してすぐに上体を起こした。
日差しの光がやや赤くなっていて随分長い間寝ていたようだった。
二人の姿は眠る前に確認したソファには居なかった。
普段おとなしい子なだけに機嫌が悪くなるとけっこう大変だったりするから
マナカちゃんが大丈夫か心配で私は下の階から探していないのを確認すると
階段を上って一番近い私の部屋をそっと覗くと思わず表情がほころんでしまう。
「う、うーん…」
「くー…」
私のベッドの上でマナカちゃんとみきが一緒に寝ていた。
みきは随分楽しそうな表情をしながら寝ているがマナカちゃんはみきの足で
頬をぐりぐりされながらうなされたような声を出して寝ていた。
そんな光景に私の胸はぽかぽか温かくなっていって暫くその様子を
眺めていた。そうしているうちにマナカちゃんが悪夢から覚めたような顔で
辺りをキョロキョロして原因がみきの足だったことに気付いて
ホッとした溜息を吐いていた。
「ありがとう、マナカちゃん」
「あ、命…」
「優しいお姉ちゃんに一緒に遊んでくれてみき嬉しそうにしてる」
「あ、そうか…私お姉ちゃんみたいなものか」
「みたい、じゃなくて立派なお姉ちゃんよ。だってマナカちゃんだって私の
家族ですし」
「うん…」
言われたマナカちゃんは照れくさそうに一度視線を私から外して寝ている
みきに視線を合わせてから聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で。
「そっか…」
と言っていた。そこの言葉だけすごく優しい声で呟いていたのが嬉しかった。
以前は何だかんだでけっこう固いとこがあったから居心地悪かったら
どうしようと思っていたから。
「私も一緒に居ていいですか?」
萌黄が私に絡むように、私も珍しくマナカちゃんの背後から手を伸ばして
抱きつくようにしてくっつくと。
「ひゃっ…!?」
悲鳴を上げそうになるけど近くで寝ているみきを起こさないよう両手で
口を押さえて必死に声を殺していた。
「ごめんなさい」
「う、ううん…」
「嫌でした?」
「そんなことない…」
私の視線の下にはマナカちゃんの後頭部。顔を合わせなくても
温もりはしっかりと感じ取れた。暖かくて柔らかくて心地良い。
どれだけそうしていただろうか、お互いうつらうつらとしていて
いつしか眠っていたように感じていた。幸い今日の気温はちょうどいいくらい。
心も体もぽかぽか幸せな気分でのお昼寝。
その時間が終わったのはみきの泣き声で叩き起こされたから。
私は慌ててみきを抱き上げて泣いているみきを宥めていた。
さみしいのかな? お腹空いたのかな?
ぐずっているみきがおっぱいの辺りを探ろうとしているから
おっぱいをあげているとふとマナカちゃんのことを思い出して
辺りを見るとマナカちゃんの姿は既にこの部屋にはいなかった。
どこにいったんだろうと探して下へと降りると居間にマナカちゃんの姿があった。
ソファに座りながらボーっとしていていたかと思うと私の顔を見て
少し顔を赤らめて驚いていた。
「どうかしました?」
「ん…なんでもない」
「さっき抱きついちゃったのやっぱ嫌…でしたか?」
原因っぽいのを思い出すにはそれくらいしかなかったから
そこを謝ろうとしたら出した手と顔を同時にぶんぶんと横に振った。
「嫌じゃないから…!むしろ、なんかドキドキした」
「え?」
「それにみきと一緒にいるのも何だか嬉しいし。
どれも、何も嫌じゃないから!」
珍しく大きめの声で主張するマナカちゃん。
彼女の中で何かが変わり始めたのかもしれない。
それは良い方向として…。
でも、今はそれよりも彼女のその可愛らしい笑顔が見れたことが
何より嬉しかった。滅多に見せないその表情は
みきが誕生してから増えてきた気がした。
「ありがとう」
「うん!」
空の色が徐々に赤く変化していく時間帯、
マナカちゃんの笑顔が眩しく、愛おしく見えた。
今日はそんな家族の暖かさが沁みる
素敵な一日だった。
お終い
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番外編の短編タイトルどうしようかと思ったけど4コマにつけたのがしっくりきたのでこのタイトルになりましたw
命、マナカ、娘のみき。わりとこの3人。どの組み合わせでもいける気がします(*´ω`*)