No.728475

快傑ネコシエーター15

五沙彌堂さん

71、美猫の朝の挨拶
72、三毛猫メイド喫茶
73、雨降り猫
74、猫街横丁
75、慧快危機一髪

続きを表示

2014-10-07 01:29:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:565

71、美猫の朝の挨拶

 

美猫には父親が居なかった、美猫の母珠代が病死した時美猫を捨てて行方を晦ました。

雅は美猫の保護者として美猫の父親代わりを勤めようと思った。

やはり相談相手は大和警部補以外適当な人が思い当たらず、

直接大和警部補に父親らしい保護者像について尋ねてみた。

「みやちゃん、別に今のままでいいと思うよ、美猫ちゃんから不満が出たわけではない

のだしみやちゃんは、今のみやちゃんで保護者の責務は充分果たしているわけだし。」

「ネコにとって父親というものは自分を捨てた憎むべき存在でしょうそれが美猫の男性に

対して強い不信感を持つようになったら歪んだ男性観を持つようになってしまうのでは

ないかと心配になっているんです。」

「本当の父親と言う物を知らないと将来家庭を持った時に困るじゃないかと思いまして

僕は幸い養父母に恵まれ明るい家庭で育ちました。」

「僕はネコを異性として意識しよう思うと恥かしくなってしまい、

つい母親の様に接していたような気がして、

もしかすると父親の様に接して拒絶されたくないのかもしれません。」

「みやちゃんは美猫ちゃんの夫じゃなくてお父さんになりたいの。」

「将来、美猫ちゃんをお嫁に出すのは辛くないのかな。」

「えっ。」

「みやちゃんが美猫ちゃんを好きならば、自分が嫁にもらうという発想で育んでもいい

と思うよ。」

「みやちゃんが美猫ちゃんの男性観を作ってあげたらいいんじゃないかな。」

雅は恥ずかしがらずに美猫を異性として意識するにはもう少し時間が欲しかった。

「でも、別に急ぐことではないから、ゆっくりと距離を縮めていけばいいと思うよ」

大和警部補は年長者として雅に優しくアドバイスした。

 

自宅に戻って美猫とじっくりと話をしてみようと思ったがやはり恥ずかしかった。

雅は美猫との恋愛を思い浮かべると意識して恥かしくてだめだった。

美猫そんな雅の様子に気づいて雅にくっついてきた。

「どうしたの、みやちゃん何か悩み事私でよければいつでも相談に乗るよ。」

「ネ、ネコ、いや、なんでもない。」

雅はそれだけ言うと赤面して下を向いてしまった。

美猫は雅に顔を近づけ殆ど触れ合う距離までになっていた。

雅は美猫の顔をじっくりと見た。

やはり美少女であった。

雅はため息をついた。

美猫は雅が何か大きな悩みを抱えているがなかなか相談できずに困っているように見えた。

「ネ、ネコ、僕に何か不満はないかな。なんかお母さんみたいだとか。」

「そんなことないよ、とっても感謝している。」

「本当なら僕はもっとネコを異性として意識してせめてお父さんみたいにならないと

いけないかなって思っていたんだけど、どう思う。」

「みやちゃんがお父さんか、今でも充分お父さんしていると思うよ。」

「そうかな。」

「もっと自信持ちなよ。」

「みやちゃんはお父さんでありお母さんであり自分の知っている父母の愛をあたしに

注ぎ込んでくれているっていつも思っているよ。」

「ありがとう、ネコ。」

「どちらかというとありがとうを言うのはあたしの方だよみやちゃん。」

美猫は雅の頬にキスをして

「大好きだよ、みやちゃん。」

美猫は流石に恥ずかしかったのかそのまま寝室に入って、

「おやすみ、みやちゃん。」

と言い残してドアを閉めた。

「ネコって思っていたよりずっと大人だな。」

雅は自分の方がずっと子供みたいな気がして恥ずかしかった。

「もっと自信を持ってか。」

みゃー

キジコが雅を励ます様に鳴いた。

 

翌朝キジコに起こされた雅は美猫と顔を合わせるのが恥ずかしかった。

寝室のドアが開いて美猫が飛び出してきて雅にいきなり抱き着き口づけして、

「みやちゃん、猫族の朝の挨拶だよ、おはよう。」

雅は思わず赤面したが、

「みやちゃん、そんなに恥ずかしがらないでよ、

あたしが朝みやちゃんを起こす時はいつもやっているよ。」

と言いながら美猫も照れていた。

「ネコ、いつもっていつごろから、ごめんいつも寝ぼけていて気づいて居なかった。」

「あたしが、猫又になって一緒に寝た時からだよ。」

「じゃキジコちゃんがうちに来る前からずっとってことだね。」

「ごめん、僕ほんとに鈍くて。」

「いいよ、猫族にとってほんの挨拶なんだからあまり意識されると恥かしいよ。」

「キジコちゃんなんかほとんど毎朝だと思うよ」

雅はキジコを抱き上げて、猫族の挨拶をして、

「ごめんね、キジコちゃんいつも気が付かなくて。」

みゃー

キジコは満足そうに鳴いた。

キジコは雅の顔をぺろぺろと舐め精一杯の親愛の情を示した。

「くすぐったいよ、キジコちゃん。」

雅はキジコが満足するまで其の儘にした。

雅はキジコが満足したのを確認してソファーの上に下した。

「じや、今度は私の番。」

美猫は雅に抱き着きキスの雨を降らした。

「ネコ、せめて猫又になって欲しかったなあ、普通にキスされるととても恥ずかしいよ。」

「みやちゃん、そういうことはキスする前に言ってね。」

赤面しながら美猫は雅に言った。

美猫は雅との関係が前進して大満足でごきげんだった。

雅の本心は照れ隠しであったが美猫が嫌がってないならと堂々とお母さんを勤めていた。

美猫は往来で堂々と雅の腕に抱き着き甘えるようになり、雅も少々のことでは恥ずかし

がらなくなった。

「あら、何かあったのかしらあの2人。」

そんな2人の様子を銀はほほえましくも羨ましく思った。

 

72、三毛猫メイド喫茶

 

猫族はある程度成長すると縄張り意識が出てきてお互いある程度距離を置く本能があり

この縄張りは白猫銀の一族関係者が集まっていた。

銀を中心に美猫、猫又ハーフの娘たち、キジコの縄張りで猫会議の時に周りの猫族が

集まってくるようだった。

その白猫銀ファミリーの縄張りに別の猫又が侵入しようとしていた。

居酒屋銀猫の向かいカオスな古着屋の隣の喫茶店の経営者が変わったらしく改装工事を

していたがやっとその全貌が明らかになっていろいろと問題が起きそうな様子だった。

「メイド喫茶三毛猫、こんなところでわざわざ猫を屋号に使うなんて。」

通り掛った雅はとても嫌な予感がした。

数日後開店して、22歳ぐらいの猫又がビラを配って客引きをしていた。

「こんなところでメイド喫茶なんて怪しさ大爆発だよ。」

部屋の中から様子を見ていた美猫が雅に告げて言った。

「なにも亜人街でなくても東の繁華街でやればいいと思うけどなあ。」

雅も怪訝そうに言った。

「大体、あの猫又、銀ねぇの所に何も挨拶をしてないのが気に入らないよ。」

美猫は不服そうに言った。

このテリトリーのボス猫である白猫銀に無断で侵入して店を構えることは抗争

も辞さないという喧嘩上等宣言であり、美猫の立腹も当然であった。

ただ雅が気にしているのは客引きをしているのが本物の猫又で人間や亜人のコスプレ

ではないということで背後に何か大きな力を持つライカンスロープでもいるのではない

かと疑っていた。

様子を暫く窺がって居たがやがて客引きをしていた猫又が店に戻り接客を始めたよう

だった。

居酒屋銀猫とはもともと営業時間、客層が違うためお互い影響はなかったがメイド喫茶

三毛猫が営業時間を延長してお酒も出すようになるとお客の奪い合いになりかねないので

注意が必要だった。

暫くはお互い共存していた。

やがて、メイド喫茶三毛猫が夜間営業の許可を求める申請を警察に提出してきたので

段々と大きな問題になっていった。

 

「個人経営の居酒屋なんかも問題じゃないわ、こっちは何れ大きなフランチャイズ

チェーンの一号店として伝説になるんだから。」

若い女猫又は誇大妄想的なドリームトークを始めた。

従業員の若い女猫又は心配そうに言った。

「居酒屋銀猫の経営者ってかなり力持っていそうだからちゃんと挨拶しといたほうが

良かったんじゃないの。」

「何言ってんの戸籍で調べたらまだ21歳の若い亜人の子だよ、心配いらないよ。」

どうやら単なる調査不足だったようだ。

 

当然のことながら許可は下りずメイド喫茶三毛猫の経営者は不服を申し立てに警察に

掛け合ったが暖簾に腕押しであった。

 

そこでメイド喫茶三毛猫の若い女猫又2人は居酒屋銀猫に客を装って偵察に行った。

格子戸をあけると「いらっしゃいませ。」元気な猫又ハーフの娘たちの声がした。

続いて「いらっしゃいませ。」と落ち着いた声で白猫銀が挨拶した。

メイド喫茶三毛猫の若い女猫又2人はカウンターに案内された。

銀の容姿を見て小声で、

「あれ絶対21歳の亜人じゃないよ、うちらより年上の猫又だよ、早いうちに謝った方

がいいよ。」

「雇われ女将かもしれないじゃない。」

「21歳の亜人が女将を雇うなんて不自然だよ。」

こそこそと相談している若い女猫又達に銀は、

「どうか致しましたか。」

あわてて若い女猫又達は、

「いえ、なんでもないです、酎ハイ1つずつ。」

「とにかく、今日は相手が悪いよ、一杯飲んだら速攻で帰ろう。」

銀が若い女猫又達の前にコップを置いて

「どうぞ、私のおすすめ特製酎ハイですよ。」

女猫又達は少しずつ味を確かめるように飲んだ。

「あぁっ美味しい。」

「ほんと、美味しい。」

「なんか、とろける様に美味しいね。」

「なんかとってもいい気持ちになってきたね。」

暫くすると椅子の上に猫が一匹ずつ丸くなって寝ていた。

「どうですか、私の特製マタタビ酎ハイ、テヘ。」

しばらくしてメイド喫茶三毛猫は閉店してテナント募集の張り紙が提示されていた。

 

73、雨降り猫

 

美猫は雨が嫌いだ。

雨が降ると一日憂鬱そうにしている。

雅は何故嫌いか聞こうと思ったこともあったがホームレス時代の話だと嫌なことを

思い出させると思いやめたのであった。

そういう憂鬱そうな美猫の気分を少しでも晴らそうと雅は晩御飯に美猫の好物を

作ってやることにしていた。

でもテンションがいつもより低くいまいち元気がないようだった。

そんな雨の休日、さつきと妖子が美猫の元を訪れた。

 

「美猫ちゃんなんか元気ないね。」

さつきがぽろっとそのまま思ったことを言ってしまった。

「そういえばいつもの美猫さんと比べて何か憂鬱そうですね。」

妖子も心配して言った。

「あたし、雨の日って大嫌いなんだ。」

美猫がぼそっと言った。

「雨の日にいい思い出が無いんだ。」

席を外して書斎にキジコと一緒にいた雅は聞き耳を立てた。

「お母さんが病気で亡くなってあたしが父親に捨てられた日もこんな風にざあざあと雨が

降っていて、悲しくて、悔しくて、辛かった日を思い出すんだ。」

「ごめんね、美猫ちゃん嫌なこと思い出させて。」

さつきが済まなそうに謝った。

「いいよ、さつきだって親に捨てられた嫌な思い出があるんだし。」

美猫はさつきを気遣って言った。

「私の時は結構あっさりと捨てられたからそれほどでもないよ。」

さつきはあまり気にしてないように言った。

「私は物心ついたときにはお祖母ちゃんしかいなかった、両親はなくなっていたから。」

「思い出がある方が辛いと思います、何もなけれが気になりません。」

妖子は自分の両親の思い出が無いことをさらっと言った。

雅は三人が孤児であることを思い出した。

さらに膝の上のキジコも孤児であった。

雅は自分には実の父と暖かい養父母に恵まれどんなに幸せであるかを改めて実感した。

「みんな、事情の違いはあるけど孤児なんだよなあ。」

雅はキジコを優しく撫でながら3人と一匹のことを考えた。

「なぁ、キジコちゃんは何してもらうのが一番うれしい。」

みゃー

キジコは雅の肩に上り頬をペロペロと舐め親愛の情を示した。

雅はキジコ満足したようなので抱き上げて口づけをした。

キジコは喉をゴロゴロ鳴らし満足そうであった。

さつきと妖子が帰って、窓の外を憂鬱そうに眺める美猫に雅は優しく話し掛けた。

「隣に座ってもいいかい。」

「うん、いいよ。」

美猫は雅の肩に寄り掛かって甘えてきた。

雅は美猫の自慢の黒髪を梳くように撫でて美猫の気持ちを落ち着かせた。

「みやちゃんが優しくしてくれると嫌なことがみんなどっかにいっちゃうみたい。」

美猫は猫又になって抱き着きゴロゴロと喉を鳴らした。

 

74、猫街横丁

 

何処からともなく猫会議でもないのに居酒屋銀猫、パークサイドパレスマンションの

周りに猫が集まって来た。

それも亜人街に暮らす猫の全てが集まってきたようだった。

パークサイドパレスマンションの階段、廊下、ベランダの下、軒下に猫が集まって

避難所の様相を呈している。

居酒屋銀猫の軒下も同じようである。

猫達の中の最長老らしき猫が銀に何か訴えている様である。

美猫、猫又ハーフの娘たちは猫達に食事をふるまっているのであった。

銀と最長老の話し合いがまとまったらしく、猫達は解散して広がって散っていった。

だが、猫達の縄張りがそれぞれ小さくなり亜人街の中心に集中するようになり、商店街

で猫の姿を必ず見るようになった。

商店街の人々もみんな元々猫好きなので全く問題が無かった。

猫と触れ合える商店街として商店街の集客力も上がり、いつしか猫街横丁と呼ばれるようになった。

 

猫達は、猫を実験動物として捕えて売りさばく悪徳駆除業者の被害を銀に訴え、野良猫の

保護対策を相談したのだった。

銀は地域猫として街に定着することを奨めたのだった。

ある一定年齢以上の猫は去勢、避妊手術を受け、猫の数が増えすぎないようにして、

飼い猫同様に首輪、リボン、名札を付けることが推奨されたが猫達は嫌がらずそれを

受け入れ商店街の一員になることで自分の身を守ることにしたのであった。

 

強引に地域猫(実は泥酔した大和警部補)を誘拐しようとした悪徳駆除業者を発見した

警察官がその場で射殺したのも大きく悪徳駆除業者が猫をターゲットにすることが割に

合わないことを大いに喧伝したのであった。

悪徳駆除業者達も政府関係者に賄賂を贈りこの状況を何とかしようとしたがその政府

関係者が直ぐに失脚して如何にもならないことが判ったらしく、転業、廃業するもの

が殆どだった。

 

最長老の地域猫はカオスな古着屋に迎えいれられ日がな一日店番をしている様である。

最近はキジコがよく最長老の所へ行って昔話を聞いているのである。

 

75、慧快危機一髪

 

全盛期を過ぎ肉体の衰えが目立つようになった慧快に盟友の竜造寺銀は、

「40過ぎてもう無理は聞かないんだから無茶なことは本当にやめなよ。」

慧快は全身血まみれで地面にあおむけで寝て、肩で息をしていた。

日輪の力を借りて超常的な力を使ったものの一度に5体のデミバンパイアを

相手にしてかなりの抵抗を受け体中かなりの深手を負い治癒にはかなり時間が

必要な状態だった。

銀は傷を縫ったり化膿止めの膏薬を張ったりと、ライカンスロープを30体程叩き切る

よりも実際手間がかかっていた。

「あんた、一か月は絶対安静、三か月は仕事を休まないと体が持たないよ、今度は本当

に言うこと聞きなよ、あんたの命に関わる事なんだから。」

慧快は困ったように呟いた。

「大検校から緊急の仕事の依頼があると困るなぁ。」

銀はヒステリックに厳しく慧快に忠告した。

「行基に何言われても今のあんたの体じゃどんな仕事でも無理だからちゃんと断りなよ。」

「あんたが断らないなら代わりにあたしが断ってやるよ。」

「ぎ、銀姉さんそんなに私の体の怪我の程度がひどいのかい。」

「普通なら、完全にお陀仏だよ、まぁよくも頑丈な体だよ。」

銀は忌々しそうに言った。

 

一か月が過ぎ安静にしていたこともあり、傷はどうにかくっ付いたようだった。

銀がやって来て慧快の傷の具合を確認して飲み薬を煎じてため息をつきながら言った。

「あんた、一か月の絶対安静は守ったようだけどまだまだ完全には傷は癒えてないねえ。」

「歳のせいか傷の治りだけじゃなくて全身が本当に衰えているよ」

「20代、30代の頃と違うことをよく考えなよ、わかるだろ、実際体の動きが鈍く

なっているんだから。」

「相手が昼間のデミバンパイアだから動きがそれほどでもないから影響はないはずなのに

こんな大怪我をするんだから、自分の動きがそれだけ鈍くなったんだってことを自覚

しないと、大体体当たりで戦うなんて無茶の極みだよ、本当に死んでも知らないよ。」

銀は終始辛口に徹していたが慧快の体が本当に心配だったのであった。

 

一か月ぐらいは何も無かったものの大怪我を負ってから2か月目に入った頃に

大検校大谷行基から呼び出しがあった。

「慧快さん体の具合は如何だい、この間はかなり酷い怪我だったらしいじゃないか。」

「正直歳の所為か怪我の治り具合が悪くなったようで2か月もお休みを頂くことに

なりまして申し訳なく存じます。」

「慧快さん無理はいけないよ、お前さんの代わりなんていないんだから。」

「まぁ、簡単な仕事なんだが護衛の仕事を頼みたいんだよ。」

「英国の姫様がお忍びでお見えになられるんでいざと言う時一番頼りになる慧快さんに

ついてほしいんだよ。」

「それは何時でございますか。」

「明後日の新月の晩遅く飛行機が着く予定なんで空港から迎賓館までの間を護衛して欲しい。」

慧快は新月の晩と聞いて嫌な予感がしたが大恩人の大谷行基の頼みは断れなかった。

 

明後日になり、慧快は護衛の任務に就くことになった。

慧快は銀に報酬は全部譲るからと言っていざと言う時の助太刀を頼んだ。

銀は慧快の体を心配して渋々助太刀を引き受けることにした。

空港からの護衛はお忍びと言うこともあり最低限であった。

車と馬車に分乗して一行は迎賓館を目指していた。

しかし、闇社会の高位デミバンパイアに情報が漏れていた。

彼らの狙いは英国からの賓客を人質にして監獄内の仲間の解放を要求することだった。

迎賓館までもうすぐというところでいきなりライカンスロープが襲い掛かってきた。

銀がライカンスロープを引き付けながら撫で斬りにして数を減らしていった。

慧快は賓客を車の中に移し、空馬車を迎賓館に走らせ異常を知らせた。

護衛のエクスタミネーターの1人がいきなり高位のデミバンパイアに襲われ大した抵抗

もできずに首を噛み切られ、息絶えた。

夜の高位のデミバンパイアの強さは身に染みて分っている慧快であった。

非情な決断であったが他の護衛のエクスタミネーターを全員犠牲にしてから相討ち覚悟で

戦うしかなかった。

次々と倒されていく護衛のエクスタミネーター、中には慧快自身の教え子もいた。

聖別された銀で出来た刃物が全く通用せずに倒されていった。

最後の一人となった慧快をそれほど脅威に感じていなかったデミバンパイアは一騎打ちに

応じる構えだった。

慧快は敢えて切り札の日輪の十字架を背中にしょって霊刀で立ち会い、デミバンパイア

と刺し違えた。

デミバンパイアの鋭い爪が慧快の内臓と右胸を貫いた、デミバンパイアは邪悪な笑みを

浮かべ勝利を確信した。

慧快は血を大量に吐き膝をつくや否や背中の日輪の十字架を構えてデミバンパイアの胸を

渾身の力で貫いた。

日輪の十字架の大日如来の梵字が眩しく閃き、デミバンパイアは指先から

塵に変わっていった。

ライカンスロープを全部叩き切り返り血で真っ赤になった銀は虫の息の慧快を直ぐに

介抱した。

「銀姉さん、これも仏の加護と私の悪運の強さだよ。」

「しゃべると余計に出血するから黙って居な。」

迎賓館に空馬車が着いたことで異常に気付いた大谷行基は1個師団を率いて駆けつけて

きた。

車の中の賓客を保護すると慧快の様子が尋常でないことに気づき、介抱している銀に

慧快の命を救うために必要なもの全てを用意すると銀に告げた。

銀は大谷行基が大嫌いであったが慧快を助けるためなら何でもするという行基に

協力を求め、最新の医療設備で慧快の手当を行うことになった。

慧快は生死の境を彷徨いながらも峠を越えて意識を取り戻した。

「銀姉さん、今回は本当に迷惑を掛けちまったね。」

「本当、冗談じゃないよ、あんたのおかげで寿命がすっかり縮んじまったよ。」

銀は憎まれ口を叩きながらも内心ほっとしていた。

「今度は本当に1年位きちんと療養しなよ、変な仕事を安請け合いすんじゃないよ」

「この機会だから行基の奴にあんたの体がもう以前みたいに無理が利かないから

扱使うなって直談判してやったんだ、行基の奴も今あんたに死なれると困るからって

暫くあんたを休ませることを請け合ったよ。」

銀はかなり厳しく慧快に忠告した。

 

慧快は1年の休養後、エクスタミネーターの養成所で指導教官を務めることになり無理

な任務からは遠ざかり、たまに体の調子を見て騙し騙し任務を熟していくようになった。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択