【 厳顔の思惑 の件 】
〖 益州 成都 鳳舞庵店内 にて 〗
店員「此方をご利用下さい……と、主より仕っております……」
店の奥には、上得意しか使えない四部屋の客間があるのだが…店員の案内に寄れば、新しく出来た部屋で寛いで貰いたいとの事。
そこは、成都、いや大陸でも見る事がない造りをした、一軒の『庵』が屋敷の裏庭に造営されていた。
桔梗「これは……一見萎びた小屋に見えるが、材質は厳選した良き物を使っておる! それに……この狭き入り口は…………!」
紫苑「えぇ……。 でも、温かみのある……この家。 私は、とても好きよ!」
興味深そうに建物の周りを見渡し、狭き入り口を覗き込む。
紫苑「───壁には花、一段上がった場所があって……?? なんて書いてあるのかしら? 読めないわね……『かかっ、もう老眼かぁ~?』 ────桔梗!! 『怖い、怖い───っと』
もぉ───!! 自分だって同じ年頃じゃない!!!
あら? 床に筵が引いてあるわ!」
桔梗「ん、幻滅したか? ならば、場所を代えてもらうと……」
紫苑「駄目よ! そんな事しないで! この部屋の中は、お客をどう楽しませよかと、考えに考えて作ってある凄い部屋よ! 私達、為政者も、このように民に接しよと教えられているようだわ!!」
二人で狭い入り口から入り、中に座る。
…………チョロチョロ カポォーン!
外から聞こえる『鹿威し』に一瞬驚く二人だが………何事もなかったため安堵する。 ………そんな事が数回。
この部屋の造りも、竹や木で作った凝った造りである。
中には『囲炉裏』があり、壁には『一輪挿し』が懸かり、『床の間』には見事な『置物』と『掛け軸』が掛かる。 掛け軸の文句は………達筆過ぎて、よく分からない。
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酒屋店主「お待ちどうさまです! 桔梗様、お連れの方! どうぞ、お召し上がり下さい!!」
少し経ち、店主自ら『酒』と『つまみ』を持ち現れる。
桔梗「『鳳舞』……結果を報告しろ!」
店主「……はっ! ですが、お連れ様は……信用できる方ですか?」
店主の後ろに控えていた四人の定員が、それぞれ東西南北の壁面に寄り添う。 黄漢升が警戒の様子を見せるが、厳顔がそれを止める。
紫苑「それは保証する! 儂の長年の友人にして同僚だ!」
紫苑「『楽成城主 黄漢升』と申します。 以後お見知りを……」
鳳舞「申し訳ありません! 厳顔様配下の諜報部隊『酒狼隊』隊長『鳳舞』と申します!」
鳳舞庵店主『鳳舞』は、酒とつまみを差し出し、厳顔の招きで庵の中に入ってきた。 中肉中背の若者は、大柄な体を小さく縮め中に入る。
紫苑「桔梗……この者達は?」
桔梗「……儂が近在で捉えた元賊だった者よ。 しかし、改心する者、やむ得ない事情で賊になり果てた者も居たため、儂が部隊を諜報部隊を創設し、情報収集を任せていたのだ!」
紫苑「…………私にも秘密で?」
桔梗「この部隊は、劉焉様には秘密で創設したのでな。 それに東州兵共に知られると拙いのだ。 奴らの秘密を握る事になりかねん!
そんな危ない事に、璃々が居るお前を巻き込む訳には、いかないであろう? 」
紫苑「……………………!」
桔梗「待たせたのう! 今回、お前の得た情報は………?」
鳳舞「ご報告致します! 入手しました『洛陽』の情報でして…!」
鳳舞の報告曰わく、一月程前より洛陽から履き物を献上したいと使いの者が来訪したという。 しかも、条件付きが二つ付いていた。
壱、履き物は、金山採掘者にしか使わないように! 金山は他の鉱山と違い格が高いので、履き物は此方にした方が無難である。
弐、履き物は、一月事に履き替えれば効率が良くなるため、替わりを用意するから、捨てずに溜めて置いて欲しい。
劉焉様は、経費無料、献上、洛陽の使者、自分は手を下さずに済むとの考えの元、それを承諾。 数日前に交換の使者が訪れた。
しかも、今度の使者は、天水に降り立った『天の御遣い』、しかも若い女性達だったという事で、劉焉様の機嫌は正に天を衝く勢いだったと、東州兵に紛れ込ませている配下の者の証言だという。
また、洛陽の情報も入れるため、数人送り込み情報を収集。
『天の御遣い』は複数、袁紹側と曹操側が激突して交戦中等入手。
鳳舞「……と、なります!」
桔梗「ふむ、ご苦労!」
紫苑「桔梗……『天の御遣い』って、益州でも噂が流れている『伏竜の軍勢』なる集団の事かしら?」
桔梗「………と、見るしかあるまい。 洛陽側の御遣いが神算鬼謀を文字通り発揮して、数倍の連合軍を翻弄し壊滅させたというしな。
じゃが……その噂も噂。 新たな偽の御遣いが現れたとか、死者が蘇り連合軍に参加したとか、荒唐無稽な話も甚だしい! やはり、最後は………自分自身でやり合って確認した方がいい!!」
鳳舞「厳顔様……実は、もう一つ報告がございます」
桔梗「ん? ならば、早く言わんか!」
鳳舞「はっ! これは、任務とは違い、私個人で洛陽に仕入れに出かけた事です」
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〖 洛陽 街中 にて 〗
鳳舞「………これぐらいにしようか。 ん?」
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一存「………姉さん、もう止め……ウップ!」
颯馬「俺も、明日の仕事がありますから……」
長慶「何を言うか! このところ忙しくて、姉弟水入らずで酒盛りなどした事はなかろう! もう、一軒寄るぞ!!」
颯馬「ですが……長慶殿『……今は、姉だ!』 ……姉さん、このような騒々しい所で、酒を飲みより『茶室』みたいな『こぢんまり』とした場所で、静かに三人で飲みたいですよ?」
長慶「……私も、偶には茶をたてたいが、茶室が無いのでな……」
鳳舞「…お話中、失礼します! 今、話されていた『茶室』とはどんな物なんでしょうか? 私は、益州で酒屋を営んでいる者ですが…」
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鳳舞「その方『三好』様と名乗られ、丁寧に『紙』に記載して教えて頂き、それを再現したのが……この『茶室』なんです……」
桔梗「……その者も『天の御遣い』の一人か………」
鳳舞「はい! ……これが、その際に頂いた『紙』です。 この紙は、洛陽で販売していました最高品でも及ばない出来映え。
それを、こうも容易く、語りかけてきた得体の知れない者に渡せる度量。 そして、再現して初めて分かる、その知識。 私自身では、間違いないと確信しております!」
紫苑「この家屋の造りを示唆した人なら、人柄も分かる。 でも、私自身も直接、会わないと……………断言は出来ないわ」
桔梗「……何人か洛陽に送り、秘密裏に『御遣い達』と連絡を取れ! 益州州牧配下、『厳顔』『黄忠』が会談したい……とな」
鳳舞「はっ!」
紫苑「益州を………洛陽側、漢王朝に?」
桔梗「元々の罪科は劉焉様にある! 民の幸せを願い、忠義を尽くしてきた我が身だが………これ以上看過をする事は出来ぬ!!
我が身を礎にし、『天の御遣い』を透し、今の天子様の世を見極めてくれよう!!」
◆◇◆
【 袁家からの逃亡者 の件 】
《 曹操軍敗北まで 3日 》
〖 兗州 官渡付近 にて 〗
初戦において、『白馬の戦い』では曹操軍、勝利を飾る!
しかし、袁紹軍は曹操軍に数で応戦!
戦線を徐々に兗州の内側に押し込んでいた。
曹操軍側も、文醜を輜重(しちょう)隊を餌に、伏兵攻撃で撃破したり、袁紹の複数から連なる『やぐら攻め』を新兵器『発石車』を使用して破壊するなど対抗をしていたが、抑える事が出来なかった。
ーーーーーーーーーー
桂花「………華琳様、袁紹軍が『陽武』を落としたそうです!」
華琳「そう……朱里! 我が軍の糧秣は、後どれくらいあるの?」
朱里「…………後、持って七日が限度です………」
春蘭「くそっ!! 何か! 何か手は無いのか!?」
愛紗「………………」
星「…………………」
一刀「(そろそろ許攸が、華琳の陣営に来るはず……)」
ダッダッダッダッダッ バッ!
曹兵「も、申しあげます! 袁紹陣営より投降者がぁ!!」
華琳「!! すぐに連れて来なさい!!!」
曹兵「はっ、はい!!」ダッ!
一刀「(やっと来たか……。 これで華琳の勝利は間違いない!)」
ーーーーーーーーーー
『━━━━━━━━━━!!』
麗羽「華琳さん……貴女との決着は、私の負けのようでしたわね…」
猪々子「何言ってるんですかぁ! 姫! アタイ等の情報が、あればこそ勝てるんですよ! だから、勝負は引き分けスッよ!!」
斗詩「ごめんなさい、ごめんなさい!! ──文ちゃん!! 曹操様に勝って貰わなくちゃ、姫を含む私達は殺されちゃうんだよ!!!」
一刀「(えええぇぇぇ─────!!!)」
季衣「(いっちー!?)」
流瑠「(斗詩さん!?)」
華琳「麗羽!!! その前に説明なさい!! どうして、袁家当主が側近共々追われの!? 今の陣営の総大将は誰なの!?」
麗羽「それは、わたくしが華麗に優雅に雅やかな逃避行『……顔良、長くなりそうだから、貴女が説明なさい!』 ──ちょっと!!」
斗詩「はっ、はい!」
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今から二日前です。
私と文醜、袁本初様と今後の作戦を練っていました。
すると…………
ーーーーーーーーーー
バサッ!
久秀「袁本初様、顔良、文醜───貴女方を捕縛するよう、袁家の元老方から命令が出ました! 大人しく捕縛されて下さい!」
**************
袁家の元老……歴代の当主の兄弟一族で連なる『袁一族の意志』みたいな者達です。 袁家当主として、相応しくない行動をすれば……元老達の総意で簡単に、当主を替える事も可能なんですよ。
**************
汜水関、虎牢関における失態、都での叱責、今の戦い振り。
これの事で、元老達が……名家の名を汚した愚か者『袁本初』を『当主の器に非ず』と決められた……と思うんです。
麗羽「───分かりましたわ。 わたくしの責ゆえ、素直に捕縛されましょう! ですが、文醜さんと顔良さんは、わたくしの命で動いたのです! ですから、関係ないはず────」
久秀「黙りなさい! 古来より大将が暴を振るえば、側近が止めるの定め! それが手足の如く動くなどあるまじき行為。
兵達よ! 三人とも捕縛なさい!! 抵抗するなら、武器使用も許可する!!!」
『ウワアアァァァ──────!!』
猪々子「斗詩!! 麗羽様を連れて来てくれ! アタイが道を拓くぜぇぇぇ!!! おりゃああぁぁぁ────!!!」
ブゥゥゥ──ン! ガァーン!!
「ぐわぁ!!」
「とおりゃあ──!!」
「ぐほぉ!!」
猪々子「馬鹿野郎!! 何だ、その腰の切れは! アタイが教えてやった事、守ってるのかぁぁ──!!」
ゴォ──ン! 「ガハッ!!」
斗詩「麗羽様! 逃げますよ!? 早く早く!!」
麗羽「………わたくしは残して、サッサッと二人でお逃げなさい!」
斗詩「また言い出しましたねぇ!! 麗羽様! 何度も言わせないで下さい! 私と文ちゃんは、好きでお付き合いしているんです!! それに、麗羽様には大事な役目が残っていますよ!?」
麗羽「わたくし……に……?」
斗詩「『鳥巣』の事ですよ! この事を手土産に曹操軍に投降すれば北郷さんも見直してくれます!!」
麗羽「はっ!! そ、そうですわね! 急ぎ脱出を!!」
斗詩「はいっ!!!」
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斗詩「………そんな事で、私達は袁家の陣営より逃れ…少数の兵達と伴って、ここまで逃げてきたんです! 残念ながら、今の当主の名前は……全然分かりません……」
華琳「……………………」
麗羽「………斗詩さんの話した通りですわ。 わたくし達は、情報を持って投降した。 そして、情報開示の条件は一つだけ………」
華琳「…………麗羽達の身の上を保障しろと?」
麗羽「正確には、顔良、文醜の二人。 わたくしは、貴女に負けた。その責を負うため、斬首でも死刑でも受け入れますわよ?」
斗詩「───────!」
猪々子「──────!」
一刀「まっ、待ってくれ! 俺からも助命を頼む!!」
一刀は、土下座をしながら華琳に頼み込んだ!!
華琳「!」
麗羽「御遣い様!」
春蘭「北郷! 今は大将通しの話し合いだ! 横から口を出すな!」
一刀「それは、分かる! 分かるが……俺は、袁本初様に借りが一つある! たから、その借りを返すため! 命を掛けて助命を嘆願させて貰う!!」
………………………………
華琳「フゥ──、分かったわ。 情報に見返りに顔良、文醜を我が軍の将に加えましょう!! そして、麗羽!! 貴女は────!」
『────────ゴクッ─────』
華琳「一刀付きの召使い『めいど』になって貰います!!」
『─────────!!!』
麗羽「わたくしが………召使い…………」
華琳「嫌ならいいわよ? そうなれば、死刑は確実! 私が直々に、その首を落としてあげるわ!! ───返答は?」
麗羽「願ってもない事ですわぁ!!
わたくし袁本初は、御遣い様に……終生仕えさせていただきます!!
御遣い様……いえ、『我が君』……正式に自己紹介を。 わたくしは姓は袁、名は紹、字は本初、真名が麗羽になります。 これからは、麗羽と及び下さいませ!」
愛紗「ちょっ──────!!」
星「止めよ! 総大将が正式に決めたのだ。 我々では、どうしようもない事だ……………」
季衣「良かった────!! いっちーと一緒に戦えるんだぁ!!」
猪々子「よろしくな! きょっちー!! 負けないように頑張るからな!! 兄貴にも、活躍見てもらわなきゃな!!」
季衣「にゃ?」
流琉「よろしくお願いします! 斗詩さん!」
斗詩「うん! よろしくね! ………変だけど、二人と戦わずに済んで良かったと思ってる。 北郷さんも………居るしね?」
流琉「私も季衣も、お二人と戦うなんて……絶対嫌です! でも、兄様………も? え? えっ?」
一刀「あぁ、了解した! だけど、俺の仕事が無い時は、皆の仕事を手伝ってもらってもいいよな?」
華琳「それは許可するわ!
さて……麗羽! 貴女の持っている情報を教えて貰うわよ!!」
麗羽「袁軍は十数万の大軍。 糧秣消費量は、毎日かなりの物になりますわ。 そして、残りも後僅か一日分。 ですから、明日糧秣を運び入れるため『烏巣』の貯蓄庫に入れる事になっているのです!」
桂花「華琳様………これは、何かしら意図があります。 そのような重要な情報を持ち出したのに、追っ手が掛けられなかったなんて…」
朱里「でも、このまま行けば……糧秣切れで、我らは敗走する事は、間違いありましぇん!!」
華琳「………一刀は、どう思う?」
一刀「俺も……後が無いから行動を起こすべきだと思う! だけど桂花の言う事も……分からない訳ではないんだ………」
華琳「そう………明日の夜中、我々は襲撃を開始する! 全員その時は騎馬で出撃!! 万が一は、機動力で逃げ延びるまでよ!!」
◆◇◆
【 青天の霹靂 の件 】
《 曹操軍敗北まで 当日 》
〖 兗州 烏巣付近 にて 〗
ーーーーー!
ーーーーーーーー!
ーーーーーーーーーーー!
華琳(─────《鳥巣》は、まだかかるの?)
斗詩(いえ、もう……そろそろ、見えてくる頃です!)
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曹操軍
騎馬隊 八千
《総大将 曹孟徳》
夏侯元譲、荀文若、許仲康、典韋
北郷一刀、関雲長、諸葛孔明、趙子竜
袁本初、顔良、文醜
☆★☆ ☆★☆ ☆★☆ ☆★☆
華琳は、『袁本初』いや『麗羽』の話を聞いて信用に値すると納得。
自ら『烏巣の兵糧庫を焼き払う!』と言い出したのは、大将としての責任のためか、何だかわからんが、全員で止めたよ。
だが、一度言い出して素直に応じる人物では無いと、知ってるんだよ~な、全員…………。
結局、意見が通らず……仕方ないと慌てた将達が……我も我もと従い、少数精鋭で向かった袁軍貯蓄庫。
麗羽達の話によれば、貯蓄庫は大型の建物が二棟。
何故か塀とか柵が無い状態だと言う。 ただ、代わりにあるのが『荊(いばら)』が植えられ、塀のように四方を囲んでいるという話。
しかも、植えたのは3日前。
大きさも30㌢を超えていないというんだけど……何があるか?
しかも、献策が……あの『司馬懿仲逹』………。
なんで麗羽側に居たのか分からないが、この世界自体が俺の知識では当て嵌まらないのは、身に染みている!!
だから、気をつけて………進んだよ。
そして、前方に現れたのは………………
高さ十㍍になる巨大は『荊の壁』が……曹操軍を阻んでいたのさ!!
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あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今週も忙しくなりそうですので、急いで作成して投稿。
誤字とかありましたら、確認しつつ補正したいと思いますので、ご連絡下さい!
また、宜しければ読んで下さい!
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義輝記の続編です。 また、よろしければ読んで下さい!