No.731127

紫閃の軌跡

kelvinさん

第14話 領邦軍の違い

2014-10-19 12:22:44 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:15700   閲覧ユーザー数:13324

アスベルが風見亭を出ると、五人が輪になるような形で話しているのを見かけ、そちらの方に近づく。すると、最初に気付いたのはリィンだった。

 

「お、アスベル。」

「済まない。ちょっと教官に確認しててな……で、話し合いしてたみたいだが、結論は?」

「とりあえず、依頼はすべてこなしていく方針にしたわ。」

「それほど難しいものではなさそうですから…ただ、魔獣は気を付けなければいけませんが。」

 

魔獣の退治依頼を除けば、難易度的にはそれほど難しくはない……ともあれ、まずは依頼に関して街中で引き受けられるものに関しての依頼を受け、街道に出るための準備も兼ねてケルディックの大市に足を運ぶことにした。そして、武器工房に足を運び、導力灯の話を聞いて交換用のものを受け取った後に、

 

「とりあえず、これだけ準備すれば問題ないだろう。急ごしらえではあるけれど。」

「急ごしらえってレベルじゃないんだが。まさか、アスベルに武器の調整と改造をしてもらうことになるなんてな……」

「ほう……相変わらず、若いのにいい仕事するじゃねえか。」

「すんなりと手に馴染む。感謝するぞ。」

「というか、専門外なのによく改造できたわね?」

「昔取った杵柄ってやつかな。」

 

工房の施設をお借りする形でアスベルが他の面々の武器改造を行ったのだ。ここの店主とは顔見知りで、以前にも工房を借りることがあったので今回もお願いすることにした。とは言っても、Tマテリアルによる補強改造程度なのだが……本人たちの癖を完全につかめていないので、ゼムリアストーンの改造は見送った。店主であるオドヴィンはアスベルの仕事ぶりを見て勧誘してきたが、丁重にお断りした。勧誘された回数は既に二ケタを超えてしまっている。

 

「それにしても、素材もそうですがかなり詳しいんですね。」

「ある程度は共通する部分も大きいし、はじめのころは自分で武器調整することも多かったからな。」

「魔導杖が調整できるって言うのもある意味凄いけれど。」

 

アスベルは流石に専門家ほどではないが、ある程度の武器製造と改造位は出来る。この世界に来た時も、結構多くの武器を作ったが……その大半がお蔵入り同然となっていることには目を瞑りたい。

 

薬局で薬の材料となる『ベアズクロー』を入手し、もう一つの薬の材料の受け取りと導力灯の交換のために西ケルディック街道に出て、早速数回ほど戦闘をこなしたのだが……

 

「大丈夫か?」

「え、ええ……」

「旧校舎でそういったことには慣れていたつもりですが、大変ですね。」

「まったくだよ……はぁ。」

 

戦闘経験の多いアスベル、ラウラ、リィンの前衛組とは異なり、経験の乏しいアリサ、ステラ、エリオットの後衛組。幸いなのは、戦術リンクによってそれなりのカバーは出来ている点である。だが、泣き言は言っていられない状況下。

 

「二人とも、一通り依頼を済ませたら三人の練度を上げる方向で。」

「そうだな………」

「どうかしたのか?」

「いや、何でもない。」

 

アスベルの提案に頷いたラウラであったが、リィンの方を見た後、目線を元に戻した。どうやら、リィンの力の使い方に違和感を覚えたようだ。それはこちらにもかけられそうな疑いだが……悩みは尽きない、ということらしい。

 

『交換のほうは俺がやる。』

『時間を稼ぐのはいいが、すべて倒してしまっても構わないだろう?』

『フラグっぽい発言だな、アスベル。』

 

結果として、導力灯の交換も無事に済み、農家に立ち寄って薬の材料を受け取った。そのついでみたいな形になるが、農家のあった場所からさらに道を北に進むと……高い柵と大きな門。そして、その前にいる二名ほどの人物。確か、この先はルナリア自然公園なのだが、門の前にいる人物達からして『違和感』を率直に覚えた。

 

「あの人達、雰囲気が良くなかったですね。まるで除け者にするかのような……」

「確かに、そんな感じよね。」

「……とりあえず、依頼の事もあるから街に戻ろう。」

 

教会と武器工房に立ち寄り、依頼を達成すると魔獣退治のために東ケルディック街道へと向かった。農家に立ち寄ってその詳細を貰った後、その魔獣がいる高台に行くと、その対象であるスケイリーダイナが2体いる。その外見からにじみ出る獰猛さ……戦術リンクを結び、武器を構えた。

 

「さぁ、いくぞ!」

 

リィンが激励で全員の戦意を鼓舞し、気力を上昇させる。魔獣はパワータイプということもあってか移動速度は遅い。とはいえ、図体が大きくてもスピードが速い生き物がいるのでその限りではないのだが……手練れであるリィン、ラウラ、アスベルが前に出る。

 

「皆、元気を出して!!」

「「ARCUS駆動……」」

 

エリオットがエコーズビートで全員の防御力を上げ、アリサとステラはARCUSを駆動させてアーツの準備をする。敵を引き付けるために、アスベルは懐に飛び込み

 

「二の型……『疾風』!」

「―――!!」

 

足元を集中的に狙い、敵の注意をひきつける。当たれば軽くはない攻撃だが、目に見えている分にはしっかり見極めれば当たることはない。過信ではなく、今まで培ってきた経験からの自信である。そして、こちらに注意をひきつけられれば

 

「せいやっ!!」

「砕け散れっ!!」

 

リィンの『極・紅葉斬り』とラウラの『鉄砕刃・改』が炸裂し、バランスを崩す。この気を逃すことなく、アリサとステラも

 

「はぁっ!!」

「いきます!!」

 

アーツを発動させ、魔獣を巻き込む。流石にここまでされて黙っている魔獣ではなく、激昂して暴れ出す。だが、この状況は上手に利用すれば……一気に殲滅できるチャンスともいえる。このチャンスに対して、果敢に飛び込んだのはラウラであった。

 

「受けて見よ、アルゼイドの奥義―――洸刃乱舞!!」

 

ラウラのSクラフト『洸刃乱舞』が見事に入り、鋭い剣閃を受けて魔獣は力尽きて消滅した。周囲に敵影は感じられず、全員武器を納める。

 

「見事だな、ラウラ。」

「それほどでもない。……」

「?ラウラ?」

「気にするな。」

 

どうにもリィンのことが気にかかる様子だ。確か、彼女の父親もこういった所があると知り合いに聞いたことはあるが……武に長けた両親を持つ身として、彼の戦い方に疑問を持つのは不思議ではない。そうやって平然としている前衛組とは対照的に後衛組は流石に疲れていた。

 

「というか、何で三人はピンピンしてるのよ。」

「何というか、僕たちが場違いというか。」

「くぐってきた場数の違いってことなのでしょうが……これが貴族の方と王国出身者ってことなのでしょうか?」

「いや、身分と出身は関係ないと思うのだが。」

 

こればかりは流石のラウラも否定した。出身がどうこうというよりは置かれてきた境遇によるものが大きい。

 

「ま、夕方まで時間はあるし、依頼も後は報告するだけだし……とkk……鍛えるか。」

「「「え?」」」

(今、特訓っていいかけたよな?)

(うむ。私にもそう聞こえたな。)

 

報告のために農家に戻るついでな感覚だが……それによって後衛組が苦労することになった……それを見たリィンとラウラは流石に同情を禁じ得なかったとか。

ともあれ、依頼主であるサイロ老人に報告を行った。

 

「おお、どうやら魔獣を退治していただけたようで、なによりです。さっそく家の者にも伝えてあのあたりの収穫に入らねばのう。いや、本当にありがたい。」

「いえ、大したことはしていませんよ。」

「しかし、ここからですと街からそう遠くはありません……領邦軍は対処してくれないのでしょうか?」

 

ステラの口から出た疑問……本来の筋から言えば、領地を預かる者としての責務として民を守るために領邦軍が魔獣退治を行うのが真っ当なのだが、その問いにサイロは難しい表情を浮かべた。

 

「それもそうなのですが……ここら辺は田舎ですし。そもそも、ケルディック自体クロイツェン州の北端ですからな。領邦軍もそう熱心に対応してくれないのです。」

(そういうものなのか?うちの領邦軍は嬉々としてこなしてると聞くんだが。)

(いや、センティラール領邦軍が異常なだけだからな。)

 

五大名門となったシュバルツァー侯爵家にもお抱えの領邦軍はいるのだが、領主であるテオ・シュバルツァー侯爵の意向を組み、基本的には簡素的な軍服に統一した上で多岐にわたる仕事をこなしている。中には住民との関わりのために動きやすい私服で仕事をこなす者もいるほどだ。軍という組織の中ではそういう存在自体異端なのだが、それが却って住民との溝を埋めるのにも一役買っている。

 

尚、センティラール領邦軍は新設されてから日が浅いということで、外部から様々な人を招いて武術教練や軍としての心構え、帝国での活動を制限されている遊撃士のカバーリングを叩き込んでいる。その外部顧問というのは、ユリア・シュバルツ、アラン・リシャール、カノーネ・アマルティア、ゼクス・ヴァンダール、オーラフ・クレイグ、カシウス・ブライト……帝国のみならず、猟兵と言った存在を直に経験しているリベールからも招いたほどだ。これにはオリヴァルト皇子とクローディア王太女の繋がりから実現した部分が大きい。

 

そんな経緯もあってか、練度だけで言えば帝国屈指とも謳われるラマール領邦軍相手の演習では一歩も引かぬ奮闘を見せた。これにはカイエン公爵が『あのような成り上がり如きに』と激怒したとのことらしい。

 

(確かに、あの領邦軍の態度だと住民を助けてくれそうにはないか……)

 

リィンらが西ケルディック街道に出る際に領邦軍の兵士らと会い、少し話をしたが……その態度は明らかに格下を見るような態度であった。誇り高きプライドも結構なことだが、その貴族の生活を支えているのは他ならぬその領地の民なのだ。それを蔑ろにすればしっぺ返しを食らうことにも気が付いていない様子である。

 

その点で言うと、センティラール領邦軍の座右の銘は“民を助けることは己を助けること”。彼らを助ければ自分らの生活も安泰になる……民の視点から困っていることを見つけ、それを積極的に解決する。領主の意向を強く反映した行動理念によってセンティラール州における領邦軍への信頼度はかなり高く、鉄道憲兵隊自体がセンティラール州で行動することが少ないという実態に繋がっている。

 

話が逸れたが、サイロは感謝の言葉と共に自らの家で栽培している食材を謝礼代わりに渡してくれた。それも結構多い。礼を述べると、サイロはちょっとした最近の事情も話してくれた。

 

「ありがとうございます。」

「結構多いですが、こんなにいただいても?」

「家には結構転がっている物ですからな。とはいえ、少し前までは経営も苦しかったのですが……最近は懇意にしてくれるお得意さんのお蔭で儲けておりますしな。」

「お得意さん、ですか?」

「ええ。以前リベール王国のアリシア女王陛下が家を尋ねられましてな。」

 

どうやら、リベールの方で王家御用達のような形で契約を結んでいるとのことだ。それほど儲けているのであれば公爵家辺りが黙っていなさそうであるが、リベールによる経済交流によって膨大な収入を得られている以上、ふいには出来ないという側面もある。下手な処理を行えば皇帝陛下からの厳しい処分を免れない国際問題に発展する可能性が大だ。クロイツェン領邦軍の増大に一役買ってしまっているというのは些か問題もあるのだが……

 

「『百日戦役』以後、私もいい感情は持っていなかったのですが……直に話すことで良き人間あるということを実感させられましてな。」

 

互いに会って話をすることは良きにせよ悪きにせよ、腹を割って話をすることこそが様々なことを解決する糸口になりうる。現に、サイロ老人はそのような出会いによって王国に対する印象が変わったということが何よりの証だろう。

 

ともあれ、一通りの依頼をこなしたのでケルディックの街に戻ることにしたのであった。

 

 

テオさんのあの性格からしてそういう領邦軍になるよう仕上げました。あとは、サイロ老人が個人的に印象深かったのでちょっとテコ入れしてみました。あとは、前作序盤のちょっとした再現と、何故か存在がなかった素材も使ってみました。いや、クロスベルにあったんだし、ないわけはないと思ったのでw


 
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