No.723821

真・恋姫†無双 拠点・曹洪6

ぽむぼんさん

拠点・曹洪の最終回です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
短い物語でしたがお楽しみいただけたでしょうか。

10月に入りますと少しの間PCに触れる事が出来ないので、次のお話の投稿は10月後半になる予定です。

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2014-09-29 03:32:35 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3034   閲覧ユーザー数:2610

 寝台から覗く空はすでに青い。太陽は活動を開始し、それにつられて世界中も活動を始める。時刻にして朝の八時。一刀が『これを基準に活動しよう』と皆に配った時計で確認する。

 「朝……ですわねー」

 

 繰り返すが、部屋の窓から覗く空は青く、すがすがしい朝の大気を感じる。普通の人間ならば曇り空や雨模様といった天気ではないので、気分も良くなるだろう。

 

 が、昨日から一睡たりとも寝ていない栄華にとっては外の天気なんてどうでもいい事だった。

 寝台から這い出て歯を磨き、顔を洗い、服を着替える。太陽に照らすと鮮やかな艶を出す髪を纏め、薄い化粧を施して姿見で全身を確認。

 そんな鉄の習慣を行動におこすだけなのだが、どうも動きが鈍い。

 

 “……一睡もしていないからかしら。いけませんわ、今日が提出期限ですのに”

 

 ガバッと飛び起きる。栄華は自分の頭が鈍っている事を感じた。そんな事を考えている余裕があるならば、早く支度しないといけないと心が感じ取っていた。

 “急いで支度をしませんと”と部屋を飛び出し、朝の身だしなみを整える為に行動する。とても寝ていないとは思えない程の迅速な動きに

 「朝くらいゆっくりしなよ。そんなに急いでどうするってのさ。……ボクの方に水を飛ばさないでよ!」

 と喜雨から叱責されるがそんな事を気に留める事は無かった。

 「あら、ごめんなさい。ですが私、急いでますので」

 「……いやだから。そんなに急がなくてもいいんじゃないの?アンタの事だから仕事もう終わるんじゃない?」

 「えぇ。今日中どころか午後に入る前にはお姉様に提出いたしますわ」

 「ごめん。余計にわからないんだけど、じゃあなんでそんなに急いでるの――ちょっと、泡!泡を飛ばさないで!」

 「もう、さっきからうるさいですわ!見てくださいます?この目の下の隈を!こ、こんな顔を見せる事なんて出来ませんわ!」

 それでは!と言い残し、ダダダダダダ!っと慌ただしく走って部屋に戻る栄華を見て呟く

 「隈……?ほとんど無いっていうか、言われないと気付かないよそんなの」

 いつもよりも厚めの化粧をし、何度も髪を撫でつけ巻いていく。

 すでに五度目の枝毛チェック。

 ……我ながら何でこんなに今日は身だしなみに気をつかっているのかしら。

 

 コンコン。部屋がノックされる。来訪者を告げる音が部屋に鳴り響くと栄華の心臓がひと際高く音を上げた。

 深呼吸。一度、二度、三度。何度やっても落ち着きません。ええい、招き入れるしかありませんわ!

 「……どうぞ。開いていますわよ」

 「失礼するわ」

 戸を開けて部屋に入って来たのは北郷一刀――ではなく、自らが最愛とする従姉だった。

 

 「あ……お姉様」

 「私の可愛い従妹の様子を見に来たのだけれど――その様子だと私よりも待ち望んだ相手がいるみたいね」

 「い、いえ!そんな事はございませんわ!朝からお姉様のお姿を拝見する事が出来て感動していましたの!」

 「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。それで、いつ頃になるのかしら?」

 「昼前にはお姉様に手に渡っている事を約束いたしますわ」

 「期待しているわよ。それと、今日はずいぶんと化粧が濃いみたいだけれど。何かあったのかしら?」

 「あの、その。少し隈が……」

 「寝る間も惜しんで仕事をした、という事かしら。私の為に働いてくれるのは嬉しいけれど、あなたの体が心配よ。あなたと一刀なら出来ると思ったから三日という期限をつけたけれど、無理をされたら困るわ。」

 「……申し訳ございません、お姉様」

 「けれど、その行動には褒美をとらせないとね。今日の夜は私の部屋にいらっしゃいな。可愛がってあげるわ」

 「本当ですかお姉様!?」

 「えぇ。それじゃ、楽しみにしているわ」

 

 部屋を出て行く華琳を見送る栄華。今日の夜を妄想し、思わずにやけ顔になっている。

 “今日は念入りに入浴しませんと!”

 そう決意した時、再び戸がノックされる。

 服装、良し。髪型、良し。顔、良し。全て万全である事を確かめて一度深呼吸。

 「ふぅー……ど、どうぞ。開いていますわよ」

 

 “あぁっ!何で声が裏返るんですの!?”

 

 落ち着いた声が出せていない事を悔むと同時に、戸が開けられる。

 「やぁ、栄華。おはよう」

 「おはようございます。今日で貴方と一緒にお仕事をするのが最後だと思うと、とても晴れやかな気分になりますわね。まるでこの空のような」

 栄華はなるべく平静を装って言い放つ。胸の高鳴りは上手く隠せている。

 「ひどい事言うなぁ……ん?」

 小首をかしげてじーっと栄華を見てくる。

 

 “まさか!おかしなところがありまして……?”

 

 一刀にばれないように髪を整える。

 「なんだかいつもと違うな。どこがって言われると分からないんだけど」

 「あら、そうですか?べつにいつもと変わりませんけれど。さ、おしゃべりをしている暇があったら手を動かしなさい。終わるものも終わりませんわ」

 

 スッ、スッ、スッ。筆を動かす音だけが部屋に響く。

 

 『兎のパジャマ着てくれてるんだな。ありがとう、栄華に似合ってるよ』

 

 チラリ。何度か筆を動かすとまたチラリ。栄華の事を知る第三者が見ればこの一シーンについてこう言うだろう。『異常』だと。

 男と一緒の空間にいる事だけでも驚きなのに、何度も男を盗み見ている。男嫌いである栄華が自らの意思をもって男を見ているのだ。それも何度も。これを異常と言わずして何と言うのか。

 

 『ありがとう、栄華に似合ってるよ』

 

 仕事の効率を落としてまで男を見やる栄華の今の姿を誰が想像できただろうか。恐らくは華琳でさえも想像していなかっただろう。

 そんな何度も見られている本人であるところの一刀は、そんな栄華の行動にまったく気付いていなかった。昨日出来なかった分をしっかりと取り戻そうとしているのだ。

 

 『栄華に似合ってるよ』

 

 「ふふ……はっ!?」

 肩を大きく上下させ驚く。

 笑った!?こ、この私がこの男の言葉を思い出して!?

 いやいやいや、あり得ませんわ。確かに、先程の私がいつもと違うという事を気付いた。その点に関しては少し嬉しく思いました。

 け、けれどそれは、そう。この男の観察力が少し上がっている事について喜んだだけ――いえ!観察力が上がっただけで私が何故喜ばなければなりませんの!?

 

 「どうした栄華。さっきから筆が止まってるけど」

 栄華に『筆を取るな』と言われてから一刀は栄華のサポートにまわっていた。膨大な数の資料から必要な物を探し、栄華に渡す。二人で分担して文章を書くよりも効率が良いので驚くべき事だった。

 資料を渡そうとしたが、栄華の筆が止まってぼーっと空を見上げていたので声をかけたのだ。

 「なんでもありませんわよ!集中させてくださいます!?先程から何度も何度も同じ事を!は、恥ずかしくありませんの!?」

 「ええええ!?お、俺何も言ってないんだけど!?」

 「いいえ!何度も何度も!うるさいですわよ!」

 

 『似合ってるよ』

 

 「あぁまた!ほらまた!もうやめてくださいませんこと!?そんなに何度も言われても私嬉しくも何ともありませんの。これっぽっちも!」

 「お、俺何も言ってない……」

 「ああもう!うるさいですわね!いいですこと!?私は仕事をしているのです。無駄口は叩かないでくださいませ!」

 「……おぅ」

 

 

 

 

 「ん……んう……ん?」

 あれ?どうして私は机に顔をくっつけているのでしょう……?

 「はっ!?」

 ガバッと起き上がる。本日二度目の驚きからの起床である。

 「お、お仕事は!?お姉様の閨は!?」

 「起きたか、栄華。おはよう」

 おはよう、の挨拶をこの男からされるのも二度目であった。

 「乙女の寝顔を見るだなんて!趣味が悪いですわよ!」

 「大丈夫。そんなに見てないから」

 「見ているじゃないですの!?やめていただけませんこと!」

 栄華はよだれが出ていないか確認する。出ていない事を確認するとほっと安堵のため息をついて外を見る。暗く、既に日は落ちていた。

 「て、提出!あぁでも終わっていませんわ!どうして私は寝てしまったのでしょう……!」

 「心配ないよ。一応終わらせてさっき華琳に出してきたところだから。栄華が書いてた時と違って凄く遅くなっちゃったけどね」

 「あぁお姉様……申し訳ありません。私に期待してくださっていたのに」

 落ち込む栄華を見ながら一刀は華琳に出来あがった竹簡を持っていった時の事を思い返していた。

 

 

 

 「華琳。なんとか出来あがったよ」

 「ごくろうさま。遅かったのね?栄華からは昼には届けられると聞いていたのだけれど」

 栄華のやつ……あの量をそんなに早く終わらせるつもりだったのか。俺って遅いなやっぱり。

 「栄華はしばらく仕事してたんだけど、いつのまにか寝ちゃってて。起こすのも可哀想だし、しばらく書くのは任せっぱなしだったから、最後の方は俺が書いてあるんだ。おかげで、時間がかかっちゃってね」

 「……あの子、昨日一睡もしないで仕事をしていたそうよ。それで今日に疲れが出たんじゃないかしら。仕事中に寝るだなんて、本末転倒じゃない」

 「え、そうなのか?栄華のやつ言ってくれればよかったのに」

 「あの子の化粧がいつもと違う理由、隈を隠す為だったのだそうよ。その様子だとあなたは聞いてないみたいね」

 「どこか違うと思ってたんだけど、化粧が違ってたのか。聞いてもいつもと同じだーって言ってたから勘違いかなと思ったんだ」

 「あら。それって一刀に心配させたくなかったんじゃないかしら?」

 「まさか。嫌われてるんだぞ?弱みを握られたくないってところじゃないかな」

 「一刀。いい事を教えてあげるわ。女の子はね、本当に安心している時じゃないと人前では寝ないのよ。栄華は武将よ?そして、曹操四天王の一人なの。一晩寝なかった程度で仕事中に寝るなんて普通ならありえないわ。――あなたと一緒にいられて、本当に安心したんじゃないかしら」

 「そんなもんかなぁ」

 「そんなものよ。とにかく、お疲れ様。帰って栄華にここに来るように伝えて頂戴。今日はあの子にご褒美をあげる約束だから」

 「へいへい」

 「あら、何かしらその返事は。拗ねているの?それとも混ざりたいのかしら」

 「遠慮するよ。今日は疲れてるし、部屋で寝る事にする」

 「あら残念。それじゃあおやすみ一刀」

 「おやすみ華琳」

 華琳は一刀の口に接吻を落とすと唇に指を這わせる。艶めかしい様子に『やっぱり混ぜてもらおうかな』と喉から出そうになったがなんとか堪えて栄華の部屋に向かった。

 

 

 

 

 「じゃあ、これで仕事は終わりだな。楽しかったよこの三日間。いつもは一人で仕事してるから、新鮮で良かった」

 「おやすみ。それと、華琳が部屋に来てくれって言ってたぞ」

 さよならの挨拶を告げ、栄華の肩に掛けられた制服を取ると部屋を出て行く。

 

 「……おやすみ、なさい」

 見れば、一刀は仕事で使った蜀、呉の資料も一緒に片づけてくれたようだ。部屋は荷物が無くなった分、広く感じた。ほんの三日前まではこの状態が普通だったのに、酷く色あせて見えてしまう。色がついて見えたのは一刀が使っていた机と椅子。そして兎をあしらったパジャマと、もらった兎の抜具。

 

 『っがぁあああああ!痛い!?いきなり何すんだ!』

 

 一刀が転げ回った絨毯。涙を零した机。汚いが、涎も撒き散らしていた事を思い出す。

 

 「……まだ使えますし、買い替えるのは勿体無いですわね」

 そっと机を撫でて部屋を後にする。

 「お姉様が呼んでいらっしゃいますわ。急ぎませんと」

 

 こうして栄華も部屋を出る。抜具に兎の財布を押しこんで華琳の元へと向かうのだった。

 

 

 「昨日、蜀と呉へのつあー計画を提出して貰ったわ。この計画通りに進む事になるから、つあーに参加する者は見ておくようにね」

 「うむ。いよいよ行くのだな!ふふふ、関羽との決着もまだつけておらんし腕が鳴る!」

 「こら姉者。まだ使いの者を出しておらぬし、気が早い」

 「せやで!愛紗との決闘はウチが先やっちゅーねん!」

 「ああもう何で決闘する気満々なんです?怪我しちゃったらどうしましょう。心配だわ、心配だわ、心配だわ……」

 「大丈夫っすよ!このあたいに任せておいてほしいっす!愛すべき妹は、姉の帰りを待ってるっす」

 「このつあーの目的を忘れてるんじゃないのかな。ボクたちは農地や町の様子を見に行く目的もあるんだよ?」

 「隊長ー。お土産頼むでー」

 「ふふふ、皆楽しそうで何よりよ。で、一刀にはこの竹簡を持って蜀に行ってもらうわ。護衛として香風と柳琳。桂花には竹簡を持って呉に向かってもらうわ。供に秋蘭と季衣を――

 

 

 「貴方。明日には蜀へ行くのね」

 「あぁ。休みは今日だけ――と言っても、今から呉に宛てた竹簡を書かないといけないんだけど」

 「そう」

 「うん。蜀だけにお邪魔するんじゃ呉に申し訳ないから、後で俺は呉にもお邪魔する事になったんだ。それで竹簡を桂花に届けてもらおうと思ってね」

 「口で説明させてもよろしいのではなくて?」

 「それよりも自分で書いた方がこう、心が籠ってる感じしない?」

 「かもしれませんわね」

 「じゃ、俺は部屋に戻るから」

 「そう」

 

 「あ、いや、ちょっと待ちなさいな」

 「ん?どうした?」

 「あなたの字だと呉の王が見た時に怒りますわよ?」

 「う……やっぱり怒られるかな?でも、誰かに書いてもらったらそれこそ駄目な気がするよ」

 「えぇ。でしょうね。だからその、私が字を今から教えてさしあげますわ」

 「栄華が……俺に?」

 「はい。だから

    ――今すぐに私の部屋にいらっしゃい一刀」

 

 「あ、待ってくれ栄華!置いてかないでくれよ!」

 

 足取りは軽く。向かう先は今日もやはり色あせて見えた自室。次第に色ついていく。

 

 「貴方の字はとても汚らしいですわ。男ですものね?中々骨が折れそうですので、今日は一日をかけて貴方に美しい字を教えてさしあげますわ!覚悟はよろしくて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「一刀!この私があなたに字を教えるわ!で、でも私が魅力的だからって手を出したら駄目なのよ!――分かってるわ。それだとあなたはやる気を出さないわよね?だから、あなたの字が奇麗になる度に私に悪戯をしても良いんだけど。あぁ、駄目よ!そんないきなり!で、でもそんな一刀も嫌いじゃないわ……」

 

 「おうおう、あのお譲ちゃんは何を戸に向かって話しかけてるんだ?」

 「し、見てはいけないのです宝慧。桂花ちゃんが可哀想なのですよー。それにしても、お兄さんはお部屋にいないようなのです。何処に行ったんですかー?」

 


 
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