76、キジコの首輪
キジコはとてもおしゃれな子猫だった。
首輪は小さな財布をぶら下げたり、リボンをつけたり美猫の気まぐれではなくキジコ
の気まぐれで決定した。
名札には名前、電話番号が書かれており、絶対に迷子にならぬようにGPSも仕込まれて
居た。
キジコを攫っていこうとする不心得者には美猫のキツイお灸が待っているのである。
この辺りは悪徳駆除業者が泥酔した大和警部補を誘拐しようとして警察官に問答無用で
射殺されたので全く出没しなくなっていた。
キジコはカオスな古着屋に住み着いた最長老の昔話を聞きによく訪ねて行った。
最長老もこの好奇心の強い子猫に好意をもって迎えていた。
最長老も結構おしゃれで、首輪やリボンを気まぐれで付けてもらっていた。
この傾向は猫街横丁の猫達みんなに共通していて、それぞれ個性を主張していた。
このカオスな古着屋で猫用おしゃれ首輪やリボンが沢山用意され、猫好きの人たちの
財布を軽くしていった。
キジコも雅の部屋に同居するようになって1か月が経ちキジコも生後4か月と成長して
首輪のサイズが少し大きくなったり、体も成長していたがそれ以上に知能や知恵が発達
していた。
既に並の猫以上のことが可能であった、雅も美猫もキジコの教育に力を入れていたので
なおさらであった。
キジコ自身も何か自分の可能性を追求しているようなところもあって、常に前向きだった。
キジコにとって運命的出会いだったのが第一に雅であった。
キジコは自ら飼い主というより同居人にして保護者、自分にとって母猫のような存在を
選んだのであった。
美猫は同じ猫族でやはり母猫のような存在であった。
さらに銀、さつき、妖子などの美猫の周りの人々がキジコを育んでくれるので、キジコは
自分が孤児であることを忘れていた。
自分の他の4匹の兄弟、母猫らが早逝したり、行方知れずになったことを忘れていた。
でも忘れられるなら忘れた方がいいこともあるのである。
思い出すととても悲しい事だったりもする。
キジコは今が一番大事で今楽しいことを満喫しこれから成長してどんな猫になっていくのかが
自分でも楽しみの様である。
77、英国よりの真祖バンパイア暗殺命令
英国より黒魔術を信奉する真祖バンパイアがこっそり魔力を隠蔽して渡来してきた。
ガード伯爵の追求の目を逃れるためであった。
別ルートでこの国に入り込んだデミバンパイアと合流するつもりであった。
黒魔術使いのデミバンパイアが殆ど駆逐され、なかなか見つけ出せなかった。
彼は全ての魔術武器無効化の護符の作り方を確立しそれでデミバンパイアと取引しよう
と企てていた。
この国に真祖バンパイアを滅ぼす武器があることも知らずに。
ガード伯爵の意を受けた滅殺機関が内偵しできれば暗殺を企てていた。
エカチェリーナ・キャラダイン少佐ことエリカに命令が下り四方野井雅の協力を得て
隠密に遂行せよ、ただし四方野井雅と日輪の十字架の存在は内密にせよと。
雅は変則的な作戦ながら塗仏の鉄の情報網を使って指名手配の真祖バンパイアの足取りを
追い黒魔術師のデミバンパイアとの接触地点を特定した。
「この護符を身に纏えば、魔弾、魔矢、魔剣すべて無効化して
再び勢いを取り戻せるのだ悪い取引ではないだろう。」
「この国には真祖バンパイアは1人しかいないのだ。」
「この我が代わってこの国を治めることも可能だ。」
「おぬしら黒衣の魔術師が国を統べるのだ。」
彼らのアジトの周りは蟻の子一匹逃がさない厳重な包囲網が敷かれていた。
滅殺機関の制圧部隊が一斉に襲い掛かりまだ魔術武装を無効化する護符を身に着けて
居ないデミバンパイアを多人数で一斉に魔術武器で倒すという方法で殺戮した。
意外な展開に真祖バンパイアはその力を全開にして逃走した。
もう安全だと姿を現した処でいきなり後ろから日輪の十字架で心臓を一突きにされ、
何が起こったのかわからぬまま、ゆっくりと消滅した。
雅は今回初めて真祖バンパイアを屠ったのだがあまりにも俗物すぎて何も感じなかった。
「雅ご苦労だった。」
エリカは雅を労った。
「真祖バンパイアにもああいう俗物で生かしといて為にならないのがいるんだ。」
「今回の仕事は英国のガード伯爵自らの依頼だ。」
雅は今回の真祖バンパイアがあまりにも無計画でいい加減なのに驚いていた。
「ああいう軽薄な乗りで市井の市民の生活を乱されたらたまらないな。」
エリカは英国の真祖バンパイアの事情を話した。
「英国の真祖バンパイアはみんな貴族ではないのだ一般市民やマッドサイエンティスト、
など様様な階級職業があって当然下の方からは不満もあるわけだ。」
「ただ残念なことに唯一の抑止力である、日輪の十字架の存在は公にできない。」
「元はといえば私が私怨でエルクスを滅ぼしたのが悪いのだが。」
「真祖バンパイアに有効である武器の存在が公になればに当然ねらわれるからな。」
「あくまでデミバンパイアに対する究極兵器としておくに越したことはない。」
エリカは今後も同じような作戦を遂行する可能性があることを雅に告げ、
英国の一部の腐敗した真祖バンパイアが真祖バンパイアの個体数の少ない国に
謀略と黒魔術を携えて渡来してくる可能性を警告した。
78、黒い矢
亜人街の高位ライカンスロープを狙い暗殺する事件が多発した。
魔性の矢で心臓を一突きにする手口で警視庁保安局亜人対策課での現場検証の結果、
かなりの遠距離からターゲットを暗殺しており、亡き守屋味扇斉の手口によく似ていた。
塗仏の鉄はターゲットの素性を洗い共通点を探し出した。
ただ無差別に狙っているのではなく自在に変化できるものを狙っているのである。
普段、自在に変化しない提灯屋の源さん、白猫銀はまだターゲットになってないものの
何れ危険にさらされると考えた鉄はそれとなく2人に警告した。
某大手民間エクスタミネーター事務所が警察により旧幹部たちが立件され会社が解散
して路頭に迷ったエクスタミネーターの中に怪しい人物がいないかを調査した。
中谷郁夫という国際A級エクスタミネーターと中島芳江という
国際A級エクスタミネーターにいきあたった。
ともに守屋味扇斉の高弟でどうやら暗殺のエキスパートだった。
会社の解散、守屋親子の仇討ちの両方から洗ってみた。
しかし、両方ともそんな殊勝な珠ではなく、何か賞金が掛けられている様だった。
そこで右京門陸軍中将絡みで賞金を出しそうな筋を洗ってみた。
陸軍諜報部の参謀で右京門陸軍中将の懐刀と呼ばれた駒形一蔵予備役少将が浮かんできた。
駒形一蔵予備役少将は右京門陸軍中将一族の急死で失脚し予備役に編入され鬱々とした
日々を送っていた。
幸い現役時代に利権で蓄財して裕福だったので中谷郁夫と中島芳江に賞金を与え右京門
陸軍中将一族を暗殺したライカンスロープを狩り、鬱憤を晴らそうとしていたのであった。
はた迷惑なことに全く関係ない高位のライカンスロープを狩ることで真犯人を炙り出そ
うとしていた。
塗仏の鉄は雅にこれまでの経緯を報告した。
雅は大和警部補、美猫と共に作戦を立て駒形一蔵、中谷郁夫、中島芳江を闇に葬ること
にした
塗仏の鉄は次のターゲットの高位ライカンスロープを絞り込み、中谷郁夫、中島芳江を
一気に葬り去る作戦を雅に提案した。
高位ライカンスロープに変装した雅を中谷郁夫、中島芳江が魔性の矢で狙ってきたところを
一気に大和警部補、美猫が切り伏せる作戦であった。
チタンとアルミド繊維の強化服を着込んだ雅を囮にして矢をつがえて狙う中谷郁夫に
声を掛け驚いたところを大和警部補は唐竹割に切り伏せた。
中谷郁夫の失敗に気づき慌てて逃げようとする中島芳江の首を美猫は刎ねた。
中谷郁夫、中島芳江の骸は荼毘に付して骨壺に入れ、近くの寺の無縁墓地の前に置いた。
駒形一蔵は予備役に退いてから妻に三下り半を突き付けられ奉公人からも愛想を尽かされ
閑居に一人わび住まいをしていた。
二人の報告を待って酒をちびちびと飲んでいた。
「駒形さん、待っていますよ。」
「誰だおまえは。」
「警視庁保安局亜人対策課の大和と申します。」
「警視庁保安局亜人対策課が何の用だ。」
「中谷郁夫、中島芳江が地獄で待っていますよ。」
大和警部補は駒形一蔵の首を刎ねた。
駒形一蔵の骸を荼毘に付して骨壺に入れ、近くの寺の無縁墓地の前に置いた。
79、さつき晴れ
安達原さつきは四方野井雅に密かに思いを寄せていた。
最近美猫がやたら雅に引っ付いていても雅が照れずにいることに気づき少し焦りを感じていた。
「美猫ちゃんいつの間にかあんなに引っ付いているよ、くっつける胸もないのに。」
「最近雅さん、美猫ちゃんの服のコーディネイトをよく考えているみたいで
スレンダーなボディラインを綺麗に見せて美猫ちゃん本当に可愛いよ。」
さつきは本人に聞こえない所でかなり毒を吐いているのであった。
ただ、キジコの前で美猫の悪口を言うと本人に筒抜けになるので注意している。
銀も要注意である、美猫をライバル視しながら美猫愛に溢れているからである。
妖子、撫子などは美猫まっしぐらとも言える美猫愛で溢れかえっていて恋愛と無縁の様
である。
自分は美猫と対等な関係の親友であると自負しているので恋愛では絶対に負けたくないのである。
ただ腕力では全く歯が立たないので下手なことを言って美猫を怒らせたくないのである。
落ち込んでいた美猫が雅と一緒に東の繁華街でデートのようなことをしたりとかどうも
雅が美猫を気遣うようなことが多く雅の方から美猫に接近している様に見えるのである。
美猫は色気より食い気と油断していたら2人の仲が進んでいる様なのであった。
実際に美猫に聞いて惚気られるのも癪なので実際はどうなのか、何とか雅と二人きりに
なる機会をうかがっていた。
しかし、雅が一人でいるようなことが少なく必ず誰かと一緒だった。
大和警部補、美猫は仕事のメンバなので仕方ないにしても、銀、妖子など必ず女性が、
一緒だった。
キジコが一緒でも話の内容が美猫にばれるので拙かった。
最近は提灯屋の源さんと一緒にいることさえある。
ちなみに源さんと何の話をしているかは別の意味で面白そうだった。
やっと雅と2人きりになるチャンスが訪れた。
美猫は仕事で塗仏の鉄の所に行っていた、キジコは居酒屋銀猫の専用座布団でお昼寝中。
神出鬼没の銀も妖子と一緒に食材を仕入れに行って留守で後ろから撲殺される恐れもない。
「雅さん。」
さつきは出来るだけ甘い声で囁くように呼びかけた。
「さつきちゃん、こんにちは。」
「雅さん、最近美猫ちゃん少ししとやかになったみたいですけど何かあったんですか。」
「子供だと思っていたらネコの方がずっと大人でこっちが振り回されている感じなんだ。」
「でもよく考えたらあの歳で僕なんかよりずっと修羅場をくぐってきているんだよなぁ。」
「僕は23歳でバンパイアハーフだって判明してなんか周りに振り回されているだけな
んだけど、ネコは小さいころから苦労して裏切られたり悔しい思いをしたりなんかして
波瀾万丈な人生を16歳でおくっていること考えると自分は温室育ちで恥かしいなあって
最近思うんだよ。」
「さつきちゃんだって、この間、ネコとさつきちゃんと妖子ちゃんの話を悪いとは思っ
たけど立ち聞きして、みんな口には出さないけど苦労しているなあって。」
さつきは雅に自信を持って微笑んで言った。
「でも、雅さんが幸せな人生を送ってきたことに全く引け目を感じることはないん
ですよ。」
「その分みんなに自分の今まで味わった幸せを分けてくれるんだから。」
「多分美猫ちゃんは雅さんに幸せを分けて貰ってうれしいから雅さんに愛情表現をして
いるんだと思います。」
「ありがとう、さつきちゃん何か心の中がすっきりしたよ。」
みゃー、みゃー
キジコが雅、目掛けて走って来た。
飛びついて雅の顔をペロペロ舐めて最大級の愛情表現をしていた。
「みやちゃん、さつき、キジコちゃんただいま。」
美猫が塗仏の鉄の所から戻って来た。
「みやちゃんもさつきも何かすっきりした顔しているけど何かあったの。」
「雅さんがみんなに幸せを分配しているって話をしてたんだよ。」
さつきが晴れ晴れとした顔で言った。
80、慧快初陣
英国で国際S級エクスタミネーターの資格を取り、背中に日輪の十字架を背負った
古宮慧快がこの国に帰国したのは24歳の時であった。
大検校大谷行基の命を受け、国内の未公認エクスタミネーターと力を合わせて
この国に跋扈する異国の怪物デミバンパイアを退治するのが目的だった。
しかしまだ若い慧快に協力する国内の未公認エクスタミネーターが居なかった。
本当にデミバンパイアが倒せるのか未知数で用心深いエクスタミネーターは
中々協力を申し出なかった。
そんな時若い女猫又のエクスタミネーターが自分の腕を売り込んできた。
竜造寺銀、売出し中の凄腕未公認エクスタミネーターだった。
「あんた、デミバンパイアを倒せるそうじゃないか、本当にそうなら邪魔な
ライカンスロープを全部こっちで面倒見るだけなら引き受けてもいいよ。」
「姉さんお願いできますか。」
慧快の任務は佐戸ヶ原の鍾乳洞に巣食うデミバンパイアと配下のライカンスロープを
退治して近隣の住民の不安を取り除くことだった。
慧快は大きな岩の上で胡坐をかき日の出を待っていた。
原始太陽信仰に基づき太陽の力を借り、体にそのエネルギーを蓄え超常的な怪力を
其の身に宿し念を込めた日輪の十字架を持ってデミバンパイアを滅ぼすのだと
銀に説明した。
銀は詳しいことはわからないが圧倒的魔力で人間を蹂躙するデミバンパイアを退治する
には圧倒的魔力を超える超常的力が必要だと理解した。
やがて太陽が昇り慧快の全身が光に包まれオーラのようなものを纏っていた。
慧快は立ち上がり雄たけびをあげ日輪の十字架を持って駆け出した。
銀は霊験あらたかな白鞘の日本刀を抜き、慧快に寄り添うようについて行った。
鍾乳洞の入り口から獣化したライカンスロープの狒々たちがわらわらと出てきた。
銀は先払いでライカンスロープの狒々たちの首を刎ねた。
慧快はそのまま鍾乳洞に入っていき、真正面のデミバンパイアの胸を串刺しにした。
日輪の十字架の旗に書かれた大日如来の梵字が眩しく閃き、デミバンパイアは
小さな痙攣の後、爪の先からぱらぱらと塵に変わり、やがて消滅した。
慧快は鍾乳洞にいた残り3体のデミバンパイアをまとめて串刺しにした。
日輪の十字架の旗に書かれた大日如来の梵字が再び眩しく閃き串刺しにされた
デミバンパイアは小さな痙攣の後、爪の先から塵に変わり崩れて消滅した。
ライカンスロープを全て殺戮し終えた銀は今まで戦わずに逃げるしかなかったデミバン
パイアが滅んでいく姿を見て慧快の桁違いの実力に希望を託すことにした。
慧快は生贄になった娘の亡骸を供養して荼毘に付した。
「あんた、怪我はしていないかい。」
「デミバンパイアの爪で少しばかり怪我をしたようです。」
「少しばかりじゃないだろかなりの深手じゃないか。」
銀は慧快の傷を縫い膏薬を張り、怪我の手当てをした。
「銀姉さんありがとう、おかげで初めてこの国のデミバンパイアの犯罪者を倒せました。」
「あんた、初めてだったのかい、道理でめちゃくちゃな戦い方していたよ。」
「銀姉さん、また助っ人を頼まれてくれませんか。」
「いいよ、あんた本当にほっとけないから当分手伝ってやるよ。」
銀はこの青年僧が気に入ったようでこれから40年以上付き合うことになる。
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76、キジコの首輪
77、英国よりの真祖バンパイア暗殺命令
78、黒い矢
79、さつき晴れ
80、慧快初陣
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