No.695932

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 失われた記憶を追い求める白き騎士

PHASE5 対面

2014-06-22 21:24:03 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1886   閲覧ユーザー数:1836

ボギーワンを逃してしまったプトレマイオス。すぐさまボギーワンを探し出そうと動くプトレマイオスだったが、ブリッジに一通の連絡が届いた。

 

「あ、艦長。最高評議会よりデュランダル議長へ通信です。……え?ユニウスセブンが軌道を外れて地球へ向かっている!?」

 

「何!?他には何か言ってないかね?」

 

アーモリーワンでのガンダム強奪事件の際にプトレマイオスに乗艦していたデュランダルが尋ねた。

 

「現在ジュール隊がミネルバでメテオブレイカーを運びながらユニウスセブンへ向かっているとのことです」

 

「め、メテオブレイカー……!?」

 

そこへアーサーが素っ頓狂な声を上げる。

 

「あれほどの質量よ。動き出してしまったらもう止める術はないわ。あとは砕くしか……」

 

メテオブレイカーとはモビルスーツによって用いる大型機材で、岩盤を砕くためのドリルなどの複合機器である。無重力下において隕石中に潜り込み、爆薬で内部から破砕する。

破壊力や位置なども細かく設定可能という使い勝手の良さで重宝されているようであり、この技術はN(ニュートロン)ジャマーの掘削作業等に応用されている。元々は、資源衛星として運ばれてきた小惑星などを砕くために使用されていたものであり、当初は作業用外骨格などで運用していたもの。これをモビルスーツの実用化に伴い、モビルスーツで運用するようにしたものである。

 

「艦長。トレミーもジュール隊の支援に向かってはくれないか?できることはそうないかもしれんが」

 

「しかし、ボギーワンを逃すわけには……」

 

「そちらはアーモリーワンから別の捜索部隊を出す。今は、ユニウスセブンの落下を防ぐのが最優先だと、私は考える」

「ユニウスセブンが落ちてる!?」

 

ガイアのパイロットが保護されている医務室に向かった刹那と別れ、食事をとりに食堂に来ていたシンはハイネが切り出した話題に驚き果てた。

 

「ああ、トレミーはこのまま破砕作業に出るみたいだ」

 

「じゃあアビスとカオスを奪ってった奴らはどうするの?」

 

「断念だろうな。ユニウスセブンと強奪者たちを天秤に掛けるなら、どう見ても前者だからな」

 

メイリンが質問を投げかけて、レイがそれに答える。

 

「でもさ、何で俺たちが行かなくちゃいけないんだって話だよな?」

 

「そうよねぇ……ユニウスセブンに核を撃ち込んだのは連合なんだから、連合が責任とってやればいいのにね」

 

「冷静に考えたら、俺たちがユニウスセブンを砕く義理なんてないし」

 

口火を切ったのは、整備士のヴィーノ、メイリン、デイルだった。

 

「面倒よねぇ……」

 

さらに追い討ちのようにルナマリアが一声呟く。

 

「おいおい、命令なんだから渋るなよお前ら。にしても砕くったって、あんなデカブツ、そう上手く破壊できるのかね」

 

砕けた少年のような口調で、ハイネが言う。

 

「デブリや小惑星とはワケが違うからな~」

 

「だが、やらないわけにはいかないだろう?」

 

ショーンの言葉に続き、対照的なスマートな口調でレイが言う。

 

「ユニウスセブンの構造物は比較的原形を保っている。もしそのままで地表に落下することになれば……」

 

直径一キロの小惑星が落下した場合のエネルギーを、TNT火薬の爆発力に換算すると十万メガトンに相当すると言われている。核爆弾が五十メガトンだから、その二千個分に当たる。その計算でいくと直径十キロ近いユニウスセブン衝突のエネルギーは一億メガトン近くになってしまう。もちろん、突入速度は小惑星と比べてかなり遅いはずだから、単純に換算するわけにはいかないが━━

 

「地球、滅亡……だもんな」

 

食堂に一瞬、冷え冷えとした沈黙が降りる。

レイ以外の面子がゴクリと息を呑んでから付け加えるようにヴィーノが言った。地球にはザフトの基地はもちろんてあるし、コーディネイターも大勢住んでいる。今回プラントが動くのも、そこに理由の一つがあるのだろうと皆は踏んでいた。

 

「でも、それもしょうがないっちゃしょうがないんじゃね?不可抗力だろ?」

 

軽い口調でヴィーノの傍らにいたヨウランがいた。

 

「むしろ鬱陶しいゴダゴダがなくなって、俺たちザフトにとっては案外楽かも」

 

「ヨウラン。そういう言い方はよしなよ……」

 

ちらり、とシンはレイやハイネにも何か言って貰えるよう目配りするが、今の二人は少しそれどころではなかったようだ。その視線は扉の前に向けられているが、シンはそちらに目を向けている暇はなかった。

 

「冗談だよ冗談。地球にだって仲間がいるんだし、ちょっと和ませたかっただけだって」

 

ちっとも和めないよとつっこもうとしたシンの声をかき消すように、それは突然現れた。

 

「良くそんなことが言えるな!お前達は!!」

 

別の大声がそれをかき消し、割り込んできた。その場にいた面子が振り返る。そこにはカガリの姿があった。

 

「しょうがないだと!?案外楽だと!?これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ほんとに解って言ってるのか、お前たちはっ!?」

 

カガリは猛烈な勢いでヨウランを指指し、糾弾する。

 

「……すいません」

 

ヨウランはしかし、ヴィーノ達と顔をあわせてから、形式ばかりに頭を下げた。その姿に、カガリはさらに顔を紅潮させた。

 

「くっ……やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!あれだけの戦争をして、あれだけの思いをして、やっとデュランダル議長の下で変わったんじゃなかったのか!?」

 

激情のままに、ヨウランやハイネたちに怒鳴りつける。その中でシンは眉間に皺を寄せていた。

 

「もうよせ、カガリ」

 

傍らに控えていた護衛の男が、カガリを制止しようとする。

 

「止めるな、これは許されるような問題じゃないぞ!!」

 

だが、カガリはそれすら振り払おうとする。プトレマイオスクルーの面々は困惑気な顔だったが、その中で1人、表情を引き締めている者がいた。

 

「別に、本気で言ってたわけじゃないよ、ヨウランも、言って良いことと悪いことがあるけど、冗談かどうかもわかんないの、あなたは!」

 

さっきはヨウランの言葉を言い過ぎだと感じていたシンも、カガリのあまりに傍若無人な糾弾に、今は完全に腹を立てていた。彼女から見れば、相手は世界の実状もわからないまま、ただ奇麗事を言い続ける無責任なお姫様だ。

 

「シン、言葉には気を付けろ」

 

レイが低く咎める。シンはその言葉を受けて、軽蔑したように肩をすくめてみせた。

 

「あー、そーでしたね。この人、エラいんでした。オーブの代表でしたもんね」

 

「お前っ……!」

 

彼の態度に再び激昂したカガリが食ってかかろうとするのを、護衛の男が腕を掴んで留める。

 

「もうよせ、カガリっ!」

 

その様子には食堂にいた全員が驚いていた。護衛の人間が代表を怒鳴り散らすなど、普通なら有り得ないからだ。

どうやら彼らの力関係は表向きとは違うらしいそんな驚きの視線を受けながら、睨み合うシンとカガリの間に護衛の男が割って入り、鋭い目でシンと対峙した。

 

「君はオーブがだいぶ嫌いなようだが、何故なんだ?」

 

シンは視線を彼に移し、睨み付ける。護衛の男は動じる様子もなく、抑えた。だが不穏な調子の漂う声で続けた。

 

「何が君をそうさせているのかまではしらないが、くだらない理由で関係のない代表に突っかかっているというのなら、ただではおかないぞ」

 

シンの頭がカッと熱くなった。

 

「くだらない……?くだらないなんて、言わせてたまるものですか……!」

 

その瞼に、焼け焦げた衣服の残骸をまとわりつかせ、ねじくれた形で横たわる両親と妹の変わり果てた姿が蘇る。一瞬にして全てを奪った、自由と名乗る悪魔の放火━━。

 

「━━関係ないって言うのも大間違いね」

 

彼女は眼前に立つカガリと護衛の男を睨み据え、言い放った。

 

私の家族はアスハとフリーダムに殺されたのよ……!(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

周囲の皆が、その言葉に凍り付く。だが、シンの目が見ているのはたった一人━━失われた命に責任を負うべき人物だった。

 

「国を信じて、あなたたちの理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、自由なんて名乗ってるあの悪魔にオノゴロで殺された……!」

 

他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない━━それがオーブの理念だ。

 

口で言うだけなら美しい。だがその理念を貫くために、国民を犠牲にする国家とは何だ?

国はそこに暮らす民のためにあるものだ。それなのに、掲げた正義を守るために、無辜の国民を殺し、苦しめるのでは本末転倒ではないか。

その挙げ句、施政の側に立つ者は自分だけ生き残り、何事も無かったかのように口を拭って元の地位に居座っている。奇麗事の正義を掲げて誤った道に民を導き、一度は国を滅ぼした癖に、英雄などと呼ばれてちやほやされ、またも奇麗事を並べて同じ道を歩もうとする。この女を、自分は絶対に許さない。

 

「だから、私はあなたたちを信じない!オーブなんて国も、その理念の為に戦って私の家族を奪ったあの悪魔も!そんなあなたたちが言う奇麗事を信じない!この国の正義を貫くって……あなたたちだってあの時、自分たちのその言葉で、誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えてたの!?」

 

シンが怒りに震える声で喚くと、カガリは顔色を失って後ずさった。その体を抱き留める護衛の顔にも、ありありと動揺が見て取れた。

 

「何もわかっていないような人が……わかったような事、言わないでよね!」

 

シンは最後に吐き捨て、一言も返せずに竦んでいるカガリの脇を荒っぽい足取りで通り抜け、食堂を後にした。その表情は、内心と同じくらい荒れていた。凍り付いたように静まり返った室内から、ヴィーノの慌てた声が迫ってくる。

 

「お、おいっ!シンっ……!」

 

しかしシンは足を止めなかった。握り締めた両手の拳はまだ小刻みに震えている。

━━他国を侵略せず、他国に侵略を許さず、他国の争いに介入しない。

口で言うだけの正義など何の役に立つ?力が無ければ侵略を拒む事など出来ない。相手がこちらを撃とうとするなら撃ち返すしかない。生き残るには、守るためには、力が必要なのだ。美麗で空虚な言葉ではなく。

小刻みにふるえる拳を押さえながら、自室に向けて歩き続ける。

心を落ち着かせようとしても、逆に荒れていくだけ。

血が滲むほど固く拳を握り締めても、その震えは止まらない。

「……そうか。そんな事が……」

 

刹那は、確認するように呟いた。

隣にいるシンが、涙のあとの残る顔を、こくり、と頷かせる。

刹那がガイアのパイロット、ステラ・ルーシュと面会し、シンがカガリに怒りをぶつけた後のことだ。刹那とシンは、プトレマイオスの艦内にある展望室の中にいた。他には誰もいない。たまたま刹那が通りかかったとき、一人で泣いているシンを見かけたのだ。そして涙の訳を聞いた刹那に、シンが小さな声で答えてくれた。

オーブの出身であること、二年前の解放作戦で両親と妹を失ったこと、そして奇麗事を並べていた父と同じく奇麗事を口にする娘に怒りをぶつけたことを。

刹那はあらかじめシンの過去を知っていたのだが、あえて彼女にはそのことを打ち明けたりなどはしなかった。

 

「とても優しかった……寂しさなんて感じたことがないくらい、あそこは暖かった」

 

「うん……」

 

刹那は腕を組み、視線をシンから展望室の壁に戻した。

本人から直接話を聞くと、データで知るよりも重く感じた。

 

「……俺、実は一年前より昔の記憶がないんだ」

 

「うん……知ってる」

 

意を決して口にした自身の秘密。

それ故にシンの返事に刹那はただ唖然としただけだった。

 

「レイから聞いたの。皆、知ってるよ?」

 

「……まさかのレイか。俺はてっきりハイネかと思ってたんだけどな」

 

レイなりの気遣いなのだろうけど、この空気を考えるとどうにも憎まずにはいられない。まあ、彼女の秘密を知っていながら知らない振りをしている自分もどうなんだと言われるだろうけど……

 

「……皆、これから私をどう見るんだろう」

 

シンの表情に影か差し込む。彼女としては、同情の目で見られるのが一番嫌だろうというのは流石の刹那にもわかる。だがそういうのは口で言っても変わらないだろう。

けど━━

 

「何も変わんないよ」

 

ポン、と刹那の手がシンの頭の上に乗る。彼女の顎先が細かく震えているのに、刹那は気が付いた。

そうだ。ルナマリアも、レイも、ハイネも、ヨウランも、ヴィーノも、メイリンも、もちろん刹那だって、家族を失っていたからと言ってシンを見る目を変えたりなどしない。それは保証する。

 

「……だって君は強い」

 

刹那は慰めるように今度は片腕でシンの頭を抱いた。

 

「強い女の子なんだから」

 

シンは無言で沈鬱な表情を浮かべていた。

年が近いとはいっても国家元首相手への件の発言は褒められたものではないかもしれないが、少なくとも家族のような人を出したくないという思いで軍に入ったシンを強い子だと改めて思った。議長やハイネに救われた恩返しがしたいというただそれだけの理由で軍服を纏った自分とはそもそもの覚悟が違う。

しかし同時に、彼女の心はとても脆く、儚いのことにも刹那は気付いていた。もしもまた彼女が親しい人━━例えばレイやルナマリアのような友人を失ってしまえば、彼女の心は呆気なく砕け散ってしまうだろう。

もちろんそんなことはさせない。

腕の中でいつの間にか安堵しているシンの表情を見ながら刹那は決心する。かつてこの耳が記憶した議長の目指す平和。そこにきっとシンの望む幸せがあると考える。もちろんそれが本当に正しいのかどうかはわからない。けれども、刹那は少なくとも当初の目的を確かにしていた。

 

(君は、俺が守ってみせる)

 

まだまだ未熟で機体頼りの俺だけど、それでも彼女がいつだって満面の笑みを浮かんでいられる、この歪みきった世界を、そんな風な世界にしたい。

 

それが、刹那のたった一つの願いだった。

【オマケ】

 

ハイネ「おっ?」

 

シン「っ!?」

 

刹那「あ、ハイネ……」

 

ハイネ「……悪い。失礼した」

 

シン「わー!わー!何か誤解してますよね?しちゃってますよね!?違いますから!そういうんじゃないですからっ!!」

 

ハイネ「HAHAHA。何を言ってるのかさっぱりわかんねぇなシン?にしてもコーディネイターとナチュラルの恋人か……前途多難だろうが、こちらも精一杯サポートさせて貰おうかな」

 

刹那「ハイネ?いったい何の話を━━」

 

シン「え、刹那ってナチュラルなの……?ってそれよりも違うから!」

 

ルナマリア「コーディネイターとナチュラルの結婚て理想的よね~」

 

デュランダル「そうだね。私たちも二人の仲を応援しようじゃないか」

 

シン「議長まで!?あ、あなたたち一体何なのよーーーーーーっ!!!!」

 

本来静かに景色を眺めるための展望室だったのだが、悪ノリしたハイネ、ルナマリア、議長に耳まで熱くしたシンの叫びで一気に騒がしくなった。

 

刹那(全く三人とも……俺とシンはそういう関係じゃないのに……)

 

ハロ「トーヘンボク、トーヘンボク」

どんな些細なことでもいい。感想下さい。感想0はいくら何でも寂しすぎる……


 
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