No.720903

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 一章第四話

九条さん

一章 反董卓連合編

 第四話「汜水関防衛戦①」

2014-09-23 08:30:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1524   閲覧ユーザー数:1312

 夜が明けて、連合軍は動き出した。

 主な配置は昨日と同様、前曲が劉備軍、左翼に曹操軍、右翼に孫策軍。劉備軍の背後寄りに公孫賛の軍が配置していた。涼州の連合はそれらのわずか後方だな。

 両袁家は後方の輜重隊を守るようにして居座っていた。しかも、城壁から見える兵の数は昨日ほど多くはない。もしかしたら半分ほどは休ませているのかもしれない。

 道幅のせいで全部隊が同時に攻められないとはいえ、なんという非常識か。

 だが、こと今回の戦では正解だったかもしれないな……。

 

 一際大きな歓声が上がったと同時に愛李が現れた。

 

「梯子が掛かった」

 

 報告は一言。関に梯子が掛けられた。

 様子見をする劉備軍に対してなんらアクションを返さず、攻城兵器を運搬する者に対してのみ弓を放ち近づかせず、梯子を持つ者は完全に無視をしていたのだから当然の結果だ。

 見ればすでに梯子の半分ほどまで登っている者がいた。

 

「準備は?」

 

「完璧。たぶんもうすぐ―――」

 

 さらに大きな歓声が上がった。今度は関の中から。

 関に掛けられていた梯子は真っ赤に燃え上がり、半ばまで登っていた者達を火達磨に変えた。

 その様子に怖気づいたのか、関に取り付いた者達は後退を始め、劉備軍も撤退する気配がある。

 

「じゃあ、俺達も始めるか。……構え!」

 

 背後に控えていた弓兵隊が一斉に構える。

 急場での調練とはいえここまで揃うか……。どれだけ厳しい調練を受けたのかは考えるだけでも恐ろしいが、今はただ感謝するだけに留めよう。

 対岸を見れば同じように構えを取る弓兵隊が。さすがは茉莉かな。

 

 一度目を閉じ二拍。

 再び目を開いてから叫んだ。

 

「放てっ!!」

 

 狙いは撤退の準備をしていた劉備軍。

 左右の絶壁から放たれた矢は劉備軍へと突き刺さり、半数以上の兵を死傷させる()()()だった。

 

 だが、予想は裏切られることになる。

 

「なんだ? ……大盾? にしてはあまりにも歪な」

 

 撤退の用意をしていたと思っていた彼らは何かを取り出し頭上に掲げていた。

 その何かに矢は弾かれ、運悪く隙間を縫って突き刺さるものもあったが、与えた被害は最小限に抑えられたと言っても過言ではないだろう。

 

「何かの蓋?」

 

「っ! そうか、鍋の蓋か!」

 

 彼らが頭上に掲げていた物は鍋の蓋。

 いくつもの鍋の蓋を繋ぎ合わせ、しゃがんでいる大人三、四人はすっぽりと収まるほどの、歪ながら立派に役目を果たす大きな盾になっていた。

 

 もう一度放ったとしても防がれるのが目に見えている。

 矢の数も限りがあるし、無理をするべきじゃない……か。

 

 公孫賛軍が劉備軍に近付いていくのを見ながら、俺達は用意していた馬に跨がり、汜水関へと戻っていった。

 

 

 

 翌日も俺達の配置に変わりはないが、劉備軍には変化があった。

 昨日、見事に弓による奇襲を防いだ鍋の大盾を最初から頭上に構え、汜水関から少し離れた位置で待機していた。

 しばらくすると劉備の陣、それも先頭にいた明らかに一般の義勇兵とは異なる衣装を纏った女の子が二人門に近づいていき、大声を上げれば砦の中に声が届くであろう場所で止まった。

 俺の場所からではたとえ彼女達が大声を出したとしても聞こえはしないが、なんとなく砦に向かって何かを叫んでいるように感じられた。

 その後、背の高いほうの女性が砦に向けて矢を放ち二人はその場を後にした。

 華雄には若干の不安はあるが、霞なら止めてくれるはずだ。こんな見え透いた罠に掛かる二人ではないと思うんだが、この嫌な予感はなんだ……。

 っ! 城壁の旗に動きがある? まさかっ!

 

「隼様!」

 

 嫌な予感がほぼ確信へと変わった瞬間、馬を走らせてきた愛李が現れた。

 

「何があった」

 

「劉備軍の将、関羽と張飛が我らに対し武人としての誇りを挑発。華雄……殿が暴走しかけたとこを霞殿が制止。なんとか抑えたのも束の間、関羽より放たれた矢に付いていた書簡を読んだ華雄殿が激昂。霞殿もその書簡を見て制止を止め、全軍出撃の用意を始めました! なお、想愁は一人説得を続けていますが……」

 

 続きは聞かなくても分かった。愛李がここにいることこそその証明でもある。

 そして、これが例の書簡です、と渡された内容を確認する。

 内容は酷いものだった。董卓がいかに非道な行いをしているか、おおよそ世間で噂されているであろうことに加え、『十常侍は董卓の手によって踊らされていた傀儡であり、全ての元凶は董卓である』などといった荒唐無稽、明らかに関係のないことまで書かれていた。

 

「なんだ、これ……。こんなのは……」

 

 華雄も霞も月のことは大事に思ってる。そんなのは彼女達と少しだけとはいえ共に過ごしたから分かる。

 だからこそ、この書簡だけは彼女達も看過できなかったんだろう。

 大事なものに刃を突き立てるだけでなく、抉っているようなものだから。

 

「城門、開門!」

 

 くっそ! 華雄と霞を失えば汜水関どころか虎牢関も守れやしない。そうすれば洛陽に、未だ避難が完了していない住民に被害が出るのは必至。

 ここで動かなければ全てが瓦解する……。

 

「隼様……」

 

「……弓兵隊は将軍達が接敵するまで援護。接敵後は汜水関へと戻らず、速やかに虎牢関へと撤退せよ。愛李は俺と一緒に来い」

 

「御意!」

 

 

 一度汜水関に戻ると、想愁が忙しなく動き回っていた。

 その姿に呆気に取られていた俺に気付いた想愁は、それまでも速かったがさらに機敏な動きで俺の前までやってきて、勢い良く頭を下げた。

 

「すいませんでしたぁ!」

 

「……はぁ?」

 

 何事?

 

 想愁が謝った理由は、二人を止められなかったこと、二人と共に出陣しなかったこと、砦の備蓄をいくつか無断で虎牢関へと送ったことに対してだった。

 

「前半の二つは仕方ないけど、最後のは?」

 

「あの二人が汜水関を離れちゃ、到底、汜水関(ここ)は守れんでしょう。大将なら放棄するだろうし、むざむざ敵に食いもんも与えんでしょ。それなら燃やすのが一番手っ取り早いっすけど、大将が来るまで時間はあったし馬も何頭か残ってたんで、つい。あ、食いもんを優先的に送ってたんで矢は全部――」

 

 本業は武官だというのによくもまぁそこまで思いつくもんだ。何気に俺の性格まで読まれている気がする。

 

「いや、想愁の言う通りだ。糧食も弓も蔵ごと燃やすつもりだったし、運べるのならそれに越したことはないよ。正直諦めるしか無いと思っていたから助かった」

 

「想愁にしては良い手際でしたね」

 

「あ、(あね)さん」

 

 聞こえてきた声の主は俺と同じく絶壁の上にいた者。ただし反対側の崖だが。

 

「兄さん」

 

「……無視っすか」

 

 想愁の小さな呟きはおそらく茉莉にも聞こえているだろうが、それすらも無視していた。

 割といつもの光景ではある。ウチの女性陣は想愁の女癖の悪さを知っているため、軒並み彼に対して当たりが強い。

 いつもなら多少のフォローはするが、今は漫才をしている暇はない。

 

「俺と愛李は二人の救援に向かう。その後、退却するとともに汜水関を放棄。残っている糧食や矢の備蓄の蔵に火を放ち虎牢関へと向かう」

 

「では私と想愁と幾人かは残り、蔵の周囲に油を撒き準備をしておきます」

 

 俺の言ったことに一も二もなく今後の行動を理解し示す茉莉。それでも一瞬陰った表情を見逃さなかった。

 

「無茶はしない。無事に二人を帰らせるよ」

 

 右手を茉莉の頭に乗せ、ぽんぽんと何度か撫でる。

 そもそも二人を助けることからして無茶なことだが口にはしない。そんなことは俺以上に茉莉のほうがよく分かっているはずだ。

 

「……兄さんも、どうかご無事で」

 

 茉莉の言葉に返すことなく背を向け、馬に跨る。

 ……真っ直ぐな瞳で、信頼に満ちたその瞳で、そんなことを言うのは反則だろ。

 失敗は許されない。覚悟は決まった。

 愛李がもう一頭の馬に騎乗したことを確認してから、俺達は汜水関を後にした。

 

 

 戦場は混戦を極めていた。

 比較的に砦の近い場所で戦闘をしていた霞は、一騎討ちを繰り広げていた。

 敵の旗は夏侯。曹操の二枚看板の旗。

 霞と対峙しているのは長い黒髪の女性。手には大剣を持っていた。

 

「霞!」

 

「隼か! それ以上近づくなや!」

 

 こちらを一瞥もせず言い放たれた言葉に、霞へと近づく足が止まる。

 それでも、無粋なのは承知のうえだ。

 

「虎牢関へ一度退け! 今ならまだ間に合う!」

 

「間に合うなら、華雄を頼むわ。ウチはこいつを倒さんとならん。……月の為にも、な」

 

 俺との会話の間も、夏侯惇は武器を構えこそするが攻めてくる気配がない。

 待ってくれているのかもしれないが、それに甘えて切られるわけにはいかず、両者の緊張は途切れない。

 ……悔しいが、俺に夏侯惇を倒せるだけの自信なんて、無い。そして、ここまでの決意をした霞を止めるだけの言葉を持ってもいなかった。

 あるのは霞の言葉と勝利を信じ、華雄の救援を優先することだけだ。

 

「すまん。もう少しだけ頼む」

 

「ええて。これは暴走したウチらの問題や。ほんならそれを拭うのもウチらの仕事や!」

 

 俺の目から見て勝敗は五分。だが、一騎討ちのため霞は本来の馬を操った戦術が出来ない。

 神速と歌われる槍捌きは脅威だろうが、かの大剣にどこまで通用するか……。

 口に広がる血の味を無視して、華雄の元へと方向を変えた。

 

【あとがき】

 

 おはようございます。

 九条です。

 

 今回は汜水関防衛戦①ということで続きます。前半しか防衛してませんが……

 霞に助けを拒まれ、仕方なしに華雄を助けに行く司馬朗こと隼さん。

 霞は夏侯惇と、華雄は○○と! 勝つのはどっちだ!? 的な感じでしょうか(すっとぼけ

 華雄さん無双は……たぶん無いんだろうなぁ

 

 

 あまり関係ありませんが

 最近になってようやく、作業BGMを流すより、書いているSSの元のゲームの曲を流したほうが執筆が進むことに気が付きました(恋姫SSなら恋姫の曲

 確認のためにゲームを起動しながら書いているのですが、やたらと集中して書ける気がします

 

 実例)真・恋姫†無双より蜀編第五章二節。汜水関で霞が華雄を見捨てるシーンにて流れる「Soul」を聴きながら

 

 熱いシーンを書きたいときは燃える曲を。静かなシーンを書きたいときはさみしげな曲を流すと捗ります。個人的な主観だと思いますが。

 前者なら「小覇王の雄叫び」とか流れると最高ですね!

 後者なら「休息戦士(せんしのきゅうそく)」あたりでしょうか。

 Vocal曲は集中どころじゃなくなっちゃいますが。

 

 

 もひとつ関係ない話

 九条は念願の L字デスク を手に入れた。

 給料日を迎えたらデュアルディスプレイにするため 24インチのモニタを買う らしいぞ

 

 

 ではでは皆様。次回もお楽しみに~♪


 
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