No.702271

紅と桜~二人の幸せ~

雨泉洋悠さん

にこちゃんと真姫ちゃんにとって、
1期の12話と13話の物語って、
もう世界をもう一度ひっくり返してしまうぐらいに、
とてつもなく大きな出来事だったと思うんですよ。
本編の流れがああなったのには、

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2014-07-20 19:14:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:565   閲覧ユーザー数:565

   紅と桜~二人の幸せ~

              雨泉 洋悠

 

 二人を繋ぐオレンジの、炎色反応、儚い音の、瞬き。

 

 一対の、線香花火、貴女と私の、想いを載せる。

 

 それにしても何で、にこちゃんは私がトマトを好きなことを、知っていたのかな。

 にこちゃんと二人でメニューを決めたんだけれども。

「真姫ちゃん、トマト好きだったよね」

 何て言いながら、手際良く材料を揃えていくにこちゃんのとなりに、ずっとくっついて、スーパーの中を、歩きまわった。

 そんな、アイドルではない時の、素のにこちゃんの姿は、何時も私の中に、言葉にし難い、胸が甘く締め付けられるような、そんな気持ちを起こさせる。

 歳上なんだなあ、って、感じるし、そういう事を当たり前にこなせるにこちゃんが、素敵だって、素直に思う。

 夕ごはんを作っている時も、手際良く色々こなしながら、手伝いたいって言った、私の気持ちも、当たり前のように受け止めてくれて、私が出来る事と、やりたい事の、絶妙なラインを私に、任せてくれる。

 にこちゃんは本当に、私達や、穂乃果達、歳下の心に寄り添うのが、自然で、どこまでも深くて、暖かい。

 相手を子供として扱うんじゃなくて、一人の人間として対等に、自分の前に置いて、その上で、歳上の優しさや、気遣いを、自然に、差し伸べてくれる。

 こんな魅力的な、立ち居振る舞いを、にこちゃんは、どう言った人生を生きて、身に付けて来たんだろう。

 今はまだ、アイドルとしての、学校の中での、にこちゃんしか私は知らないけれども、いつの日にか、知る事が出来たら、良いな、と、思う。

 

 凛がやりたいって、言い出して、始めた、花火。

 花火大会で観るような、大きな花火も良いけれど、こんな風に、皆で楽しむ小さな花火も、良いなと思う。

 去年は、まこちゃん達とやったのを覚えている。

 今は、凛、花陽、二人の手と、私の手の中で、赤、青、緑に輝く、光の花。

 近くには穂乃果達が居て、そんな私達を、絵里が見てる。

 昨日一日、希や、絵里が、私の事を気に掛けてくれて、そのお陰なのか、私は少しは、素直になれたのかな。

 素直になれた、証拠の一つなのかもしれないけれども、今日の夕方に、自分がした事を、思い出すと、やっぱり恥ずかしい。

 何だか、にこちゃんが、今まで私の為にしてくれていたこと、それをしてくれていた、にこちゃんの手の小ささを思ったら、私の中にある何かが、止まらなくなってしまって、あんな事してしまったけれども、にこちゃんに、変に思われなかったかな。

 その後の買い物とか、お料理の時間とか、今日一日の、にこちゃんばかりが思い出されて、その嬉しさが、胸の奥を、今も締め付ける。

 こんなにも、にこちゃんとの嬉しい時間があって、今日はその全てが、私の心を埋め尽くしている。

 そんな事を考えていると、さっきまで隣に居たにこちゃんが、いま私の隣に居ない事に、何故だか違和感を感じてしまう。

 

 にこちゃんは、今は何してるのかな?

 

 凛、花陽と花火をしながら、ちょっとだけ辺りを見回してみると、少し離れた、樹の下に、にこちゃんは座って、今は空を見上げているみたい。

 希も見当たらないと思っていたら、案の定にこちゃんの隣に今、正に座るところ。

 また、少しだけ、別な理由で、胸が締め付けられる。

 こう言う時の、二人だけの世界に、私はまだ入っていける勇気が、少しだけ足りない。

 希にも、にこちゃんにも、何時でも気兼ねなく、話せる様になる切っ掛けを、絵里と希に貰ったけれども、希とにこちゃんが、二人きりで居る時は、私にはまだ二人は遠い。

 絵里を見ると、二人を微笑みながら見ているのが、何だろう、私にはまだ、辿り着けない、希とにこちゃんの、二人の絆への、大人な対応というか、優しさとか、全部をちゃんと受け止めている強さを、感じさせて、希と絵里が、二人で乗り越えてきた日々の長さと、重さを感じて、ちょっと羨ましくなる。

 二人はもう、私が今モヤモヤと抱いている気持ちとかと同じものなんて、ずっと昔に、ちゃんと二人きりで、きっと答えを出してきたんだ。

 絵里と希に比べると、私はまだまだ、にこちゃんに対して、ずっと子供で、対等な一人、大人として、友達として、にこちゃんを自然に支えられる力を、持っている二人が、羨ましい。

 絵里と希みたいな、それを乗り越えられる強さは、やっぱり時間しか、与えてくれないのかな。

 余り考えないようにしていた、にこちゃんと自分の歳の差、これからの日々が、私の心を揺り動かす。

「真姫ちゃん、花火消えちゃってるよ」

 花陽の声。

「真姫ちゃん、ぼーっとしてるにゃ」

 私の顔を、覗き込んでくる、凛の声。

 私の傍に居てくれる、大切な二人。

 にこちゃんにとっての、絵里と希と、私にとっては同じで、同時に私とにこちゃんが、自然と一緒に居られる場所をくれる、二人。

「うん、凛の言うように、ちょっとぼーっとしちゃってただけよ」

 そうは言っても、私の目の前にいた花陽と凛には、今の今まで、何処と何処を見ていたかなんて、バレバレなのかもしれないけど。

「にこちゃん、お疲れなのかな?」

 花陽が、いつもの様に微笑んで、自然と私の心に、触れてくる。

「そ、そうね。お料理全部任せちゃってるし、今日はちょっとお疲れなのかもね」

 照れくさくて、横を向いてしまう。

「真姫ちゃん、にこちゃんと一緒にやりたいならちゃんと言いに行かないとだめにゃー」

 せっかちに背中を押してくる凛、ちょ、ちょっと待ってよ、まだ心の準備が。

「真姫ちゃん、これ持って。ちゃんと、にこちゃんと話さないと、ダメだよ。今日にこちゃんが思っていることとかは、今日しか聞けないんだよ。希ちゃんには希ちゃんへの、真姫ちゃんには真姫ちゃんへの、にこちゃんが伝えたい気持ちとかあるはずだから、ちゃんと聞いてあげて」

 そう言って、花陽が差し出してきたのは、一対の線香花火。

 ああ、去年の、まこちゃん達との思い出の中にもある、あの儚い光。

「そうそう、希ちゃんに遠慮ばかりしてちゃだめにゃー」

 ああもう、凛にまで、そこまでバレバレなのね、本当に丸々全部。

 恥ずかしいし、照れくさいけれども、私にはやっぱり、にこちゃんにとっての絵里と希、穂乃果にとっての海未とことり、そんな存在が、凛と花陽なんだな、と、思う。

「え、遠慮なんかしてないってば、もう、しょうがないわね、行ってくるわよ」

 二人に背中を押されて、にこちゃんと希のところに向かう。

 絵里の様子を見てみると、にこちゃんと希の方をもう見ていなくて、穂乃果達と遊んでる。

 本当に二人は、全部をもう、とっくに乗り越えているんだなあ。

 ちょっと、悔しい。

 悔し紛れに、希に真剣な顔を向けているにこちゃんと、何かを話しながらタイミング良くこっちを見てきた希に、声をかける。

「何二人でこそこそ話してるのよ」

 珍しく、不機嫌さが声に出てしまう。

 だって、よりにもよってにこちゃんたら、夕方に見たのともまた違う、切なげな表情を希に向けているんだもの。

 何よそれ、何なのよ、もう。

「ないしょやで、ほなうちえりちの所に言ってくるわ。にこっち、うちの言ったこと、忘れんといてな。真姫ちゃん、にこっちのことよろしくなー」

 そう言って希は、立ち上がって、さっさと絵里のところに行ってしまう。

 こんなところにも、希と絵里が、ちゃんと二人で乗り越えてきた、色々なものを感じてしまう。

 それにしても、にこちゃんたら、その希に向けている縋るような眼差しと手つきは、何なのよ!

 不機嫌なまま、にこちゃんの隣に座る。

 上手く言葉が出なくて、必然的にお互い無言になってしまう。

 やだな、せっかく今日にこちゃんと沢山楽しい事、嬉しい事があったのに、こんなモヤモヤした気持ちでいる私、格好悪い。

 にこちゃんだって、こんな私じゃきっと、戸惑っちゃう。

 にこちゃんは、ちらちらとこっちを見ながら、無言で、ちょっと困った顔してる。

 こんな風に、にこちゃんを困らせちゃう、子供の自分が、恥ずかしい。

「……ねえ、にこ……先輩。希と何話してたのよ?」

 何とか思考の奥底から、言葉を取り出したけれども、折角のタイミングなのに、また自分の気持に振り回されてしまう。

 にこちゃん、困った顔しながらも、ちゃんと答えてくれる。

 何て言うか、そう言うささいな所にも、やっぱりにこちゃんが年上だって事を、感じさせられる。

「い、いやあ。去年の夏休みにはこんな合宿なんて無かったなあ何て話をね。ほら、家の部はまだ私一人の時だったし、なんかね、楽しいわねーって話してたのよー」

 やっぱり私は、まだまだ子供だ。

 にこちゃんが、一人で頑張ってきた日々、その日々を知っているのは希だけで、にこちゃんが、希にしか話せないことだって、沢山あるはずなんだ。

 なのに、私は自分の感情に任せて、にこちゃんが、きっと嬉しくなかったはずの日々のことまで話させちゃう。

 やっぱり私は、まだまだ穂乃果や希みたいに、にこちゃんの心をちゃんと理解出来ていない。

 何も言わずに、にこちゃんの顔を見ていると、にこちゃんが更に気遣って、言葉を続けてくれる。

「ご、ごめんね、真姫ちゃん。つまんない話しちゃって、二人のとこに戻って花火やってきなよー」

 違う、違うの、私が自分のモヤモヤぶつけちゃっただけで、にこちゃんは何も悪くないの。

 去年、私がまこちゃん達と楽しい時間を過ごしている間にも、にこちゃんには、きっと辛い思い出や、悲しい思い出が、少しずつ積もっていっていて、そんな事を、殆ど感じさせないように、いつも、にこちゃんは、明るくて、素敵で。

「つまんなくなんか無い!ほら、皆の所に行きますよ!」

 こんな事、にこちゃんにわざわざ思い出させて、自分から話させて、私はやっぱり子供だ、にこちゃんの心に、希みたいには、まだまだ上手く寄り添えない。

 だから、今は強引にでも捕まえて、引っ張って行きたい、子供は子供なりに、にこちゃんが楽しくなれるように。

 無理やり、にこちゃんのちっちゃい手を、掴んで、引っ張って、歩き出す。

 昼間感じた温度よりも、少しだけ暖かい。

 にこちゃんは、びっくりした様子を見せながらも、ちゃんと付いて来てくれる。

 蝋燭の前で、持っていた線香花火を一つ、にこちゃんの、空いている方の手に、手渡す。

 凛と花陽が、まだ残っている、普通の花火を持ちながら、こっちを見てくれてる。

「私と一緒のタイミングで」

 にこちゃんと一緒に、火を着ける。

 二人で、お互いの花火の先を見ていると、徐々に咲き始める、二人を結ぶ、オレンジ色の、光の花。

「にこ……先輩。今は皆が居るから、私も居るから」

 皆の声が、少しだけ遠くに響く中で、にこちゃんのいつもの香りに包まれながら、二人でその花の、ひと夏の終わりを、見届けた。

 

 寝る間際、布団を敷いた後に、希が昨日と同じようなことを聞いてきた。

「真姫ちゃん、今日はどこで寝る?」

 ニヤニヤ顔で、私の気持ちを計るような問い掛け。

 ふふん、希、私はもう、昨日の私とは違うのよ。

「私、そこが良い。希、変わって」

 今日はもう、最初から最後までちゃんとにこちゃんに寄り添わせて貰うって決めたの、例え迷惑だとしても、子供で行くわ、わがまま言うの。

「今日はどこでも良いじゃなかったね。ええよ、真姫ちゃんの成長に免じて変わってあげる」

 なので、希がそう言って、場所を変わってくれた後、にこちゃんにも、ちょっとだけわがまま言っておいた。

「にこ……先輩、今日は昨日のは禁止ね」

 にこ先輩、さすがにちょっと困った顔してた。

 でも良いの、わがままは歳下の、子供の特権なの、今はそれでいいの。

 寝るまで、にこちゃんの顔を、見ていたいの。

 布団に入って、電気を消して、外の灯で、少しだけ見える、にこちゃんの横顔。

 幼い感じがするのに、ちょっと大人の雰囲気で、色白の肌が、月明かりに照らされて、凄く、綺麗。

 にこちゃんて、普段は意識させないし、可愛いの方が先に立っちゃうけど、やっぱり綺麗だと思う、美人さんだ。

 私は、にこちゃんが凄い綺麗な、美人さんだから、惹かれたのも、きっとあるんだと思う。

 もうちょっとだけ、話したいな。

「……寝ちゃった?」

 横顔のにこちゃんに、ヒソヒソ声で話しかける。

「ね、寝てないわよ。真姫ちゃんも寝れないの?」

 にこちゃんが、瞼を開いて、こっちを見てくれる。

 やっぱり髪を下ろしたにこちゃんは、普段よりも大人っぽくて、歳上のお姉さんであることを、意識させる。

「私はまあ、寝るまではちょっと……」

 にこちゃんが、先に寝付くまで待とうかなと思ってる。

 髪を下ろしたにこちゃんの、本当に寝入った時の寝顔、昨日は見れなかったから、今日は観ておきたいの。

「真姫ちゃん、さっきはありがと。皆でわいわい言いながらやる花火は楽しいね」

 にこちゃんは、強い、きっと二年分の悲しい思いとか、辛い思いとか、持っているはずなのに、それよりも先に、今の楽しさを先に、喜ぶ。

「にこ……先輩。さっきも言ったように、今は皆が私が、居るからね。一人なんかじゃないよ」

 どうにか、私が今思っていること、にこちゃんの心に、届かせたい。

「ありがとう、真姫ちゃん。ミューズの皆が、今この部に居てくれて、私は、とても嬉しいよ」

 にこちゃんが、布団の中で、もぞもぞと手を動かす気配がする。

 届いたのかな、私の気持ち、気付いてくれたのかな、私ののぞみ。

 私も手を差し出して、布団と布団の間で、にこちゃんの手を握る。

 さっきの温度よりも、ちょっと低い、にこちゃんの手の温もり。

「私も、穂乃果のお陰で、ミューズに、この部に入れて良かったかなって思ってる」

 私は、穂乃果のお陰で、にこちゃんに会えたことを、結構大切に、思っている。

 にこちゃんの方は、穂乃果のことは、どう思っているのかな。

 今夜は、答えはいらないけれども、いつか聞きたい。

「寝ようか、真姫ちゃん。このままで」

 にこちゃんが、ニヤニヤ顔で言ってくる。

 思わず、条件反射的に顔の温度が上がっていく、にこちゃんの手を握っている自分の手まで、熱くなっていく気がする。

「べ、別に、にこ……先輩がそうしたいなら、そうしてあげてもいいけど?」

 思わず、顔を背けてしまう。

 やっぱり、こう言う時には、まだまだ素直になりきれない、恥ずかしいし。

「うん、にこのおねがい。おやすみ、真姫ちゃん」

 そう言って、にこちゃんは、先に瞼を閉じる。

 私は、その綺麗な顔を、じっと見つめる。

「おやすみなさい……にこちゃん」

 そう言いつつ、瞼は閉じない、もうしばらく、にこちゃんの可愛い顔を見ていたい。

 そうだ、聞き忘れちゃった。

 いいや、また今度聞こう、にこちゃんたら、何で私がトマト好きなこと、知っていたの?

 

 にこちゃん、私、今日を、忘れられない日にするからね。

 私の今日一日全部が、にこちゃんで彩られていて、全部幸せだったこと、何時か、ちゃんと、言葉で、伝えるからね。

 

次回

 

世界

 


 
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