No.70035

恋姫✝無双 偽√ 第二話

IKEKOUさん

調子にのってまたまた投稿してしまいました。

始めたばかりにも関わらず、たくさんの人に見てもらえてコメントまでいただきありがとうございました!!

心臓が止まりそうなほど緊張ながらも投稿してよかったと感謝でいっぱいです。(本当に涙が出そうでした…)

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2009-04-23 01:37:24 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17254   閲覧ユーザー数:13937

お城に着いた俺たちは程昱に案内され玉座の間に案内された。曹操はちょっとした雑務が残っているらしく少しの間待っていて欲しいと言われたのでその間にと振る舞われたお茶やお菓子を食べることにした。

 

その頃、曹操の執務室では案内役の一人、程昱が曹操と二人で話をしていた。もちろん曹操が主催の宴を開くというのに雑務など残しているはずがない。

 

「伝令の持ってきた手紙は読ませてもらったわ。それで風、あなたが見た三人の印象はどうだったの?」

 

「そうですねー。まずは華琳様のお気に入りの関羽さんですがー、思ったとおりとても真っ直ぐで真面目、そしてなによりも誇り高い性格と見ました」

 

「そうね。私もあの娘のそんなところが気に入ったんだもの。それで次は?」

 

「星ちゃん、趙雲さんはですねー。以前私と稟ちゃんが旅をしていたことはご存じかと思いますが―」

 

「ええ、聞いてるわ」

 

「そこで一緒だったのが趙雲さんだったんですよ。性格は掴みどころのない雲のような感じですかねー。どことなく華琳様に似ている気がしますー」

 

「ふ~ん、なかなか面白いわね。それで北郷はどうだったの?あなたのその眼でみての感想は」

 

「うーん」

 

「どうしたの?」

 

「よくわからないのですー。あの北郷ってお兄さんがすごいのかそうでないのか。星ちゃんとは違った意味で掴みきれないというか。強さと弱さが同居しているといいますか、ふと女の子にデレデレしているかと思えば、なんでもないような会話の中に探りを入れたりしていて。華琳様の圧倒的な存在感と能力をもって人望を集めているのは違った人情とか自分の持っている雰囲気に相手を巻き込んで人望を集めているのではないかと」

 

「風にここまで言わせるなんて本当に食えない男ね」

 

「それとーもう一つ」

 

「なにかしら?」

 

「お兄さんの天の御遣いっていう肩書はあながち虚言ではないと思いますー」

 

「あなたがそう思った理由は?」

 

風は関所であった出来事の事の次第を事細かに話した。

 

「そんなことがあったのね。にわかには信じられないような話だけど。でもこうでなくては関羽の奪い甲斐がないってものだもの。私は欲しいものは全て手に入れてみせるわ。これまでもそうだったし、これからもずっとね」

 

「風、関羽を私の物にする策を考えて頂戴。そのために私はこの宴を催したのだから。そう、その為だけにね」

 

曹操は獰猛な猛禽類を彷彿させるような瞳のまま口の端を持ち上げた。

 

「うーん。そうですねー。劉備軍を攻略するとしたらどの程度の兵力を出すことができますか?」

 

「出そうと思えば50万は出せるわ」

 

「十分ですー。それだけいれば圧倒的ですねー。それならばお兄さん一人を呼び出して関羽を差し出すよう言って、もし断るようなら50万の兵をもって徐州を攻め入ると脅しをかけるのがいいかと。単純な策ですが効果的ですー。ないとは思いますが断った場合は本当に徐州を攻めて降伏もしくは捕縛すれば関羽さんは華琳様の物になるかと」

 

「いいわ。その策でいきましょう。それじゃあ久しぶりに関羽の顔も見たいし玉座に行きましょうか。(まぁ、あくまでも脅しにすぎないけれど)」

 

「はいー」

 

そうして華琳は不敵な笑みを浮かべながら執務室を出て行った。

曹操たちが関羽を手に入れる算段をしていた頃、当の本人たちはというと、

 

「遅いなぁ」

 

一刀の呟きに、

 

「これだけ大きな国ですし、最近まで袁紹と官渡で一大合戦をしていたのですから戦後の処理も相当な時間がかかるのでしょう」

 

「そうですな。主もいずれこれ以上に大きな国を背負っていただかなければいけないのですから」

 

「精進するよ。それにしてもこのお菓子旨いな。鈴々達にも食べさせてあげたいな」

 

「そうですね」

 

「お土産に買って行ってあげようかな?」

 

和んでいた。

 

「あら、それはよかったわ。帰りに持たせてあげましょうか?」

 

「っ!?曹操か…って今は丞相って身分になったんだっけ?敬語とか使った方がいいか?」

 

「別に今のままで構わないわ。それよりずいぶん待たせてしまったようね」

 

「全然気にしてないさ。それより愛紗・星、曹操に挨拶をしてから祝いの品を渡してくれないか?」

 

「「はっ!」」

 

二人は俺の横に立ち曹操に一礼し、徐州の特産品やお酒を差し出した。

 

「急なお誘いだったんで大層なものは用意できなったんだけどよければ受け取ってもらえるか?」

 

「ありがたく頂戴するわ。それでこの後の予定なのだけど、宴は今日と明日の二日間を予定しているから。存分に楽しんでいって頂戴。今からあなたたちが泊まる部屋に案内するからそこで疲れを癒して休んでいて」

 

「わかったよ。服とかはどうしたらいい?」

 

「そうね。そのままでは味気ないし。用意させましょうか?」

 

「いや、こんなこともあろうかとちゃんと持ってきてるよ。それを着てもかまわないだろ?」

 

「そう、とびっきりきれいな衣装を用意しようと思ってたのだけれど。私の部下の一人にそういうのが大好きな娘がいるのよ」

 

「それは済まなかったな。だけど俺が用意させた服も自分で言うのもなんだが凄いぞ」

 

「あなたが?」

 

「あぁ、そうだよな星?」

 

「それはもう。愛紗などはもう言葉も出ないほどですな」

 

「な、ななななにを言っている!?」

 

「本当だよ。二人ともすごく綺麗だったじゃないか。それじゃ俺たちは部屋に行くよ」

 

「準備が終わり次第部屋に呼びに行かせるわ」

 

俺たちは曹操の部下に連れられて部屋に向かった。

案内された部屋は随分豪華な部屋だった。俺が彭城で使っていた寝室も決して狭くはなかったけどこの部屋はそのゆうに3倍はあるだろう。

 

寝台も部屋の中に区分けごとに一つずつ置いてあった。

 

「これは凄いな」

 

2人も同様に驚いている。

 

「それじゃあアレに着替えようか?」

 

「ほ、本当にアレを着なければいけませんか?」

 

「星はどうだ?」

 

「私は構いませぬよ」

 

「星は着るって言ってくれているのになぁ」

 

「し、しかしっ。私にそのような女っぽい服は似合わないですし」

 

「なに言ってるんだよ愛紗。愛紗は正真正銘女の子でそれもすごく可愛いと思ってるよ。俺は二人に俺の意匠こらした服を着て欲しいなぁ」

 

わざと二人にという単語を強調して言った。

 

「はぁ、仕方ありませんね。ご主人様がそこまで言われるのならば着らないわけにはいかないでしょう」

 

本人は素っ気なく言っているつもりだろうが顔はリンゴのように真っ赤に染まっている。

 

「主は本当に愛紗の扱いが上手いですな」

 

「そりゃ付き合いも長くなってきたし。それに二人が本当に綺麗で俺の作らせた服を着てくれたら嬉しいってのは本心だよ」

 

「…主、あなたという人は本当に……」

 

「俺は後ろ向いているか着替え終わったら呼んでくれ」

 

「わかりました」

 

「ほら愛紗、主も待っていることだし早く着替えるぞ」

 

「わ、わかったからそう急かすな」

 

二人はキャイキャイ言っていたが、やがて衣ずれの音が聞こえてきた。なんだか美女二人が後ろで服を脱いでいるのを想像すると欲望が下腹部に集まってくるがこれももっと綺麗な2人を見るためだと自制する。

 

我慢するために数えていた素数が4ケタになろうとしていた時、後ろから声がかけられた。

 

「…………」

 

後ろを振りむいた瞬間、思わず言葉を失った。

 

「あの、どうでしょうか?どこか変ではないですか?」

 

「主どうだろうか?」

 

愛紗は純白のドレスを着ていた。そのドレスは愛紗自身の清楚な魅力引き立てるような白で構成されてそれでいて彼女の豊満は乳房を強調するように大胆に開けられており、女性的な色気を醸し出していた。それにいつもつけている髪留めではなく俺が買ってあげた花を模した髪留めとてもよく似合っている。

 

星はというと愛紗と対比するように漆黒のドレスを身に纏っていた。こちらは星のミステリアスな魅力を引き立たせていた。腰の部分は同じ生地でできた帯で引きしめられて星のスタイルの良さを強調してある。その帯は蝶を模した留め具で留められていて星らしさが表れている。

 

「二人ともすっごく似合ってるよ。今すぐ抱きしめたいくらい」

 

「そ、そんな」

 

「おやおや、主まだ夜までは時間がありますぞ。主がどうしてもというのであれば吝かではありませぬが」

 

「せ、星!真昼間からなにを言っている!」

 

「ほぅ、それならば夜ならばかまわないと」

 

「~~~~~~~~~」

 

 

 その後も星が愛紗をからかい、俺が笑うといういつもと同じような光景が繰り広げられていた。

 

「宴の準備が整いましたので玉座の間までお越しください」

 

「あぁ、わかったすぐに向かうよ」

 

未だ言い合っている二人を宥めて(主に愛紗)玉座の間に向かった。

 玉座の間は俺たちが来た時とは全く別物の空間へと変貌していた。辺りには煌びやかな装飾品で飾り立てられていて、いくつかの大きな食卓には山海の珍味が所狭しと云わんばかりに並べられていた。

 

その中には酒のみで埋め尽くされたものもあり、それを見つけた星は目を輝かせていた。

「すごいな…」

 

「えぇ、これだけのものを集めようとしたらどれほどの兵と軍馬を揃えられるか」

 

「ははっ。愛紗らしいな」

 

「これほどのものとは…やはり今からでも曹操殿に…」

 

「っ!?」

 

「冗談ですよ、主。今の私は流浪の身ではなく、主と桃香様を我が主君と定めたのです。裏切ることがありましょうか」

 

「そうか…。よかった」

 

 星の冗談は心臓に悪すぎる。本人は素知らぬ顔でカラカラ笑っているが…。

 

「今日、私が丞相としての位に就くことができたのは皆の頑張りがあったからよ。本当に感謝しているわ。そして徐州からはるばる宴に参加してくれた三人も思う存分楽しんでいって頂戴。さぁ始めましょう!」

 

 曹操の口上が終わると曹操の将兵たちが歓声を上げた。

 

「さて、俺たちも楽しもうか」

 

「「はい!」」

 

 とりあえず俺たちは三人一緒にかたまって食事を開始することにした。

 

「北郷、楽しんでいるかしら?」

 

「あぁ、もちろん!こんなにうまい料理は初めてだよ」

 

「それはよかったわ。あなたの部下の二人も満足してもらえているようだし。それにしても今夜の関羽と趙雲の衣裳はなかなかのものね」

 

「曹操にも満足してもらえたみたいでよかったよ。さっき会った時に大言はいちまったから、もし気に入らなかったらどうしようって思ってたんだよ」

 

「そんなに謙遜しなくてもいいわよ。関羽も趙雲もそれぞれの個性をよく引き立てているわ。私にも作って欲しいぐらいよ」

 

「機会があればいくらでも作ってあげるよ。黄巾党の時も世話になったし、それくらいでよければ」

 

「そうね、ぜひ。私は主催者としていろいろ挨拶なんかがあるからこれで失礼するわ。それじゃあまた後で」

 

「あぁ」

 

曹操は俺の返事も聞かないうちに背を向けて行ってしまった。

 

このときの俺は宴の楽しげな雰囲気に呑まれてしまっていたのだろう。だから、ここが曹操という巨大な敵の本拠地であることを忘れ、曹操が最後に言った「また後で」の真意と背を向けた曹操の顔がどんな表情をしていたのか気づくことができなかった。

一晩目の宴も終わり、二人を連れて部屋へと戻って一息ついていた。どうやら星は宴席から酒瓶をいくつかくすねていたらしく、嬉しそうに呑んでいた。

 

愛紗はそれを見つけて星を咎めている。当の本人は全く気にしていないが。

 

ふいにコンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 

それにいち早く気づいた愛紗が扉越しに対応する。

 

「ご主人様、曹操殿が衣装のことについてについてお話したいと申されているそうで執務室の方までお越し頂きたいと」

 

「あぁ、その話か。宴の最中に言ったっけ。そんなに気に入ってくれたのかな?」

 

「はぁ、そんなことを話しておられたのですか」

 

「そんなことはないだろ。普通の年頃の女の子ってのは服とか小物なんかが気になるものさ」

 

「それでは私はご主人様曰く『普通の年頃の女の子』ではないと」

 

「い、いやそんなことはないよ。それじゃ曹操が呼んでるみたいだから行ってくる」

 

「ご主人様!」

 

 後方から愛紗の怒鳴り声が聞こえたので俺は振り返らずに部屋を飛び出した。

 

執務室の手前に着くと侍女は「こちらでお待ちです」と告げて下がった。

 

「曹操、入ってもいいか?」

 

「えぇ、入ってきていいわよ」

 

部屋の中に入ると今まで感じたことのないような圧力が俺の体を硬直させた。

 

「どうしたの?早くこちらにきてそこにかけなさいな」

 

「あ、あぁ」

 

 蝸牛のようにゆっくりとした動きで椅子に座りながら俺は思い出していた。

 (そうだ、ここは曹操の本拠地だった。許昌にいる間…いや曹操の領土にいる間は警戒を解くべきではなかった)

 

 後悔してももう遅い。たった今俺は死地とも言える場所に自ら足を踏み入れてしまったのだから。

 

 曹操の脇には彼女が戦場で持ち歩いている大鎌が置かれている。それに対し俺は一振りの剣さえ佩いていない。それに彼女の背後には夏候惇、夏候淵、が侍っている。無論、俺の背後には誰もいない。

 

 “本当に俺はバカだな”

 

 声のも出さずに呟いた。

 

「それじゃお話しましょうか」

 

「もちろん…服の話なんかじゃないよな?」

 

「あら、わかっていたの?」

 

「そりゃあ、俺もお飾りとはいえ関羽や趙雲達の主人をやっているんだ。この部屋の雰囲気が異様なことぐらいはわかるさ」

 

「それは結構ね。単刀直入に言いましょう。関羽を渡しなさい」

 

「なっ!?そんなことできるわけがないだろ!?」

 

「できるかできないかなんてことは関係ないの。これは交渉ではないわ、命令よ」

 

「…横暴だな。それは丞相としての命令なのか?」

 

「違うわ。丞相なんて私にとっては通過点に過ぎない。私が目指すものは天下ただ一つのみ。近い将来この大陸に覇を唱えようとするものが欲しいもの一つ手に入れることができないなんてあり得るわけがないでしょう」

 

「もしも断ったらどうするつもりだ?ここで俺を切るか?」

 

「そんなことしないわ。私の風評が傷つくだけだもの。そうね、もし断るなら徐州を攻めようかしら」

 

「俺たちも徐州に来てからなにもしなかったわけじゃないんだ。勝つことが出来なくても守ることはできるぐらいに」

 

「ふぅん、大層な自信じゃない。その兵力がどれほどのものか知らないけど私は50万の兵を動かす用意があるわ」

 

「ご、50万…」

 

 途方もない兵力に俺はただ項垂れるしかなった。

 

「素直に関羽を渡すことね。戦で劣勢になった時、関羽はどうするのかあなたなら分かるのではなくて?」

 

 愛紗のことだ。わからないはずがない。あの愛紗が簡単に兵を引いたり、ましてや降伏なんてするはずない。最期まで戦い続けるに決まってる。

 

「わかったようね。私も関羽が傷つくのは本意じゃないわ。綺麗な体のまま手に入れたいもの」

 

「……」

 

「今すぐにでも返事が欲しいところではあるのだけど、そうね。二日の猶予をあげるわ。それまでに関羽を説き伏せるなり、徐州に帰るなりしなさい」

 

「……」

 

「帰るのならば早くした方がいいわ。準備も必要でしょうし。でも、帰るということは丞相の主催する宴を無断で帰った無礼者として徐州に攻め込むだけよ」

 

 曹操は艶然と微笑み、全く悪びれたような表情はしていない。それどころかさも当然であるかのようだ。

 

「もう、部屋に戻っても構わないわ」

 

なかなか動こうとはしない足を強引に椅子から引き離して曹操の執務室を出た。

 

その後、執務室では、

 

「華琳様、あの北郷は素直に関羽を引き渡すでしょうか?」

 

「普通だったら絶対にしないでしょうね。だったら普通でなくなるような状況を作ってあげればいいだけの話よ」

 

「さすがは華琳様!素晴らしい知略ですっ!」

 

「まぁ、この策は風が考えたものだから私の知略ではないわ」

 

「それでも風は華琳様が直々に登用されたのです。その慧眼があればのことです」

 

「ありがとう春蘭。今日は気分がいいから二人とも存分に可愛がってあげるわ」

 

「「はっ!」」

 部屋に帰る道中、俺はどうするべきか考えていた。

 

 考えても、考えても堂々めぐり。

 

このまま愛紗と星をつれて徐州に帰ればどうにかなるかもしれないなんて思ったがあの曹操が50万と言ったのだから太刀打ちできるはずがない。

 

しかも、そんな事をすれば他のみんなも危険にさらしてしまう。みんなはそれでも構わないと、曹操と戦ってくれるのかもしれないがそんな危険なことをみんなにやらせたくはない。

 

いくら曹操の城だと言っても考え事をしながらだったら目的地に着くのはすぐだ。

 

扉の前に立ったが俺には開ける勇気がなかった。

 

ただ怖かった。愛紗や星と顔をあわせて普段通りの自分の顔ができるか不安でいっぱいで体に何も力が入らなかった。

 

数分立ち尽くしただろうか。自分ではよくわからないけど体感時間はもっと短かったような気がする。

 

「ご主人様?」

 

突然、部屋の扉が開いた。それは簡単に。

 

当然だ。扉を開くことなんて人間が生きていれば数えられないぐらいに回数を簡単に…

 

 生きていれば…か。

 

「ご主人様具合でも悪いのですか?」

 

「大丈夫だよ。うん、大丈夫だ」

 

それは愛紗に対してではなく、自分に対して言った。

 

「?それならば早くお部屋にお入りください。夜風は体にこたえます」

 

「そうだね」

 

 部屋に入って寝台に腰を降ろして愛紗と星を見つめる。

 

 二人の姿を見ていると不思議と自分の心が落ち着いていくのがわかった。

 

それと同時に心の底からこの二人の女性が欲しいという感情が湧きあがってきた。

 

この世の女性の誰でもなく、今俺の眼の前にいる『愛紗』と『星』が欲しい。愛したい。

 

そう思った。

 

もしかしたら単なる俺の自己満足かもしれない。俺の中にある不安をかき消してしまいたかったのかもしれない。

 

それでも俺はこの心の中にある感情が偽りではないと確信していた。

 

「愛紗、星ちょっとこっちに来てくれないか?」

 

「やはり体調が悪いのですか?」「どうしたというのです?」

 

 愛紗は心配そうに、星は訝しげにしつつも杯を置いてこちらに来てくれた。

 

 寝台の前まで二人が来たところで立ち上がり、二人まとめて抱きしめた。

 

「ご、ご主人様いったいなにを!?」

 

「あ、主?」

 

突然の不意打ちに愛紗はもちろんのこと星まで顔に薄っすらと朱がさしている。

 

「今日の二人の綺麗な姿を見たら我慢できなくなっちゃった。それに星も言ったろ?

夜だったら構わないって」

 

「そ、それはそうですが…」

 

 愛紗は衝撃で口をパクパクさせて言葉も出ないようだ。

 

 俺は二人を不安がらせないよう、そして俺の不安も誤魔化すように抱きしめる力を強くして、

 

「愛紗も星も大好きだ。…愛してる」

 

そのまま俺達三人は寝台に倒れこんだ。

 

 

こうして俺の初めての女性経験は女性二人をいっぺんにという他人から見れば異常な結果になってしまったけど、俺自身は異常だなんて思っていない。

 

「俺って幸せ者だな」

 

それどころか、好きな女性を二人まとめて愛せたのだから最高の結果だとさえ思っている。

 

 

だってこれが愛する女性とまっとうな形で愛し合えた最初で最期のことだったから。

 

 

戦場では鬼神のごとき働きを見せる二人も初めての性体験ということもあり疲れて眠ってしまっている。

 

「寝顔は年相応の女の子なんだもんなぁ」

 

愛紗の長い綺麗な黒髪を梳き、星のシミ一つない頬を撫でてやる。気持ち良さそうにしている表情がすごく可愛い。

 

やっぱりこの二人を愛せてよかったと思う。

 

二人が深く眠っていることを確認してからそっと寝台から起き上がった。

 

このまま別の寝台に移ってこれからのことを考えようと思い視線を動かすと、窓の外に真円の月が煌々と輝いていた。

 


 
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