見よ、我は世の終わりまであらゆる日々に汝らと偕にあるなり
-マタイ伝二八章二十節-
フランス、パリ郊外、セーヌ川の畔に面した場所に17世紀に建造されたバロック様式の城がある。シャトー・ド・メゾン・ラフィット城。史跡として一般公開されている城館とは別にある館に、EU・WITOから双子の妹と共に6番目にエレメントコア・オプティマイザーに、EUからも最重要保護対象者に指定されたフィンランド生まれの17歳・・・・・・という肩書きを持った一人の少女が寄宿していた。名前は「シルバラ・フェイハイストス」オ-バーニュ駐屯、フランス外人部隊第一外人連隊に組み込まれ、EU・WITOの有事の際に派遣されるよう訓練を終えて配置されていた。
フランソワ・マンサールの建築した古典主義的様式で構成された室内装飾、その食堂での昼食が済み食後の紅茶を楽しんでいた彼女の元に、グレーのスーツを着こなす初老の男が携帯電話を持って傍らに歩み寄る。男はフェイハイストス家に仕える執事「ミハイル・ソーン」。まだ販売されていないインダストリアル・サンプル・モデルのiPhone4を彼女の耳元に近づける。iPhoneを受け取り通話先に挨拶を済ませ、白いテーブルクロスの上に置かれた受け皿にティーカップをゆっくり置くと彼女は「12人目?うそっ?なんで12人目なんているの?」と、姿勢を正したままiPhoneに向かって言った。通話の相手は合衆国CIAに所属する「ブラン・アーマス・エスメラルダ」という男だ。元フランス国籍を持つこの男はUS・WITOとEU・WITOのパイプ役として大西洋艦隊に所属する航空母艦ロナルド・リーガンに乗艦していた。日本で起こった出来事は情報を共有するWITOの情報網を伝わりここ大西洋にも届いていた。「12人目がいておかしいかい?まあ、確かに確立上は有得ないのかもしれないが。」半分くらいに減ったオジェ・ミネラルウォーターの500mlボトルを手で転がすように廻しながらブランは艦内に据付けられている電話の受話器に向かって語りかける。それを聞いたシルバラは、一瞬右上に視線を泳がせるが「そうね・・・別にいてもおかしくは無いわね。」と言葉を濁しながら返しこう付け加えた。「妹には私から伝えておく。また何か情報があったら直接連絡してね。メルシー アラ プロシェンヌ」フランスに来て1年、最近ようやく使い慣れてきたフランス語の挨拶を付け加えて通話を切った。シルバラは顎に右手を添えて「マルグリートの仕業なのかしら・・・あるいは偶然・・・」と独り言を呟く。
「無傷?そんなバカな?確かに高度は落ちていたが少なくとも3000フィートはあったはずだ。現にファーガソンは重体なんだぞ。」厚木基地内にある医療棟の廊下、集中治療室に足早に向かうのは米海軍第7艦隊旗艦ブルーリッジ副長「ジョージ・W・サンドアール」中佐と空軍NE52副操縦士「ジェームス・M・ボウマン」大尉の二人だった。オペレーション・ベンド・ホライゾンのタスクフォースに組み込まれていたサンドアール中佐は緊急の報告を受けて、SEALチームが墜落機から救出した「ブライアン・リービン」少佐の容態を確認する為に厚木基地へと赴いていた。治療室のドアの前に案内された中佐は看護士と大尉に向かって「話はできるのか?」と尋ねる。看護士は「意識ははっきりしていますが記憶に混乱がみられるようです。会話はできますが短時間で切り上げてください。」と言って、扉を開け治療室内に案内する。ベッドには点滴を腕に打たれた状態で天井を仰ぐようにリービン少佐が放心状態で横になっていた。サンドアール中佐に気づいたリービン少佐はゆっくり起き上がろうとすると、中佐は少佐の肩に手をかけて「そのままでいい」と言って起き上がろうとする少佐を制止した。
「中から光る人のようなものが出てきました。」
リービン少佐は中佐に視線を向けて事故時の状況を思い出せる範囲で語り始めた。「その後ゆっくりと我々二人に近づいてきて、それをジッと見ていました。動けなかった・・・いや、動けたのかもしれないが、動けなかった・・・」少佐は目を手で覆い、少し考え込むように言葉を詰らせる。間を置いてから手を口元に滑らせ頬を覆うように言葉を続ける。「次の瞬間、機体が前後二つに分断されて私は後部に引っ張られるように投げ出された。後部には准尉がいて・・・機体と共に・・・私はフワっと足が空に浮いたような感触がして・・・・・次には背中を掴まれて引っ張られるような衝撃があって・・・後ろを見たら光る人型が私の背中のハーネスを掴んでいるのが見えました・・・・・」そこまで聞いたボウマン大尉は周りにはっきり聞こえるくらいの大きさで生唾をゴクリと飲み込んだ。サンドアール中佐は身を乗り出して少佐に「その後は?」と言い寄った。天井を見つめながらリービン少佐は「その後は分りません・・・急降下の影響で意識が遠退いていってしまって・・・・・ただ・・・辺りが暗くなっていくような気がしました」と言って目を閉じた。中佐が看護師に目をやると、看護師は首を横に2回振って面会を終わりにするよう無言でサインを送る。中佐は少佐に向かって「今は休め。後の処理は任せろ。」と言って少佐の肩をポンと軽く叩く。目を閉じたまま少佐は「ファーガソン准尉は?」と治療室を去ろうとする中佐の背中に向かって問いかける。ボウマン大尉が振り返り進言するか一瞬躊躇していると、サンドアール中佐が振り向かず、背中越しに「重体だ。だが、君が気に病むことは無い。」とだけ言って病室を出る。その際リービン少佐が右手で目を覆うのが全員の視界の片隅に入った。
臨海副都心に併設して開発が進められた自衛隊の基地は、当初の予定とは異なりWITO、つまり世界軍事条約機構の基地に変更されて第2臨海副都心として造成された経緯がある。その基地の北側にあるのが第一緊急病棟で基地施設内の専門病院として機能している。「森永未来」の検査はすべて終わり即時解析がなされて検査結果が明らかになった。時刻は午前0時を過ぎていた。
「バノダイン・システムのエレメント・コアとのナーブ・コネクト・ポートの接続数はベースラインで99.97%がマッチング、未知のポートが確認できただけでも10万以上は存在してる。紛れも無く、12人目のオプティマイザーだ。」未来の身体検査結果を「レオナ・リュクスボー」に報告するのは、JAPAN・WITO第2臨海副都心本部・第一緊急病棟所属・「平井大」検査医だ。それを聞いたレオナは口元にニヤリと笑みを浮かべる。レオナのいる診断室に隣接する検査室の中にいる未来には、大きな窓ガラスの向こうで話している二人の会話の内容は聞こえず、自分が「オプティマイザー」である事実を未だ知らない。着替えを終えると、看護士に案内されて診断室に通される。「おめでとう!異常無いそうだよ」診断室に入って来た未来の顔を見るや、レオナはそう声をかける。「帰れんの?」いつの間にか、友達にでも話しかける様なタメ口で未来はレオナに尋ねると「もう少ししたら帰れるよ。今はまだダメ!」と冷たくあしらわれてしまう。「ちぇっ」と舌打ちする未来だったが、半ば開き直ってもう一つ疑問に思っていた、レオナに聞きたかったことを聞いてみる事にした。「私、何で逮捕されてるの?悪いことした?」と質問すると、レオナはまるで小学生を諭すように答える。「防衛省、自衛隊の設定した立ち入り禁止区域に無断で入ったんだから、拘留されて当然なんだよ?」と、質問になぜか質問口調で返す。「・・・・・・・・・・・」目線が右上に泳ぐが返す言葉も無い未来。意外と物分りが良い。必死になにか嘘でも考えているのか?と察したレオナは続けてこうつけ足す「安心していいよ。手続きが済んだらちゃんと帰れるし、家まで送ってあげるよ。もちろん逮捕歴なんて残らないから。」それを聞いてちょっとホッとした未来は胸を撫で下ろす。「お父さんが心配するから、家に電話したいんだけど?」と聞き返し首を傾ける仕草でかわいらしさをアピールしながら懇願するかのように目を輝かせる。レオナは少し考えるように口を尖らせて、左手に持っていたスマートフォンの端を顎のところにコツンコツンと3回当てた後「ここの職員が連絡だけはしているけど。いいよ。携帯電話、持ってきてあげて」と、後ろにいたWITO職員に言って指示をする。未来が拘留されてからもう5時間以上が過ぎ、既に日付を跨ぐ時刻になっていた。携帯を受取った未来は、診断室から廊下に出て父親の短縮をコールする。その姿を後ろから見送るレオナも、スマフォを取り出し短縮をコールした。
「予想通り12人目のオプティマイザーだったよ。日本では2人目の最重要保護対象者に指定されるだろうね。」太平洋上、駆逐艦マックキャンプベルに用意された自室で、衛星電話を取次ぎ未来の検査結果の報告を聞く「西園寺なな」の表情は暗かった。レオナとなな。二人の関係は非常に複雑だ。ななは、米国留学時代にレオナと知り合った。MITを8歳で主席卒業し、天才少女ともてはやされたななの初めての挫折は、自身のさらに上を行く天才、レオナとの出会いだったと言える。現在から8年も前の出来事だ。SAMTもレオナの勧めで興した軍産複合企業だ。レオナとの出会いが無ければこの会社も存在していなかっただろう。そしてSAMTはグリュックスブルク財団の力で父が跡を継いだ西園寺財閥をも凌ぐ経営規模にまで至ったのだ。「(日本に)二人目が存在していたなんて・・・・・」通話中のレオナには聞こえない程の小さな声で呟くななは、続く報告を聞きながらミネラルウォーターをグラスに注ぎ一気に煽る。「すでにWITOに報告は上がっていて、アジアでの争奪戦が展開される事は必定。そうなる前に一手打っておかないといけないから、力、貸してよね?」レオナはななにそう言うと、返事を待たず一方的に通話を切って次の通話先に短縮をコールするのだった。
その頃、未来は廊下の長いすに座り、僅かに違和感を感じながら家へ電話をしていた。「なんか、よくわかんないんだけど、異常無いっていうからもう少ししたら帰れると思うよ。」携帯に向かって話す未来は長時間の検査によって少々疲れ気味だった。「えっ?帰るよ?何言ってんの?」携帯の向こうから思わぬ回答を得た未来はそう答えた。「泊まらないよ?送ってもらえる事になってるから。なんの話か良くわかんないんだけど?とりあえず、家に帰ったら今日あった事話すよ。お父さんの携帯ドコモじゃないんだからそろそろ切るよ。電話代勿体無い。じゃね。」と言って、未来は携帯の通話を切る。携帯の液晶画面をじっと見て、先ほどの噛み合わない会話の内容を思い出しながら考え込む未来だった。
自宅への連絡を終えた未来は、診断室へと戻った。診断室にはレオナ一人だけが電話をしていた。しばらくして通話の終わったレオナへ「そういえばさっき、手続きって言ってたけど、なんの手続きするの?それ終わったら帰れる?」と尋ねると、「うん。WITO入局の手続きが済んだら帰れるよ。今やってるから。」と、言われる。「・・・・・・・・・・な?なんですと!?」未来は思いもよらない回答に対して声を裏返しながら聞き返す。レオナは畳み掛けるように「それから今通ってる学校、そこも転校してもらうから。そっちの手続きはもう済んでるから新しい学校に関しては追って連絡するからね。って言っても明日から通学することになってるんだけどね。」それを聞いた未来は「はい!?」と再び声を裏返して返事をする「明日学校から帰ってきたらそのままWITOの寮に入ってね。今し方入寮の手続きも済ませたから。あーお父さんにはもう話ししてあるからね。心配要らないから。」そこまで聞いてさすがの未来も黙っていられなくなり「ちょ、ちょっと待って!どういうこと?何の話?訳分かんないんだけど!」と話を遮る。「に、入局って!?転校?なんで?転校?えっ?・・・・・」混乱している未来は自分でも整理がつかずに何を言っているのか良く分かっていない。そんな未来を見てレオナは「とりあえず今日はもう遅いから入館に使うIDカードが発行されたら家に送ってあげるよ。その道中に順を追って事情を話すから、まあ、そんなに深く考えちゃダメだよw」となだめるように答えた。
その頃、「海堂要」は市谷駐屯地への帰路を軽走行車両の助手席に乗りひた走っている所だった。「では、一佐はWITOへ行くのですか?」運転手「高野久」二尉は要に尋ねる。視線を前方へと見据えたまま腕を組む要は一拍置いてから「WITOはまだ何かを隠している。移動するにしても慎重に考慮するべきね。」と言った。「しかし、入局すれば情報開示されるものもあるはず。二重スパイも悪くは無いかもしれないわ。」と付け加える。運転に集中している高野二尉は前を見たまま「出向となれば残念です。陸幕も目前なのに・・・このまま一佐の元で除隊を迎えたかったんですけどね」と冗談交じりに苦笑しながら答える。「今日の戦果がどう判断されるかで幕僚長の椅子は判らなくなったけど、財団がどこまで信用できるかもわからない以上、入局は考えものだわ。」と現時点で入局の意思が無い事を言い切る要。しかし未来の事が気になるのも事実。複雑な心境の要だった。
身支度を整えた未来はレオナに案内されてWITO本部施設にいた。厚木基地の2倍もある広大な面積を持つ本部施設内の移動には当然車を使用するのだが、本部にはモノレールも乗り入れしている。そのモノレールを使用できるのが発行されたIDカードなのだ。発着場、つまりモノレールの駅改札口にて、発行されたIDカードのテストを実際に未来本人にやってもらいながらレオナは未来に先ほどの入局に関する事情を説明していた。「君の入局は君の意思とは関係無く、国連と日本の条約上の強制力で決定された事なんだよ。君はこの国の2人目の最重要保護対象として登録されたから、国連がその保護代行組織に当たる軍隊を持つ「世界軍事条約機構」つまりWITOね、そこに委任したことによって入局が決まった訳。」難しい単語を並べられると理解できない未来。レオナもそれを判っていて難しい単語を故意に使う。確信犯だ。未来は理解できた事の中から一つレオナに質問する「2人目って?1人目って誰なの?私、知ってる人?有名人?」レオナはクスっと笑うと「未来ちゃんの知らない娘だよ」と返答し「多分、明日になれば会えると思うよ」と付け加え、未来からIDカードを取り上げると「ちょっと見てて面白いよ」と言って、未来から取り上げたIDカードを改札口の読み取り機にかざす。すると改札は閉じてしまい通れなくなる。「顔認証も同時にされてて別の人間が使えないようになってるんだよ。だからカードを又貸ししちゃダメだからね」そう言ってIDカードを未来に返す。カードを受け取った未来はそれをまじまじと見つめて「凄いなぁ・・・」と呟く。「顔認証はあそこのカメラなんだけどね」と隠しカメラを指差しながら突っ込むレオナだった。
駅から移動し、本部内を経由して正面入り口へと向かう。正面玄関口にはオシコシ製のMATVが3台止まっている。前後の2台はまさに完全武装されていて、ルーフには通常はほとんど付けられることも無いディロン社製のミニガンが搭載されている徹底ぶりだった。割と大人占めの武装を施された2台目のMATVの後部座席に導かれた未来は案内されるがまま中に乗り込む。先に乗り込んだレオナに手を差し出されそれを掴む。装甲車だけあって車高が結構ある為引っ張り上げてもらって初めて中に乗り込むことができた。車内は意外と乗り心地は良さそう・・・などと考えていると、「ちょっと狭いが辛抱してくれ」と言って隣に「サム・イーノス」が乗り込んできた。未来は無意識にサムの持っている銃に目が行く。別に自分が撃たれる事は無いのだろうが、常にグリップに手を掛けている事が妙に気になってしょうがない。それに気づいたのかサムは「安心しな。セフティーは常に掛けてある。映画と違ってコレが俺のラストセフティーだ、なんて言わないさ」と言って人差し指でトリガーを3回絞る仕草を見せる。そう言われて故意に銃から目を逸らす努力をするが、やっぱり気になる未来だった。
MATVが基地を出発する時、時刻は午前1時を回っていた。レオナは未来に「わからない事があれば答えられる範囲の中で答えるけど、何かある?特秘事項は答えられないけどね。」と尋ねると、未来はレオナをチラ見してから少し考えて「夕方のアレは何?」と質問した。「あーアレね、何だろうね?知らない。」と即答するレオナ。未来はレオナに不満そうに視線を送る。その視線を受けてつい噴出してしまうレオナは「ゴメンゴメン、本当に正体がわからないのは確かなんだよ。判っているいくつかの事から話してあげるよ。」と言って説明を始めた。「WITOや米軍でのコードネームは「タイニースター」と呼んでいてね、80年ぐらい前から実物がいくつか確認されている・・・人ではない何かってところかな。」そう言って一拍言葉を切る。続けて「有力な説としては宇宙人じゃないか、って事で研究が進められているんだけど、多分違うね」と言ってニヤニヤと笑みを浮かべる。そこまで黙って聞いていた未来は「じゃあ何なの?」と聞き返す。レオナはお手上げのジェスチャーをすると「さあ、さっぱり判らないね。」と言う。それまでの事を横で見ていたサムが「大将、それアノ自衛隊の女隊長にも言ったのかい?」と尋ねてきた。親指を立てて返事とするレオナをチラリと見たサムは視線を前に戻して「絶対信じて無い方に$100」と言った。それに対してレオナは「信じる、信じないは置いといて、WITO内での統一見解なんだから、私が勝手に文書変える訳にもいかないでしょ。」と。その言葉はその場にいる誰もがレオナが核心に一歩近い位置にいる事を想像させた。それを聞いた未来は「知ってるんなら教えてよ」とストレートに尋ねる。レオナはニコニコしながら「多分、進化の進んだ人間って言った方が近いんじゃないかな」と答え、「宇宙から来たかと言えば、当たらずとも遠からずじゃないかな」とも付け加えた。象徴的過ぎて意味が良く理解できなかった未来だったが「で、アレは何しようとしてたの?人類皆殺しみたいな?敵なの?」と話を少し逸らして尋ねる。レオナは腕組みを崩して「狙ってたのは未来ちゃん、アナタ。」と言って未来の鼻先を指差す。言葉に窮する未来だったが「・・・・・なんで私?」と搾り出す。鼻先に差し出された指を引っ込めるとレオナは「なんでだろうね?」と言って再び胸の前で腕を組んではぐらかす。知っていて知らない振りをしている事に感づく未来は、それが答えられないという事なのだろうと諦めてそれ以上尋ねる事を止める。これ以上聞いても無駄な努力にしかならないと悟る未来だったが、「そんなに意地悪なことしなくてもいいんじゃないか?」と、横からサムが助け舟を出す。するとレオナは「まだ話す段階に無いだけだよ。明日になればまた話す機会が出来るから今日は内緒にしておこうかと思っただけ。明日になればわかることがたくさんあるからね。」サムとレオナは未来の知らない共通の情報を持っている事を想像する未来だった。
MATVの車列が未来の住む奥多摩湖畔へと差し掛かると「明日、朝、迎えに来るから。って言っても、今前後を走ってる2台は警護に置いていくんだけどね。」とレオナが言う。未来が丁度それを聞いている時、堤防の横を通り過ぎて夕方にタイニースターに襲われた場所を通り過ぎる。窓越しに自衛隊員が数人タープの中で何かをしているのがチラっと見えた。この場所には少しトラウマが残る為か、無意識のうちに視線を足元に落とした。そこから5分もかからない所に未来の実家がある。夜中はバスも無い為真夜中の帰宅など今まで記憶に無い。なんだかしばらく家に帰っていなかったような錯覚に陥る。それぐらい今日は色々なことがあって疲れた。そんな事を考えながら自宅の「丹夏堂」という食堂に着いた未来はサムに手を借りてMATVから降りる。レオナは車上から「じゃあまた明日ね、バイバイ!」と言って未来を見送り、それに答えるように無言で手を2~3回振る未来。サムは未来を玄関口までエスコートしてくれた。その時になって初めて気づいたことがあった。上空をヘリコプターが2機旋回を繰り返している。赤と緑のランプが点滅しているのが見える。未来が玄関の錠を鍵で開けると中から父親「森永浩」が廊下を走ってきて出迎えてくれた。「・・・おかえり、疲れたろう?」と言って未来を中に受け入れ、後ろにいたサムに気づくと「送って頂いて有難うございます」と言って会釈した。何を言って良いかわからなかった未来は終始無言のまま、サムにも会釈だけする。するとサムはポケットからロリポップを出して未来の背負っていたデイバッグのポケットに差し込み、手を上げて無言で別れの挨拶をした後、玄関の戸口をそっと閉ざした。
ブロークン・オーキッドに続く
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一月ぶりの投稿。結構忙しくて中々続きが進められないのですがこのペースで書ければ良いかな、とも考えています。
では、続きどーぞ
用語解説は思いついたらここに追加しておきますねw