No.705053

外史を駆ける鬼・戦国†恋姫編 第002話

今回は少し短めですが勘弁して下さい。

それではどうぞ。

まじかるー

2014-07-30 20:55:48 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1121   閲覧ユーザー数:1055

外史を駆ける鬼・戦国†恋姫編 第002話「相模入り」

時刻は(ひつじ)の刻。

重昌は山道を一日歩き続け、ようやく相模の国に着いた。

何故山を降りるにこれほどまでに時間がかかったのかというと、けが人である段蔵の体に痛みを蓄積させない為スローペースで歩いていたからだ。

痛みを蓄積してしまうと、傷の治りが遅くなる。

段蔵は大丈夫と言うが、それでも聞かないのが重昌の頑固なところである。

「やぁっと着いた。お疲れ様、重昌さん」

先程まで重昌の背中で眠っていた霧翼は、高らかに背中を伸ばし、重昌をふらつかせる。

「お、おい。そんなに背中を反るな。落ちてしまうだろう」

「はい」

そう言って今度は重昌に抱きつくと、彼の背中に柔らかい二つの膨らみが当たる。

「今度はしがみつきだ!胸が当たっているのだよ、胸が!」そう言って戸惑う彼に段蔵は「メンドくさい」と言いながら、体を離した。

先程から重昌は『段蔵』とは違う名前で呼んでいるが、その名前も彼女の立派な名前の一つである。

『霧翼』とは、彼女の真名である。

真名とは真の名と書き、自分の家族以外の者がその者の許しなく呼ぶと、首を切られてもおかしくない神聖な名である……と言うのは、それはこの時代から遡る1300年前の、”外史”の三国志の世界での話。

この世界では真名とは通称程度の意味である。

もしこの外史が、先程述べた外史の三国世界と繋がっているとすれば、長い時をかけて真名の定義が緩和されていると推測できる。

改めて話を戻すと、重昌の腹から虫の鳴き声が聞こえる。

「重昌さん……鳴りましたね」

「お腹もなるさ、人間だもの」

みつをの様な台詞を出すと、次に腹の虫が鳴いたのは霧翼の方であった。

「霧翼よ、お前、ずっと私の背中で寝ていたよな?」

「……いやまぁ、生理現象は止められませんよ」

「いいか。とりあえず……腹ごしらえにするか」

やがて二人は町に降り、町の団子屋に入った。

「ひょう、ひょひょのひゃんほひゃは、ほんほうにほいひいでふね。ほのはふてらはんへはへほのはほふひ(はう、ここの団子屋は、本当に美味しいですね。この『カステラ』なんて食べ物は特に)」

「口の中に物を入れて喋るな」

霧翼のだらし無さに重昌は彼女の頭を一つ張ると、彼女は口に含んだカステラを吐き出し様になるが、何とか手で押さえてそれを堪える。

「グスッ、重昌さん、酷いです」

「意地汚いから悪い」

「しかし、公の場で男が女の頭を叩くのもどうかと思うぞ」

そんな二人の会話に、一つの声が割り込んで入ってきた。

その者は女性であり、背丈は座高とその長い脚から察するに、この時代では特に珍しいしかも女性の175~180cm程の長身である。

少し傷んでいるその髪の色は赤で、肩にかかるほどの長髪。

下地が黒で外地が赤のビロードのマントを羽織っている派手な女性は団子一つ頬張り、それ飲み込んだ後、重昌を見ながら答えた。

※ちなみにビロードのマントは正史では信長がよく愛用していた。

「確かにお前の連れの食べ方は感心しないのは判るが、それでも公で女の頭をぶつとは」

「……お言葉を返すようですが、私はぶったつもりはありません。ただ(はた)いただけです」

「それは屁理屈ではないのか?」

「そうですが、子供が悪いことをした時、親は注意の為に軽く頭を叩いたりするでしょ?あれと同じです」

「え?重昌さん、私のことをそんな風に見ていたのですか?」

「私からすれば、お前などまだまだ大きな体の子供にしか見えぬよ」

「そんな、酷い。貴女は私をあんなに抱いてくれたのに!!」

「文字通り本当に”抱きしめた”だけであろう。いいから少し口を閉じろ。ツッコムのも疲れる」

霧翼がヨヨヨと泣き(嘘)崩れる中、重昌もそのペースに呑まれがちで頭を抱えた。

「はっはっは、随分と仲がいいのだな。……アタイはもう行くよ。いずれまた出会う日も来るであろう。じゃあな――」

そう言うと、マントの女性は颯爽と去っていき、その女性が去りゆく間、二人はとある重要なことに気付いてしまった。

そう、【あの女性、無銭飲食ではないのか?】っと。

重昌はその団子屋にて余計な出費と共に、代金を砂金で払って店を後にした。

始め砂金を見せたとき、店の亭主も鳩が豆鉄砲食らった様に驚き、「釣りは要らん」言った瞬間、亭主の奥さんは喜んで飛び跳ね、亭主はと言うとショックで倒れてしまった。

実を言うと、重昌達が降りてきた山の一部に金が取れる場所があり、たまたま見つけたため旅費のついでに川にて軽く金を集めたのだ。

腹を満たした後、霧翼の依頼主である相模の領主である、とある人物の場所に向かう為に白に向かった。

その先は、天下の名城小田原城。

依頼主とは、『相模の獅子』としても異名がある、北条氏康である。

重昌は城門にて霧翼の代わりに割符を出して、(忍である為)町娘の格好をした彼女を背負って入場。

小田原城は初代北条家当主、北条早雲の頃は、八幡山に旧本丸があり、それより二代目当主である先代の北条氏綱、そして現当主の氏康が対武田、上杉の為に改変に改変を加え続けて、今では難攻不落の堅城、『小田原城』として知られるようになったのだ。

何と言っても最大の特徴は、八幡山から海側に至るまで小田原の町全体を総延長9キロメートルの土塁と空堀で取り囲んだものであり、地下に大量の兵糧が蓄えられ、ある程度認められた商人が城内に行き通う為、金の回りを探るにも最適で、海に面した相模の土地が、小田原を活気づかせてくれる。

話を戻そう。

霧翼が忍ということもあり、重昌達はとある小さな部屋に案内されて、氏康を待った。

「さて……霧翼、君にいくつか聞きたいことがある。あの化物は一体なんだ?」

いきなり本題的なことを切り出され、先程まで天真爛漫に振舞っていた霧翼も神妙な顔つきに変わり、淡々と説明を始めた。

「私も詳しいことは判らない。……しかし巷では『鬼』と言われている」

「鬼?」

「そう。畿内を中心として体格的に6尺半から8尺の化物が人を喰らうって噂があり、その噂がこの地、相模にあるあの金山でも噂がたっていたの」

言いながら霧翼は、開けられた襖から見える二人が出会った地でもある金山を指差した。

「今も言ったけど、鬼は人を喰らい女を犯す。そして犯された女の体からは、鬼の子供が産まれてきて、そうやって鬼は仲間を増やしていく」

「なるほど、確かに恐ろしい化物だ。だが生憎私は、自分に害が及ばない限り手を出す主義ではない」

重昌の余りにも冷めきた発言に、霧翼は何か言いたげになるが、直ぐにその発言を押しとどめた。

何故なら重昌の体から今のも爆発しそうな気がたっていたからだ。

「女性を強姦するに加え、”鬼”というのが尚気に入らん――」

彼がこの世で最も嫌うことは、女性を無理強いで犯すこと。

これは彼が戦乱の時代に巻き込まれてしばらくした時、戦の残酷さを見せられる為に、とある人物に連れられ、戦場での『乱取り』を目の当たりにさせられた。

兵士は街や村の金品、食料を奪っていくだけではなく、何の罪もない人を兵士が殺害していく光景を初めて見たときは、この世のものとは思えなかった。

それに何といっても極め付きなのが、町娘だけではなくまだ7つにも満たない幼女を、兵士が強姦している光景であった。

その日から重昌の強姦に対する嫌悪感はより一層まし、さらに元の外史にいる重昌の側室の一人である柑奈が賊に犯された時は、その賊達を精神崩壊にまで追い込みながら殺した程であり、今ではそういった話題を耳にする度に、自らの心中では高い嫌悪感をむき出しにしている。

また様々な外史で『鬼』と恐れられた重昌。

褒められた(いわ)れ名では無いが、【鬼は一人で十分】。

そんな思いが彼の中で駆け巡っていたのだ。

重昌の気を見て霧翼は思った。

この怒りが爆発すれば、一体どれほどの物が破壊されるのか。

しかし、彼女は以前にもこんな感じのものを見たことがあるような気がした。

その記憶に重昌を重ねて見たのだが、一つだけ大きく合致していないところがあったので、記憶の中の人物が重昌である確証を得られないのだ。

こんな感じのやり取りをしていると、襖が開かれると、そこに立っていたのは先程の団子屋にて無銭飲食を働いた女性であった。

「あれ?お前ら」

「あ、さっきの無銭飲食の!!」

その女性を真っ先に、指を指して声を出した霧翼に、女性は頭を掻きながら申し訳なさそうに謝った。

「いやぁ、スマンな。せっかく今日は財布を持って行ったのに、何時もツケにしてるから払うことを忘れてしまっとって」

笑いながらごまかそうとする女性にある程度の女傑感を覚えながらも、女性は懐より財布を取り出した。

「今返そう。っでいくらだった」

「いえ、それ程対した金額ではなかったですから、別にいいですよ」

そう答えた重昌をジッと見つめ、彼も「な、何か?」と答えると、女性は重昌の両手を掴んで目を輝かせなら言った。

「お前……良い奴だな。助かったよ、今月酒代に給金を避けすぎて危なかったから」

女性は笑いながら、その大きな肩と胸とマントを揺らしているが、すると突然女性の後ろより大きな巻物が飛んできた。

「叔母上、また町内の店でツケをしたのですか!?」

長身の女傑の次に現れたのは、身長控えめで頭の左側に北条家の家紋である『三つ盛鱗』飾りを付けたおかっぱ頭の女の子と後ろに控えた銀髪の女性であった。

女の子の服装は、上は肩とヘソを出している状態の白の巫女服姿であり、下は丈の短いスカートの様な藍色の袴。

腰に横幅の小さいベルトを巻き、腰に肌寒い時にでも着るのであろうか、藍色の上着のような着物を、袖を利用して巻いていた。

銀髪の女性の服装は、頭にシスターの様な被り物を被り、足下まで届く通気性の良さそうなコートを羽織って、コートの中は胸を強調するような胸の谷間が見える服を着ており、下半身はその艶めかしい長い脚をこれでもかと主張するような、大きなスリットの入っている長いロングスカートを履いている。

と言うより、足の露出部分が大きすぎてそのスカートの腰周りの側面より、黒の下着が見えるか見えないかと言った状態である。

これがこの外史での『相模の獅子』と呼ばれた北条氏康との最初の対面である。

 


 
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