No.698852

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第034話

どうも、ザイガスです。
お待たせして申し訳ありません。

いろいろあり久しぶりの投稿です。
ホントはいくつかストックを貯めて投稿したかったのですが、そんな余裕もないと思い今に至ります。

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2014-07-06 09:24:47 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:1039   閲覧ユーザー数:967

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第034話「官渡の戦い・終章」

曹操軍が袁紹の策に陥れられてからも、梅雨の雨は続き、曹操軍の方ではなにかの動きを見せていた。

「風……少し早いけど、例の策を使うしかないわね」

 

梅雨があがり、官渡水の水が引いた時に、袁紹軍は一気に曹操軍に襲いかかった。

通常、城や砦を攻めるにはその城内にいる兵の三倍必要とされているが、今の袁紹軍は勢いに乗っており、兵も相手の4倍。

お釣りが来るぐらいなのだが、その兵力差をモノともせずに耐え抜く曹操軍も流石と言えた。

曹操は決して砦から出ることなく、敵が引いたあとでも追い打ちをかけることもなく守りを堅固にし、袁紹軍を迎えうった。

ちなみに、兵は減ると指揮が落ちる。

防衛に回せる数が減るなどといった多々の理由の汚点あるが、汚点の中からでも利点を見つけることは出来る。

まず食糧に余裕が出来る。

本来配る分であった兵の食糧分を他の兵に回せるのだ。

これが意味することは、籠城期間を延ばすことが出来るということだ。

例え袁紹軍が曹操軍の兵糧機関を封鎖しようとも、曹操軍には兵20万分の兵糧がある。

だが、いくら食糧があろうとも、5万の兵が20万を留めるにもいつか限界が来る。

そんな中、袁紹陣営にてとある事件が起きていた。

「なんですって!?領内の各地で反乱が起きたですって!!」

「はっ、田豊様が率先して領内を沈めようと奮闘しておりますが、それでも人手が足らず、悪戦苦闘しております」

伝令兵の話を聞き、袁紹は驚愕していた。

戦が長引き、領内の不安が高まった為。

また徴兵の無理も重なった為に領内の不満が爆発したのだろう。

幸い今までの善政が幸を呼び、反乱分子は極少数である。

しかし、”領内各地”で起こったとの報告があった様に、今の袁紹の収めている領内に将は田豊一人のみ。

袁家の軍師である田豊も、流石に河北四州の広大な土地を、一人で目を通すのは難しい。

このままいけば、”いずれ”反乱は鎮圧されるであろうが、これが曹操の耳に入ろうものであれば、どんどんと民を煽り、小さな小火を大きな山火事にしかねない。

袁紹は文醜、高覧を含む10万の兵を引き連れて急ぎ自国へと戻った。

防衛には顔良と張郃を置き、自身が戻るまで決して打って出ることなく守りを固める命を下して。

しかしそんな報は勿論曹操の耳に入り、直ぐにこれからの対策を考えるべく、軍議を開いていた。

「……ふふふ、いくら麗羽でも、まさか自国に私たちの間諜が紛れ込んでいるとは思わないわよね」

実を言うと、今回の河北四州の各地の反乱は、曹操が前から程昱に進めさせていた計略であった。

袁紹が曹操軍の兵を如何にして大量に削り取るかを模索していたように、曹操も袁紹軍の兵の分断のさせ方を考えていたのだ。

10万対10万に持ち込めば、将兵の質が勝る曹操軍の優勢は確実。

二つに分けられた袁紹軍をまず残った10万を潰し、続いて戻ってきた袁紹率いる本隊を叩くと言った形だ。

だが先日の件によりいくら袁紹軍の兵を半分に減らしても、5万対10万で二倍。

大将のいない軍を潰すことぐらいは可能であるが、こちらもそれなりの被害を被り。

疲れた兵を率いて戻ってきた袁紹を迎え撃たねばならない。

最後に一つ、袁紹軍に決定的な打撃を与える何かが欲しかった。

ただその議題を立てて何か案がないか探り合っている際に、そんな中一人の訪問者が現れた。

「失礼します。曹操様、荀彧様がお目通りを願っています」

それは戦が始まった際、大失態を犯して謹慎処分を受けていた荀彧であった。

曹操は思った。

自分に行き過ぎるほどの忠を尽くし、賢い彼女のことであろう。

謹慎の命を破ってまで自分に会いたいというほどである何かあるであろう。

曹操は荀彧を通すように兵に命ずると、兵は一つ返事をして天内から出て行った。

「……桂花、貴女には謹慎を命じていたはずよ。これは立派な軍規違反。頭の良い貴女なら判るはずよね?」

「華琳様、私が今置かれている状況は十分に理解できているおつもりです。しかし今日は必勝の策を携えてこの場にやって来ました。どうか私の話を聞いて下さい」

「……いいわ。言ってみなさい」

「はい。現在袁紹は華琳様と風の考えた策に釣られ、半数の兵を率いて自国に戻りました。自国の反乱を鎮圧すれば、直ぐにここに戻ってくるでしょう。しかし以前の袁紹の計略によりこちらの軍は半分やられてしまい。仮に防衛の為に残っている顔良達を決戦に持ち込んで破ったとしても、こちらは無傷で済みません。そして攻撃を加えるにも、袁紹率いる10万が完全に河北に戻ったことを確認しなければなりません。何故なら今攻撃を加えると、袁紹がこちらに戻ってくる可能性があるからです。つまり現時点で袁紹軍より少ない兵の我々が袁紹軍を完全に打ち破るには、短期決戦で顔良達をほぼ無傷で打ち破り、勢いそのままに袁紹を追撃し打ち取るしか手はありません」

曹操は荀彧の言うことをわかったかのように頷いているが、そこに張遼が口を挟んだ。

「ちょい待ちや桂花。あんたの言いたいことは判る。でもどうやって5万の兵で2倍の10万を打ち破るゆうねん」

「確かにただ我武者羅に相手を突くわけにもいかないわ。敵は先日の官渡水での氾濫で絶対の自信を持っているし、油断はしないでしょうし、士気も高い。だったら、士気を下げてしまえばいいのよ」

その言葉に曹操の眉はピクリと動くが、荀彧は続けて話を続けた。

「霞、大部隊に於ける欠点と、小部隊に於ける利点って何かわかる?」

「欠点と利点?そんなもんアレや。大部隊は兵の数が多いから、その分兵糧も喰うし、それをまとめる将の数も必要になってくる。それに情報伝達の速度も一番(いっちゃん)上の将から末端の兵になかなか命令が行きにくいってのもあるな。それに比べ小部隊は小回りもよう聞くし兵糧もさほど喰わんな」

「そう、袁紹軍には将が少ない。張郃や高覧のような将が増えようとも、10万の兵を顔良と張郃だけでまとめきるのは難しい。なればこそ何故顔良達はそれらの兵を率いることが出来るのだろうか?それは”守る”だけと言う単純な指示のおかげ。何故ならそれ以外のことはしなくていいのだから。けど、あまりにも予想外の事態が起こればどうなる?」

「つまり桂花、あなたは何をしおうとしているの?」

長い荀彧の説明を聞きながらも、曹操は本題を切り出してき、荀彧は待っていたと言わんばかりに口頬を寄せた。

「・・・・・・実は、鳥巣(うそう)に袁紹軍の兵糧が隠してあります」

その言葉に天幕にいる一同は驚き、まず最初に銀が声をあげた。

「なるほど、鳥巣か!!確かにあの地帯はこの辺りから距離があるが、近くに山があり兵糧を隠すのに最適な場所かも知れない。だが桂花、何故お前がそんなことを知っている」

「この戦が始まった時からずっと疑問に思っていたのよ。いったい袁紹はどうやって20万の兵の食料を養っているか。官渡水はどちらかというと華淋様の国寄り。こちらの兵糧が切れそうになっても最悪本国から支援要請をすればいいわ。でも今回攻めてきた袁紹の兵糧確保はどうしているのか?こちらがあちらの支援要請の邪魔をすれば、兵糧を本国から自軍に運び込むことも出来ない。だから思ったのよ。袁紹は兵糧確保をもっと近場よりおこなっていると」

荀彧の説明に誰もが納得していると、曹操が一つの質問を彼女に投げかけた。

「桂花・・・・・・貴女の情報収集はよくやった褒めるべきなんでしょうけど、気にかかることがあるわ。私はその間も貴女に”謹慎”を命じたはずよ。そのことに関してはどう説明をつけるのかした」

「勿論謹慎していました。しかし華淋様、私は謹慎を命じられましたが、”自身の兵を動かすな”とは言われていません。だから部下に命を出しただけであって、”私自身”はしっかり謹慎していました」

荀彧は開き直ったかの様にニヤリと笑って答えた。

だがこれは驚く事態である。

曹操のことを異常なまでに崇拝し、常に彼女の命を忠実にこなす荀彧が、曹操の命令出し抜いて見せたのだ。

そんな今までの荀彧にとっては考えられない行動を目にし、周りは言葉を失い、曹操の体も僅かに触れていた。

荀彧の屁理屈に腹をたてているのか、それとも出し抜かれた自身に怒りを覚えているのか。

しかし次に曹操は大きな声を上げて笑い出した。

「――桂花、面白い!!面白いわ。初めて貴女が私に逆らったわね。その反骨心、本当に面白いわ!!それでこそ軍師よ。主の命令を逆らってでも、その命以上の策を生み出す。その貴女の反骨心に免じて謹慎の命を解きましょう」

「はい。ありがとうございます」

「皆、今聞いた通りよ。各自即座に軍を動かす準備をなさい。凛と風は出陣までの間、鳥巣周辺の地形を集められるだけ集めなさい。麗羽が河北に戻った時を見計らって鳥巣を強襲し、士気の落ちた官渡の袁紹軍を蹴散らし、勢いそのままに麗羽の首を取るわよ」

袁紹率いる10万の兵が河北に近づいた際に、曹操軍は行動を開始した。

曹操軍は隊を三つに分けた。

一つは鳥巣を襲撃する部隊。

次に砦を防衛する部隊。

最後に混乱に乗じて袁紹軍を強襲する部隊。

各5,000、35,000、10,000に分けられた。

襲撃部隊には桂花、銀(龐徳)、李典、于禁。

強襲部隊には曹操、夏候惇、夏候淵、楽進、張遼、紫(司馬懿)。

防衛部隊には郭嘉、程昱、許褚、典韋にて割り振られた。

袁紹が河北に着きかけるとの情報を得た時の真夜中に、荀彧は動きを開始した。

彼女の調べた情報によれば、袁紹軍の食料庫は鳥巣の森林地帯に囲まれた場所に隠されているらしい。

夜になり鳥巣の警備を行う兵士が灯りの松明を点け、夜が更け始め、兵士の油断が見え始めた頃に、荀彧は奇襲を開始した。

鳥巣は混乱に陥り、荀彧が鳥巣の兵士に追討ちをかけようとした瞬間、一つの異変が起きた。

 

一方その頃曹操が率いる本隊の方では、伝令の報告により鳥巣の兵糧に火がかけられたことを知った瞬間に、本隊も行動も開始した。

袁紹軍も鳥巣奇襲の知らせを聞きつけたのか、砦の扉が開き、袁紹軍が続々と出陣してきた。

だがその袁紹軍に向けて、突然一つの軍団が突撃を仕掛けてきた。

張遼と紫が率いる騎馬隊5,000である。

紫は闇に紛れるために馬は取り分け色が黒目なものを。

足りない頭数は体を黒く塗り、兵士には黒の鎧を着せた。

5千の騎馬隊は電光石火のスピードで袁紹軍を蹂躙し、大きな打撃を一撃加えると直ぐに引いていった。

軍を率いていた顔良は直ぐに追撃を行ったが、しかしそれは曹操の釣りであった。

騎馬を追いかけた先に待っていたのは、曹操率いる3万の大軍であり、途中合流した5千の騎馬隊を合わせると35,000である。

釣られたと思い撤退をしようとした顔良だが時すでに遅し。

顔良が率いていた4万の軍は曹操軍とぶつかった。

仲間を助けんと砦に残る袁紹軍も続々とその乱戦に参加していくが、それも曹操の思う壺。

袁紹軍に将が居れば、恐らくそれらの兵を止めることが出来たであろうが、生憎その時に砦を守る将は顔良一人。

自制を訴えきれないことを悟った顔良は、そのまま曹操軍とぶつかるしかなかった。

夜中に戦闘が始まり、日が昇ってきた頃。

兵糧を燃やされたにも関わらず袁紹軍の迎撃は激しく、10万の袁紹軍は官渡水の外戦と砦で強固に耐え忍んでいた。

余りにも激しい抵抗に曹操も何かがおかしく思えた。

本来であれば、鳥巣攻略に乗り出している荀彧と合流し、そのまま一気に袁紹軍を打ち破るはずであったが、その荀彧が率いる奇襲部隊の姿は影も見えていない。

「これはおかしい」っと思い始めた時に、本隊の軍より少し離れた曹操を突然側面から奇襲する賊が現れた。

兵数は1,000ほど騎馬であり、装備はズボラであった。

何処かの戦場にて敗れた兵士の鎧をそのまま着た格好である賊は、周りの兵士を蹴散らせて曹操に近づいてくる。

特に顔は防具に隠れて見えないがその隊を率いる金色の長い髪の者と、大剣を振るう者は誰にも止めることは出来なかった。

楽進、張遼、紫は前線で指揮をとっている為に、夏侯姉妹が部隊を率いて賊の前に出る。

大剣を振るう者が先頭を走ると、馬より飛び上がり夏侯姉妹に襲いかかった。

自らの体程ある大剣を軽々と振るいながら、その者は夏侯惇と鍔競りあった。

「――っく、なんだってこの様な時に賊の奇襲など。これも袁紹軍の策略か!!」

大剣を受け止めながらもそう愚痴を溢し、金色の髪の者は曹操に向かおうとするが、それを夏侯淵が迎え撃つ。

「無駄だ!!華琳様には一歩も近づけさせはしない!!」

夏侯淵は矢筒より矢を数本取り出し、目に見えぬ速さで打ち続けるが、金髪の者はその矢を、落ちてくる枝を払うかのごとく腰より抜いた剣で振り払っていく。

金髪の者は短剣で投擲を行い、夏侯淵も負けじとその短剣を払うが、しかし一本の短剣だけは、夏侯淵の方向に飛んでいかず、何故か夏侯惇の方向に投擲された。

夏侯淵は自らの姉に向かって注意を促したが、だが大剣の者との戦いに囚われていた夏侯惇はその忠告を聞き逃し、気付いた頃には投擲された短剣は彼女の左目に突き刺さった。

「姉者ぁぁぁぁぁぁっ!!」

夏侯淵は咆哮したがだがその隙に金髪の者の侵入を許し曹操の方に向かわれてしまった。

自らの姉のことも大事であるが、それ以上に主の曹操の命。

彼女にとって曹操の命と姉の命を優劣付けるつもりではないのだが、これは姉妹で曹操に仕えることになった時誓った証でもある。

例えどちらの命が尽きようとも曹操を守る。

それを思い夏侯淵は曹操を守るために戻ろうとするが、しかしその前を大剣の者が行く手を阻んだ。

夏侯淵はその者を退ける為に奮戦した。

投擲にやられた夏侯惇も、幸い刀が浅く刺さったのが即死には至らず、小剣をえぐり抜いた先に刺さった目玉を喰らい、左目に自らの服の袖を破いた布を巻き付けて応急処置を施した。

夏侯惇も大剣の者を退けん為に妹と連携し戦うが、いくら曹軍の大剣と言われる夏侯惇も手負いの状態。

夏侯姉妹の猛攻に大剣の者は一歩も引かなかった。

曹操は自ら乗馬し、近づく浮浪者に家臣を傷つけられた怒りを覚えながらも、決してその者の力を侮る行動は取らなかった。

絶と構え金髪の者の投擲による短剣の押収を扇風機の如く絶を回し弾く。

その者の剣と自らの絶が重なった瞬間、曹操にはその者の正体が判った。

「……貴方の使っているその剣は『閃響刺(せんきょうし)』。それは歴代袁家の当主、特に武に秀でた者が持つことを許される名剣。袁家本家の血筋である袁術がその剣を持つことを許されなかったのは、武に秀でることが出来なかったから。でも……貴女(・・)は違う――」

言いながら曹操は絶の鎌の先で金髪の者の頭の防具を一気に取り払うと、その者の正体が現れた。

「そうでしょう?麗羽――」

袁紹の頭の防具が取られた瞬間、それと同じタイミングで、大剣の者の正体も破られ、大剣の者の正体は文醜であった。

「文醜、そこを退け!!」

夏侯惇は文醜に対してそう叫ぶが、文醜はニヤリと笑って大剣を肩に背負った。

「……へっ、やだね。これは姫の戦いなんだ。どうしても姫を止めたきゃアタイを倒していくんだね」

そう言いながら文醜は夏侯惇の死角を狙うように、彼女の左上より剣閃を払うが、それは夏侯淵によって止められる。

「悪いな。私と姉者は一心同体。姉者の左目が死角になるというのであれば、私が姉者の左目になればいい」

文醜は一度間を置き、改めて夏侯姉妹と向き直った。

「へっ、アタイもそういうの、嫌いじゃないぜ。……いいぜ、来な!!」

文醜達からは距離を置き、曹操と袁紹も戦いを繰り広げていた。

前線で戦っている将も後方の異変に気付いたものの、袁紹軍の大軍のせいで後方に下がることは出来ず、それを尽く顔良により阻止されている。

「……麗羽。これらの状況も貴女が作り出したことね」

皮肉めいた笑みを浮かべる曹操に、袁紹は高らかに笑って答えてみせた。

「えぇその通りですわ。ワタクシは以前から我が軍の優秀な軍師、真直さんにこの合戦の間、財力を惜しむことなく使わせ、我が国内の敵の間諜について探らせましたわ。そこで華琳さん。貴女の送り込んだ間諜がうちの国入り込んでいると言うではありませんか。ワタクシは貴女の国の間諜に偽の情報を送り、ありもしない河北各地の反乱情報を与え油断させた。私が本当に兵を半分にして自国へ一時撤退すれば、将が少ないワタクシ達に漬け込んで必ず強襲する油断を誘って、残った10万を襲うと思いましたわ。そこでワタクシは、10万の兵を高覧さんに率いさせ本当に自国に戻し、ワタクシ自身は1,000の兵を引き連れて今この状況を待ち詫びた」

「……なるほど、10万の兵ですら釣りだったわけね」

「しかし……まさか鳥巣のことまで知っているとは思いませんでしたけれども。確かに我が軍の兵糧は燃やされましたけれども……華琳さん、不思議に思いませんこと?鳥巣を奇襲した別働隊が戻ってこないことを」

「――ッ!!まさか!!?」

「そうですわ。予め鳥巣には張郃さんを送り込んでいましたわ。今頃張郃さんの逆襲により、別働隊は壊滅ですわね」

袁紹のその言葉に曹操は少し沈黙してしまうが、直ぐに少し笑って返答した。

「……ふっ、心配いらないわ。だって、あの子達は私の大事な部下ですもの。そんなことでやられるようなやわな子達ではないわ」

「……自信満々はそこまでにして、華琳さん。貴女、今の状況がわかっていますの?」

「えぇ、判っているわ。私が貴女の首を取れば、この戦が終わることがね」

「………その自信、叩き折ってみせますわ」

袁紹は体の重心を使って剣を振るい、曹操も大鎌でその剣戟を薙ぎ払う。

そんな戦いの際、曹操は袁紹に問いかけた。

「一つ答えなさい麗羽。派手好きで誇りが人一倍高い貴女が、あなた自身の美誇りでもあるいつもの縦髪を下ろして、賊が(まと)う様な衣に身を纏ってまで勝利に拘る理由は一体何!?何が貴女をそうさせるの!?」

互いの剣戟がぶつかり合う中、袁紹は答えた。

「愚問ですわ。白湯(ぱいたん)を支えるため。あの子は私達三人がみんなで力を合わせればと言いますわ。確かに叶うのであればそうしたい。しかしそれは出来ない。貴方とワタクシの理想も違えば考えも違うのだから。仮にあの子の下でワタクシ達が力を合わせても、いずれワタクシ達は互いに衝突しあい、そして新たな戦乱を生む。華琳さん、貴女もそう思っているのではなくて?今回ワタクシが攻めてこなければ貴女が攻めてきたでしょう。いずれワタクシ達がぶつかるのは時間の問題。それが早いか遅いかだけ。またこんな格好になってまで戦うのは、相手が貴女からですわ!!他の誰でもない。例え相手がワタクシより遥かに巨大な重昌さんでも、こんな格好になってまで戦いたいとは思いませんわ。よろしいこと、”貴女が相手だから”、泥にまみれてでも勝ちたいと思うのですわ」

「そう、その敬意を評して、『親友』として『強敵(とも)』として、貴女を全力で相手するわ」

「いいえ、もう全力を出す必要などありませんわ」

袁紹がそう言うと、曹操の体に激しい疲労感が襲ってきた。

余りにも突然のことに曹操も驚愕の表情を隠しきれず、そのまま落馬してしまった。

袁紹は馬から降りて、曹操を見下ろした。

「ふふふ、どうです華琳さん。筋肉から突然、疲労感が爆発したのではなくて?ワタクシと貴女の決定的な差は、個人の能力だけではなくてよ。そう、心身的差。貴女は人と違い少し小柄。しかしワタクシは普通の女性と違い体型はそれなりに整い、少し大きめな方。ワタクシの体全身を使った攻撃をその小さな体で受け止めているうちに、徐々に身体的疲労感を貯めていったのですわ。しかしいくらなんでも、自らの肉体的疲労に気づかないのはおかしい。ワタクシは貴女の防御の隙を狙って攻撃したわけではなく、貴女の”体に対して”攻撃を加えていたのですわ。……ふふふ、何が言いたいのか判らない顔ですわね」

つまり袁紹は曹操に攻撃をただくわえていたわけではなく、曹操の体に対して垂直に攻撃を加えていたのだ。

何が言いたいのかというと、袁紹が曹操の体に剣閃を振り下ろすとすると、勿論曹操はその攻撃を受け止めようとする。

だが袁紹は、曹操がその攻撃を受け止めた際、更に体重と己の腕力を曹操の体に対し圧迫するように乗せる。

曹操はその攻撃に耐えるべく必死に踏ん張りを効かせるが、ここがポイントなのだ。

袁紹は攻撃を乗せる際に、上から徐々に腕筋、胸筋、背筋、脚部へと力を入れさせるポイント代えさせているのだ。

徐々に全身の筋肉をジワジワと攻めていき、体の一部の疲れであれば人は気づきやすいものだが、全身を同時に責められれば感覚に対する耐性が出来てしまい、その変化に気づきにくくなる。

そしていざ自分が力を入れようとした際に、その疲労がどっと来るというのだ。

その説明を聞き、曹操はゾッとした。

「この戦い方は重昌さんに伝授されましてよ。もしも貴女と一騎打ちすることがあれば、普通のやり方では、武芸に優れた華琳さんに勝つことは叶いませんわ。だったら、相手が本気を出す前に、相手の力を削ぐことを教えられましたわ。……それでは華琳さん。名残惜しいですけれど、貴女の首、取らせて頂きますわ。さようなら、ワタクシの最大の強敵(とも)。さようなら、ワタクシの親友」

袁紹が剣閃を曹操の首に振り下ろすと、袁紹の手から感じた感触は、人を切った生温かい感触では無く、まるで鉄でも喰い込ませている様な思い感触であった。

すると曹操は僅かに体をずらして、袁紹の剣閃を背中で受け止めていた。

だがそれでも説明が付かない。

曹操の背中の装備には、防具らしい防具など無い。

なれば袁紹の繰り出した攻撃は、曹操の背中に刺さることはあっても、そのまま背中に留まることは無いはずなのだ。

今度は袁紹が度肝を抜かれる様に一瞬固まってしまうが、その一瞬を見計らい、曹操は袁紹の腕を取った。

次来る攻撃を予想してか、袁紹は必死に取らわれた腕より脱出しようとするが、曹操の大鎌による攻撃は袁紹の顎を狙ってきた。

袁紹はその斬撃を何とか避けようと右に回避したが、彼女の遊ばせてしまっていた左腕は、大鎌の斬撃範囲にあり、曹操の拘束から逃れえたものの、袁紹の左腕は宙を舞った。

「――あぁっくぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

痛みにより袁紹は絶叫し、膝を落とした袁紹は、今度は逆に曹操に見下ろされる形になる。

「――っ、はぁはぁはぁ……ふぅ。麗羽、全く武のできない以前の貴女に比べれば、その成長は素晴らしいものだわ。しかし、貴女が重昌に技術を譲り受けたと同じように、私も貰い受けた物があるわ」

曹操は息を整え直すと、突然自らの衣服を開けさせ、アル物を見せた。

「『鎖帷子』。鉄を含ませた布を紐状にし、その紐で編んだ鉄の布よ。私が重昌に貰い受けた”技術”よ」

鎖帷子は14世紀頃に作られたものであり、鉄板から打ち抜くなどして作った継ぎ目の無い輪と、鉄線から作った継ぎ目のある輪を交互に使って鎧として編んだ物である。

日本では主に戦国武将などが戦場に向かう際着物の中に着込んだものでもある。

その時、一つの軍が後方より近づいてきた。

旗印は『荀』であり、先に曹操の元に着いた伝令が曹操に対して話す。

「申し上げます。苦戦を重ねましたが、鳥巣の兵糧庫にて防衛をしていた、敵将張郃を龐徳様が討ち取りましてございます。さらに相手の防衛砦も、先行していた楽進様が落としましてございます」

その報を聞き、曹操の顔はほくそ笑み、改めて地面に膝付く袁紹を見下ろした。

「形勢逆転ね。麗羽、今度は私がその首を貰うわ」

片腕を飛ばされ瀕死寸前の重症を負った袁紹の状況を見て、文醜は口笛を吹いて馬を呼び、袁紹の下へと向かおうとするが、夏侯姉妹はそうはさせじと改めて文醜に襲いかかるが、文醜は本調子でない夏侯惇に攻撃を加え、夏侯惇は文醜の怪力を抑えきれず飛ばされ、夏侯淵はその姉を受け止める。

その間に文醜は馬に飛び乗り、曹操に近付き、一撃を加えその曹操が怯んだ瞬間に袁紹と閃響刺を回収して撤退をした。

 


 
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