~一刀視点~
孫策さんに手紙を渡してから、俺たちは恋とねね、それに月と詠を仲間にして幽州に帰った。
そうして、しばらく経ったある日。俺のもとに亞莎たちからの手紙が届いた。
俺は嬉しくなって、すぐにその手紙を読みたかったけど、やらなくちゃいけない政務があったから、それを終わらせてから、俺は手紙を開いた。
~亞莎からの手紙~
親愛なる一刀様へ。
お返事が遅くなってすみません。
一刀様からのお手紙を孫策様から頂いた時は、本当にびっくりしました。
私がお仕事から帰って来た時に、すでに消えてしまっていた一刀様から、もう一度こうしてお手紙を頂けるなんて夢にも思っていなかったからです。
私もお母さんも、一刀様からのお手紙が届いた時には、そうした驚きと、もう一度一刀様にお会いできるかもしれないという喜びでいっぱいでした。
一刀様が、お手紙にお書きになった「責任」のお話についてですが、私もお母さんもいつまででも一刀様をお待ちしています。
私も建業での働きを評価していただき、孫策様の側仕えの軍師として、お母さんと一緒に、お城に住まわさせていただいています。
なぜ私などが軍師としてのお仕事をさせていただいているのかはわかりませんが、孫策様のご期待に添えるように、がんばって毎日勉強をしています。
そうした中で、孫策様が人々の平和を考えてくださっていることがよく解り、これからもそうした理想を実現するために私も頑張っていこうと思います。
きっと一刀様も、人々が苦しんだり困ったりしないような素晴らしい国を作っているのでしょうと、お母さんとよく話しています。
今は私たちと一刀様の国は別々になってしまいましたが、きっと目標にしていることは同じだと思うので、早く大陸に平和が訪れて、早く一刀様が帰ってきてくださるように、私も頑張ろうと思います。
国の長としてのお仕事は、本当に大変だとは思いますが、お体に気を付けて、毎日を健やかに過ごしていただけるようにと願っています。
それでは、一刀様の弾いてくださる二胡の音色を楽しみにしています。
お元気で。
亞莎。
~一刀視点~
亞莎の手紙に書いている一つ一つの文字から、亞莎の温もりを感じ取りながら、俺はゆっくりと手紙を読んだ。
亞莎の書いた文字なんて、一緒にいた時は見たこともなかったけど、今こうして見ていると、なぜだか不思議と懐かしく感じた。
「楽しみにしています・・・・か。」
俺はその懐かしさの中に、愛おしさを感じながら、もう一枚の手紙を開いた。
~お母さん(俐莎)の手紙~
私の大切な一刀さんへ。
一刀さん、お元気ですか。
突然消えてしまったときには、もう2度と会えないと覚悟していましたが、こうしてお手紙をいただいて、またお会いすることができるのではないかと思えることを、とてもうれしく思っています。
一刀さんが消えてしまって以来、私の心の中のどこか大切な場所にぽっかりと穴が開いてしまったようで、毎日一刀さんのことを思わない日はありませんでした。
亞莎さんはそんな私を元気づけようと、毎日お仕事を頑張ったり、明るく振舞ってくれたり、私のことを支えてくれました。
でも、亞莎さんもきっと一刀さんのことを毎日思っていたんだと思います。
一刀さんからの手紙を孫策さまからいただいて来た日なんて、亞莎さん、あまりにびっくりしすぎてしまったのか、私に手紙を差し出すまでずいぶん時間がかかってしまうほどだったんですよ。
一刀さんがあの子の中で、きっととても大きな存在になっているのだと思います。
もちろん。私にとっても一刀さんは、大きな存在ですよ。
一刀さんからお手紙をいただいてからの亞莎さんは、前にもまして活き活きとしていて、新しく頂いた軍師のお仕事を1日でも早く覚えるためにと、毎日夜遅くまで勉強をしています。
そのせいで、最近目が悪くなってしまい。ついこの間眼鏡を買いに行きました。
亞莎さんたら、眼鏡を試着するたびに「一刀様に気に入っていただけるでしょか。」なんて聞いて来て、本当に可愛らしかったですよ。
その様子を一刀さんにも、ぜひ見せたかったですね。
一国の主になってということで、いろいろと背負うものもでき、一刀さんがお手紙に書いていた「責任」というものを果たすことは、とても大変なことでしょう。
でも、急がずに、あせらずに、一刀さんが一番いいと思った方法でゆっくりとその「責任」を果たして来てください。
私はお婆さんになってしまうかもしれませんが、亞莎さんはそれくらい時間がたった方が、きっと美しくなっていると思いますよ。
私も亞莎さんも、一刀さんが帰ってきてくれる日を、いつまでも待っていますから。
それでは、ご自分のお体を十分気遣って、お仕事をしてくださいね。
一刀さんがずっと健康であることを祈っています。
追伸
一刀さんが書いてくれていた「燕になりたい」という曲。私もとても、と・て・も楽しみにしていますね。
あなたの母より。
~一刀視点~
お母さんからの手紙を読んでいると、一緒に暮らしていた時にいつも見ていたあの笑顔が頭に浮かび、知らず知らずの内に俺は笑顔になっていた。
「元気そうでよかった。早く・・・二人に会いたいな・・・・。」
ふと外を見ると、月と星の光で庭が青白く照らされていた。
月の位置から、もうだいぶ遅い時間だとわかった。
・・・カタッ
俺は立てかけてあった二胡を手に取った。
ギィィィ
「・・・・まだ全然弾けないんだよな・・・」
弓を引いて出た音を聞いて、俺は少し笑いながら呟いた。
「・・・」
二胡を手に持ったまま、俺は窓の外を見た。
(亞莎とお母さんが楽しみにしてるって言ってくれていたから、練習頑張らなくちゃな。)
「~♪」
そう思いながら、俺はあの日と同じように鼻歌を歌い始めた。
・・・・コンコン
ふと扉をノックする音が聞こえた。
「・・・開いてるよ。」
そう言うと、静かに扉が開いた。
「ご主人様・・・」
開いた扉の向こうには、愛紗が立っていた。
愛紗や桃香たち、それに仲間になった人たちからは真名を許してもらっていた。
「どうしたの?愛紗、こんな時間に。・・・眠れないの?」
そう俺が聞くと、愛紗は少し不安げな、それでいてどこか寂しそうな顔をしたまま、何も言えないでいた。
「・・・外は冷えるから、とりあえず中にお入り。」
そう俺が言うと
「・・・・失礼・・・します。」
と小さく言ったあと、愛紗が部屋に入ってきた。
「さ。そこに座って、お茶を入れるから。」
俺は愛紗を椅子に座らせてから、二胡を置き、お茶の準備をした。
・・・コトン
「どーぞ。」
お茶を愛紗の前において、俺は向かいの椅子に座った。
「い、いただきます。」
さっきまでは、少し不安げだった表情も、その時には少し緊張したような雰囲気はあったけど、いつもの愛紗の表情に戻っていた。
「・・・ふふ。淹れたばかりだから、熱いよ?」
そう俺が言うと、愛紗はフーフーと息をかけてお茶を冷ましてから、ゆっくりお茶をすすった。
「・・・・おいしいです。」
そう少しうれしそうに、愛紗がつぶやいた。
「そう?月の淹れてくれたお茶の方がずっとおいしいと思うけど・・・でも、そう言ってもらえてよかったよ。」
俺がそう言うと、愛紗はふっと頬を赤らめた。
「本当に、ご主人様は・・・・肝心な時に人の心を読んでくださらない・・・・。」
そう小さくつぶやいた声を、俺は聞き取ることができなかった。
「・・・?なんて言ったの??」
「なっ、なんでもありません!」
そうどこか恥ずかしそうに言う愛紗に少し和みながら、俺もお茶をすすった。
「・・・・あ、あの。」
少し間が開いたあと、愛紗がそう話しかけた。
「うん?」
俺は茶器をおいて、愛紗の方を見つめた。
「あああ、あの、そ、その・・・・」
なぜか愛紗は俺と目が合うと、顔を赤らめて、そう少し慌てた。
「に、二胡!そう、二胡をお弾きになり始めたと聞いたのですが、練習の方は順調ですか?」
何やら慌てながら、部屋の中を見回したあと、愛紗は二胡を指さしてそう言った。
「いや。それがね。なかなか難しくて、まだ全然弾けないんだ。早く弾けるようになりたいんだけどね・・・。練習したい曲もあるし・・・・。」
そう言って、俺は亞莎とお母さんからの手紙のことを思った。
俺は、自分でも気付かないうちに少し微笑んでいた。
「そう・・・ですか・・・・。」
俺の答えを聞いた愛紗は、少し悲しそうな顔をした。
でも、手紙のことを思い出していた俺は、愛紗のその表情を見逃していた。
コトン
「・・・おいしいお茶をいただき、ありがとうございました。ご主人様のおかげで、今日はよく眠れそうな気がします。」
茶器を置く音がしてから、俺が愛紗の方を見ると、そう愛紗が微笑んでいた。
「それでは、今日はもう遅いので私は、これで失礼します。ご主人様も早くお休みになってくださいね。」
そう言うと、愛紗は扉の所まで歩いて行った。
「それでは、お休みなさい。」
「あぁ。お休み。」
俺の答えを聞いてから、愛紗は静かに部屋を出て行った。
ドンドンドンッ!!!
次の日の朝、俺は強く扉を叩く音で目を覚ました。
「ご、ご主人様大変でしゅ!!曹操さんたちが攻め込んで来ちゃいました!!!」
そう叫ぶ朱里の声に驚いて、俺はすぐに部屋を出て、みんなが集まっているという玉座の間に向かった。
「曹魏の軍勢、およそ50万。北方より我らの領土へ進撃す・・・か。」
そう俺が呟く声も、文官武官が入り乱れて、この先どうするかを話し合っている議場では、すぐにかき消されてしまった。
「ど、どうしようご主人様!?」
そう少し慌てながら聞く桃香の声に、俺は目をつぶって、自分の記憶の中にある劉備軍の行動を思い出していた。
「ご主人様!」
愛紗の声に俺は目を開き、立ち上がった。
・・・・・・・・
先ほどまで喧騒に包まれていた議場が、静まり返った。
「・・・蜀へ・・・・益州へ逃げよう。」
そう俺が言うと、議場がまた少しざわめいた。
「雛里。俺たちが今まともに曹操の軍勢と戦って勝てる見込みは?」
俺の声に雛里は、少しビクッとした後、答えた。
「お、恐れながら、万に一つもないかと・・・・」
雛里の言葉に、先ほどまでのざわつきが収まった。
「朱里。今の勢力のまま益州に逃れることができる可能性は?」
朱里は待ち構えていたのか、俺が質問するとスッと立ち上がり、言った。
「今すぐに出立の準備を始めれば、十分に可能かと思われます。」
朱里の言葉に、主要な人たちは皆、納得した様子を見せた。
「益州は現在、継承問題のもつれで、内戦勃発の兆候が見られます。その隙をついて入蜀しましょう。それに現在の太守である劉璋さんにはあまりいい評判がありませんし。」
そう言った朱里の言葉を聞いて、俺は桃香を見た。
「桃香。気が進まないかもしれないけど、今はこれしかないんだ。困っている人たちを救うために、桃香の理想を実現するために、決断してくれないか?」
そう問いかける俺の声を聞くと、桃香は少し考えこんだあと、スッと立ち上がった。
「・・・うん。身勝手かもしれないけど、劉璋さんのところに押しかけちゃおう。」
そう桃香が言うと、そこに集まるすべての人が立ち上がった。
「よし。方針は決まった!みんな準備を開始してくれ!!」
「「「・・・「「「「はっ!!」」」」・・・」」」
こうして、蜀へ向けての逃避行が始まった。
はじめは啄県の人たちは残していくつもりだったけど、人々のたっての願いを桃香が聞き入れ、結局は民たちも連れて行くことになった。
軍のみであったら、きっと曹魏に追いつかれる前に入蜀することも可能だっただろうけど、民も一緒に逃げることになり、追いつかれる可能性が格段に上がった。
誰かが殿につき、民たちを守らなければいけない。
桃香は自分がその任につくと言い始めたけど、俺や他のみんなでやめさせた。
桃香は我が国の長。そんな桃香が殿に残ってもしもの事があったら、もう国を立て直せなくなる。
しかし、俺か桃香のどちらかが殿に残ることで、曹操軍の進撃速度を緩めることは出来る。
そこで、俺が殿に残ることにした。
当然、愛紗や桃香をはじめとしてみんなに反対されたけど、どうにか説得して俺が殿につくことを認めてもらった。
ただ、愛紗が、
「ご主人様が殿につくのであれば、私もご一緒します!!」
と言って言うことを聞いてくれなかった。
「鈴々や恋、ねねも来てくれるって言ってるし、それに愛紗がいなかったら、誰が軍をまとめるんだい?」
そう言う俺に、
「星や白蓮殿がいます!」
と食い下がってくる愛紗。
俺が少し困っていると、愛紗が少し震えたような声言った。
「お願いです・・・・私もお連れ下さい・・・・・」
そう言う愛紗の眼には、涙が湛えられていた。
「・・・・・」
俺はその様子に、どうすればいいのか悩んでいた。
「・・・ご主人様。愛紗ちゃんも連れて行ってあげてよ。」
そう桃香が言った。
「私たちの方は星ちゃんに白蓮ちゃんもいるし、それに朱里ちゃんと雛里ちゃんがいれば何とかなるよ。それにいざとなったら袁紹さんたちにも頑張ってもらうからさ。」
そう言って笑いながら愛紗の肩に手を置いた桃香。
「さよう。我らの方はそれだけの人数がいれば問題ありませぬ。主よ。愛紗の願いを聞き入れてやってくれませぬか。」
星もそう言うと愛紗の方に手を置いた。
「桃香様・・・・。星・・・・。」
涙を瞳に湛えたまま、愛紗は二人を見た。
「・・・・ふぅ。わかった。愛紗も連れてくよ。」
もう俺が折れるしかなかった。
「ほ、本当ですか!?」
と今度は嬉泣きをするんじゃないかと思われる愛紗に頷いて答え、俺たちは殿に移動した。
星「・・・まったく。こんな所で女になるとは、愛紗にも困ったものですな。」
桃「ふふ。でも、そこが愛紗ちゃんのいいところだと思わない?」
星「まぁ、確かに・・・。しかし主には思い人がいるのでは?」
桃「ホントッ!?う~ん・・・愛紗ちゃんは頑張ってね!」
俺たちが出立した後に、桃香と星でそんな話がされていることなんて、俺は知る由もなかった。
その後、殿についた俺たちの前に夏侯惇、夏侯淵、許緒、それに張遼が先行部隊として現れたが、鈴々に恋、それに愛紗の活躍もあって、俺たちは何とか、殿を守りきることができた。
・・・・・・あ。ねねも頑張ってくれていたよ?大丈夫忘れてたわけじゃないから。
痛っ!蹴らないでくれ!ご、ごめん。謝るから!!おい、待てそこは蹴るんじゃない・・・、そこは男にとって大切な・・・・・・、アァァー!!
・・・・・・そうして何とか曹操たちを退けることができた俺たちは、桃香たちと合流するために、民たちとともに諷陵へと向かった。
何とか生き残ることができて、道中、俺は亞莎とお母さんのことを思った。
(前線に出ないって書いたのに、嘘になっちゃったな。でも、こうして生き残れたし、次の手紙で謝っておこうかな。)
そう思いながら、俺はいつもの鼻歌を歌った。
「~♪」
そんな俺を見つめる愛紗の顔は、どこか悲しげだった。
その時の俺は、そのことに気づけていなかったけど・・・。
諷陵に入った段階で俺は、亞莎とお母さんに手紙を書いた。
あとがき
どうもkomanariです。
亞莎のお話なのに今回は、手紙でしか出てこないというこのお話。
今回だけを見たら、亞莎がメインじゃなくて愛紗がメインなんじゃないかとかって思いながら書いていました。
まぁその辺は、後のためということなんですが、亞莎の登場を期待してくださっていた方々には申し訳なく思います。
次のお話は、ちゃんといつも道理の亞莎メインになる予定なので、ご安心ください。
さてさて、今回「未だに蜀陣営の誰ひとりにも手を付けていない」一刀を書いてみたのですが、どうでしょうか?
愛紗が夜中に部屋に来たのに、そんなことは気にせずに他の女の子のことを考えている一刀・・・・。
これはある意味キャラ崩壊なんじゃないかと怯えつつも、今回書かせていただきました。
あと最近気がついたのですが、二胡ができたのって唐代だか宋代らしいですね。
でも、そんなことを気にしたら、この後の話が書けないと思い、スルーすることにしました。
気になった方がいらっしゃいましたら、すみません。
毎回、たくさんの支援とコメントで、本当にうれしさでいっぱいになるkomanariですが、皆様のご期待に添えているかについては、毎回不安でいっぱいです。
そんな作品ですが、今回も読んでいただき、本当にありがとうございました。
Tweet |
|
|
114
|
3
|
追加するフォルダを選択
なんやかんやで4話目です。
ただ、今回は亞莎があんまり出てきません。
ずっと一刀目線です。
続きを表示