No.709399

ソードアート・オンライン アクチュアル・ファンタジー STORY21 What your name ?

やぎすけさん

久しぶりの挿し絵付きです

2014-08-17 13:05:01 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1226   閲覧ユーザー数:1196

STORYXXI What your name ?

 

 

 

 

デュオ視点

建物内部に入った俺たちは、やや入り組んだ廊下を進む。

途中で鎧騎士が迎撃に出てくると予想していたが、そんなことはなかった。

というのも、その鎧騎士たちは既に残骸となって目の前に転がっていたのだ。

何者かと交戦したらしく、鎧の周りには所々に弾痕が穿たれ、大理石の壁や床には何か巨大なもので斬り裂いたような痕も見受けられる。

それらは見るも無残な有様だった。

あるものはランスによって壁や床に縫い付けられ、またあるものは盾ごと両断されている。

俺たちはそれらの横を通り過ぎ、廊下を疾走し、階段を駆け上がる。

しばらく突き進んでいくと、行く先に扉が見えてきた。

構わず突進していき、勢いそのまま扉を蹴破って中へ飛び込む。

そこに広がっていたのは、絨毯が敷かれた大きな部屋だった。

100㎡は下らないであろうその部屋には、四隅に大理石の柱がそびえ立ち、中央は他より一段高く台座のようになっている。

その台座の四隅にも細い柱があり、天井とは別にある台座の屋根を支えている。

その内の1つに、何者かが寄りかかっていた。

 

?「遅かったな」

 

黒いシャツに青っぽいジーンズパンツ、その上に藍色のロングコートを纏い、顔にはゴーグルに似た形状の仮面をつけた黒髪の男。

間違いなく、聖堂で教皇を殺害したあの男だ。

柱に立てかけるようにして置いてある大振りな直剣を右手で掴んだまま、半ば独り言のように呟いた男は、柱から身を離して俺たちに向き直る。

 

 

デュオ「今さら何の用だ?悪いがこっちは急いでるんだ」

 

反射的に抜剣しそうになるのを堪え、俺たちは男の横を素通りしようとした。

だが、背後から肩を掴まれ、そのまま抗えない程の力で無理矢理振り向かさせる

 

?「じゃあ単刀直入に言おうか。その剣を渡してくれ」

 

そう言った男の視線は、キリトの持つ黒い剣に向けられていた。

俺とキリトは男の手を強引に振りほどき、入ってきた方に退がって剣に手を掛ける。

 

?「仕事の都合上、必要になってくる(もの)でね。おとなしく渡すなら見逃してやるよ“キッズ”」

 

デュオ「キッズか・・・甘く見られたもんだ」

 

この男の持つ、全てを知っているかのような余裕たっぷりという感じの態度にイラつきながらそう返し、俺たちは同時に抜剣して身構えた。

その様子に、男は口笛を鳴らす。

 

?「なるほど、渡す気は無いか。なら仕方ない」

 

男は手にした剣を持ち上げて肩に担ぐと、こちらに手を差し出して手招きする。

 

?「力ずく、ってのも別に嫌いじゃないからな。1つ手合せと行こうか」

 

デュオ「あまり時間をかけるわけにはいかない。一気に決めるぞキリト!」

 

キリト「わかってる!」

 

キリトは左手側の剣を抜き、右手の黒い剣を思い切り床に突き立てた。

 

キリト「ユージオ!アリス!」

 

叫び声に呼応して、剣を中心に青い魔方陣が展開。

そこから飛び出した青銀と黄金の人影がキリトの左右に並び立つ。

キリトの召喚獣【アリス&ユージオ】だ。

 

キリト「今すぐ退け!」

 

?「退かして行けよ。ブラックボーイ(黒い坊や)

 

現れたユージオたちに驚くこともなく、男は手招きして挑発してくる。

 

デュオ「後悔するなよ」

 

腰から銃を抜き、牽制に2、3発見舞う。

男は顔を傾けるだけで飛来する弾丸を易々と避けるが、そこへキリトが右斬り上げで追撃。

 

?「おっと?」

 

しかし男は上体を反らすことでキリトの斬撃を紙一重で躱す。

次の瞬間、キリトが放った斬撃の軌跡を辿るようにして、男の後ろにあった柱が切断された。

 

?「おぉ・・・?」

 

キリト「ちっ・・・!」

 

感心して声を上げる男に、キリトが舌打ちする。

すぐさま右の剣を返して引き戻しつつ、左手の剣を振り下ろす。

殺到する二段攻撃に、男は大きく後ろに跳躍した。

 

キリト「アリス!!」

 

アリス「えぇ!!」

 

宙を一回転しながら舞う男にアリスが剣の切先を向け、

 

アリス「エンハンス・アーマメント!!」

 

剣の能力を解放する。

叫び声とともに吹き荒れた金色の花弁が、滞空する男に襲い掛かった

 

?「甘いぜ嬢ちゃん」

 

男はゆっくり背中に手を回して長剣抜き、水平に構えた。

次の瞬間、

 

?「センチュリオン!」

 

あり得ない速度で、連続突きが打ち出される。

それは人間の域を明らかに超えた動作だった。

あまりの速さにシステムがついていけないのか、残像で剣が数十本の束になったかのようになり、それらが正確に花弁を弾き返す。

 

アリス「なっ・・・!?」

 

これにはさすがのアリスも驚愕し、表情が凍りつく。

それに同調して花弁の動きも鈍ってしまった。

 

?「今度はこっちの番だぜ」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、男は剣を引き戻して構えた。

その瞬間、男の剣が緑色の光を帯び始め、同じく緑のプラズマを迸らせる。

光が刀身を完全に包み込んだ段階で、引き絞るように構えていた剣が振り上げられた。

 

?「Blast(ぶっ飛べ)!」

 

剣に圧縮されたエネルギーが凄まじい剣風と絡み合い、巨大な衝撃波となってアリスに向かう。

回避するには遅過ぎると踏んだアリスは、花弁となっている刀身を集め、自分の前に円形の盾を形成した。

ギリギリで形成された盾に、エメラルドグリーンの衝撃波が激突し、部屋全体に振動が走る。

 

アリス「くっ・・・!ぐわっ・・・!!」

 

アリスはどうにか踏ん張って堪えたが、防ぎ切れなかった衝撃で膝を付いてしまい、金色の花弁も激突の勢いで全て壁に食い込んでいた。

無数の穴を穿たれた壁から、パラパラと石の破片が落ち、周囲には埃が立ち込める。

 

ユージオ「エンハンス・アーマメント!!」

 

突然、ユージオの声が響き渡った。

次いで空気が肌を刺すような冷気を帯び、周囲からピキピキとひび割れるような音が聞こえる。

一瞬にして床が凍りつき、そこから溢れた霜の波が男の着地点まで達した。

 

ユージオ「咲け―――青薔薇ッ!!」

 

広がるだけだった霜の波がユージオの言葉によって停止、そこから真上にいる男目掛けて氷の蔦を伸ばす。

 

?「おっと、こりゃすげえな」

 

ユージオの放った氷の茨に感嘆の声を上げた男は、抵抗する様子もなく着地。

伸びてきた氷の蔦に足を絡め取られる。

 

?「ぬおっ・・・!? 」

 

一瞬で膝まで氷づけにされ、身動きが取れない男がバランスを取ろうと上体をふらふらさせる。

 

ユージオ「キリトッ!!デュオッ!!」

 

キリト&デュオ『任せろ!!』

 

ユージオの鋭い声が響き、俺たちは全く同じ動作で駆け出す。

 

?「冷てぇ・・・ペンギンかシロクマの気分だな」

 

凍り付いていく自分の体を見ながら、男は呑気に呟く。

しかし、俺たちがあと約5mというところに迫った時、不意に男が顔を上げた。

 

?「だが、詰めが甘い」

 

そう言って男が剣を背中に戻して身構える。

男の眼が一瞬だけ鮮血の如く紅くなったと思った次の瞬間、迸った真紅の電撃が男の体を覆っていた氷を吹き飛したのだ。

驚く間もなく、前方に跳躍して迫ってきた男がキリトの襟首を掴む。

そのまま上体を捻り、ユージオ目掛けてキリトを投げ付けた。

投げ飛ばされたキリトが、床に剣を突き立てたままのユージオに激突して、その場に縺れるようにして倒れる。

俺が反応出来たのは、それら全ての動作が終わった直後だった。

あまり速さに、脳の処理が追いつかなかったのだ。

 

デュオ「ぜいあぁぁぁ・・・!!」

 

反射的に振り被った剣を横薙ぎに振るう

振り向き様の一閃を、男は苦も無く打ち上げて捌き、お返しとばかりに剣を叩き下ろしてきた。

どうにか引き戻した剣でそれを受け止めるが、同時に全身が振動し、関節が軋む。

鍔迫り合いの格好になった俺に、男が話しかけてくる。

 

?「さすがだ、ブラッド・キッド。やっぱ俺よりバトルセンスは高いな」

 

デュオ「どの口が・・・言ってやがる・・・」

 

何とか言い返すが、切れ切れに言うのがやっとのこちらに対して、まだまだ余裕たっぷりといった男の様子に嫌でも冷や汗が出る。

 

 

?「俺は結構マジで言ってるぜ。まぁ、信じる信じないは坊やたちの勝手だがな」

 

デュオ「そうかよ・・・」

 

?「俺は、他人の自由にはあまり口出ししない主義でね。それより“ブラッド・キッド(深紅の坊や)”、少し退いてな」

 

ほんの少し剣を引き戻され、拮抗が崩れた瞬間、腹部を重い衝撃が貫いた。

視線を落とすと、男の拳が俺の腹部に食い込んでいる。

拳を叩き込まれたことで吐き気を催し、胃液が喉まで上がってくる。

 

?「吐くなら、人前ではやるなよ」

 

続いて回し蹴りがみぞおちに入り、衝撃で大きく吹き飛ばされた後、床に転がった。

無様に床を転がりながら、俺は周りの様子を確認する。

膝を付いて倒れているユージオとアリスの横で、キリトが剣を左肩に担ぐように振り被っていた。

あれは間違いなく、旧SAOでキリトがよく使っていた単発重攻撃“ヴォーパル・ストライク”の構えだ。

残念ながら、ここはSAOではないためシステムアシストの恩恵は受けられないが、その分硬直時間も発生しないので使う価値は十分にあるだろう。

しかし、ここで俺の予想していたことは裏切られる結果が起きた。

構えていたキリトの剣からジェットエンジンめいた金属音とともに、赤い光芒を伴った突きが発動したのだ。

それはまさしく、SAO時代のソードスキルそのもの、完全なソードスキルである。

発動したキリト自身もかなり驚いたようだったが、すぐに表情を強張らせて男を見据える。

 

?「ほう。それが坊やの得意技(必殺技)ってやつか。なら俺も受けて立つとしよう」

 

そう言って男も、キリトと同じくヴォーパル・ストライクの構えに入る。

だが、こちらはシステムアシストが発動していないらしく、剣にライトエフェクトは発生していない。

ブーツが床を蹴る硬い音とともに、キリトが勢いよく飛び出した。

すると男も床を蹴り、突っ込んで来るキリトに正面から突っ込む。

2人の距離が一気に狭まり、そして技と技が真っ向から交差した。

切先を掠めた剣がゆっくりと左右に逸れ、互いの主を徐々に引き離す。

ほぼ同じ動作で、剣士と暗殺者が交差する。

普通ならばここで2人とも逆方向に走り抜けて、振り出しに戻る格好になるだろうが、ここでの2人には決定的な差があった。

システムアシストだ。

キリトがシステムアシストによって達している動作を、この男は自力で行っている。

それはつまり、キリトはシステムのせいで不可能となっている自由な動作がこの男には出来るということだ。

予想通り、男はキリトの横を通り過ぎる瞬間に、キリトに足を掛けて同時に背中を押す。

それによってバランスを崩したキリトは、半ば滑るようにして床に倒れる。

一方で、キリトを押し倒した勢いを使って反転した男は、ゆっくりとキリトに向かって歩み寄った。

すぐに起き上がろうとするキリトだったが、体を反転させたところで右手首を踏まれ、さらに首筋に剣を突き付けられた。

 

?「勝負ありだな」

 

完全に動きを封じられたキリトは、もはや満身創痍といった様子で抵抗しようとはしなかった。

俺自身も、先程受けた体術の影響で体が全く動かない。

俺たちは完全にこの男に負けた。

そう認識したところで、ユージオとアリスが光に包まれて消えていった。

どうやら、召喚しておける時間が切れたらしい。

 

?「何か言いたいことはあるか?」

 

息切れすらしていないこの男は、軽く首を傾げながらキリトに問い掛ける。

負けを認めたキリトは男から視線を逸らして、確認するように言った。

 

キリト「殺す気は無いって表情(かお)だな・・・」

 

?「そりゃな。坊や相手に手加減しないなんて、大人気無いだろ?」

 

そう答えた男はキリトの拘束を解き、引き戻した剣を肩に担いで話し始めた。

俺は上体を起こしたキリトの横に歩み寄ってから、男の話に耳を傾ける。

 

?「坊やの使ってるその黒い剣は“ウィアード・アーティファクト”って言う武器の1つでね」

 

男は近くにあった台に腰を下ろし、キリトが握り締めている剣を顎で示した。

 

キリト「“ウィアード・アーティファクト”?」

 

?「このゲームをクリアするのに必要になる武器(しろもの)だ」

 

デュオ「ゲームクリアに!?」

 

男が口にした意外な一言に、俺は思わず声を上げる。

 

?「そうだ。そんな大切なものだから、ゲームクリアを目指してるこっちとしては集めておきたいってわけだ。まぁ単純に、強い上にデザイン性も高いから欲しいってのもあるがな」

 

片手で剣を弄ぶ男は、ついでとばかりに付け加えた。

 

?「というわけで、わかってもらえたなら、素直に渡して欲しいんだが」

 

確かにゲームをクリアするための必需品であるならば、俺たちよりも強いこの男に預けた方が賢明かもしれないが、これがないとなればアスナを救うことは難しくなる。

それはキリトも同じ考えなのだろう。

先程から漆黒の刀身を見つめるだけで、剣を握る手を放そうとはしない。

 

キリト「必要なんだ・・・どうしても・・・」

 

キリトは右手で握った黒い剣を見つめたまま、懇願するように静か言った。

そんなキリトの様子を伺っていた男は、やがて苦笑交じりに、

 

?「・・・なら持ってけ」

 

と言った。

驚いた俺たちは、思わず見開いた目を向ける。

 

キリト「持ってけ、って・・・」

 

?「言っただろ?他人の自由にはあまり口出ししない。俺も少し気が変わった。坊やたちの用が済むまでは預けておいてやるよ。俺は気まぐれなんでな」

 

何か返そうと口を開きかけるが、何と返して良いかわからず口を噤む。

逡巡する俺たちに対して、男は親指で出口を指差す。

 

?「行けよ。急いでるんだろ?」

 

互いの顔を見合わせた俺たちは剣を収め、ゆっくりと歩き出した。

無言のまま男の後ろを横切って、そのまま出口を目指して進む。

 

?「Hey」

 

突然呼び止められて足を止めると、男はそっぽ向いたまま振り返らずに

 

?「What your name(名前は) ? 」

 

と、予想外な言葉を吐いた。

 

キリト「キリト」

 

デュオ「デュオ」

 

驚きつつ名乗ると、男は、

 

?「そうか。俺はベリルだ。よろしくな、坊やたち」

 

と笑った。

俺たちは何も言わず、ベリルと名乗った男に見送られながら出口へと進んだ。

 


 
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