No.706073

天馬†行空 四十三話目 起ち上がる者達

赤糸さん

 大変長らくお待たせしました。

 真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
 のんびりなペースで投稿しています。

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2014-08-04 00:00:29 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:6296   閲覧ユーザー数:4295

 

 

 荒野に三千程の軍が佇んでいる。

 その先頭には、悄然としてうつむく淡い緑髪の少女がいた。

 幅広の大刀を力なくぶら下げ、生気のない目で北の方角を見詰めている。

 砂塵と血に汚れ、金の光沢も薄れてしまった鎧の集団。

 袁紹軍の二枚看板、文醜こと猪々子とその部隊は今、鄴へと撤退する本隊の殿として戦場に残されていた。

 先の戦いで五つの陣を奪回された事、そして今回の戦で敗退したのみならず斗詩を失った事。

 度重なる失態に、取り巻きの自称名士達の言を容れた麗羽は猪々子を見限ったとも取れるこの命を下した。

 

「…………」

 

 だが、今現在置かれた苦境すら猪々子には気にならない。

 俯いたまま、彼女は差し伸べた手を取らなかった親友のことだけを考えていた。

 

 ――どうして斗詩は自分の手を取らなかったのだろう?

 ――どうして姫はあんな連中の言うことばかり聞くようになったのだろう?

 ――どうして――――自分の愛するいつも通りの日々は狂ってしまったのだろう?

 

「ああ……そっかぁ……」

 

 地平線をぼんやりと眺めたまま、猪々子はぽつりと呟いた。

 斗詩は大分前から言ってたじゃないか、今回の戦を軽く考えちゃダメだって。

 姫やあのいけ好かないジジイ共は笑って取り合おうとしなかったけど、何故か斗詩だけは真剣だった。

 そんな親友の様子を見て自分はどうしただろう? ――そうだ、自分は。

 

「――あたいも、笑ってたんだ」

 

 なんとかなると――そう、軽く考えていたのだ。

 麗羽と同じで、斗詩はなんて心配性なんだろうと笑い飛ばしていた。

 

「そうだ……その時からだったんだな」

 

 だが、それでも斗詩は自分や麗羽、周りの者達に訴え続けた、公孫賛の軍を侮ってはならないのだと。

 

『斗詩さん? 貴女それでも名族袁家の将ですの?』

『顔将軍は戦の前から臆病風に吹かれたと見えますなぁ』

『将がこれでは兵の士気にも係わりますな』

 

 その度に嘲笑を浴びせられ、そしていつしか斗詩は酷く冷めた目で麗羽と自分を見るようになった。

 猪々子はそれを深く考えなかった――戦に勝てば、何時も通りに戻るのだと考えたのだ。

 

「ごめんな……」

 

 手綱を握る手の甲に、ぽたりと雫が落ちる。

 

「ごめんなぁ…………斗詩ぃ」

 

 とめどなく落ちる涙が地に斑模様を描く。

 

「将軍、敵が来たようです」

 

 悔やんでも、もう戻らない友を想い慟哭する猪々子に部下が申し訳なさそうに声を掛ける。

 ぐす、と洟を啜り上げると猪々子は目元を拭い、真っ直ぐ前を見据えた。

 地平の彼方に幽かに見えるは『公孫』の旗を掲げる軍の姿。

 泣き腫らした目で――それでも確りとした視線を突き刺す猪々子は、愛刀を握る手に力を籠めた。

 

(今更だけど…………斗詩、あたいはもう間違わないよ。だから――)

 

「本隊が退却するまで時間を稼ぐ! 多少は通しても良い、動き回って撹乱するぞ!」

 

 先程までの小さな背中とはうって変わり、凛とした空気を発する猪々子の姿に付き従う兵達は驚く。

 

「本隊が城に入ってしまえば騎兵が主力の公孫軍は攻め手に欠ける! だから、あたい達がやるのはそれまでの時間稼ぎだ! 解ったら、あたいに続けぇっ!!!」

 

『応ぉぉぉぉっ!!!!』

 

 あくまで敵軍を見詰めたまま檄を飛ばす猪々子の背中を見た兵達は、雰囲気の変わった主の声に火を点けられたのか割れんばかりに鬨の声を上げた。

 

 

 

 

 

 ――所変わって寿春。

 

 孫策を先鋒として徐州に侵攻した袁術軍だが、突如として孫策が反旗を翻し、劉備軍と共闘。

 構わず数の差で圧倒しようとした袁術軍だったが、軍を率いる将と兵の質に圧されて敗北する。

 双方入り乱れた乱戦の末、本陣深くまで斬り込んで来た孫策と黄蓋によって大将は討たれ、兵は散り散りになった。

 戦勝の喜びに浸る間も無く、本命の袁術を討つべく孫策は広陵を守備していた諸葛亮達に謝辞を述べるのもそこそこに疾風のような勢いで寿春へと兵を返す。

 息を切らして寿春に着いた雪蓮達の目に映ったのは、焼け落ちた城の後片付けをしている蓮華達の姿だった。

 訊けば、袁術はこちらが城門を突破した直後に政庁へ火を放ち、自害したという。

 それを知った雪蓮と冥琳は、即座に人を使って袁術の死を各地に喧伝し、また劉表との戦端を開いていた董卓の下へと使者を送った。

 前者は、直接死に目を確認出来なかった袁術が逃亡している可能性を危惧し、再起するのを潰す為。

 後者は、先代孫堅の仇でもある劉表と江夏太守黄祖を討つべく、皇帝から劉表討伐の許可を得ている董卓と同盟して劉表領に攻め込む大義を得る為である。

 

 そんな――荊南へと使者を飛ばすと同時に慌しく戦支度を整え始めている――状況の孫策達の下へ一つの報せが齎された。

 

「あっちゃあ…………出遅れちゃったかぁ」

 

「劉表の扇動で長沙へと向かった賊軍二万は深紅の旗を掲げた一人の武人によって壊滅させられ、かの者は長沙に留まっている――――董卓は黄祖の動きを封じる心算だな」

 

 息を切らせて焼け落ちた寿春城前広場へと駆け込んできた伝令からの報告を受けた雪蓮は目頭を押さえて天を仰ぎ、冥琳は眉根を寄せる。

 

「…………雪蓮、黄祖や劉表を討つ事は果たせても我等が江夏や襄陽を取る事は出来んぞ?」

 

「? へっ? なんでよ冥琳?」

 

「忘れたか? 劉表討伐の勅を与えられているのは董卓であって我々ではない。加えて、我等は孫家復興の為とは言え、天子が定めた寿春と汝南、廬江の太守を独断で排した形となっている……急いで兵を動かしたいところではあるが、洛陽へ向かった使者が良き報せを持ち帰るまでは迂闊に動けんしな」

 

「――ちっ」

 

 ならば袁術の客将であった頃から秘かに天子に密書を送り、素早く動けるための準備を整えておけば済む話だったのだが……。

 

「あんの腹黒女に邪魔されて無かったら――!」

 

 雪蓮達が内々で相談するのには監視の目はそれほどきつくは無かったのだが、洛陽や荊南への密使派遣は張勲が放った手の者によって尽く阻止されていたのだ。

 加えて、外から見れば孫策達は袁術幕下の身、例え密使が辿り着いたとてただの客将風情に過ぎない彼女達には天子や御遣いと対等な同盟を結べよう筈も無かった。

 故にこそ、早期に袁術を潰して独立し、一勢力として双方と誼を結ぶ腹だったのだが……。

 

(尽く、後手に回ってしまったな……)

 

 眦を吊り上げて苛立たしげに舌打ちする親友を横目に、冥琳は一手以上も遅れている現状に嘆息する。

 

(劉表と董卓が開戦した以上、なんとしても早期に介入したいところではあるが――)

 

 座して待つしかない……軍備は既に整っている。

 先代の仇を打つ機会がついに巡って来たとあって、将兵の士気は天を衝かんばかりに上がっているというのに。

 

「あーーーもう!!! 劉表のクソジジイはなんだって自分から戦なんて仕掛けるのよ!! そういうのは私達が独立するまで待ってなさいってのよ!!!」

 

 癇癪を起こした雪蓮が地団駄を踏み始めた――その時。

 

「はぁ。相も変わらず血気だけは盛んだのう」

 

「「――っ!!??」」

 

 前触れも無く、炎を想起させる旗袍を纏った妙齢の女性が朝服姿の少女を伴って現れた。

 忘れよう筈も無い、所々に溝が刻まれた鉛色の手甲を両腕に嵌めたその女性は――

 

「おばさまっ!!?」「朱公偉殿!?」

 

「久し振りじゃのぅ、小童ども」

 

 歯茎を剥き出して、戸惑う二人に向かって獰猛な笑みを浮かべて見せる。

 

「さて、文台の仇討ちと参ろうか……のぅ?」

 

 

 

 

 

 荊北は江夏、劉表の統治下にあるこの都市を預かる男は、得体の知れぬ胸騒ぎを覚えつつもただ静かに城壁に佇んでいた。

 

「抑えられたか」

 

 城壁に吹き付ける強風に身を任せたまま、男――黄祖(こうそ)――は重々しい声で呟く。

 とは言え、口調とは裏腹にその巌のような面に浮かぶ色は焦燥や怒りと言ったものでは無く、寧ろ清々しささえ感じさせた。

 

「黄祖殿……」

 

「言うな文聘、最早大勢は定まった」

 

 傍らに控える文聘に振り返る事無く、黄祖は地平を見詰めたままで口を開く。

 幾多の戦場を潜り抜けたことを示す傷だらけの鎧を軋ませ、黄祖は城壁に両手をついた。

 

(景升殿、此度は孫堅の時のようには行きませぬぞ)

 

 嘗て対峙し、辛くも退けた強敵の、烈火のような戦振りを思い出して目を細める黄祖。

 

(”あの”孫堅すらも霞む武勇……一人で三万に値する、そんな猛将を動かさず抑えに使う、か)

 

 文聘の報告は既に聞いている。

 曰く、「”深紅の呂旗”の逸話は本物だった」と。

 

(加えて虎牢関では孫策を退けた徐晃も長沙に来ているという……景升殿、いや……蒯良(かいりょう)らは首尾よく董卓軍の主力を誘引できたと考えて居るのだろうが……)

 

 吹きすさぶ風に身を任せ、黄祖は襄陽の方角を見据えた。

 

(董卓の許には先の大戦で連合軍を手玉に取った荀公達がいると聞く……このようにあからさまな隙は作るまいよ)

 

 そのまま、天を仰いだ黄祖は深く、深く息を吐き出して視線を前方に戻す。

 

(尤も、あの孫堅を策に嵌めた蒯良のことだ。呂布や徐晃の居ない内に足の速い軍を使って武陵を攻める腹づもりなのだろうが……)

 

「そうそう上手く事が運べば良いが、な」

 

「江陵から進発した軍のことでしょうか?」

 

「うむ……」

 

(やはり胸騒ぎが消えん。王威や蔡瑁(さいぼう)らが敵を侮らねばよいが……)

 

 長年に渡り江夏を守護してきたこの老将軍の懸念は的中していた。

 まさにこの時、武陵侵攻軍は出鼻を完全に挫かれ半壊状態になっていたのである。

 

 

 

 

 

 ――武陵の北、江陵との境にて。

 

「よっし順調っ! 刑道栄、突っ込むよ!!」

 

「だからお嬢は出すぎんでくださいよ!? ああもう、本当に世話の焼ける!」

 

 若草色の短髪、平坦な胸……ともすれば少年に見える風貌の劉賢が号令をかけつつ先陣を切り、巌のような体躯と大きな刀傷が目立つ顔に呆れの色をのぞかせた刑道栄がその後ろに続く。

 

「うわあああああああっ!!?」

 

「な、なんでこんな所に敵が――がああっ!??」

 

 武陵と江陵の境にて、王威率いる劉表軍は突然現れた董卓軍の奇襲を受けて混乱の極みにあった。

 前触れも無く東から突如現れた三千近い騎兵の突撃を受けた劉表軍は細長い隊列を真中から食い千切られ、退避しようとして西に伏せていた弩兵の群れから手痛い矢の洗礼を受ける。

 

「くっ!? ええい、奇襲とは姑息な! ――怯むな! 劉旗に集いし勇者達よ!! 我らの力を――がっ!?」

 

「おっ、王威様ぁっ!??」

 

 わずか一刻で王威は流れ矢に当たり落命、立て続けに雪崩れ込んできた董卓軍に主だった将は討たれて指揮系統がズタズタにされた劉表軍は、早くも戦意喪失しかけていた。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

「いや……なんぼなんでも脆過ぎへんか? なあ、コウちん?」

 

「ホントッスねー……あ、劉賢さんトコの部隊、もう一回敵陣を横断するみたいッスね」

 

「ふむ、刑道栄殿の武は中々のものだな……」

 

 戦場を見下ろす丘の上、郝昭ら交州からの助っ人組は手持ち無沙汰な様子で馬上にいる。

 彼女たちの眼下では劉賢率いる董卓軍の第一陣が劉表軍に横腹から食らいついており、長蛇の陣を敷いていた劉表軍は大斧を振りかざす刑道栄を先頭にして偃月刀の如き陣形をもって斬り込んできた劉賢の部隊によって陣を分断されていた。

 

「こりゃあ、私らの出番は回って来ないかねぇ……?」

 

「いえ、そうでもないようですよ」

 

「これは、潘濬殿」

 

 冷めた視線で戦場を見遣る郝昭達の横、黒目と黒髪、やや小柄で上下とも黒づくめ、長い睫が特徴的な少女がいつの間に現れたのかひっそりと佇んでいる。

 

「公達様と文和様の読み通り、こちらは囮のようです。本命は蔡瑁率いる水軍五万。今頃は江を下っている最中かと」

 

「んで、そっちは?」

 

「陳応殿と鮑隆殿が手筈通りに仕掛けられます。郝昭殿達は劉表軍が上陸した直後を狙ってください」

 

「りょ~かい。んじゃあ、陣の用意をしておくかねぇ。コウちん?」

 

「例の組み立て式のやつッスね? 床子弩と併せて準備は出来てるッスよ!」

 

「輜重隊は何時でも出れるよ、ハク君」

 

「さっすがケイさん。――では、征きますか」

 

「ご武運を。こちらも次の準備にかかります故」

 

 最早大勢が定まった戦場に背を向け、志士達が走り出す。

 

 

 

 

 

 ――所変わって、こちらは鄴を目指して南下する公孫賛軍。

 

「ほう、いい動きをする」

 

「文醜から慢心が消えましたか」

 

 追討部隊に打ち掛かっては退き、退いては打ち掛かる文醜の部隊を見つめて陳到は感心したように呟き、沮授は目をスッ、と細めて見遣る。

 

「とは言え、こちらを足止めするだけ無駄なのですがね――ほ? おぉ、顔良殿ですか」

 

「すみません、遅くなりました」

 

 口元にうっすらと笑みを浮かべると沮授は後方から馬を歩かせて来る、主と同じ白い鎧に着替えた斗詩に振り返った。

 その手には陳到と一騎打ちした時の物より短い槍が携えられており、腰には直剣を佩いている。

 

「さて、顔良殿も来られたことですし、もう一手進めましょうか。斎姫殿、文醜に当たって下さい」

 

「承「文醜の相手は、私に任せて貰えませんか?」顔良殿!?」

 

 前方の敵部隊を見据えて頷こうとした陳到の言葉を遮り、斗詩が馬を前に進めた。

 

「顔良殿、文醜は貴女の――」

 

「だからこそ、です」

 

 親友だった――いや、今でも親友ではないのか? そう言いかけた著莪に向き直った斗詩の目は穏やかで――それでいて静かに燃え盛る蒼い炎のような色を宿している。

 

「…………」

 

 それを見た著莪、そして斎姫の二人は二の句を告げられなかった。

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

 ――袁紹の本拠地、鄴の城内にて。

 

「わたくしの華麗な連勝劇に泥を塗るなんて――! 白蓮さん、よくもやってくれましたわね!!」

 

 初戦の連勝劇から一転、公孫賛軍の奇襲を受けて奪った陣のみならず補給基地すらも失った袁紹軍は、鄴への退却を余儀なくされていた。

 袁家が誇る武の二枚看板はどちらも敗れ、顔良は敵中に残り、そのまま消息を絶ったという。

 もう一人は汚名を返上させる為に殿を任せたが、親友を失ったことで意気消沈しており物の役に立つとは思えない。

 せいぜい、本隊が鄴へと引き上げるまでの盾となれば良いと袁紹をはじめとした各将軍達は考えていたのだ。

 ――虎牢関では二人を無力化されて戦を止めた麗羽だったが、平原を与えられた上に韓馥を降して鄴を手中に入れ、また黄河を渡り城陽も領土とした事と洛陽から訪れた数多の名士達(追放された元清流派や現政策下において既得権益を削られた貴族達)を迎え入れた事で完全に有頂天になっており、昔からの配下を軽んずるようになっていった。

 結果、顔良の危惧を臆病風に吹かれた者の戯言と断じ、また猪突猛進の悪癖がある文醜に参謀すらつけなかった。

 

「ふん……まあ良いですわ。鄴の兵も動員して、今度こそ完全に白蓮さんをけちょんけちょんにして差し上げますわ! おーっほっほっほ!!」

 

「その意気ですぞ袁紹殿。初戦の敗北は公孫賛の陋劣な策略と文醜将軍の油断が偶々重なって起きただけの事にすぎませぬ」

 

「左様、次の戦では量産が完了した強弩も投入できまする。これで、最早彼奴等の幸運も続きますまいて」

 

「しかるに――む、なにやら外が騒がしゅう御座いますな?」

 

 高笑いを上げる麗羽と、それを煽てる自称名士達の声が響く玉座の間の外から慌ただしい足音が響いたかと思うや否や、入り口から血相を変えた兵士が駈け込んで来て膝を付く。

 

「も、申し上げます――!」

 

 拱手した兵士が告げた報告の内容。

 ――それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……うそ、だろ……」

 

「――」

 

 向かい合うは金と白の武者。

 

「なあ、何かの冗談だよな……」

 

「――」

 

 金は狼狽し、白は静かに槍を構える。

 

「なあ! 何とか言ってくれよ! 違うって……こんなの違うって言ってくれよ!!!」

 

「――」

 

 最近見るようになった、冷めた目で自身を見る白に、金は悲痛な叫びを上げる。

 

「――公孫賛配下顔良。いざ、参ります……文醜殿、お覚悟を」

 

「っ! ――――斗詩ぃぃ!!!!」

 

 白が馬を走らせ、金は絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツン、カツン、と、磨き上げられた黒曜石の廊下に足音が響く。

 

「わざわざご足労頂き恐悦至極に存じます――――なれど、此度の戦、我が軍だけでも事足りるかと」

 

「あ~……敬語は不要なんで。まあ、兎も角そう言う訳にもいかなくてね――こっちも仕事だから『はいそうですか』で帰る訳にもいかんのよ」

 

 並んで歩く二人の少女。それぞれの後ろには随伴する少女達が二名ずつ。

 

 先頭を並び行く――片や、紅玉を思わせる鮮やかな瞳に腰まで届く灰色の髪の少女。

 

 片や、蒼天を映す瞳に螺旋状に巻かれた金の髪の少女。

 

「まあ、そういう事で。共闘の件、宜しくお願いするよ? ――曹孟徳殿」

 

「――さっきも言った通り貴女の出番は無いわ、司馬仲達殿」

 

 ニヤリと笑ってこちらを見る司馬懿に、華琳はあくまで前を向いたまま答えた。

 そして廊下の先、城の中庭にて整列する主だった将軍達を前に、華琳は告げる。

 

「新たなる天意、それに逆らう逆賊を討つ!! 全軍」

 

(曹孟徳が恭順を示すとはね……流石は我が主、ってとこかな)

 

 辺りを圧する声量で檄を飛ばす華琳の姿を横目で見つつ、仲達は笑みを深める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渡河せよ! ――これより袁紹を討つ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにまた一人、漢の臣が起った。

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 待って下さっていた方々、大変……本当に大変お待たせいたしました。

 天馬†行空 四十三話目の投稿です。

 

 四月に一度、体調が戻ったのですがすぐにまた悪化、またしても静養しておりました。

 半年も作品を放置してしまった上、生存報告も怠ってしまい、申し訳ありませんでした。

 

 コメント返し、および一話目でも書いたかと思いますが完結を目指して書いていこうと思っています。

 今後も更新が不定期になるかとは思いますが、お待ち頂ければ幸いです。

 

 という訳で白蓮&華琳様&司馬懿VS麗羽、月(&雪蓮)VS劉表の構図が出来上がりました。

 うん…………ほぼ、終わりましたかね(苦笑)

 

 では、次回四十四話でお会いしましょう。

 それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超絶小話:ちょっとだけ乙女演義(雍闓編)

 

 

「うー……」

 

 モヤモヤする。

 

「あー……」

 

 落ち着かない。

 

「ふー……だあああ、ちくしょー!!」

 

 理由は解ってる……あの温泉ん時からだ。

 

「竜胆のヤツがあんなことさせなかったら……うぅ」

 

 その……何というか……アレだ。

 

 ――アレって何かって?

 …………ば、バカ! 思い出させんなよ! すっごく恥ずかしかったんだぞアレ!

 

「挟み撃ちの件と見た」

 

「そう挟み――って、うおわぁぁぁっ!!? り、竜胆っ!?」

 

「よし正解」

 

「正解じゃねぇよ竜胆コノヤロウ!!」

 

 何時もの事だけど、どっから出て来たんだよコイツは!?

 

「ですが獅炎様も満更ではなか「うわああああああっ!!?」……真っ赤になってましたが「だからンなコト言うなーー!!」」

 

 うぅ……全部、全部竜胆の所為だ。

 あんな恥ずかしい思いをしたのも――

 

 

 

 

 

「何かあったんですか?」

 

 

 

 

 

「――――っ!!!??」

 

 か、一刀っ!!?

 

 こ、こいつもこいつで何でこんな時に来るんだよ!

 

「? 獅炎さん、顔真っ赤ですよ? 何か「な、なんでもねえよっ!! じゃ、じゃあなっ!!」……あったのかな?」

 

「さて私には何とも」

 

「絶対何か知ってるでしょ竜胆さん」

 

 

 

 

 

(うわああああああああああぁっ!!!! も、もぉ、もぉーっ!! 今度一刀と会った時にどんな顔して会えば良いんだよーー!!?)

 

 

 

 

 

 その日、成都の大通りを爆走する赤毛の少女の姿があったとか……。

 

 

 

 

 


 
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