No.697574

紅と桜~貴女を探しに~

雨泉洋悠さん

ついに終わってしましました。
でも、まだまだ続きそうですね。
続いてくれるならどんな形でもいいかなと思います。
9人で行く卒業旅行でも、ラブライブ卒業生も参加OKでも楽しみに待ちたいと思います。

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2014-06-30 01:29:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:440   閲覧ユーザー数:437

   紅と桜~貴女を探しに~

              雨泉 洋悠

 

 今日は貴女は、何処に居るのかな?

 私が、貴女を探す、この時間。

 私にとって、私が心の速度を上げていく、大切な、愛おしい時間。

 

 何時もの様に、あの人を探して、校舎内を歩く。

 私の心を躍らせる、優しい色彩。

 それを求めて、校舎に響く、楽しげな音の中を歩く。

 ああ、とても良いな、この音も、私はとても好き。

 この校舎の中に響く音は、何時だって明るくて、元気で、これからの何かを感じさせる、未来に向いている。

 あの人の音を、早く聴きたい。

 この音の中で、当たり前に響いている、今しか聴けない、音を聴きたい。

 その思考に、少しだけ、私の音は、乱される。

 今だけ、その事は、何時だって私の音を、哀しい色に染める。

 もう、仕方のない事と、受け止めていても、心の音度が乱れるのを、止める事は難しい。

 どうして、もう少しだけで良いから、早く気付けなかったのかな。

 その思考に、歩みを遮られて、振り仰いだ窓の外の、青空。

 そうか、今日は、きっと。

 

 校庭の隅、空の青の中に、濃い緑と、薄い緑を混じらせた中で、眠る色彩の姫。

 にこちゃんは、こんなにも、私を惹きつける、自分の持つ素敵な色に、気付いているかな。

 今だって、その胸のリボンと同じ色彩を、周りに従えて、その姿から私は、眼を離せない。

 その、唯一人で美しくある、その姿を見ていると、思う。

 

 ああ、やっぱり私は、にこちゃんに会えて、良かった。

 こう言う姿のにこちゃんを、私は一人にしておきたくない。

 何時だって、私はにこちゃんを、見つけたい、一緒に居たい。

 

「にこ先輩、今日はここに居たんだ」

 にこちゃんの顔を、覗きこむ。

 にこちゃんは、私に気付いたけれども、何も言わずに、その頭のリボンと同じ色の瞳を静かに向けてくる。

 その視線の、弱々しさに、今日のにこちゃんの想いが、現れている。

 こんなにこちゃんを、私が放っておける訳が、無い。

 私は、にこちゃんの隣に、静かに腰を下ろす。

 にこちゃんの香りがする。

「にこ先輩、私明日は久々にお弁当で、凛と花陽と食べると思う」

 そう報告しながら、持っていた今日のお昼のパンを、袋から出す。

 明日は久々に、凛と花陽と、にこちゃんの四人で、一緒にお昼。

 にこちゃんは、何時もよりもちょっと力の無い笑顔で答える。

「あーうん、解った。にこは部室ででも食べるから」

 ああ、もう、違うの、そうじゃないのに。

 そうやって、にこちゃんが当たり前に自分を外して考えてしまう姿を見る度に、私の音はとても揺らぐ。

 にこちゃんの寂しい顔なんて、にこちゃんが隠そうとしたって、私には解っちゃうんだからね。

 だから私は、こういう時には、ちゃんと、出来る限り、頑張って素直にならないといけない。

「そ、そうじゃなくて。だから、それなら明日は三人で昼休み部室行くから……」

 そう言うと、にこちゃんは、少しびっくりした顔。

 その顔が、とても良いなあと、思う。

 ああでも、やっぱり恥ずかしいから、私はにこちゃんの顔を、まともに見られなくなってしまうの。

「……ありがと。じゃあ、部室で待ってる」

 良かった、にこちゃんと明日も一緒に居られる。

 私は振り返る。

「うんっ、待ってて」

 にこちゃんを見ると、ちょっと嬉しそうな笑顔になっていたから、私もやっぱり、嬉しさを抑えきれなかった。

 それでも何だか、にこちゃんの瞳が、少しだけ、潤んで来ているような気もした。

 不意に、にこちゃんが話を変える。

「ねえ、そう言えば真姫ちゃんさあ、あの日全然キャラ違ったよね。何でー?」

 子供っぽい疑問の顔をして、鋭く刺して来るような、先輩らしい感じもする、大人な問い掛け。

 もう、何て言うか、改めてあの日の事を聞かれるなんて、恥ずかし過ぎる。

「あ、あれは、もう、忘れてよって言ったのに」

 顔から火が出そうなぐらいに、温度が上がっている。

 それでも、にこちゃんのこの質問には、ちゃんと答えないといけないと思うから、恥ずかしさを逸らすように、私は空を見上げるの、一面の青空を。

「何だか、泣きそうに見えたから」

 ちゃんと、にこちゃんに聞いていて貰わないといけないんだ、あの日の私の事は。

「家は、にこ先輩も知っての通り、病院なんかやってて、パパの専門は脳外科だけど、脳外科とは言っても、結構子供とか多くて」

 にこ先輩、私の音、ちゃんと聴いてね。

「脳外科に来るような子達って、当然それなりに症状の重い子もいて、皆辛い思いや痛い思いをしていて、色んな事に不安を抱えて、家に来るの」

 私いま、この学校でも、まだにこちゃん以外の誰にも見せていない、自分の事を話しているの。

「家のパパも、子供の扱いはとても上手い方だけど、子供にとってはやっぱり大人の男の先生は怖かったり、不安を感じたりするのよね」

 ねえ、にこちゃん、届いてる、私の音。

「そういう時に、どうしても放っておけなくて、あんな感じで話しかけちゃうのよね。何でか、あの時のにこ先輩も同じ様に感じちゃったの。不安なのかな、怖いのかなって。にこ先輩、そんな弱くなんか無い、強い人なのに、そんな風に感じちゃって、申し訳ないんだけどね」

 パパとママしか知らない、私の姿。

 にこちゃんにだけ、伝わったら、解って貰えたら、嬉しいな。

 そう思いながら、にこちゃんの言葉を待っていたけれども、何の反応もなくて。

 青空から視線を落としてにこちゃんの方を見る。

 にこちゃんの綺麗な瞳が、瞼にその姿を隠されている。

「にこ先輩?寝ちゃったの?」

 きっと寝ちゃったんだと思うけど、私の話は、ちゃんと聞き届けて貰えたと思う。

「しょうがないなあ……意を決して人が大事な話をしている時だって言うのに」

 だって、その瞳から、にこちゃんの心の粒子が一粒、流れ落ちようとしていたから。

 私はそれを、人差し指で拭ってあげる。

 感じられる、その粒子の温かさと、にこちゃんの心。

 誰よりも繊細で、傷つきやすくて、それでもそれを表に出さない強さがあって、華やかな色彩と、可愛らしい音と、儚げな香りを身に纏う。

 私の、素敵な、格好良い先輩、それが貴女、私達の、私のにこちゃん。

 

次回

 

嬉しい

 


 
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