『ウゥゥゥゥウゥウウゥゥゥウゥゥ…』
『アァァウゥゥゥゥゥゥ…』
『ケケケケケケケケケケケケケケケケ…♪』
『ヒヒヒヒヒヒヒヒ…』
未練によって成仏出来ず、あの世とこの世の狭間とも言える空間に漂い続ける無数の亡霊達。空間内に出現している小学校や廃病院、美容院、一軒家などに留まり、生者を死の世界へと誘っていく…
筈だった。
それが今では…
『『『グギャァァァァァァァ…!?』』』
「はい、一丁上がりっと」
この謎の空間にやって来た旅団メンバーによって、逆に幽霊達の方がその存在を脅かされる立場に追いやられていたのだ。
「さて、この次は…」
謎の神社らしき場所にて、既に何体もの幽霊がUnknownによって強制的に成仏させられていた。それ故に最初は彼を陥れようとしていた幽霊達も、今ではその陥れようとしていたUnknownから逆に追いかけ回されているという訳だ。
『ナ、何ナンダコノ小娘ハ!? 俺達ノ呪イガ、マルデ通ジナイダト…!?』
「小娘言うな、私は男だ」
『『『イヤ、ドウ見テモ女ダロオ前』』』
「な、何で幽霊にまで男の娘扱いされなきゃならんのだ……しかも揃いも揃って…」
Unknownは眉を顰めつつ、懐から何枚ものお札を取り出す。
「…まぁ良いや。取り敢えず悪いけど、君等も早く成仏しちゃって頂戴な」
『『『イ、嫌ダァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』』』
Unknownの放ったお札が命中し、また三体の幽霊が強制的に成仏させられる。
「これでまた三体分、と……しかしここは何処なんだ? 境界にもだいぶ似ているようだが…」
いざ見上げてみると、空は禍々しい紫色に染まっていた。雲までもが黒く染まっている事から、明らかにこの場所が普通じゃないのは分かる。
「調べていくしかないのかねぇ。一緒にいた竜神丸とは、完全に逸れちゃったみたいだし…」
場所は変わり、小学校…
「また随分と真っ暗ね…」
電気の無い真っ暗な廊下を、ユウナは一人慎重に進んでいるところだった。先程まで自分がいた教室で偶然懐中電灯を見つけた彼女は、現在こうして小学校全体を探索して回っているのである。
「はぁ……全く、何でこんな事になっちゃったんだろう…」
-1名様、ゴ案内デェス…-
「今思えば、あの時のあれも幽霊の仕業だった訳ね……冗談じゃないわよ…」
家で待っているルイの為に、この日はさっさと帰る筈だった。それが幽霊によるイタズラなんかの所為で邪魔されたのだ、イタズラの被害者からすればとても溜まったものではない。ルイの為にも、自分は一刻も早くこの変な小学校から脱出しなければならない。ならないのだが…
「…そもそも、どうやったら出られるのかしら」
まず、脱出する為の方法を見つけなければ話にもならない。現時点では、その脱出手段の手がかりなんて物は何も掴めていないのだから。
-ガタンッ-
「!」
また別の教室を探索していたその時、近くのロッカーから何か音が聞こえてきた。ユウナは思わずビクッと反応するも、恐れずにロッカーに少しずつ近寄っていく。
(? 今の音、このロッカーから…?)
この状況、もはやロッカーから何かが突然出てきてもおかしくない。それでも気になってしまったユウナは何時でも逃げられるような体勢になってから、ゆっくりとロッカーに手をかけ…
「…!!」
思いっきり、ロッカーを開けた。その瞬間…
「!? ヒィ…!!」
開けたロッカーから組み立てられていた人骨が床に倒れ、大きな音と共にバラバラになってしまった。床に倒れた衝撃で何本もの骨が折れ、頭蓋骨も粉々に砕け散る。
「…あぁビックリした」
足の爪先で砕けた骨を突っついても、特に何も起こらない。ひとまず何も無かった事に安堵するユウナだったが…
それがいけなかった。
ウフフフフフ…
「―――!?」
ユウナの後方から、若い女の子の声が聞こえてきた。素早く振り返ったユウナの視線の先には、セーラー服を着た少女の幽霊が立っていたのだ。長い黒髪で目元は見えないものの、その口元が醜悪な笑みを浮かべている事は明らかだった。
『オ姉サン……アナタモ、一緒ニナロウヨ…』
「…ッ!!」
幽霊の差し伸べる手を見て、ユウナはすぐに察知した。
逃げなきゃヤバい、と。
「く…!!」
急いで教室の扉を開けようとしたユウナ。しかし教室の扉は固く閉まったまま、何故か開ける事が出来なくなってしまっていた。
「な、何で…!?」
『無駄ヨ……私ハ、アナタヲ逃ガサナイ…』
「ッ…来ないで下さい!!」
少女の幽霊が近付いて来る中、ユウナは近くの椅子を強引に投げつける。当然、そんな物で少女の幽霊を足止め出来る訳が無い。
『何デ逃ゲルノ…? アナタモ、ココニイナサイヨ…』
いくら抵抗しても、少女の幽霊を止められない。教室の隅に追い詰められたユウナに、少女の幽霊がフラフラと歩きながら迫って行く。
『サァ……ズット、一緒ニイヨウ…?』
「い、嫌……来ないで…ッ!?」
ユウナの後ろの壁から、何本もの黒い腕が出現。ユウナの身体を抑え込み、逃げられなくしてしまう。
『イジワルネ……サッキノオジサンハ、私達ト一緒ニナッテクレタノニ…』
「!? じゃあ、さっきの悲鳴は…!!」
『絶対ニ逃ガサナイ……アナタモ……オ前モズット、ココニイレバ良インダヨ…!!』
「ひぃ……お、お願い…やめて…!!」
少女の幽霊は髪に隠れていた両目を赤く光らせ、ユウナに向かって両手を伸ばし始める。何とかして抜け出そうとするユウナだが、無数の黒い腕が彼女の身体を押さえつけたまま逃がさない。
『オ前モ、一緒ニ…!!』
(ッ…誰か…!!)
「誰か……誰か助けてぇっ!!!」
その時…
「
救いの手は、差し伸べられる。
『ッ!?』
突如、固く閉ざされていた筈の教室の扉が凍りつき、一瞬で粉々に粉砕された。砕け散った扉の先からは、右手に氷の拳銃を持ったスノーズがマフラーを靡かせながら姿を現す。
『バ、馬鹿ナ!? 私ノ張ッタ結界ガ簡単ニ…』
「邪魔」
『グ、貴様―――』
直後、氷の銃から放たれた一撃が少女の幽霊に命中。瞬時にその霊体を凍りつかせ、そのまま粉々に粉砕させてしまった。そして少女の幽霊が消えた為か、ユウナを捕えていた無数の黒い腕も全て消滅する。
「…さて」
スノーズは氷の銃を放り捨ててから、両手の手袋を直してからユウナに歩み寄る。
「あ…」
スノーズの右手が、ユウナに優しく差し伸べられる。先程まで怖い思いをしていたユウナにとって、その手はとてつもない優しさを感じ取れていた。
「大丈夫? 立てるかい?」
「あ……は、はい」
少しでも、今の自分の心を落ち着かせたい。
今だけは、誰でも良いから縋り寄りたい。
そんな思いから、ユウナはその差し伸べられた手を掴み取ってみせるのだった。
一方、
「そっちにはいた!?」
「いや、駄目だ!! こっちにはいねぇ!!」
「おーい、咲良ちゃーん!!」
「何処だー!? いるならお願い、マジで返事してー!!」
こちらでも現在、行方不明になったユウナと咲良の捜索が開始されていた。特にタカナシ兄妹やディアーリーズ一行は必死に二人を捜索しており、旅団のスタッフ一同の事もパシリみたいに扱っている始末だ。
「さ、咲良がいなくなった……いなくなったって…アハ、アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハ…」
「ヤバい、ウルが本格的に壊れた!?」
「ちょ、ウル!? しっかりしなさい!! アンタ男なんだからヘコむんじゃないわよ!!」
「本当ですよ。全く、いちいち下らない事で騒がしくするんですから…」
「「「誰の事が下らないですってアンチキショウがぁっ!!!」」」
「な、おぶっ!?」
「アンタも手伝いなさい!! どうせ暇なんでしょ!!」
「いや、私は他に仕事があるんですが…」
「「「問答無用!!!」」」
「ぐはっ!?」
凛がディアーリーズの頬を往復ビンタするも、ディアーリーズの表情には生気が戻りそうになかった。どうでも良さそうにしていたデルタすらもディアラヴァーズによって能力を使っても避けられない蹴りを顔面に炸裂させられ、仕方なく捜索を手伝う羽目になった。
「くそ!! ユウナちゃんがいなくなったってロキから連絡が来るし、こんな時にアン娘とガルムと竜神丸の三人はいねぇし……マジでどうなってやがんだよ、クソッタレが…!!」
「レイッ!!」
苛立ちのあまり舌打ちしていた支配人の下に、フィアレスが急いで走って来た。
「フィアレス、どうした!?」
「ソラさんの方から連絡が来たよ!! 何だか、それっぽい原因が見つかったって!!」
「!? 咲良ァッ!!」
「「「うぉ復活した!?」」」
フィアレスの言葉を聞いた直後、生気を失いかけていたディアーリーズが瞬時に復活した。
「―――で、これがその原因か?」
「多分だけど、可能性は高いと思うよ」
某次元世界、街の路地裏。
旅団メンバーやサポートメンバー達の集まった目の前には、黒い瘴気を噴き出している空間の裂け目が存在していた。裂け目の中は禍々しい紫色で、常人からすれば絶対に飛び込んではいけないと認識する程だ。最も、ここにいるメンバー達はそんな事など全く気にしてもいないのだが。
「それでkaito、これが二人の行方と一体どう関係してると言うんだ?」
「最近噂になっている〝死者の誘い”……幽霊に狙われた人間は闇の中に引き摺り込まれ、この世界とは異なる別世界へと誘われる……と言われている。この裂け目からは、ただならぬエネルギー反応が感じられるから、もしやと思ったんだけどね」
「そういえば確かに、最近は色々な世界で行方不明者が続出してるって噂も流れてはいるけど…」
「信憑性はあるのか? 正直言って俺は半信半疑なんだが。この裂け目、本当にその別世界とやらに繋がってるかどうかは怪しいところだろうよ」
「…賭けるしかないだろうね」
「「「「「ソラさん!?」」」」」
意外な人物が乗り出し、一同は驚きを隠せない。
「信じるというのですか? こんな胡散臭い情報を」
「信じられるか信じられないかじゃない、試すか試さないかだ。1%でも可能性があるのであれば、俺はそれに賭けてみるだけさ」
「ソラさんが言うなら俺も賛成だな」
「ッ…okakaさんまで…!!」
「行くしかないぜ。こうしてる間にも、ユウナちゃんと咲良ちゃんが何処かで大変な目に遭っているかも知れないんだ。あまり時間を無駄に出来ないのも事実だ」
「流石に全員で行く訳にもいかんだろう。予め、突入するメンバーは決めておいた方が良い」
そして…
「うし、じゃあ行って来るか!」
ソラ、ロキ、ルカ、ディアーリーズ、アキ、こなた、アスナ、凛、デルタ、蒼崎、okaka、aws、支配人、ユイ、kaito、げんぶ、FalSig。
以上のメンバーが、裂け目に飛び込む事となった。残りのメンバーは全員で
「あれ、朱音さんは来ないの?」
「うぐ!! え、えぇっと…その……べ、別に怖い訳じゃないわよ? うん、そ、そうなのよ!」
(((((あれ、何この可愛い生き物)))))
「んで、Blazも来ないのな」
「し、仕方ねぇだろ!! お化け嫌いで悪いってか!?」
「いや、そうとは言ってないが」
「…まぁとにかく、早く行くとしよう」
先頭としてソラがまず裂け目に飛び込み、ロキやルカも続いて飛び込んでいく。そこからはメンバー達が順番に飛び込んでいく。
「えぇ~俺も行くの~?」
「グチグチ言うな、とっとと来い」
げんぶに引き摺られる形で、kaitoも共に裂け目へ飛び込む。
「向こうは何があるか分からんのだ、全員慎重に行け……まぁ、貴様の命はどうなろうが知らんがな」
「はいはい。いちいち垂らして来る文句ありがとうございます、ヤンデレさん」
(((((本当に仲悪いなこの二人…)))))
待機組である二百式と火花を散らしつつ、デルタも裂け目の中へ飛び込んでいく。
「ウル、気を付けて行って来い!」
「ハルトさんも、みゆきさんと美空さんをお願いします!」
「ウル、さん…!」
「どうか気を付けて…!」
「大丈夫ですよ、二人共。必ず帰りますから」
「「ん…」」
((((う、羨ましい…!!))))
「おっほぉ、相変わらずお熱いねぇ?」
ディアーリーズもみゆきの頭を優しく撫でてから、裂け目へと飛び込んでいく。この時、他のラヴァーズが羨ましそうに見ていたのはここだけの話だ。
「フィアレス、留守番は頼むぞ」
「…帰ったらパフェ」
「はいは~い♪ レイもユイも気を付けてね!」
支配人とユイも飛び込み、これで飛び込んだメンバー達が別世界へと転移する事となった。そして数秒経った後、裂け目が突然消滅してしまう。
「な、裂け目が…!?」
「元々、空間の裂け目自体が不安定なんだ。消えたところで不思議じゃない」
(ウルさん、皆…!)
全員が無事に帰って来ますように。
みゆきと美空の二人は両手を合わせて、そう祈る事しか出来なかった。
別世界、とある地下水路…
「いやぁ~弱りましたね。まさか気付かない内に、アン娘さんと逸れてしまうとは…」
現在、竜神丸は困り果てているところだった。一緒に行動していた筈のUnknownと逸れてしまい、彼は一人で行動せざるを得なくなったのである。
「まぁ良いでしょう。さて…………ここからが、私達にとっての大仕事ですね」
『ウゥゥウゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウゥゥゥ…』
『クケケケケケケケケケケケ…♪』
『キヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…!!』
竜神丸のいる前方から、青い人魂と共に数体の幽霊が出現した。全員が不気味な奇声や笑い声を上げ、竜神丸にゆっくり近付こうとする。
「おやま、活きの良い死者共が来ましたね……では」
竜神丸は懐から銀色のドライバーを取り出し、腰に装着。更にポケットからは『D』のイニシャルが描かれたUSBメモリを取り出し、メモリに取り付けられているスタートアップスイッチを押す。
『DEATH』
音声が鳴ると同時にガイアメモリが竜神丸の手を離れて浮遊し、そのままドライバーの挿入口へと自動的に装填される。すると強大な衝撃波と共に竜神丸の全身がドス黒い霧に包まれ、髑髏の仮面に灰色のローブを纏ったスマートな体型の死神〝デス・ドーパント”へと変身した。
『『『ギ、ギギ…!?』』』
放たれた衝撃波で幽霊達が一斉に怯む中、デス・ドーパントは右手を翳し、白い人形のぶら下がった大鎌を出現させる。
『さぁ、狩らせて貰いましょうか…!!』
大鎌を構え、デス・ドーパントは幽霊達に向かって歩み出した。
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幽霊騒動その3