第17話 期末試験
和人Side
ジョニー・ブラックこと金本敦による襲撃。
俺はこれを制圧し、四肢の骨折と腹部打撲の重傷を負わせてしまったが、
俺自身も掌を負傷して命の危機による正当防衛となり、俺には厳重注意が課せられ、
金本は警察病院にて治療を受けた後、殺人未遂の現行犯で逮捕となり、
後日改めて『死銃事件』の殺人罪、同事件における家宅侵入罪、逃亡罪などにより再逮捕された。
これらの出来事が襲撃から2週間経った現在までにあった流れだ。
なお、菊岡や朝霧SP部隊の指揮官である遠野夫妻からは謝罪を受けたりした。
各人、金本を捕えられなかった自分たちの責任だ、と。
勿論、俺はまったく気にしていないので、謝罪は受け入れて気にしていないことを伝えた。
ともあれ、怪我を負ったことや犯人がSAOで俺と深い因縁があった人物ということもあり、
現在ともに事情を知る周囲の面々からは非常に心配されているので、申し訳なく思う。
さて、そんなこんなで大変なこともあったが時期は6月最後の土日、数日後の7月より学校の学期末試験が行われる。
俺たちの通うSAO生還者の学校はテストの回数は少ないものの、行われることに違いはない。
特に社会的にも全体的に勉学が遅れていると思われている生徒たちはここで良い成績を残そうと躍起になるものだ。
そしてそれは俺たちも同じことであり、みんなで集まって試験勉強を行うことになった…。
「というわけで、これより『第4回学期末試験対策勉強会』を開催する」
「「「「「「「「「おぉ!」」」」」」」」」
俺の宣言に声を上げたのは明日奈、志郎、里香、景一、詩乃、烈弥、珪子、刻、スグという参加者9名。
場所は我が家、桐ヶ谷家の道場だ。
なぜ場所がうちの道場かというと、まぁ明日奈以外の家は普通の家なのでこんな大人数では納まりきらないし、
かといって結城家はみんなで揃って勉強会をというには雰囲気が合わない。
図書館などでは教え合うには声が周囲に聞こえて迷惑になってしまうので、
大きいとは言えないが俺含めても10人程度ならば十分な広さがあるうちの道場ならば問題無い。
そういうわけで、テーブルを運び込んで準備は万端となった。
「まぁ勉強会とはいうが、ここに居るメンバーは成績が悪いやつはいない。
精々成績を上げるか心配なところの見直しがほとんどだと俺は思ってる」
そう思って反応を見てみると…。
「そりゃあ赤点の心配はしてないけどさぁ…」
「さすがに和人さんたちみたいに自信満々ではないです…」
「こっちは普通の学生だもの…」
「あたし、部活が中心の生活だし…」
里香、珪子、詩乃、スグの4人は自信なさげに応えている。
「俺は赤点さえ取らなけりゃそれでいい」
「ボクもそうそう赤点なんて取らないっすから問題無いっす」
普通な成績の志郎と刻の2人はある意味で余裕、というか楽観的。
「……お前達はもう少し勉強に対して向上心を持つほうがいい」
「ははっ、まぁ志郎さんと刻君ですから」
「里香たちも分からないところはわたしたちが教えるから、安心していいよ」
景一は呆れながら言葉にし、烈弥は微笑を浮かべながらそれに応え、明日奈は他の女性陣を安心させるように言った。
特にスグと詩乃は他校の生徒であるため、試験範囲や内容も相当変わるので濃い勉強が必要になるからな…。
「俺は全面的に全員を見ることもできるが、人数的にも無理な話しだからそこは理解してほしい。
明日奈も全面的に教科を見ることができるし、景一も多少なら問題無いだろう。
烈弥も珪子と刻とスグの勉強なら見れる……ただ、それを踏まえても可能な限りは自分で頑張るように。
それじゃ、勉強開始!」
「なんで高校で古文なんかでるのよ~、こんなの大学の専門分野でいいじゃない!」
「はいはい、口じゃなくて手を動かそうな。あ、里香、そこ間違ってるぞ」
「うがぁ~~~!」
「えっと、これはこの数字を求める問題だから、ここを……あれ?」
「スグ、それは問題をよく読めば分かるっすよ。つまり、この問題にはこの式を当てはめるっすよ」
「あ、そっか。ありがと、刻くん」
「物理の法則って面倒くさいわね…」
「……分からなくもないが、仕方のないことだ。この問題は以前教えたものを応用すればいい」
「うん、やってみるわ」
「この時代に起きたのがこの事件で、関わってる人は……確かこの人」
「正解だよ、珪子。さすがだね」
「えへへ。烈くんが教えてくれたからだよ」
「う~ん…この単語じゃ会話が変になっちゃうから、こっちの単語?」
「明日奈、なにも単語を変えるだけじゃないぞ。他にも正しい英文の作り方はあるからな」
「そうだね。色々考えてみるよ」
「刻、このOSにはこっちのプログラムを組み込んだ方がいいと思うんだが…」
「それだと問題はブロックの方っすよ。ちょいとばかし弱くなるんじゃないっすか?」
「そこは個人でソフトを使ってもらった方がいいだろ」
「……やはり星そのものと星座は密接な関係にあると考えるべきか」
「そうですね。星座にまつわる物語の大半はギリシア神話に連なるものですから、衛星などにも名が使われますし」
「……星だけでなく星座の物語も知るべきか」
「んで、この部分の歌詞を悩んでるんだけど、なんかいい案ないか?」
「曲調にもよるからな~」
「バラード系っすよね?やっぱ優しい感じとか?」
「……語りかける感じでもいいのではないか?」
「歌詞そのものに違和感を覚えるなら、最初から考え直してみるのもいいと思いますよ」
「お、それもそだな」
「「「「「そこ、勉強しなさい!」」」」」
「「「「「あ、すいません」」」」」
俺と刻は数学と物理の話からOSの話に、景一と烈弥は地学と世界史の話から天体と星座の話に、
そこから志郎が音楽の話になって俺たちに意見を聞くという展開になったわけだ。
思わず脱線してしまったがそこは恋人たち、程よいツッコミをいれてくれ勉強に戻れた。
まぁ、こういうのは難だが俺たち男共は割と余裕があるからな…。
俺と景一、それに烈弥はもちろん、志郎と刻も試験に関しては中の上の点数を平気で取れる。
一方、女性陣はと言うと、明日奈は大丈夫だが根が真面目であるし、
詩乃と珪子は普通の成績らしいが心配があるとのことで、
里香とスグに関してはこちらも普通だが心配が大きいとのこと。
うむ、素で申し訳ないと思った。
勉強を再開してからしばらく経った時、一時休憩ということになった。
それを皮切りにスグや珪子はテーブルに突っ伏し、里香と詩乃は道場の冷たい床の上に寝転がった。
「あ~、疲れるわ…」
「まったくね……テストなんてなくなればいいのに」
「あたしもそう思います…」
「だけどそうは社会が許してくれないんだよね」
「こればかりは仕方がないよ…はい、お茶」
里香と詩乃、珪子とスグまでもが恨みがましく呟くが、
明日奈は微笑を浮かべながら冷えた麦茶をコップに注いで皆に配っていく。
「だけどこの調子ならみんな大丈夫だろ。それこそ、名前の書き忘れや解答箇所がずれなければな」
「それやったら絶望的だな」
特に詩乃とスグの学校はペーパーテストだからな。
俺たちの試験は学校用の端末を使用した入力式、そうそうに間違えるようなことはない…バカをやらかさなければ。
「そんなので夏休みを潰す気はないわよ……折角の夏休み、今年は去年よりも楽しめること間違いなしだもの、ねぇ~?」
「「「「ねぇ~!」」」」
おぉ、詩乃の言葉に明日奈たちも顔が緩んでやがる。ま、確かに去年よりかはもっと楽しくなるか。
「よし、もう少し休憩したら再開するぞ。試験を乗り切って、夏休みを謳歌するためにな!」
それからしばしの休憩の後、俺たちは勉強会を再開させて夕方まで取り組んだ。
この土曜日の勉強会と後日の日曜日の勉強会、月曜日は各々が自宅で勉強を行い、
7月の火曜、水曜、木曜と3日間における試験が行われた。
そして試験が終わり、金曜と土曜は試験休みとなり、日曜に亘る3日間はALOを満喫した。
週明けの月曜日、試験結果の返却となった。
この日の学校が終わり、俺たちはダイシーカフェに集合していた。
試験結果を確認するためだ……ゆえに、全員が自分以外の結果を知らない。
無論、俺と明日奈も教え合ってはいない。
「それでは結果発表といこうか……まずは俺、明日奈、景一、烈弥といこう。俺からだが、無論…合格だ」
「わたしもバッチリだよ!」
「……問題無しだ」
「良い調子でやらせていただきました」
最初に安定している俺たち4人、分かる通りだが全員クリアだ。
続いて余裕を見せていた志郎と刻、少々心配気味だった珪子、それなりに心配気味だった里香だ。
「前とあんまり変わらず、クリアだぜ」
「こっちも普通に合格っす」
「あたしは結構良い点が取れました」
「かつてないまでに自己最高得点だったわ!」
志郎と刻は余裕といった様子、珪子と里香は試験前とは打って変わって満足いく出来だったらしい。
そして他校の生徒であるスグと詩乃はというと…。
「去年よりも成績が上がってました!」
「ケイやみんなのお陰で、過去最高だったわ」
満面の笑顔で答えるスグと満足気な詩乃…つまりだ。
俺はニヤリと笑みを浮かべ、みんなも似た笑みを浮かべる。
エギルに目配せをして各自の飲料が入ったグラスを受け取り、手に持って掲げる。
「期末試験終了と全員の補習回避を祝って、乾杯!」
「「「「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」」」」
俺の音頭と共に一斉にグラスをぶつける。
「ぷは~! 試験も終わったし、あとは学校行って夏休みに入るのを待つだけだな!」
「心置きなく過ごせるってものね!」
少々ハイテンション気味な志郎と里香であるが、まぁ分からないでもない。
期末試験が終わったことで、残るは2週間程度の登校のみだし、
夏休みには課題があるといっても俺たちの学校はそれほど課題が多いわけではないからな。
「去年も楽しかったけど、余裕が出てきた今年はもっと楽しめそうだものね」
「海やプールにお祭り、他にもイベント目白押しですから!」
「あたしも合宿が終われば好きなことができるし」
「いまのうちに新しい水着でも買いに行こうかしら」
「あ、いいわ。服もそろそろ新しいのが欲しいし」
明日奈や珪子は現実のイベント関連に目を輝かせ、スグも夏合宿後の楽しみを考えているようである。
詩乃と里香はどうやら買い物の算段を立てているらしい。
「みんな元気っすね~」
「試験が肩の荷になっていたみたいだから…」
「そういえばさ、今年は師匠のところっていくのか?」
「いや、行かないと思う。というか、師匠がこっちに顔出すようなことは言ってたけど」
「……ということは、今回はこちらで稽古付けとなるということか」
刻と烈弥は女性陣の反応を微笑ましそうに見ている。
一方、志郎は去年のことを思い返してか、今年の修行予定を聞いてきたが俺はそれに対して、
つい先日に九葉から聞いたことを伝え、景一が結論を述べた。
ま、稽古付けといっても去年のような大変なものにはならないはずなので少しは安心している。
「だけどやっぱり気になるのはALO夏のイベントよ」
「限定イベントと限定クエストもあるから特に楽しみね」
夏のイベントには様々なことがあるが、中にはALOで日本の夏祭りを再現しようとかいうものもあるし、
童心に働きかけた昆虫採取クエストとか、水着コンテストとかもあるな。
あぁ、そういえば怪談系のイベントやクエストも結構実行されるんだよな。
明日奈が逃げなければいいが、無理矢理というのは嫌だし、
かといって怯える明日奈も中々にSっ気をそそってくるんだなぁ…(黒笑)。
「ひっ…!(ぞくっ)」
「明日奈、どうかしたの?」
「う、ううん。ちょっと寒気がしただけだよ」
「夏風邪かしらね? 気を付けなさいよ」
おっと、どうやら明日奈自身が嫌な予感を感じ取ったようだな、くっくっくっ…。
「俺はシークレット・クエストの方に興味があるけどな」
「なんですか?そのシークレット・クエストって…」
「……根も葉もない噂だが、『グランド・クエスト』の裏と言われているらしい」
志郎が発した言葉に首を傾げながら訊ねるスグ、その噂を知っている景一が答えている。
新生される以前のALOの『グランド・クエスト』は“世界樹攻略”で、
妖精王に謁見して
その内実は攻略不可能でアルフも世界樹の街も存在しないという理不尽なものであった。
須郷の失態の後、『レクト』より『アルヴヘイム・オンライン』の全権を譲り受けたベンチャー企業の『ユーミル』により、
ALOは新生され、グランド・クエストも新たな内容のものへと変わった。
その新たなグランド・クエストの内容は“妖精大戦”という。
妖精の種族間による領土戦を大規模化したものである。
あまり仲がよろしくない種族同士での小競り合いや侵攻行為とはわけが違い、
“策を弄せど正々堂々”が信条となっており、半年に1度の大規模な戦闘であるため、
領主一同は策を練りに練り、レネゲイドを傭兵として勧誘しまくるなど躍起になる。
無論、俺たちにもその勧誘は来るし、俺たち自身のその時の気分によって戦力が偏り過ぎない程度に受けることもある。
そんなグランド・クエストの影で最近になって囁かれているのが、
企業側あるユーミルやそのGMも知らないとされている『シークレット・クエスト』といわれているものの存在だ。
確かに根も葉もない噂なのかもしれないが、俺としてはそれに関して心当たりがある。
それこそが『
カーディナルによるALOの破壊、そればかりは俺もあってほしくないと思うが、それをここで話すのも無粋だな。
俺は頭の中の考えを振り払い、言葉にする。
「ま、噂は噂だし、気になるんだったら何か掴んだら教えるよ」
「それもそうだね。お兄ちゃんならなにか掴めそうだし」
さすがは我が妹、俺のことをよく分かっているじゃないか。
ただし、俺が既に何かしら掴んでいることを把握できない辺りはまだまだだな。
「みんな、待たせたな。うちの奥さん手製の料理だ、夕飯に響かない程度にでも食べてくれ」
「ありがとうございます、エギルさん」
「いただきますね」
するとエギルが幾つかの料理をトレイに乗せて運んできた。
烈弥と珪子が礼を言い、俺たちも口々に礼を述べてから料理に手をつけていく。
こうして料理を口にしながら、それぞれ雑談を交えていき、時間を見計らって解散することになった。
明日奈を結城家へと送った際に少しお邪魔することになり、
俺と明日奈は現在彼女の部屋で寄り添い合いながら話しをしている。
そんな折り、明日奈はふと真面目な表情になった。
「ねぇ、和人くん」
「どうした?」
「和人くんも、噂で流れてるシークレット・クエストがラグナロクに関係してるって思ってるんじゃないの?」
彼女の言葉にさすがの俺も目を丸くする。驚いた、まさか明日奈に気付かれているとは……しかもラグナロクの方もか。
「なんでそう思ったんだ?」
「なんていうか勘に近いんだよね、和人くんが気にしてるな~って感じて。
いつもの和人くんならもっと気にもしないで受け流すけど、
今日は『何か掴んだら教える』って態々調べてるみたいに言うんだもの」
「降参、降参だよ……あ~、明日奈に気付かれるとはな…。志郎たちにでさえ気づかれなかったんだが…」
「むしろわたしだから気付けたのかもしれないよ」
確かに、お互いを感じあえる俺たちだからこそ、そうなのかもしれない。そう考えれば納得だな。
「明日奈が言った通り、確証はないけどシークレット・クエストとラグナロクは繋がっていると考えてる。
まぁ、何もないに越したことはないんだけどな」
「うん、何もないのが一番いいからね……じゃあ、確認も取れたからこの話はおしまいにしよ」
どうやら彼女自身は俺がどう考えているかを確認したかっただけのようで、もう満足したようだ。
それなら俺も話しを蒸し返す必要はないな。
「夏休みに入ったら、ALOをたくさんするのもいいけど、デートもたくさんしようね」
「去年は割とバタバタしてたからな。今年は思いきり堪能しようか」
「もう少しだから、今から楽しみ♪」
「俺もだよ」
2人で笑い合って話す。やはりこういった穏やかな一時は楽しくて嬉しく、大切なものだと思える。
「和人くん。帰るまで、もう少し、時間、あるよね…?」
「あぁ、あるな…」
俺に問いかけながら顔を少しずつ近づけてくる明日奈に、俺も少しずつ近づけていく。
「それ、なら…キス、だけで、いいから…//////」
「もち、ろん…」
答えた時には俺と明日奈の唇は重なり、帰宅する時間まで彼女との愛の逢瀬を楽しんだ。
和人Side Out
To be continued……
あとがき
今回は日常回ということで、和人たちの試験に関する話を投稿させていただきました。
最後はいつもの如くあま~くいくのが自分流w
さて、次回は完全甘々話となりますので、コーヒーをリットル単位で用意しておくように、厳重注意ですw
それでは次回をお楽しみに~・・・。
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第17話です。
今回は和人たちの学校の試験に関するお話しです。
話の最後は甘いのでご注意をw
どうぞ・・・。