「魔王はさらに閃く」
「ようこそ魔王様。その節はお世話になりました」
役人の男は満面の笑みを浮かべる。魔王は手でそれに答え、室内を見渡す。冒険者たちは魔王が来ると、皆起立した。背をピンと伸ばしている。魔王は額を少しかいて、息を吐いた。
「そういうのはやめなさいと」
しかし彼らは魔王に対する視線は、彼の部下と同じだ。忠誠を誓う眼差しである。溜息を吐きつつ彼は役人の前まで歩む。道中座るように手で促した。
「勇者様ですか? 来ていませんね。情報もありません。仕事をしたがる奴は巨万ときますが」
景気が良くなったのが嬉しいのだろう。彼は笑みを崩さない。魔王はカウンター席に座る。
「依頼の進捗報告が来てないぞ」
「申し訳ございません」
「景気が良くなって嬉しいのはわかるが、そういう小さい約束事を守れないと大きな信用を失うぞ」
魔王は軽く説教すると、目で促す。彼は慌てて竹簡を取り出した。竹簡の束が10を超えた当たりから視線が鋭くなる。それを察して役人は平謝りをした。
「今回はいいが。次回は罰則をつけるからな」
「はい……」
魔王は竹簡に目を通す。中身の進捗報告には文句がないのか、満足した声をもらす。
「魔界でのお仕事とは驚きましたが、かなりの冒険者が足を運んで下さりました」
最後に魔王に媚びを売るように褒めたが、魔王は聞く耳を持たない。竹簡を袋に投げ入れる。彼は手を振る。
そこで慌てた役人は魔王に羊皮紙を手渡す。
「そうえいば1つ変な話を聞きまして」
魔王は視線で話すように促した。
「隣国アティーナス連邦が近々内乱に突入するようです」
「何……?」
「アティーナスにいる同業者が教えてくれまして……」
魔王は短く「わかった」と告げるとギルドを後にする。
「まさか外の人を使うとは。最初は移民でも受け入れるのかと思いましたよ」
「移民は一時的にはいいかもしれないが、中長期的に考えるといいことは起きないだろう」
城に戻ると宰相が現れた。彼または彼女は魔王と並んで歩く。
「そこで冒険者……ですか。流れ者を使うとは」
「彼らは1つどころには留まれないだろう。だからこそ短期的な経済向上を考えると都合がいい。そこに魔界からの伝達だ。渡りに船だな」
魔界からの竹簡には、魔王宛への嘆願だった。中身は害虫駆除のお話だ。魔界とはいえど魔族だけが住んでいるわけではない。そこに住む生物もいる。今回現れた害虫それが森を食いつくしそうな勢いで出現しているのだ。
「魔族は基本族でしか動けませんからね」
「こういうところで団体行動できないのは、本当にダメだな」
そしてその害虫は人間界では金のなる木ならぬ金のなる虫と呼ばれていた。樹液を体内で消化する際に金が出来るのだ。それらは巣で排便排尿するさいに排出されるので巣は金で埋もれる事もある。ただし相当の樹液を必要とする上、生成効率も良いとはいえないのだ。ただそれが大量にあるかもしれないとわかれば話は別だ。
「大量発生に伴う森の侵食も止められるし、冒険者たちは金塊も取り放題。魔界としては森も守れる。我が国としても余計な遠征費を工面しなくていい。一石二鳥どころじゃないな。例え冒険者がこの国に住み着こうと考えても、移民のように大勢で一気に住み着くわけではないので、中長期的に考えても安心安全だ」
「お陰でこの数カ月でなんとか経済を立て直せましたね。さらに朗報です」
「なんだ?」
宰相は凄く嬉しそうに跳ねた。そんな様子に魔王は笑う。
「なんと! 北にいたカラミティモンスターがいなくなりました」
「朗報だな! すぐに復興部隊を送るんだ」
すでに送った旨を宰相は告げる。それに満足そうに頷く魔王。彼らは謁見の間に行く。魔王は足早に座席に座ると、いの一番に口を開いた。
「最近冒険者が増えたことで、行商人が増えたのは報告したな? それでだ。関税のかからない都市を国境付近に造ろうと思う」
その言葉にどよめきが起こる。
「余所者を大量に入れるのですか?」
否定的な意見が飛び交う。魔王は特に気も止めず好きなだけ言わせる。それが終わる頃に口を開いた。
「移民を受け入れるためじゃない。経済を活性化させるためだ。その都市から我が国に入るのには関所を設ける。もちろん関所を越える際は持ち込んだ物品にも関税はかける。が、関税のかからない売り買いできる場所を用意しようと思う」
「超える者。抜け道を着くものも現れるかもしれません」
今度は好き勝手言わせずに、手で制する。
「それ以上に利率があると思うのだ もちろんただで提供させるわけではない。一時的に場所代は取るがな。それらを一括管理できる都市を用意するのだ」
「物の出入りは激しくなり、上手く行けば我が国に大きな利益を呼び込むでしょうな」
「建築場所はどこになさるのです? もちろん国境付近でしょうが」
「そこなんだがな。海の上と考えている。海上都市を建築するんだ」
魔王の突拍子もない提案に、高官達はあれこれ物議を交わす。それは否定するためのものではなく。どうやれば出来るのかというものだった。そしてそれらは魔族ではなく人間が率先してやっていく。そんな様子を魔王は嬉しそうに眺める。
「だから人間は大好きなんだ」
書斎ではいつもの様に「勇者ご招待案」を書き綴る魔王。そこに宰相が飛び込んできた。
「大変です!」
言葉の様子から只ならぬ気配を感じた魔王は、視線を宰相に向けた。
外は生憎の天気。雷雨である。雷が部屋を明滅させた。
「我が国に現れたカラミティモンスターがカンクリアンを襲った模様です」
魔王は舌打ちする。
「カンクリアン共め。見逃せばいいものを……手を出したな」
北にいついていたカラミティモンスターは去った。そしてそれは北上して、去ったのだ。その先にあるのは険悪な仲にあるカンクリアン。彼らは愚かにもカラミティモンスターの逆鱗に触れてしまったのだ。
「そのようです。エルニージュを巻き込んで大損害を出した模様です」
「そしてその原因は我が国とし、宣戦布告してきました」
「馬鹿な! そんな無理矢理な理由」
「彼らは本気です」
「エメリアユニティは?」
「動きはありません」
「状況次第では、数年は戦争が出来まい。カンクリアンの状況を確認してなんとか引き延ばせ」
宰相は「はい」と答えると部屋を勢い良く飛び出していく。部屋に落雷の光が差し込む。魔王は下唇を噛んで空間を睨んだ。
~次回に続く~
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60分で書くお話
題材は流行りの魔王と勇者を扱ったものです
今までのお話のリンク
http://www.tinami.com/view/694016
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