No.705405

英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~

soranoさん

第167話

2014-08-01 16:35:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1689   閲覧ユーザー数:1580

 

 

~列車内~

 

「うわ~、なんか青々してるねー。ねえねえ、ユーシス。麦なのになんで青いのー?」

席に座って景色を見ていたミリアムはユーシスに尋ねた。

 

「……クロイツェン州では小麦、大麦、ライ麦が栽培されている。それを季節ごとに生産しているから今は秋収穫の小麦が実っている最中だ。」

ミリアムの疑問にユーシスは答えたが

「あ、なんか変なカカシがいた~!あはは、レクターみたいな顔でおもしろーい!」

「……ぐっ……」

まるでユーシスの話を聞いていないかのようにミリアムは景色を楽しみ、ユーシスは顔に青筋を立てたが

「お、落ち着いてください、ユーシスさん。わたくしも今の説明を聞いて、勉強になりました。」

「フン…………さすがツーヤの妹と言った所か。中々勉強熱心だな。」

自分を諌めようとしたセレーネの話に怒りを治めて満足げに頷いた。

 

「ま、まあ……楽しんでいるみたいで何よりだ。」

「ふふ、こうしてみると本当に歳相応に見えるな。」

「13歳……オレの弟のひとつ歳下か。」

「ふふっ、そうでしたね。」

その様子をリィン達は微笑ましそうに見つめ

「すぅ……」

エヴリーヌはエマにもたれかかって眠っていた。その後エマはエヴリーヌを起こし、リィン達と共にラウラから実習地の説明を受けていた。

 

「―――このあたりで今回の実習地の話をしておこう。”レグラム”は帝国南東部、エペル湖の湖畔にある小さな街だ。私の実家、アルゼイド子爵家が治め、クロイツェン州に属している。」

「クロイツェン州……ユーシスの父親が管理している州だったか。」

「……まあ、一応はな。ただ、レグラムといえば独立独歩の気風で知られる領邦だ。州を管理する公爵家の威光など気にもしていないだろう。」

ガイウスの確認に頷いたユーシスはラウラを見つめた。

 

「まあ、否定はしない。どうも父―――アルゼイド子爵は自由闊達すぎる所があるからな。だが増税といい、そなたの父君もいささか問題があるとは思うぞ?」

「フン、わかっている。」

そしてジト目のラウラに見つめられたユーシスは鼻を鳴らして頷いた。

 

「えっと……」

「……少々、微妙な問題に触れてしまったみたいだな。」

「いや、気にすることはない。」

「この程度の応酬、貴族の間では日常茶飯事の話題だからな。」

「まあ、確かに”四大名門”は絶大な権力を持っているけど……だからといって、それぞれの領地は領主が管理するのが基本だからな。税についても各地の慣習法があって色々面倒くさいのは確かだ。」

「そうらしいですね……どうやら、帝国政府は国内の税制度を統一しようとしているみたいですけど。」

「そうなると色々な問題が起こるでしょうね……」

リィンの意見に頷いて言ったエマの話を聞いたセレーネは不安そうな表情をした。

 

「セレーネの推測通り、貴族派と革新派が対立する最大の争点の一つだな。ちなみに俺の父に言わせれば『天地がひっくり返ってもあり得ぬ』だそうだが。」

「革新派の主張もわかるが……地方には、その土地なりの伝統や慣わしがあるのも事実だ。それを全て統一するのはいささか乱暴ではないかと思う。」

「ふむ……根深そうな話だな。」

「簡単に解決できる問題ではなさそうですね……」

ユーシスとラウラの話を聞いたエマとガイウスは考え込み

「めんどくさ。そんな下らない事、簡単に解決できると思うけど。」

「え……エヴリーヌさんは解決できる方法がわかるのですか?」

「何だと?」

「フム、一体どういう方法なのだ?」

つまらなそうな表情で言ったエヴリーヌの言葉を聞いたセレーネは驚き、ユーシスは眉を顰め、ラウラは尋ねた。

 

「そんなの簡単だよ。王様が一番偉いんだからこの国の王様が決めちゃえばいいんだよ。」

「それは…………」

「確かにその通りですが……」

エヴリーヌの答えを聞いたリィンとエマは複雑そうな表情をし

「……エヴリーヌの意見にも一理あるが、そのような事をすれば、間違いなく”革新派”、”貴族派”の双方の勢力の反感を買ってしまうだろうな。」

「うむ。ユーゲント陛下もお辛い立場なのだろうな……」

ユーシスとラウラは重々しい様子を纏って答えた。

 

「むー、そんな話より。もっと”レグラム”で面白い話はないのー?」

その時ミリアムが頬を膨らませてリィン達を見回した。

 

「はは、確かに俺達が頭を悩ませても仕方ないか。レグラムといえば……やっぱり”アルゼイド流”だろうな。」

「あ、ラウラのおとーさんが教えてるっていう?」

「ああ、帝国伝統の騎士武術を伝える流派……”ヴァンダール流”と並んで帝国における武の双璧だ。練武場があって、帝国各地から門弟が集まっているんだよな?」

「うむ、その通りだ。今来ている門弟は数名……それ以外は各地に散っているな。」

リィンの質問にラウラは頷いて答えた。

 

「そして、それらを教えているのがラウラの父君というわけか。」

「レグラムの領主にして”アルゼイド流”の宗家……アルゼイド子爵閣下ですね。」

「”光の剣匠”だっけ?ものすごく強いんでしょ?」

「ああ、娘の私が言うのもなんだが軽く人の域を超えている。少なくとも、帝国においては3本の指に入るのは確実だろう。」

「それは凄いな……」

「さすがはラウラさんのお父さんですね……」

「……噂はかねがね。」

ラウラの説明を聞いたガイウス、セレーネ、リィンは驚きの表情で見つめた。

 

「領邦軍や正規軍の武術師範を務めているとも聞いている。そのせいで、領地を留守にすることも多いそうだが?」

「ふう……その通りだ。今回も、帰郷するのはいいが肝心の父上がいるかどうか……」

「そうか……」

「うーん、できれば見てみたいけどなー。」

その後リィン達はバリアハートで列車を乗り換えた。

 

「……深い森だな。」

列車の窓から見える風景にリィンは静かに呟いた。

「……おとぎ話に出てくる妖精の森みたいですね。」

「実際、その手の言い伝えは事欠かぬ土地柄ではあるな。”槍の聖女”リアンヌもこの地の出身ではあったが……人間離れした美貌と強さから”妖精の取り替え子”と囁かれていたこともあるらしい。」

「ほう……面白いな。」

「実際、獅子戦役の終結後、彼女が謎の死を遂げたせいでサンドロット伯爵家は断絶した。そんな逸話があったとしても不思議ではないかもしれん。」

「妖精の取り替え子か……あ……」

ラウラ達の話を聞いていたリィンは景色に霧がかかったことに気付いた。

 

「……霧……」

「これは……」

「……たしかレグラムは霧が出ることでも有名だったな。」

「ああ、晩夏では珍しくはない。おかげで少々、涼しくなりそうだ。」

ユーシスの話に頷いたラウラは説明を続けた。

 

「はは、それは助かるな。」

「フフ、一体どんな町なのでしょうね?」

「むにゃむにゃ……ガーちゃん、それは壊しちゃダメだよ~……」

「すぅ……キャハッ♪今回の敵を殺した数はエヴリーヌが一番だね♪……」

ミリアムとエヴリーヌの寝言を聞いたリィン達が冷や汗をかいていると、列車はレグラムに到着した。

 

 


 
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