第3章 群雄淘汰・天下三分の計編 26話 『 襄陽包囲戦 其の弐 』
司馬懿軍から提供された貴重な”陶器に仕込まれた火薬矢”
蔡瑁が威力に見入られ馬鹿をやらかし、盛大に使用してしまった訳なのだが・・・
孫呉とて『弩弓砲』を使用すれば?と思われる方々がいらっしゃるかもしれない
移動式になったとはいえ、呂布軍での戦でもそうだったが、攻撃に際して有効活用しようと試みると
戦術上、どうしても設置した場所へと”誘い込む”のが、この兵器を運用する上において一番合理的なのであった
なので襄陽城といった、堅い城壁に囲まれた場所へと撃ち込むとなると、どうしても無駄射ちが多くなり
攻城戦には全くといって適していないという欠点も、まだまだこの兵器には存在していたのであった
司馬懿が火薬の存在を劉琮側へは明かしていないように、孫呉側も同盟国である魏や蜀へは明かしていない
それは一刀の祖先である戦国時代に端を発する、鉄砲、大砲という武器を確保する為に
先を争うかのようにして、西洋からの施策を受け入れたという背景もあった
一歩間違えれば、日ノ本が植民地化していたこともありえたのだ
そうした事を危惧した冥琳達は、一刀からそうした情報を得て、すぐさま”近隣”での確保にと動いていたのだ
孫呉での硝石の確保は、主に魯家を介して、蜀、東南アジアとの近隣諸国との交易で確保されていた
劉焉亡き後から続く内戦のゴタゴタもあって、建国したての蜀に至って、主な地場産業に乏しかったこともあり
孫呉との交易で得る大量の海産物、塩、米などは蜀にとっては貴重品であり
朱里、雛里は、この硝石を売買する事によって、孫呉との貿易に必要な外貨を得ていたのである
また本来、東南アジア、日本という湿度の高い熱帯雨林では、確保するのが困難なのである
戦国時代、鉄砲が伝来して以来、多くの国々で硝石の確保を輸入に頼ってきたのが現状だったのだ
しかし東南アジアでは伝統的に高床式住居の床下で鶏や豚を多数飼育してきたため、
ここに排泄された鶏糞、豚糞を床下に積んで発酵、熟成させ、ここから硝石を抽出してきた
他にも熱帯雨林の洞穴に大群をなして生息するコウモリの糞から生成したグアノからも抽出が行われてきた
という背景がある
戦国時代の昔、確保に苦しんだ教訓から、北郷家に脈々と言い伝えられていたこともあって
一刀がじいちゃんより知識を授かっていたのが、今日幸いしていたのである
ならば蜀、や東南アジアといった産出地域と、全く伝手のない司馬懿はどうやって硝石を得ていたというのか?
それは匈奴という支援国を介し、シルクロードを経て遠く西アジア方面から手に入れていたのであるが
だがコレには多くの問題も山積していた
その一例をあげると、運搬量、西アジアから運搬する距離、そして確保に時間が多大にかかる事で
かかるコストが非常に高くなっていた
司馬懿としては、劉琮軍などに安易に提供しても良い代物ではないのだが
こちらが曹操軍との決着もつけない内に、劉琮軍に早々に退場され、来るべき決戦までに力を存分に蓄えられては困るのである
出来うるならば、こちらが曹操軍を飲み込み大陸北部を制し、いつでも孫呉と戦える状況にあるのが一番望ましい
故に時間稼ぎの足しになるであろう、虎の子である”陶器に仕込まれた火薬矢”を送ったのがそもそもの発端だったのである
それがまさか・・・自軍優位に戦いを進める為にだなんてことで
蔡瑁に盛大にやらかされるとは、司馬懿とて夢にも思っていなかった事であろう
だが盛大にやらかした蔡瑁の馬鹿により・・・
その後行われた対策会議での議論の中にて、今まで沈黙を守り続けていた一刀が、ついに発言をしたのである
動きだした呂布軍との戦いに加え、今回の包囲戦でも被害が拡大し対策を講じられない以上
緋蓮以下、祭、楓といった主だった諸将も、”一刀が提案した策”を素直に受け入れたのである
ここにきて、以前から密かに練られ水面下にて動いていた”一刀の秘策”が、遂に陽の目をみて本格的に動きだしたのである
「それにしても凄い量のお金と米ね 劉琮軍の奴らに見つかりでもしたら、ここ確実に襲われそうじゃない?」
雪蓮は腰に両手をあて、見上げるように背を反らしながら、大量の荷駄を眺め感想を述べていた
「アハハ・・・ たしかに襲われ奪われるような事があれば、今回の”秘策”も万策尽きた格好になるだろうねぇ~」
「悪知恵だけはよく働く奴らですから、注意は必要ですね 兄さま」
雪蓮の言葉に、ちょっと弱気な言葉を吐露しおどけてみせる一刀であったものの・・・
それと同時に、蓮華に注意喚起されたのであるが・・・
「あんた達馬鹿ぁ~? 孫呉のお金なんて奴らにしたらゴミなんだから、放置しておいても取って行きやしないわよ
それより大量のお米だけに注意を払っておけばいいのよ!」
後からやってきた詠がそんな事を言い割って入ってきたのである
「詠ちゃん! またそんな偉そうな物言いをして・・・」
詠の隣にいた月が、なんともバツがわるそうに、一刀達へペコペコとお辞儀していたのだが
「詠の言う通りなのです! 奴らも我ら呂布軍と同様、税の徴収が思い通りに運べておりませなんだ
長期戦を視野にすれば、自ずとその事が問題視されることでしょうな」
旧呂布軍に至っては、黙っていることこそが悪である!!と言わんばかりに
ねねまでが軍師の表情を垣間見せ、詠の言葉に同調してみせたのである
「劉琮の奴らより、恋やねねの方がそれまでに・・・(全てのお米を食い尽くしそうで怖いけど)」
良いアシストをしたねねに対して、詠が大量の米炊きをさせられた鬱憤を晴らすかのように
最後は何を言っているのか判別不能、尻蕾みとなるくらいのささやかな音量でボソッと呟いた
「何か・・・ 恋殿やねねの悪口をいいやがりましたか? 詠!!」
「いいえ~ 何も!! (相変わらずの地獄耳ね・・・)」
両手をブンブン振り回し、詠の言葉に機嫌を悪くし暴れ出すねねに対し
少しも悪びれた様子もみせず、しらを切り通す詠
「まぁ~ 物資に関しての護衛というより、量が足りるかの方が心配なんだけどね
あとは・・・瑠璃の仕事の出来次第かな 頼むぞ瑠璃・・・」
詠とねねが、周りでやいのやいのと騒がしくなる中
一刀は荷を睨みつつ、そんな言葉をそっと雪蓮と蓮華へと呟いたのである
・
・
・
「おめえ 聞いただか?」
襄陽近辺の村々では、”とある噂”で持ちきりとなり騒然としていた
「ああ! 聞いた! 聞いた!
土嚢1つにつき、米か孫呉の金の好きな方へと換えてくれるらしいな! やっぱり世の中金らしいべ!」
1号の質問内容に、農民2号となる者が、村々に流れる噂に対し、そんな自身の感想を述べてたのである
「おめえ 何寝言いってるだ? 孫呉のお金なんぞもらっても、お腹なんて少しも膨れないべさ
それよりやっぱり替えるなら米に決まってるだべさ!」
自信満々に得意げに持論を展開する農民1号に対して
「ばっかだな~おめえは! 江夏、江陵もすでに孫呉に落ちたというべ!
なれば、次はここが孫呉領になるのは時間の問題だべさ
孫呉はこの紙で出来たお金で、畑や米や酒といった食べ物にまで、何とでも替えれるっていうべ!」
農民1号の自信満々な持論も、この2号の言葉で持論が脆くも崩れ去っていた
「何!? それはほんとだべか!?」
「ああ! 御偉い人を多くお弟子に持つ水鏡先生が、そう言っておられたんだから間違いねぇべさ」
1号の執拗なる確かめに、2号は胸を張ってそう答えたのだった
「ならおらも軽いお金にすっかな~ 何に替えるべ~~~ 迷うべな~」
宝くじを買った者達が思い描く未来図と同じ・・・とまで言い切ってしまっては語弊があるように思えるが
「そうすっべ! そうすっべ! これは内緒なんだが・・・
なんでも先生の話では、金額次第では畑や店持ちになれかもというべ・・・」
「まっまことだか!? そりゃすげぇ~~ 大地主も夢ではなかと!?」
・・・なんて事を、一刀達が訪れた襄陽周辺の村々では、農民達が実しやかに囃し立てていたのであった
漢王朝が衰退し、荊州の各都市では黄巾賊が跋扈していた為
今では貨幣経済が崩壊し、米による物納や交換が主流となっていた為
豊作、不作時で、交換比率がその時々で酷く歪となり、劉琮統治下での物価は一向に安定しなかったのである
今回一刀が作戦を遂行する上でネックとなったのが
呉は貨幣経済が主流なのに対して、荊州各地では米による物々交換が主流だったからである
米を大量に戦場へと運ぶのには、防衛上、人手、荷車共々多大なコストがかかる
ゆえに江夏、江陵という2大都市さへ安全確保が叶えば、水軍のある孫呉は輸送の面で楽になる
だからこそ、江夏、江陵の留守居役に、作戦に関わっていた琥珀が選ばれたのである
また逆に孫呉の貨幣ならば、仮に劉琮の手に落ちた所で痛くも痒くもない
最悪、再度貨幣を刷るか鋳造すればいいだけなのだから・・・
何より一番の問題は、貨幣経済が崩壊した荊州の各都市において
”米”よりどうすれば孫呉の”貨幣”の方が欲しくなる?
一刀はそんな状況を作り出す必要性に迫られていたのである
そこで藍里が、荊州で多大な影響力を持つ水鏡女学院出身という伝手を頼り
孫呉が荊州を制した暁には、水鏡女学院への援助を約束するという見返りもつけて
一刀は水鏡を介して、襄陽周辺の村々に、大規模な情報戦を事前に仕掛けていたのである
水鏡としても、弟子を一番多く輩出する荊州が、一向に良くならない事に焦れてもいた
藍里という弟子を介して、手紙から知る一刀、並びに孫呉の政策は
魯家の支店増強、保険の手法、山越との同盟による観光と恩恵など
当事において、実に革新的で独創性が溢れ、どれもこれも興味溢れる政策が目白押しであった
そこで次代の教育という観点から、藍里を介さずに直に接触し、一刀という人物を見てみる気になったのである
高水準の教育を施すことに、悪人を作り上げる可能性も示唆する雪蓮は
寝屋で一刀と口論となり、かなりの難色を示しはしたのだが・・・
朱里、雛里、藍里といった優秀な人材を多く輩出し、教育のノウハウをもつ水鏡ならば適任であると
一刀は作戦の実行間際になって初めて、冥琳、紅、王林といった主要な者達の賛同を集め
水鏡塾への援助を取り付けるに至ったのである
こうして荊州内による切り崩し作戦は、行われるか不明だった事もあり
一刀以下極僅かの人数によって、情報は水面下で密かに村々に流していたのだった
水鏡は事前に自身が関わる作戦について、一刀に直に問いただしてもいたのだ
多くの弟子が劉琮の父である劉表の文官に登用されていた実績もあった事から
一刀が作戦内容が洩れることを危惧し、詳細を濁すのではないかと半信半疑でもあったと
水鏡はその時の述懐にて、藍里にそう述べたのである
一刀が水鏡へと明かした作戦内容とは、かの羽柴秀吉も行ったとされる”水攻め”の再現であった
緋蓮達が何事もなく落せるのならば、それに越したことはない、しかし因縁深き襄陽城という堅城が相手
・・・それならばと、密かに一刀は亞莎、琥珀の2人と謀り
極秘裏に必要な物資の調達に動いたのである 使わぬに越したことはないと願いながら・・・
だが呂布軍による思いも寄らぬ攻撃と司馬懿軍が提供した””
平野部にある襄陽城を取り囲むように流れる、周囲の河の流れを一時的に塞き止め
襄陽城周囲に高き土塁を築く、これが水攻め作戦における第1段階めの要諦であった
一見、これだけみている分には、完全封鎖する”篭城戦”と遜色ない
事実、蒯越は孫呉軍が城から数里軍を引いたと聞いて
援軍を待ち長期戦の構えである可能性が大であると蔡瑁に示唆している
どうやら、軍師同士の双方の化かし合いでは、一刀の方に軍配が上がったようである
そして一刀提案の作戦とはいえ、襄陽城の囲みを解き、数里軍を後方へと引いたことにより
その結果、劉琮軍は土竜による後方からの奇襲攻撃が出来なくなったのであった
・・・というのも、劉琮方の土竜作戦の有効範囲は、城から2里が掘り進める限界だったようだ ※1里=500m
それ以上は穴に水が溢れすぎて、劉琮軍の持つ技術では、到底土竜の穴を掘り進めるのに支障をきたす
という欠点も存在していたようである
ゆえに、城への直接的な圧迫感は薄れ、蔡瑁達は馬鹿めがっ!と大いに喜び勇んでいたものの・・・
軍師としての長年の勘が、この撤退の裏には”何かある”・・・としきりに蒯越の脳内に訴えていた
しかしそれが何か?というまでには、さすがの蒯越でも思い描けずにいた
蒯越としては、前回同様、土竜作戦で躍起となった所を泥沼へと引き込み
起死回生の一手とすべく、今度こそ孫呉の息の根を止める腹積もりであったものの・・・
腸が煮え滾っている筈であった緋蓮の引き際の良さが、かえって不気味に思えたのである
孫呉軍が襄陽城の囲みを緩くしてから、もう3ヶ月の月日が経とうとしていた
一刀が策を打ち出した当初、前文に記した通り、蒯越の見立てが見事に的中し
苦戦する緋蓮、祭、楓達首脳陣は、この手にて打倒する事に固執し、尚も主張し続けていた
しかしながら、呂布戦、土竜作戦による被害は尚も拡大中であり、様々な劣勢を強いられた理由もあって
当初は緋蓮と想いを同じくする賛同者が、意見の大勢を占めていたものの
このままでは、以前のようにまた敗北するのでは?というトラウマのような想いに苛まれる面々も
ちらほらと出始めた事もあって、そこで緋蓮達首脳陣は、渋々ながらも一刀の策を受け入れた訳なのだが・・・
一刀が提案した策の詳細内容を聞くと、城攻めに疎い緋蓮達であっても
策がトンでもないシロモノであることが良く判った
襄陽城の周囲を流れる河をも利用し
包囲した堤の全長が5kmにも及ぶ、壮大な水攻めを敢行したのである
今では一刀の立てた計画が見事なまでに結実し
襄陽城は城周囲にあった筈の街は、完全に水に侵され水没し丸裸に
見事なまでの浮き城、孤島と化したのだった
孫呉も一刀の献策を受け入れ、そうした緩い包囲を実行していたことから
蒯越は当初、孫呉が長期戦を鑑みての包囲策を実行するのでは?との見立てから
長期戦を視野に兵の温存策へと切り替えていたのだが・・・
蒯越の策を聞き入れ、攻撃を自重している劉琮側が合間に
孫呉が兵を水平に緩く敷く後方にて、農民達が村々より大量の土嚢を持ち寄り、せっせと積み上げていったのである
包囲は包囲でも、単なる長期包囲戦ではなく、”水攻め”という蒯越の予想を遙かに凌駕した格好である
まだ街に居残っていた者達も、城内へと避難させたこともあって、人数は当初の見積もりより激増し
自軍兵の温存策が逆に仇となった格好に、蒯越はこの戦で初めて焦りの色を滲ませていた
堤を作りあげた農民達は、労働の対価を大量のお金や米に、皆それぞれ思い思いの品と交換し
山と積んで運ばれてきた物資は、蝗害を連想させるかのように、みるみる消えていったのであるが
その甲斐あって、孫呉の兵達は全く労せずして、全長50里(※1里=500m)にも及ぶ
襄陽城を取り囲む、巨大な”水牢”をここに完成させたのであった
現在は米の収穫も終わった冬近くであり、梅雨という時期はさすがに外れ水量が心配されたものの・・・
漢中から流れ込む水量が事の他多かった事もあって杞憂に終わり、溜めに溜めた水を襄陽城平野部に放流したところ
たちまち襄陽城以外の周りあった荒廃した街諸共、何もかも悉く水没してしまったのである
この”水攻め”の完成に、にわかに襄陽城内にて慌しく右往左往する者達を尻目に
堤を崩す算段を計画していたものの・・・
襄陽へと潜伏していた瑠璃達斥候の者達が、繋留されていた船舶の悉くを、夜襲にて一隻残らず根こそぎ焼き払い
一刀の策である”水牢”の完成を後押しした
その後援軍として、江陵から思春を始めとした孫呉水軍の援軍が到着したこともあって
襄陽城という名の”水牢”への備えが万全となり、この時にまさに一刀の”水攻め”の策が不動のモノになった瞬間でもあった
襄陽城内でも、食料のあった時期尚早の頃には、まだ若干の余裕を保っていられたものの・・・
1ヶ月も経てば、兵の温存策をとり裏目のなった襄陽内では、早くも備蓄が乏しくなってきて奪い合いに発展
2ヶ月めともなると、避難民、及び一般兵への兵糧供給は止められ
襄陽城内では食料を求め阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた
こうなると、どうせ死ぬなら孫呉への投降やむなしという者達
さっさと夜中に簡易筏を製作したり、城を泳いで抜け出す兵や避難民達が後を絶たず続々と現れ始めたのであった
しかし脱出を試みた者の悉くは、思春が先導する水軍の手の者の船足に勝てるはずもなく、あえなく皆捕縛されてしまっている
避難民に対しては手厚い庇護の下、順次解放されていく手筈が整えられた
そんな中、脱出した者達に紛れさせ、蒯越は何度となく新野城へ援軍の使者を送っていた
・・・というのも、新野城に控えている筈の兵数は、なんと3000名にのぼる兵数であり
とても江夏、江陵を落され敗北した勢力とは思えない兵数を動員していたのである
水没し避難した民をも加えた襄陽城に篭る総数と、実は殆ど大差ない人数だったのである
襄陽城という堅牢を誇る城ゆえに出来た芸当でもあった
蒯越が当初この戦を描いた筋書きとはこんなモノであった
孫呉が襄陽城周囲を取り囲むと同時に、土竜にて後方から奇襲し翻弄し続けた後
執拗に城を包囲し続ける孫呉軍へと新野からの援軍と挟撃し、今度こそ完膚なきまでに叩き潰すというシナリオであった
新野との挟撃が失敗した所で、孫呉が襄陽城への攻略にかける時間は稼げる
蒯越の策略も2重に張り巡らされた用意周到な罠であった筈なのだ
もし仮に、この新野城に控えさせた3000名に近い兵数が、襄陽にいたならば・・・
戦況はまた違った展開を見せたかもしれないし、一刀の水攻めにより3ヶ月より前に降伏した可能性すら考えられるが・・・
そして一刀と冥琳、呂布戦からふと存在の消えた3人が、仮にこの襄陽戦に介入しなかったのならば
蒯越が描いたIFシナリオへと、躍起になっていた緋蓮が嵌まり込んだ公算は大である
様々な劉琮軍優位なIFシナリオが浮かんでは来るものの・・・
現実は劉琮軍にとって非情であった
一刀の手により水攻めにされ、包囲されてから3ヶ月が経とうとするというのに
未だに新野城からの援軍が一兵卒とて現れないだけでなく
使者として赴いた斥候の誰1人として、襄陽城へと帰還する者は現れなかった
その事は、当初描き出したシナリオに狂いが生じ、変更を余儀なくされた証拠でもあった
水攻めをした人物、そして新野からの援軍を阻んだ人物を呪いながら
もはや事ここに到っては、蒯越としても全く打つ手なしの状況となり、城の中で焦燥が悶々と募るばかりで
襄陽を放棄し、司馬懿を頼り北へと逃亡し、劉家の再興を図るしかないと密かに蔡瑁へと進言してもいた
陶器に仕込まれた火薬矢”さえあれば、もしかしたら堤を決壊させることもできたやもしれぬが
威力に魅入られた蔡瑁の浪費がこんな所で仇となり、また瑠璃により、主要な船舶を焼き払われてしまった為に
いくら蒯越が策を弄しようとも、もはやどうすることも出来ない有様となっていた
外界から完全に隔離、遮断された襄陽城内の劉琮軍は
水攻めが3ヶ月に及ぶ頃には、もう総崩れの様相を呈していたのである
・
・
・
「恋殿、こうして外から見ている分には、水上に浮かび白鳥の如き美しいものですが
あの城の中では、水中にて掻く白鳥の足の如く、さぞもがき苦しんでいるのでしょうなぁ~」
自身も策に加担していたねねは、襄陽城の水攻めの様子を堤から眺め、そんな感想を述べていた
「食べられない事が一番辛い・・・」
自身が策に嵌められた訳ではないのだが、恋は自身に当て嵌めそんな感想を漏らす
「一刀のやること為すこと想像の埒外で、ホント凄いとしかいいようがないわよね
今でも味方じゃなく、敵だったらと思うとゾッとするわ」
ねねと恋の後ろから2人の言葉が聞こえたのだろう
2人の傍に並ぶと、両手を腰にあて大げさな溜息をつきつつ、呆れた表情で雪蓮は感想を述べていた
「そんな兄さまを出会って早々殺そうとなさった姉さま・・・」
蓮華が雪蓮の後ろから現れ、白い眼で自身の姉を見つめるものの・・・
「フフフ きっと本能で危険と察知したんだわ! 私!」
などと急いで自身をフォローし、誤魔化してみせた雪蓮だったものの・・・
「でも祭共々コテンパンにのされたんですよね~ 姉さま・・・」
蓮華に痛い所を突かれ、まさにぐうの音も出なくなる雪蓮に対し
「あはは! 蓮華そこまでにしてあげなよ 蓮華にも早く出て行けと言われた気がするけどなぁ~」
「そっそれは・・・ 参りました兄さま」
一刀の救いの手に、早々に白旗をあげてしまう蓮華でありました
「それにしても・・・ こんな策よく考えつきましたねぇ~?」
と穏も後方から現れ、同じ軍師としての感想を述べてみると
「俺が考え出したんじゃないけどな?」
謙遜なのかどうか定かではないが、一刀はよくその言葉を口にしていた
そんな策が書かれている文書があるのなら
穏はそんな天の国に是非とも行き文献を手にしてみたいという気に逸っていた
「水没してしまっては、土竜も溺れてもうて窒息死じゃしのう
奇襲という手足をもがれるとは、奴らも思わんだのじゃろうのう」
「膨大な積荷の正体が、お金と米だったと初めて聞かさた時には驚いたものですけど」
「それが化けて”水攻め”とは恐れ入った」
祭、紅、楓のそれぞれの感想であるが
「あのまま包囲を拘っておっても、これだけ有効な手を打てたかどうか定かではないな
最悪、前回同様の惨敗に見舞われる可能性も大いに存在した
大将として陣頭指揮し、この手であの時の無念を晴らす方法に固執し過ぎて
事の本質である劉琮達を降すことが二の次となっていた気もするな」
まだ戦いは終わった訳ではないが、緋蓮は此度の戦いの総括を、そんな自身の反省の弁を皆へと語ったのであった
「まだまだ戦いは終わった訳ではないけれど、相手が降伏する最後まで気を引き締めていこう」
皆が一刀に同意し頷くと、長期戦になったこともあり、気合を入れ直す一幕も見受けられた
・
・
・
一刀が実行した水攻めにより、”水牢”と化した襄陽城玉座の間にて、その後何度となく開かれた会議にて
”蔡瑁、蒯越に同意し徹底抗戦を主張する者達”と今まで何かと虐げられてきた”水鏡塾出身で構成される文官達”の間で
徹底抗戦か無条件降伏かで激論が繰り広げられた
こと此処に到り、もはや何処にも逃げられぬと悟ったのだろうか?
今まで蔡瑁、蒯越の操り人形であった筈の主である劉琮自身が
無条件降伏を主張する水鏡塾出身者で構成される文官達の意を汲み
蔡瑁、蒯越達徹底抗戦を主張する者達に、事前に何の相談もすることなく
無断で孫呉へ降伏することを決断してしまったのである
劉琮と文官達は思春達水軍を介して、緋蓮と降伏条件のすり合わせに奔走する
文官達も抗戦派と同罪であり、共に処罰すべきという意見も少なからず孫呉内にはあった
だが、水鏡を介した一刀からの嘆願もあって、制した後の荊州北部の復興事業へ従事させ
回復を優先させる為、罪に関しあえて不問に付すことが決まった
その他にも、緋蓮の出した降伏条件は多岐にわたり
武装解除はもとより、劉琮と蔡夫人を建業へと移送すること
首謀者である蔡瑁、蒯越に味方する勢力悉くの者を捕え、孫呉へと必ず引渡しに応じること等
緋蓮が提案したその他の降伏条件に関しては、その全てに合意してみせたのである
抗戦派であった者達、特に蔡瑁、蒯越にしても
仮に耳に入っていれば、当然この降伏に承服しかね、邪魔をする腹積もりでもあったが・・・
抗戦派が降伏派の行動を知ったのは、緋蓮が出した降伏条件全てが整った時という愚かさで
最後には甥であり主である筈の劉琮へと、蔡瑁達抗戦派の者達が猛然と食ってかかる場面も見受けられた
しかし、城中へと密かに思春達水軍の者達を招きいれていた降伏派の面々によって
危うく取り押えられそうになり、蔡瑁と蒯越を除く抗戦派のほとんどをこの時捕縛せしめることに成功する
後は首謀者の2人の確保だけとなり、蔡瑁は自室へと逃げ篭り
蒯越はというと自室にもおらず、何処かへと行方を晦ませてしまったのである
もう逃げ場もない自室に篭る蔡瑁に関しては、人を出し周囲を厳重に警戒させる中
以前消息不明となった蒯越の行方に焦点が当てられることとなった
だが次の日には、自刃し果てた蔡瑁が発見された事もあってか
捕縛された者達も含め、残る抗戦派の者達は次々と手のひらを返し、降伏することを承知し出したのである
襄陽を始めとした劉琮の支配地域、呂布の支配した上庸も含めて
荊州北部に存在した都市村々全てを、瞬く間に孫呉へと服従させる動きを加速させていったのである
蔡瑁が逃げられぬと悟り、自室に篭りその後自刃して果てた・・・
前話にてそう簡易的に処理された案件であったが、実の所はそうではない
ここに蔡瑁が自刃へと到ったその真実を描くことにする
・
・
・
「ええい! 降伏論者共め! 全くもってけしからん! ここまできて降伏なんぞ受け入れられるものか!
しかもなんと忌々しい・・・ 甥を上手く誑かしおってからに・・・」
今まで伯父という外戚という権威を傘にきて、蔡瑁自身が散々利用しておいて、降伏派への逆恨みもよい所なのだが
水鏡に推挙され、今まで一線から虐げられてきた文官達が、ここにきて勢力の巻き返しを図り
孫呉が出した降伏条件を全て飲み、甥の劉琮が支持し承知したと後になって聞かされ
少し頭を冷やしに戻ってきた今でも、その時の光景を何度となく思い出しても、腸(はらわた)が煮えくり返る思いに苛まされる
蔡瑁は苦々しい表情を少しも隠そうともせず、椅子へと全体重を背に預け
巻き返す良案はないものかと思案し踏ん反り返るのだった
「そもそも・・・主である劉表を病気にみせかけ衰弱死させた事も、これまで孫呉へと執拗に戦いを仕掛けた事も・・・
十常侍の言に乗って、うす汚い黄巾の連中共をこの荊州へと入れた事も・・・
この度蒯越の誘いに乗って、司馬懿と姦計を巡らした事も・・・
全てはこの手に孫権を手に入れる為の戦いじゃったというのに・・・
・・・なのにどうしてこうなったのじゃ!」
良案を探っていたのにも関わらず、いつの間にか事実を暴露し愚痴へと変じている蔡瑁
もしこの蔡瑁が行った事実を部下達が知ったなら、どれだけの者達が蔡瑁に従い就いて来たか実に怪しいモノである
カッと血走った眼が大きく見開かれ、拳を小刻みに震わせ強く握るや、怒りを机をぶつけ強く叩いてみせる
自室にて愚痴を喚き散らす蔡瑁に、もはや襄陽城の主としての貫禄など毛頭あるはずもなかった
誰も入れぬ筈の自室へ・・・
「蔡瑁様、いたく荒れておられまするな」
まるで水面に波紋を立てるかのように、透き通る女の声が蔡瑁の耳に心地よく響いた
孫呉の水攻め、思春達がいる筈の襄陽城の包囲を掻い潜って
なんと蔡瑁の部屋まで侵入してみせた人物がいたのである
「貴様は確か・・・ 司馬懿からの使者の者だったか
武器を今更運んできたと言ったとて、降伏条件を飲んだ今、遅きに失するぞ?」
蔡瑁は貴様達が武器を運んでこぬせいだと言わんばかりの侮蔑も混じらせた視線で睨みつける
「いえいえ そうではありませぬ・・・
火薬武器を使用したことで、聡い孫呉の軍師連中の事
我ら晋と劉琮軍との関係を、すでに見抜かれていることでしょう」
「おのれ! 言わせておけば・・・ 貴様、暇人か酔狂の類の何かか!?
貴様に関わっておる暇などないのだ さっさとここから立ち去れ!」
自室の机へ怒りを発散したばかりだというのに、また怒りで腸が煮えくりかえりそうになる蔡瑁
「そう声を荒立てないでくださいませ 篭城、篭城の毎日で、さぞ女日照りでさぞお困りでしょう?」
最初は女が背へと回り込み、耳元で囁きだした時には、警戒感を露にしていた蔡瑁であったものの
背から抱きつかれ、優しく手を取られ摩られると、蔡瑁も嫌な気分は何処かへと綺麗に吹っ飛んでいったようで
「ふむ・・・ まぁ~ そちでもよかろう」
蓮華の方が・・・というのが、この言葉の意味する本音であったのであろうが
この忍び込んできた司馬懿の使いとやらも、蔡瑁の眼から少し観察すれば
見目麗しい部類に属する女子でもあったからだ
先ほどまでの怒りは何処へやら、使者に手を握られ蔡瑁は気を良くしたのか
すっかり警戒を解き、表情はニヤけ柔らかく変じていた
使者の女は警戒されぬよう、ニコリと蔡瑁へ笑顔を向けると
摩り握っていた蔡瑁の手を離し、蔡瑁が腰に佩く短剣を素早く引き抜くと、蔡瑁の心の臓へ猛然と突き立てたのである
「ぐわあぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!! きっ貴様! 何を血迷ったのガァーーーーーー!?」
自身の心の臓へと突き立てられた短剣を握り締める女の手を
蔡瑁は火事場の馬鹿力で必死に抵抗し、なんとか引き抜こうと試みたのだが、
その合間にも、女が握る短剣はどんどん蔡瑁の心の臓奥へと達し
蔡瑁は鼻から口、左胸にいたり、身体からどんどん大量の血を噴出させると共に
次第に意識が遠くなりかける中、小刻みに震えながらも後方にいる女へと振り返り
暫し互いに視線を這わせたのを最後に、首は力なくガクンとうな垂れ
大きく眼を見開いたまま、蔡瑁は絶命して果てたのである
蔡瑁も若き頃は名を馳せた武人の端くれである、女子の力なんぞと侮り、軽視していたの仇となった・・・
絶命する最後の瞬間まで、自身の胸に刺さりし短剣を引き抜く事は出来なかった
蔡瑁の最後を看取った女は、その後部屋から立ち去るでもなく、驚くべき行動に出ていた
なんと蔡瑁の身体が死後硬直せぬ間に、心の臓に刺さった短剣を両手で握らせ
執務机へとうつ伏せにさせたのである
その後も女は奇妙とも思える行動を次々にし出した
自身の手足へとかかった返り血を冷静にふき取り処理しつつ
蔡瑁の執務室に山と詰まれた竹簡の束を手に取ったかと思うと
その中身へと目を走らせ始めた女、そこへ・・・
「鄧艾様、火急の用件にて御容赦を・・・ 蒯越殿が我らが用意した舟で、無事襄陽からお逃げになられたようです
・・・ですが、その事を素早く嗅ぎ付けたのか、例の孫呉の手練が、尚も執拗に追っている模様ですが、如何なされますか?」
竹簡へと急いで目を走らせていた女の天井から、男の囁きがふって湧いてきたのである
この部下は、蒯越を助けるべきかどうかまで指示をもらっていなかった為、確認の為にここへと伺いに来たのであろう
蔡瑁や蒯越達と接触していた司馬懿側の使者、蔡瑁を暗殺してみせた女とは、鄧艾その人であったのだ
「こちらの仕事はすでに終わりましたので、それほど音量を気にしなくてもよい
それにしても、またもあのちんちくりんですか・・・ 何れ決着をつけ殺してあげますけど
何かとこちらの邪魔をし、面倒をかけてくれるものですね・・・」
「フッ 何やら嬉しそうな声に聞こえますが・・・ 私の聞き間違いですかな?」
穴息荒く溜息を1つつくと、珍しく愚痴とも思える事を吐いてみせる鄧艾
愚痴を切り返してきた辺り、部下の男は鄧艾と同様の手練と推測でき、鄧艾に忠実なのを窺い知る事が出来た
蔡瑁は殺され、蒯越は何故司馬懿に生かされたのか?
蔡瑁は女、地位に強欲であり、猜疑心が強く命への飽くなき執着心が強かったこと
蒯越には、軍師という地位への飽くなき執着はあるものの・・・
秘密という点において口は堅く、狡賢いという点においてまだまだ利用可能
以上の理由から、蔡瑁は駒として捨てられ、蒯越は救いの手を与えられたのであった
そうした蔡瑁と蒯越の状況を踏まえ、瑠璃へと毒づきつつも
司馬懿から受けた命を今一度思い出してみる鄧艾
「司馬懿様からは、蒯越殿がお困りのようなら脱出を手引きせよ、とは託(ことづ)かっておりますが
”命まで御守りせよ”とまでの命を受けておりません
ですから、貴方はすぐさま、あのちんちくりんの後を追って
これから蒯越殿に起こる、事の詳細全てを見聞きし掴んできなさい いいですね?」
山のように詰まれた竹簡の束から、司馬懿軍との間に遣り取りしていた書簡を見つけ出し
懐へと次々に仕舞い込みつつ、証拠の隠滅を図りながら
証拠となる竹簡を全て調べ抜き取り終えた鄧艾は、最後にうず高く詰まれた竹簡を、手で払いバラまいたりと
自殺偽装を施しながら、部下が控えている天井へと淡々と呟いてみせた
「ハッ 委細承知! それでは・・・」
承知したという部下の天井からの声を最後に、自殺偽装を施した部屋を見渡し、最終確認を済ますと
自身も部屋から忽然と姿を晦ます鄧艾でありました
蔡瑁が自室にて自害して果てた・・・という衝撃の事実は、死した翌日襄陽城を駆け巡った
あの蔡瑁が自害? 蓮華、思春を始めとした蔡瑁の性格を良く知る多くの者達が皆、自殺行為に首を傾げてみたものの・・・
辺り一面の床に、大量の血痕、血溜りと竹簡が散乱し、惨たらしい惨状を目の当たりにし
厳重に警戒し密室状態だった所へ誰が殺しに?と口々に疑問が噂され、憶測が城内を駆け巡った
思春や瑠璃、途中からは明命も交え検証してみるものの・・・
自殺に使用された短剣は、蔡瑁愛用の物で、自殺を図った当夜、蔡瑁は部屋で喚き酷く荒れていた
・・・との蔡瑁に近しい者達及び近習達何人もの証言もあって、どうみても自殺の線が濃厚であったものの・・・
蓮華のことといい、権力の維持に強く執着している蔡瑁が自殺?という皆の思いは、到底頭から離れないものの・・・
他殺という確たる証拠が全く出てこない以上、3人も自殺として処理するしか仕方なかったのである
亡くなった蔡瑁の首を塩漬けにし、そのまま建業へと送り届けられることと相成った
その後取り決めた降伏条件に従い、襄陽城の水を抜く作業へと従事し
着々と復興への道を歩み始めた襄陽
だがそんな中、首謀者の1人である蒯越だけは、鄧艾から提供された小舟を使って襄陽から遁走
孫呉からの身柄追求の網から逃れ、近隣では北にある新野城、遠方では晋を目指し逃亡を図っていたのだ
河沿いや大通りを避け、林や森などを優先し周囲を警戒しながら、必死に逃避行する蒯越
「馬鹿の蔡瑁とは違い、狡猾で冷酷な司馬懿とでは、主として比べるべくもないが
注意せねば、司馬懿の元では心休まる時はないかもしれぬな」
ここまで逃げて来れば新野は眼と鼻の先、そんな安心感からか
援軍を派兵出来なかった状況を把握し、そのまま入り篭ってみるのも一興かな?
・・・などと呟いて歩いていた矢先
「おいおい主を補佐すべき軍師が、主である劉琮や蔡瑁を見限り
”蒯越”、貴様1人何処へと逃げるつもりかな?」
そんな闇夜のような闇が広がる林に、地獄の底から響くように
辺りへと良く透き通る声で、蒯越へとこう語りかけてきた人物がいたのである
「何奴だっ!?」
深々とフードを被り、姿を極力見せぬよう警戒して逃げてきたというのに
自身が蒯越と何故バレたのだ? そんな自身の焦りが呼吸を荒くさせる
「私の名などすでに御承知であろう?」
白虎九尾を手に木の陰からスゥーーーと静かに姿を現した冥琳であった
「なるほど貴様だったか 周瑜 確かに執念深き女であったな 」
「貴様に言われるとはこの上なく心外だな そのまま貴様にお返ししよう」
蒯越の言に対し、逆に鼻で笑って苦笑する冥琳
「蔡瑁なら知らぬで済むだろうが、呂布を縛り無理やりに我が軍と戦わせ、その”結果”を知り得ていた狡猾なお前だ
十常侍時代に知り得た司馬懿との縁から、今回いろいろとやってくれたみたいだな
今度は司馬懿軍へと参入し腕を振るう為に移動中、そんなところなのでだろう?
「ふんっ! 小賢しい・・・」
冥琳の推論に対し、今度は蒯越が鼻で笑って見せたのである
「司馬懿軍、いや正確には司馬師軍だが、貴様の軍師としての席があると本気で思っておるのか?」
冥琳の言葉に、長年軍師として仕えて来た自尊心を大いに傷つけられ、怒りを露にする蒯越
「この頭脳を買いたい、雇いたい勢力などごまんといるわ!」
自身の頭を人差し指でとんとんと突きながら、自信満々にニヤついてみせた蒯越であったものの・・・
「ならばその御自慢の頭脳?とやらで、呂布軍との戦の斥候の情報を少し思い出してみるのだな?
「貴様・・・ さっきから偉そうな物言いをしおって! それが一体何だというのだ!?」
すでにイライラが頂点に達していた事もあって
冥琳以外にも聞こえそうな大きな喚き声をあげている蒯越
「思い出したのであろうな? 時間もないので答え合わせといくぞ?
かの戦場に、我が軍の将の誰が駆けつけ、誰がその場から忽然と消えたのか?
・・・御存知であろうな? 軍師殿」
「グチグチと回りクドイ言い草を・・・ そんな者の行方など知ったことか!」
怒りを剥き出しにし、冥琳へと声を荒げてみせる蒯越
「怒り、逃げ切れぬ焦りゆえに、思考が回らぬのか? ならばその小賢しい頭脳に入れておくがいい!」
「小娘の分際で図に乗りおって!」
自分の手の内を的確に言い当てられ焦る今の蒯越には
冥琳の言葉の意を全てを見通すことなど出来はしなかった
この軍師として横たわる差こそが、大敗北の中でも冥琳は九死に一生を得て生き残る事が出来
同様の立場に陥った蒯越の命は、冥琳という大敵の前に、まさに風前の灯にあった
「はぁ~ まぁいい・・・ 貴様にこれ以上、私の有意義な時間を割くのも無駄なことだし、種明かしをしてやるとしよう
貴様は斥候から得た情報から、先の呂布軍との戦い、並びに我らの軍容を詳細に知っている筈だな
賈駆の要請があったとはいえ、反董卓時に洛陽へと出払っていた孫呉軍へと
まるで狙いすましたかのように、水軍で急襲をしかけさせた小賢しいお前のことだ
呂布軍との戦いが終わったあの場にはな ”神速の張遼”がいたのだよ ちゃんとな
共に同行していた天の御遣いも、陳宮人質作戦に参加し従軍していたのだ
ならば本来、張遼が襄陽包囲戦にもいてもおかしくはないだろう?
だが貴様は・・・ いや襄陽にいたお前の兵達、斥候の者達を含めて、誰1人としてでもよいが・・・
張遼の姿を見た者はおるのか?」
白虎九尾を手に、一歩一歩静かに迫り来る冥琳に対し
「なっ・・・・んだとぉ~~~~~~~~~~~~」
一瞬言葉を詰まらせた蒯越の叫び声が、辺りに反響し木霊する
「その場で必要のない情報であっても、軍師であるならば記憶の端にでも留めておくべきだな
そんなのは基本中の基礎のことであろう?
それにな 呂布軍を虎牢関から逃がしたのは他でもない 張遼自身なのだよ
あの場から取って返し、高順率いる孫呉騎馬隊の軍に単騎で合流するや
新野からの援軍の抑えにと、こちらが派遣した総数は、僅かに500騎ほどだったんだが・・・」
頭の回転が速い蒯越だからこそ
冥琳からこの話を切り出された時点で、なんとなく察しがついた
自身の想像とは違うようにと祈りながら・・・しかし
「貴様は襄陽城に居て、水攻めにされ全く知らぬのだろうが・・・
誰かまでは私は存ぜぬが、襄陽を包囲されたと聞き及んで、急いで3000近くに及ぶ援軍を新野城から派兵したのだよ
実に6倍に及ぶ兵力差がありながら、その悉くを蹴散らしただけでなく、新野城まで即奪取してみせたそうだぞ?
それとだ 蒯越、貴様が再三再四、援軍要請していた数々の文がこれだ・・・
答えられる範囲内で貴様の疑問に答えたつもりだが、まだ何か他に聞きたいことはあるか?」
冥琳が懐から出し投げ捨てた文へと、反射的に視線を移す蒯越
あまりに想像通り過ぎた為に、蒯越の心中は怒りで腸が煮えくりかえっていた
冥琳が投げ捨てた枚数を正確に数えることも出来ないから、全員が捕まったのかまで定かではない
しかし、此方が何度となく援軍要請へと送り出した斥候達の殆どが、周瑜の手の者に捕えていたという事実だけは掴めた
その中でも援軍へと派兵したことに喜ぶべき所なのか、それとも僅か500騎に敗北したことを嘆くべき所なのか
実に判断に困る、苦々しい苦悶に歪む表情を浮かべていた
「陳宮1人を救う為に呂布の暴走という悲劇もあっただろうが、張遼にとっても大切な多くの同胞の命があの戦で失われた
貴様と蔡瑁が取った行動が、結果的に張遼の怒りに火をつけ、自身の墓穴を掘ったのだよ
蒯越、貴様は張遼という虎穴に入った愚か者、いや虎の尻尾を愚かにも知らずに踏んづけていた阿呆なのだよ
・・・で最初にした問いへと戻るが、主を見限っておいて、”蒯越”貴様は”何処”へと逃げるつもりだったのかな?」
「・・・・・・」
自身の常識や力量では到底計り知れないと冥琳に馬鹿にされ、苦々しい苦悶に満ちた表情をみせる蒯越
周瑜の説明を信じるならば、神速の張遼という隠し玉が、孫呉には存在していたというのである
呂布をけしかける事に注視する余り、誰が参加していたなどの情報は、頭からスッカリ抜け落ちていた
その事を周瑜に、油断だとキッパリ指摘されては、軍師として反論の余地すらなかった
「やはりあの時、袁術達をけしかけてでも、貴様らを確実に消しておくべきであったか」 ※外伝『砂上の楼閣』参照
負け惜しみとも取れない、口角をあげ憎憎しげな口元を隠そうともしない蒯越に対して
「やはりな・・・ 張勲にしてはやけに強欲な事だなと、少しオカシイ気はしたのだよ
弱肉強食が罷り通る世の中だ こちらが惨敗という弱みを見せたがゆえかと、無理やり納得していたのだが・・・
袁術が我々に協力的でなかった裏に、やはり貴様が一枚噛んでいたのか ※外伝『砂上の楼閣』参照
もしかしてここは、貴様の頭脳の詰めの甘さに、天へと感謝を捧げるべき所であったか?
冥琳の口角を上げニヤけた顔が美しくもあり、それと同時に背筋がゾッとするほどの寒気と恐ろしさに襲われる
これはとても敵わぬ・・・ 咄嗟に近くにあった大岩へと姿を隠し
岩へと深く背をもたれかけ、冥琳の様子を注意深く窺う蒯越だったのだが・・・
「貴様が何をしたいのか判らぬが、大岩なんぞに姿を隠し、得意の小細工を弄しても無駄だぞ?」
冥琳は話している合間にも、尚も歩みを止める事無く蒯越が潜む大岩へと近づいてきている
蒯越は護身用にと、いつも毒を仕込んだ暗器を衣服の袖に仕込んでいたのだが
逃亡ゆえに手軽さ重視にしており、手持ちの仕込み杖などでは
冥琳と対峙するには、実に心許ない武器ばかりであった
暗器の毒矢だけが拠り所、いざ戦闘へそう考えていた矢先
大岩の上から蒯越の首元へと白虎九尾の鞭が絡まり、意に沿わず宙へと身体が引き上げられるのを感じたのである
(あの鞭の長さ的に絶対にありえない! 私の首に巻きついているだと!? そんな馬鹿な!?)
鞭が首へと絡まり、息が続かない、空気が欲しい!その苦しさから逃れたい!一身で
白虎九尾の鞭がこれ以上首を締めつけぬよう、必死に足掻き抵抗を試みるものの・・・
そのまま宙へと吊り上げられた状態で、2分も抵抗すれば、口から泡を吹き、足をジタバタさせ尚も抵抗を試みたものの・・・
蒯越の意識はどんどんと遠くなり、冥琳に対して何も抵抗できぬまま絞殺され、遂には動かなくなってしまうのであった
蒯越が見切れなかった白虎九尾の武器の秘密一端
一見2mほどの1本の鞭がしなり、曲線や弧を描いていたかのように見えるのだが
じっくり鞭を検分すれば判るのだが、実は螺旋状にして一本へと束ねられている鞭なのである
白虎九尾の螺旋の鞭を完全に伸ばした場合、実に倍の長さにまで楽々と伸ばせるのである
相手に間合いを悟らせず、惑わせ狂わせる事、それこそが白虎九尾という武器の特性なのである
「此度は晋と劉琮軍との関係性という動かぬ証拠を握り、晋に対し揺さぶりをかける腹積もりであったものを・・・
それにしても、要らぬ事だけは良くキャンキャンと吠える五月蝿い犬であったな
まぁ~ 此度に関しては、こ奴の首を取れただけでも良しとしよう
あの時”選択を間違えた”愚かな犬の最後の死に場所としては実に相応しかろう? ※外伝『砂上の楼閣』参照
主であった劉表と共に、あの世で永遠に後悔してるがいいさ」
休息に血の気を失くし冷たくなっていく蒯越の骸に、そう冷たく言い放ったのであった
「冥琳さま、蒯越の首いかが致しましゅか?」
気配や音もなく、容易に自身の傍に近寄っている瑠璃に対し
もう明命や思春と遜色ないのやも知れぬなと、素直にそう感じた冥琳は
「此度の蒯越の追跡と案内、実に大儀であった瑠璃
陛下には瑠璃の此度の働き、きちんと報告しておくからな」
そう冥琳に評価され瑠璃は去り際、頬を少し赤らめこくっと頷き冥琳と正視すると
先ほどより表情が豊かで和らいでいるように見えた
「フッ 斥候時に見せる表情とは違い、相変わらず噛み噛みな所も実に愛らしくかわいいものだ
私には生憎とおらぬが、妹とはああしたものやもしれぬな
一刀が可愛がる理由も今なら解る気がするな」
瑠璃が足早に南の襄陽方面へと走り去るのを見届け
瑠璃もあんな表情をみせるのだなと、ふと感じた思いに含み笑いをし終えると
蒯越の首をだけを手にし、瑠璃が走り去った方向とは反対となる、霞が占領した新野へと足を向け始めた冥琳でありました
蔡瑁、蒯越共に捕え、建業にて公開処刑し、溜飲を下げるのが理想だったのであろうが
その後見せしめの為、冥琳は持ち帰った塩漬けされた蒯越の首を建業へと送り
蔡瑁の首と共に掲げられ、広場にて孫呉の民に公開されることとなった
「ふむ 蔡瑁の事よくやってくれた 鄧艾、 ・・・して? 蒯越はその後どうなった?」
襄陽から受けた命を遂行し、無事帰還を果たした鄧艾
易京にある自身の執務室にて、普段通り黙々と政務に励む司馬懿
当然の事ながら、孫呉とは対照的に褒められるなどということは有り得る筈もなく
主従の関わり方は以前と変わる事はなく、鄧艾は淡々と司馬懿へ事の経緯をつぶさに語り出したのである
「・・・おそらく蔡瑁への自害への疑心はあれど、証拠となる書簡全てを処理致しましたゆえ
今後その件で公の場にて揺さぶられることはないかと・・・
ただ使用した火薬兵器から見当から、もう我らが関与したことは覚られているモノと・・・」
鄧艾自身の推測も交え述べてみせたものの・・・
「フッ 良くやってくれた それで構わん どうせ次の曹操との決戦でも”アレ”を使用するつもりなのだ
阿呆か馬鹿でもないかぎり、我らが関与したことは事実として知れ渡る筈だ
要は外交の使者という名のハエが嗅ぎ付け、ブンブンと五月蝿く飛び回り
曹操との同盟を盾にして、決戦に横からしゃしゃり出て助勢されければそれでいいのだ」
司馬懿としては、鄧艾の推測も許容範囲だったようで、要は此度の時間稼ぎに関与した証拠を握られた上で
冥琳の意を受けた紅に、外交という公の場にてチクチクと横槍を入れられ、何かと動き回られる事を嫌だったようだ・・・
その1つが、近々控える曹操との決戦への横槍を警戒しての言に現れていた
「関与の直接証拠となる書簡は、全て持ち帰り焼却しました故、安心なされてよろしいと思いますけれど・・・
ただ蒯越様の件に関してですが、油断ならぬ孫呉の斥候の者が後を着けてましたゆえ
部下に任せ遠巻きに見届けさせておりましたが・・・
私が到着した時にはすでに、首なき胴体だけの骸の状態でございました 本当に申し訳ございませぬ・・・」
蒯越を救えなかったのは、さも自身の不手際であると、主である司馬懿へそう報告してみせた鄧艾であった
「ふむ そうか・・・ お前が謝るほどのことではない 十常侍の命を受け会って一目で、我と同じ闇を持つ者と判ったからな
もう少し孫呉をいたぶる駒として使えるかと踏んで、此度戯れに救ってみる気になったのだが・・・
そうか死んだか・・・ 死んだならそれまでの男、別に構わん」
軍師の1人として名を馳せた蒯越とて、司馬懿が抱く絶望の闇に到達出来るほどの者ではなかったということである
傍近くに仕える鄧艾は知っている、司馬懿の心の闇に変化を与えられる人物は
1人は息子である司馬師、妻の張春華、最後に敵である北郷一刀、以上の3名である
前者に挙げた2人に関しては、部下である鄧艾が関係性を嫉妬することすらおこがましい
けれど、敵である北郷一刀と司馬懿様との間に、一体何があったといのだろうか?
いや、司馬懿様だけでなく、息子であられる司馬師様ですら
父であられる司馬懿様以上に、北郷一刀へと敵意を剥き出しにされているのを、鄧艾は不思議に感じていた
そうした疑問は、司馬懿の走狗として働き始めた早くから、疑問に思っていたことでもあった
司馬懿様達は、天の御遣いである北郷一刀に拘り過ぎではないのか?
あんな阿呆の袁術にこき遣われている孫呉に仕えている者など、実力などたかが知れている
司馬懿様の見立て違い・・・などと、当初は愚かにも何度となくそう感じていた
しかし大陸の情勢が刻刻と動くにつれ、孫呉は時流にものり頭角を現し始めると
次に袁術からの独立を果たし、呉へと進軍を開始、最大の障壁と目されていた山越と同盟を結び取り込んでみせた
そうして呉の地盤を磐石なものにすると、それからは、南荊州、豫州、北荊州へと次々に進軍
後漢王朝の権威が衰退する中で、逆に日増しに孫呉の力が強大となると、この大陸に住まう誰が当初想像し得ただろうか?
司馬懿様も、当初は十常侍や曹操という大樹の陰に隠れ、北郷一刀打倒への野望を影にて進めておられた
だが孫呉の余りの強大さと領土の拡張の速度ゆえに、本来敵である筈の曹操であってもこれを無視できず
あろうことか、愚かにも劉備も交えて、3国による軍事同盟を結んでしまうに到ってしまった
これは司馬懿様にとって、想像の埒外の出来事ではないか?と鄧艾は考えている
このまま曹操に従っていては、孫呉に戦で敗北するか降伏するかの2択であり
司馬懿様の打倒北郷一刀という望みは、曹操軍に属していては到底叶えられないと感じられたのだろう
だからこそ、公孫賛との戦いの合間をぬって、北方が荒れた好機を生かし、急ぎ独立へと動き出したとみていた
鄧艾自身の働きは、司馬懿へのひいては晋建国の一助ともなり、一連の流れに満足してはいるものの・・・
現時点で晋が孫呉と対峙できるのか?と客観的に分析してみても、経済、軍事面全ての面において
詳細に疎い鄧艾から見ても、晋は到底孫呉に歯が立たないと容易に断言できた
経済、軍事両面において、今も尚拡大してみせる孫呉という勢力だけが持つ異常性を感じていた鄧艾である
しかし、洛陽以下、許昌、陳留、徐州を制している曹操を仮に降す事が出来れば
河北、中原の殆どを手中にした晋であるならば、孫呉に対抗する手段、方法もまた出てくると思っている
だがそんな鄧艾の考えなどは、司馬懿にとって全て予定調和であり、もうすでにお見通しの事なのであろう
孫呉の拡大を抑制しつつ、晋が河北から中原を制するまでの時間があるかどうか、そこに全てが懸かっていた
だからこそ、蔡瑁という取るに足りない極潰しを利用してまでも
”鉄砲”を提供するという危ない橋を渡ってまで、孫呉に力を蓄えさせぬよう、時間稼ぎをしてきたのだ
その自身の苦労もやっと報われる・・・
司馬懿との会話中でありながら、その後の事又孫呉との戦いを想像し、ついつい笑みが自然と零れてしまう鄧艾
「どうした? 鄧艾 何やら嬉しそうだな」
敬愛する司馬懿に、自身の思考に耽っていた事を指摘され
珍しく頬を赤らめ紅潮させる鄧艾であったが
「いえ! 漸く刻が来たと思いまして・・・ この曹操との決戦に我ら晋が勝てば・・・ そう思うと自然に・・・」
自身の思考を中断させ、正直に気持ちの高ぶりを司馬懿へと吐露した鄧艾に対して
「ふむ・・・そうだな すべては曹操を倒した時から、晋は漸く大陸に属する一大勢力として、名を残し始まりを迎えることとなるだろう
これなくして北郷一刀を倒すことなど有り得んし、夢のまた夢で終わろう 鄧艾、お前の働きに今後も期待している」
「ハッ! 鄧艾に全てお任せあれ!」
頼みにしているとの司馬懿の言葉に感極まった鄧艾は
気合の篭った声を司馬懿へと発し、決意を新たに、来るべき曹操との決戦へと望むのでありました
麗羽vs白蓮、白蓮vs華琳との間で、河北にて激しい戦闘が繰り広げられた事は、まだ記憶に新しい
だが孫呉が北荊州を制するのに要し費やした3ヶ月という期間に、河北でも熟したという事の証なのだろうか
孫呉が晋へ与えてくれた期間は、僅か3ヶ月余りであったものの・・・
この僅かな短期間の内に、易京・襄平を制し建国し、次なる戦へと体制を整え終えた晋の視線の先には
魏の支配する許昌、洛陽、徐州を始めとした中原にある諸都市
司馬懿は打倒・北郷一刀という野望へと牙を剥き、この後河北・中原の地を制する動きを遂に本格化させていったのである
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●『真・恋姫†無双 - 真月譚・魏志倭人伝 -』を執筆中
※本作品は【お気に入り登録者様限定】【きまぐれ更新】となっておりますので、ご注意を
人物設定などのサンプル、詳細を http://www.tinami.com/view/604916 にて用意致しております
上記を御参照になられ御納得された上で、右上部にありますお気に入り追加ボタンを押し、御登録のお手続きを完了してくださいませ
お手数をおかけ致しまして申し訳ありませんが、ご理解とご了承くださいますよう、何卒よろしくお願いいたします<(_ _)>
■■■【オリジナル人物紹介】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
○孫堅 文台 真名は緋蓮(ヒレン)
春秋時代の兵家・孫武の子孫を称し、各地で起こった主導権争いに介入し
『江東の虎』の異名で各地の豪族を震撼させた
優秀な人材を率い転戦、やがて軍閥化し孫家の基礎を築いた
容姿:髪は桃色で、孫家独特の狂戦士(バーサーカーモード)になると、右目が赤色に変化するのが特徴で、平時は量目とも碧眼である
祭と同じく胸が豊満で背は祭より高い 体格は祭よりすこし大きい 顔立ちは蓮華というより雪蓮に似ているだろうか
○張紘 子綱 真名は紅(コウ)
呉国の軍師の一人で主に外交を担当。 魏の程昱(風)の呉版と考えていただけると理解しやすいだろう
『呉郡の四姓』と呼ばれる有力豪族の張氏の出 雪蓮直々に出向き、姉の張昭と共に臣に迎え入れられる
張昭と共に『江東の二張』と称される賢人
※史実では、呉郡の四性でも張昭と兄弟でもありませんのでお間違い無きように。。。
呉郡の四性の中で張温しか見当たらなかった為、雪月の”脳内設定”です
容姿は青眼で背丈は冥琳より少し低い 顔は姉の王林とは似ておらず童顔で人に安心感を与える顔立ちである
髪は腰にまで届こうかという長く艶やかに保った黒髪を束ね、ポニーテールと呼ばれる髪型にしている事が多いが
その日の気分により、長髪を肩辺りで束ね胸の前に垂らしている場合もあるようである
服装は藍色を基調とした西洋風ドレスを身を纏っている
○魯粛 子敬 真名は琥珀(コハク)
普段は思慮深く人当りも良い娘で、政略的思考を得意とし、商人ネットワークを駆使し情報収集・謀略を行う
発明に携わる時、人格と言葉遣いが変化し、人格は燃える闘魂?状態、言葉遣いは関西弁?風の暑苦しい人に変化する
このことから「魯家の狂娘・後に発明の鬼娘」と噂される
※穏(陸遜)は本をトリガーとして発情しちゃいますが、、琥珀(魯粛)は発明に燃えると・・・燃える闘魂に変身って感じです
容姿は真名と同じく琥珀色の瞳をもち、髪は黒で肌は褐色がかっており月氏の特徴に似通っている
背は明命と同じくらいで、服装は赤を基調としたチャイナドレスを身に纏っている
○張昭 子布 真名は王林(オウリン)
呉国の軍師の一人で主に内政を担当。 冥琳とはライバル同士で互いに意識する間柄である
『呉郡の四姓』と呼ばれる有力豪族の張氏の出 雪蓮直々に出向き、妹の紅(張紘)と共に臣に迎え入れられる
張紘と共に『江東の二張』と称される賢人
妹の紅は「人情の機微を捉える」に対して「政(まつりごと)の機微を捉える」という感じでしょうか
容姿は冥琳より少し高めで、紅と姉妹でありながら顔立ちが似ておらず、冥琳と姉妹と言われた方がピッタリの美人系の顔立ちである
眼鏡は使用しておらず、服装は文官服やチャイナドレスを着用せず、珍しい”青眼”でこの眼が妹の紅と同じな事から
姉妹と認識されている節もある 紫色を基調とした妹の紅と同じ西洋風のドレスを身を纏っている
○程普 徳謀 真名は楓(カエデ)
緋蓮旗揚げ時よりの古参武将であり、祭と並ぶ呉の柱石の一人 「鉄脊蛇矛」を愛用武器に戦場を駆け抜ける猛将としても有名
祭ほどの華々しい戦果はないが、”いぶし銀”と評するに値する数々の孫呉の窮地を救う働きをする
部下達からは”程公”ならぬ『程嬢』と呼ばれる愛称で皆から慕われている
真名は・・・素案を考えていた時に見ていた、某アニメの魅力的な師匠から一字拝借致しました・・・
容姿は祭と同じくらいの背丈で、端正な顔立ちと豊かな青髪をうなじ辺りでリボンで括っている
均整のとれた体格であるが胸は祭とは違いそこそこ・・・ちょっと惜しい残念さんである
○凌統 公績 真名は瑠璃(ルリ)
荊州での孫呉崩壊時(※外伝『砂上の楼閣』)に親衛隊・副長であった父・凌操を亡くし、贈った鈴をもった仇がいると
知った凌統は、甘寧に対して仇討ちを試みるものの・・・敵わず返り討ちにあう間際に、一刀に救われ拾われることとなる
以来、父の面影をもった一刀と母に対してだけは心を許すものの・・・未だ、父の死の傷を心に負ったまま
呉の三羽烏の一人として日々を暮らしている
容姿はポニーテールに短く纏めた栗色の髪を靡かせて、山吹色を基調とした服に身を包んでいる小柄な少女
(背丈は朱里や雛里と同じくらい)武器は不撓不屈(直刀)真名の由来で目が瑠璃色という裏設定もございます
○朱桓 休穆 真名は珊瑚(サンゴ)
『呉郡の四姓』と呼ばれる有力豪族の朱氏の一族
槍術の腕を買われ、楓の指揮下にいた 一刀の部隊編成召集時に選抜された中から、一刀に隊長に抜擢された『呉の三羽烏』の一人
部隊内では『忠犬・珊瑚』の異名がある程、一刀の命令には”絶対”で元気に明るく忠実に仕事をこなす
容姿:亞莎と同じくらいの背丈で、黒褐色の瞳に端正な顔立ちであり黒髪のセミロング 人懐っこい柴犬を思わせる雰囲気をもつ
胸に関しては豊満で、体格が似ている為よく明命から胸の事で敵視されている
○徐盛 文嚮 真名は子虎(コトラ)
弓術の腕を買われ、祭の指揮下にいた 一刀の部隊編成召集時に選抜された中から、一刀に隊長に抜擢された『呉の三羽烏』の一人
『人生気楽・極楽』をモットーにする適当な性格であったが
一刀と他隊長である珊瑚と瑠璃・隊長としての責に接していく上で徐々に頭角を現し
後に部隊内では『猛虎』と異名される美丈夫に成長を遂げていくこととなる
容姿:思春と同じくらいの背丈で黒髪のショートヘア 体格も思春とほぼ同じく、遠めからでは瓜二つである
二人の区別の仕方は髪の色である(所属部隊兵談) またしなやかな動きを得意としている為、思春の弓バージョンと言える
○諸葛瑾 子瑜 真名は藍里(アイリ)
朱里の姉 実力にバラツキがあった為、水鏡から”猫”と称される
その後、水鏡と再会時に”猫”が変じて”獅子”になりましたわねと再評価される
天の御遣いの噂を聞きつけた藍里が冥琳の元を訪れ、内政・軍事・外交とそつなくこなす為
未熟であった一刀の補佐にと転属させられる
初期には転属させられた事に不満であったが、一刀に触れ与えられる仕事をこなす内に
一刀に絶大な信頼を寄せるようになる
後に亞莎が専属軍師につくと、藍里の内政面への寄与が重要視される中で、藍里の器用な才を愛し、軍師としても積極的に起用している
容姿は朱里より頭一つ高いくらい 茶髪で腰まであるツインドテール 朱里とよく似た童顔でありながらおっとりした感じである
服装に関しては赤の文官服を着用しており、胸は朱里と違い出ている為、朱里とは違うのだよ 朱里とは・・・
と言われているようで切なくなるようである(妹・朱里談)
○太史慈 子義 真名を桜(サクラ)
能力を開放しない雪蓮と一騎打ちで互角に闘った猛者 桜の加入により瑠璃が一刀専属の斥候隊長に昇格し
騎馬弓隊を任されることとなった(弩弓隊・隊長 瑠璃→子虎、騎馬弓隊・隊長 子虎→桜に変更)
本来の得物は弓で、腕前は祭を凌ぎ、一矢放てば蜀の紫苑と互角、多矢を同時に放てば秋蘭と互角という
両者の良い処をとった万能型である
武器:弓 不惜身命
特に母孝行は故郷青州でも有名であり、建業の役人街が完成した際に一刀の薦めもあって一緒に迎えに行く
隊長として挨拶した一刀であったが、桜の母はその際に一刀をいたく気に入り、是非、桜の婿にと頼み込む程であった
容姿はぼん・きゅ・ぼんと世の女性がうらやむような理想の体型でありながら身長が瑠璃ぐらいという美少女系女子
眼はブラウン(濃褐色)であり、肩下までの黒髪 気合を入れる時には、白い帯でポニーテールに纏める
一刀の上下を気に入り、自身用に裁縫し作ってしまう程の手先の器用さもみせる
真剣に話している時にはござる口調であるが、時折噛んだりして、ごじゃる口調が混ざるようである
一時期噛む頻度が多く、話すのを控えてしまったのを不憫に思った為
仲間内で口調を指摘したり笑ったりする者は、自然といなくなったようである
○高順
「陥陣営」の異名をもつ無口で実直、百戦錬磨の青年
以前は恋の副将であったのだが、恋の虎牢関撤退の折、霞との友誼、命を慮って副将の高順を霞に付けた
高順は恋の言いつけを堅く守り続け、以後昇進の話も全て断り、その生涯を通し霞の副将格に拘り続けた
○馬騰 寿成 真名を翡翠(ヒスイ)
緋蓮と因縁浅からぬ仲 それもその筈で過去に韓遂の乱で応援に駆けつけた呉公に一目惚れし
緋蓮から奪おうと迫り殺りあった経緯がある
この時、緋蓮は韓遂の傭兵だった華雄にも、何度と絡まれる因縁もオマケで洩れなくついて回ることとなるのだが・・・
正直な処、緋蓮としては馬騰との事が気がかりで、ムシャクシャした気持ちを華雄を散々に打ちのめして
気分を晴らしていた経緯もあったのだが・・・当の本人は、当時の気持ちをすっかり忘れてしまっているが
この事情を孫呉の皆が仮に知っていたのならば、きっと華雄に絡まれる緋蓮の事を自業自得と言いきったことだろう・・・
○孫紹 伯畿 真名を偲蓮(しれん)
一刀と雪蓮の間に生まれた長女で、真名の由来は、心を強く持つ=折れない心という意味あいを持つ『偲』
”人”を”思”いやる心を常に持ち続けて欲しい、持つ大人へと成長して欲しいと2人が強く願い名付けられた
また、偲という漢字には、1に倦まず休まず努力すること、2に賢い、思慮深い、才知があるという意味もある
緋蓮、珊瑚、狼をお供に従え?呉中を旅した各地で、大陸版・水戸黄門ならぬ
”偲”が変じて”江東の獅子姫様”と呼ばれる
○孫登 子高 真名を桜華(おうか)
一刀と蓮華の間に生まれた次女で、子供の扱いが分らぬ蓮華の犠牲者1号となり
早々に侍従長の咲と思春の手により育てられることとなる
そんなエピソードがあるのにも関わらず、聡明な娘で人望も厚く育ち、王となってからは自身の才能をいかんなく発揮させる
一刀や蓮華に似ているというより、姉である雪蓮に似ているとの蓮華談有り
後年孫呉の王として、天皇となりし姉・偲蓮を支えることとなる
●その他武将
蒋欽ー祭の副将、董襲ー楓の副将
歩シツー珊瑚の副将、朱然ー昔は瑠璃、現在子虎の副将、丁奉ー昔は子虎、現在は桜の副将 周魴ー瑠璃の副将
○咲
母娘共に侍従長として、長きに渡り孫呉に仕える 月、詠の上司に当る
主な著作に侍従長はみたシリーズがある
○青(アオ)
白蓮から譲り受けた青鹿毛の牝馬の名前
白蓮から譲られる前から非常に気位が高いので、一刀以外の騎乗を誰1人として認めない
他人が乗ろうとしたりすれば、容赦なく暴れ振り落とすし蹴飛ばす、手綱を引っ張ろうとも梃子でも動かない
食事ですら・・・一刀が用意したモノでないと、いつまで経っても食事をしようとすらしないほどの一刀好き
雪蓮とは馬と人という種族を超え、一刀を巡るライバル同士の関係にある模様
○狼(ラン)
珊瑚の相棒の狼 銀色の毛並みと狼と思えぬ大きな体躯であるが
子供が大好きでお腹を見せたり乗せたりする狼犬と化す
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【あとがき】
常連の読者の皆様、お初の皆様 こんばんは 雪月でございます
いつも大変お待たせし、お世話になっております
随分と駆け足で長々とした文章となってしまいましたが、因縁深き劉表一家との戦いの決着を漸くつけることが出来ました
先にお知らせ致しました通り、第4章となる次回更新予定は、1ヶ月後となります【10月初旬頃】の予定でいます
訂正事項)上記に第4章へなどと錯乱し、カキコ致してしまっておりますが
正確には第3章拠点話を終えてからになります 誤解を招きましたことお詫び申し上げます<(_ _)>
蔡瑁が死亡した真相を明かす話辺りから、本来その参(戦のその後)としてカキコする予定だったのですが・・・
制作期間が押してしまったこともあり、その参無しで決着とつける格好となってしまいました OH! NOぉぉーーーー!!
その他にも、今回朱里や雛里、藍里の師匠である水鏡先生に、少しではありますが御登場戴きました
といいますのも、今後作成予定であります藍里の拠点話にて
藍里の注釈に記していたこともありまして、水鏡先生の出番を作りたいと思っていたからでもあります
またぶっちゃけますと、今回の一刀の水攻め案、実は当初の計画では長沙城にて実行しようと計画していたのですが
長沙制するのに時間がかかると、南荊州全体を制するのにもっと時間が費やされる点
紫苑や璃々ちゃん相手にやるのもどうかと、制作者の気がひけ乗らなかったというのが理由であります
水攻めに際して、もっと飢餓に苦しむ描写をすべきかどうかも悩んだのですが、一番ソフトな感じにし
締めにてその分、蔡瑁さん自殺偽装、蒯越さん窒息死、冥琳さんマジカオス。。。
といった具合に、殺伐感を漂わせた感じに仕上げております
それと冥琳の白虎九尾の武器の特性に関しまして、”全て私の創作設定”ですので!
公式をいくらみても探しても、そんなの書いていませんからね? ご注意下さいませ
最後に司馬家を出し次回予告とさせて戴きましたが、”次回の更新から新章”となり、もう一度河北へと飛ぶことになります
華琳vs司馬一族の河北・中原を賭けた決戦模様を、短くはありますが気分も新たに描いて参りたいと思っておりますので
今後とも皆々様御支援のほど、何卒よろしく御願い致します
長雨や雷雨・台風にて、洪水や土砂災害が多いですね
またこの茹だるような40度近い暑さと、体調管理が難しい時期が続きますけれど
皆様が無事健康で過ごされますようお祈りしております
これからも、皆様の忌憚のない御意見・御感想、ご要望、なんでしたらご批判でも!と何でも結構です
今後の制作の糧にすべく、コメント等で皆様のご意見を是非ともお聞かせ下さいませ
それでは完結の日を目指して、次回更新まで(´;ω;`)ノシ マタネ~♪
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常連の皆様&お初の方もこんばんは いつもお世話になっております
この作品は真・恋姫†無双・恋姫†無双の2次創作となっております
主人公は北郷一刀 メインヒロインは雪蓮と蓮華と仲間達でお送りしております
※猶、一刀君はチート仕様の為、嫌いな方はご注意を! ※オリキャラ紹介は本文下記参照のこと
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