5月12日
子敬が渋い顔をして執務室へ入ってきたのでどうしたのかと聞いたところ、張昭殿と張紘殿が上京して来ているからだと言う。
江東の二張と言えば魏にもその名が知られた賢人であるので御指導を頂く折角の機会ではないのかと思ったが、子敬によると
「そう思っていた時期があたしにもありました…まあ仕事出来る人たちだし子綱(張紘)さんは別にいいんだけど、子布(張昭)さんってちょっと性格がアレでね…あのベタデレ小言は魏とか蜀とか、初めて見る人イラッと来るわよきっと」
と言う。
5月13日
士季と士載、詠様で昼食を摂り終えて職場へ戻ろうとしたところ、一刀様が士季ちゃん士季ちゃん!と呼ばれ、士季の両手を握りながら
「有難う助かったよ…教えてもらったとおりにしてみたらばっちり、愛紗なんかもう元通りだし!」
「そうですか!それは良かったです、一刀様のお力になれて私も嬉しいです」
「いやあホント感謝してる、思春は元々ああだからまだちょっとアレだけどさ。良かったらお礼に今夜一杯(酒を)どう?」
「ええっ、宜しいのですか?でしたらいっぱい(上と下と後ろに)お願いします、三国一(のお泊り部屋を)予約しておきますね」
等と楽しげに話されて執務に戻られて行った。
詠様が怪訝な顔をして
「士季ちゃん、貴女一刀に何教えてあげたの?」
と聞かれると、
「例の狂犬二匹を元に戻す方法ですよ。一刀様に『俺にらぶらぶな演技をしろ、しなければ劉備様(孫権様)がどんな目に遭ってもいいんだな』って脅せば良いですよって助言差し上げたんです。元々あの人達、死ぬほど一刀様に甘えたいのが歪んじゃってるだけで渡りに船もいいところですから」
と答えた。詠様は目を丸くして士季ちゃんあんたやるわねぇ、と感心されていた。
ところで例の狂犬二匹とは誰の事だろうか。
5月14日
士季が満面の笑みで帰宅した。小脇に荷物を抱えていたのでこれは何かと聞くと警備部の制服ですよと見せられたが、明らかに一刀様との情交の跡がべっとりとつけられていた。
匂いだけで酔いそうになってしまったので鼻を押さえながら職務に使用するものを私用に使うものではないと叱責したが、凪さんの許可は頂いてますからと涼しい顔で通り過ぎられてしまった。
5月15日
凪に会ったので昨日の士季とのやりとりを説明し、官給品の取り扱いについて今少し厳しく指導して頂いて構わないのでと伝えたところ、顔を紅くして
「わ、私も人の事を言えないので…彼女も自費で余分に買ったものですし、その…すみません」
と縮こまってしまった。そういう経緯では何も言うに言えず、自費であればまあ良いのでしょうと申し上げると、妙な気の廻し方をされてしまったのか
「あの、もし良かったら寸法が合わずに処分する予定のが部に一着あるんですが、仲達さんならこの服ほんとに似合うと思いますのでその、宜しかったら…多分隊長も仲達さんがこれを着られたら喜ばれると思いますし…」
と勧められてしまい、固辞するのに一苦労だった。
5月16日
珍しく不貞腐れたような表情を浮べた周泰殿がげんなりした風の蒋欽殿を伴って一刀様の執務室から出てこられ、見てられないのですと言いながらお茶を呷って子敬の隣にだらしなく腰掛けた。張郃と郭淮が興味深げに何があったのか聞くと、周泰殿は子敬に
「お話しても良いですか?良いですよね?と言いますか誰かに喋らないとイライラでおかしくなりそうです!」
「いーんじゃない?ってか公奕(蒋欽)一刀様役にして二人でモノマネしてよモノマネ、子布さんの」
と許可を取るとやおら三白眼気味の流し目をし、蒋欽殿と指を絡めて手を握り
「…お久しぶりですねわが君、三国巡幸以来ですか。あの時もいい加減に立場を弁え王者の風格を身につけて頂くようにと何度も申し上げたのに、相変わらず女の尻に敷かれたままで一向に改まっていないようで私はがっかりです」
と普段より低く平坦な声で語りつつ、握った手を自身の腰に廻させて蒋欽殿に抱き寄せさせる。
「何ですか先程のつんけんしたメイドとのやりとりは、あれではまるでメイドが主で貴方が臣下ではありませんか。いえ聞く耳持ちません、いかな年季があろうが所詮メイドはメイド、頭を下げるなど以ての外です。そもそも折角私と子綱が身を以って女の扱いを指導して差し上げたと言うのにまるで生かされた様子がありません、まあ雪蓮様はああいう方ですから止むを得ないでしょう、ですが胸が取り柄の筵売りや面白い頭のちんちくりんなどに対しては貴方は指導するべき立場なのですよ?全く、こちら(王都)の者達が自分達に任せろと言うので中々来れずにいましたが、まるで御指導が足りて居なかったようですね。まあこのようなところで長話もなんですから、私の部屋でじっくりとお話致しましょう」
「待って待って待って明命顔近い!顔近すぎ!」
「子布さまがやっていた事を忠実に再現したのです!しかもこの後ぶちゅっとぶちかました上に自分のお尻を一刀様に揉ませながら!触らせてではなくてわざわざ手を掴んでにぎにぎさせて!自室に連れ込まれたのです、やりたい放題とはこのことなのです!」
と憤懣やるかたない様子でまくしたてていた。
5月17日
残業後に文若様、公達様、元譲様らと飲んだ。
文若様と公達様は寄ると触ると口論をしているが時折こうして飲まれたりしているというのは喧嘩するほど仲がよいという事なのだろうか。
酔われるとそれぞれの(特に文若様は屈折された)伽自慢をされるのには多少辟易とするところも無くもなかったが、文若様が春蘭あんたはどうなのよ、華琳様と一緒の時は二人掛かりで虐められてるんでしょと元譲様に話を振ったところ、酔眼の元譲様が
「うーん…?初めの頃はそうかと思っていたんだが、あいつがこれは愛情表現なんだと言うからな。それより華琳様と言えば不思議な事があったんだが、だいたい私が寝(かされ)てしまった後に一刀とまあ…そういうことをしているみたいなんだ。それは今更不思議だなんだというつもりもないんだが、ある晩夜中に目が覚めると華琳様のやめなさい、とか魏王の私にこんなこと、許さないわとか聞こえて寝台がギシギシしていたんだ。前は華琳様がいじめられているのかと思って秋蘭に相談したら、あれはごっこ遊びで仲の良い証拠だから邪魔をせずにそのまま寝たふりをしていろと言っていたのでそのまま寝てしまおうと思っていた。その後も暫く許してとか肉奴隷にされちゃうとか一刀さまぁとか聞こえてたんだがでその、なんだ…華琳様たちが終わって、私もまたうとうとし始めた頃に華琳様が寝台から出て行くと、何故か三国塾の初等部の制服を着ていて、何故か舌っ足らずな声で『ねえかじゅ』ごっ!?」
と話されている最中に曹操様が矢のような速さで飛び込んで来られ、元譲様の後頭部に飛び膝蹴りを食らわして昏倒させてしまった。
全力で駆けて来られたのか頬を高潮させてはーはーと息を切らせておられたが、
「やあねえ春蘭ったら夢でみた話を現実とごっちゃにしちゃってうふふふふふ、貴女達は現実と夢の区別はつくわよね?」
と妙に凄味のある声で仰るのに御二人ともが即座に首肯し、私も合わせて頷くのを確認すると、気を失ったままの元譲様を引き摺って行かれてしまった。
御二方はあっけにとられていたようだったが、
「いいの桐花?華琳様あんたのお株を奪ってるみたいだけど」
「桂花こそ。それにしても陵辱プレイからの奴隷堕ちとか流石華琳様ね、自分の立場も性格も最大限利用してるわね」
「ところで最後の話は仲達には説明して口止めしたほうがいいの?」
「いや絶対分かってないし説明するとかえって藪蛇になるからよしたほうがいいわ」
等と話されて散会となったが、何を私に説明する必要が無かったのだろうか。
5月18日
凪がこれをどうぞと何か包みを持って私を訪れてきた。中を見せてもらったところ件の警備部制服でありどうしたのかと聞いたところ、一刀様に私にこの制服を着せてみてはどうかと勧めたところいたくお気に召したそうで
「明晩これを着て(伽に)来て下さいとの事です」
という。嬉しいやら恥ずかしいやら、そんなつもりは無かったのですがと遠慮してみたもののもう隊長が楽しみにされていますからとにこにこされながら断られてしまった。
「『仲達さんの取調べって迫力あるんだろうなぁ』と仰っていた」と言われても、役割遊びだとしても私が一刀様を取り調べるなど出来よう筈も無い、どうしたものか…
5月19日
薄々気づいてはいたが凡そ私はこすぷれなるものに向いていない、折角の一刀様のご要望であったのだが結局後輩という事でお願いしますと申し上げるのが精一杯だった。
一刀様は私が大きく御期待を裏切ってしまったにも拘らず、温かくも熱く、心と身体の奥深くまで情熱的に御指導を下さった。
しかしもし私が、本当に警備部の一刀様の後輩であったなら。
きっとそれでも一刀様をお慕いしたことだろう。
愛しています、一刀様。
5月20日
子孝様と子廉様が休憩時間に総務部へ来られてお喋りをしていたのだが、元譲様の元気が無いのだという。子廉様によると
「で私春蘭に何があったのか聞いたのよ、たらねぇ何か華琳様怒らせたらしくて酒しこたま飲ませられて猿轡された状態で一刀様と風呂に連れてかれたみたいなの。で三人でしてたらしいんだけど一刀様は事情知らないじゃない?で春蘭は喋れないから厠行きたいとか言う事も出来ずに馬超させられたあげく、その後華琳様に『呼んだかしら尿夏候』『反省って言葉知ってるの?尿夏候』とか楽しくない意味で結構虐められたらしいのよ。でもどうしてそんな目に遭ったのかはガクガク震えてばかりで絶対言わないのよねぇ、一刀様も苦笑いして『ちょっとやり過ぎだと思うけど仕方ないかも知れない』って教えてくれないし」
とのことだ。先日の曹操様の飛び蹴りとなんらかの関係があるのだろうか。
それにしても人の職場へ来て『良かったわねまた一人お友達が出来たじゃないの』『私のは違うって言ってんでしょうがこのアヘ声でか女』等と下品な喧嘩は止めて頂きたいものだが。
5月21日
伯道が折り入って話があるというので酒席に付き合ったところ、明後日一刀様に陳倉周辺の状況を説明するのだといい、
「子丹御嬢様が特に二人きりでと席を設けて下さり、『これは事務の名を借りた逢瀬ですから、この機会に一刀様の心を鷲掴みにするのですよ』と言われたのだが、一体何をどうしたものだろうか」
と頭を抱えていた。伯道は美人であり性格も実直で、肢体も十分に女性的であるので如何な策によらずとも畢竟一刀様のお召しを受けることにはなるだろうとは思ったが、
何時お召し頂いても良いように下着は瀟洒なものを身につけ、お招きするかもしれない自室は小奇麗にしておくようにと助言した。彼女はなおも
「それだけなのか?もっとこう…女として、練習しておくべき事とか作法のようなものはないのか?子丹御嬢様は『ちょっと事故にかこつけておっぱいぐらい揉ませて良いのですよ』とか仰ったがそれは服の上からなのか、それともな…生でなのだろうか!?それにだな、も、もし私をお求めになられたらどうすればいいんだ!?」
と不安げな様であったが、無理せず普段通りの伯道であればよいだろうし、一刀様は女の扱いに長けてらっしゃるので全てお任せすれば良い様にして下さるだろうと答えた。
智勇に優れた伯道にあっても、恋する乙女は不安なものなのだろう。
5月22日
張昭殿と張紘殿が帰国する事になり、それを詠様らと共に見送った。
別れ際になって張昭殿が一刀様の手を握ってまた小言を始め、長くなり始めたところで笑顔で米神に血管を浮かせた詠様がそろそろお時間でしょうからとやんわりと割って入られると不満げながらも車駕に乗って出発されていった。
車駕が見えなくなるや文若様と詠様が鬼の形相となり、二度と来るなクソババア、とっとと帰れ若作り小姑が、等と呪詛の言葉を呟きながら懐に隠していたらしい塩を全力で撒いていた。
その一方で、子敬はあの…ホントすいません、なるべく来させないようにしてたんですけど、などと方々に謝って回っていた。
Tweet |
|
|
56
|
4
|
追加するフォルダを選択
その後の、とある文官の日記です。
ところで拙作も次回で投稿数が100回となります、これも皆様の御閲覧、コメント、三次創作の賜物とでございます。
つきましては厚かましい事とは存じますがコメントやメッセージ等でネタをお受け付けし、その中で私の書けそうなものを今後数回で実施させて頂ければと思っております。
これからの御笑覧共々、何卒宜しくお願い致します。