もしも全員愛菜だったら
●出会い
俺、新田剣丞は叔父の北郷一刀の元で、52人の姉に囲まれながら鍛錬の日々を送っていた。
そんなある日、俺はその日の鍛錬で使う刀を探すついでに、伯父さんから蔵の掃除を頼まれ……いや、押し付けられた。まったく、どうして俺1人でやらなきゃいけないんだか。
掃除を始めてから1時間程経っただろうか。俺は奥の棚からようやく目的の刀を見つけることができた。その刀は驚くほど俺の手に馴染み、まるで俺のためだけに作られたのではないかと感じるほどだった。
その後さらに1時間程かけて掃除を終わらせ、刀を手に鍛錬へと向かおうとした。しかしその瞬間、突如身体が光に包まれ、俺の意識は途絶えた。
そして次に目を覚ますと目の前には――
「おお。起きた起きた!」
黄金色に輝く瞳と、長く綺麗な黒髪を揺らした美少女が――
「――どや!」
ドヤ顔で俺の顔を覗きこんでいた。
●我が名は……
「……なぁ君。俺の方は名乗ったんだから、君の名も教えてよ」
ドヤ顔少女から話を聞くうちに、どうやら俺は伯父さんが過去に経験したように、異世界へと飛ばされてしまったのだとわかった。
「ふふん。貴様、我の名を知りたいと申すか!」
「そりゃあ、まあ……教えて欲しい、です」
なぜそんなにもったいぶるのだろうか。
「頭を空っぽにして、耳の穴をかっぽじって、よく聞いて、驚くがいい! 我の名は織田三郎久遠信長! 織田家当主にして夢は日の本……、いや、海を超えた全世界の統一なり! どや!」
「……」
やっぱりドヤ顔だった。
「そして好きなものは金平糖だ! どーん!」
いや、その情報は別にいいです。
●奥様はドヤ顔
2人で話をしていくうちに、俺は織田さんに「我の夫となれ! どーん!」と言われた。
戦の直後にいきなり天から現れた俺を手元に置いておくことで、『脅威となるかもしれない男を他国へ与えず、手元に置いておく』のと、『言い寄る男を跳ね除けるための牽制にする』のだとか。
彼女は一度たりとも目を逸らさずに全てを語ってくれた。だから、俺を利用しようという打算があったとしても信用できる人物なのだと思った。
……終始ドヤ顔だったのが微妙にイラッときたけど。
その後、織田さん……いや、夫になるんだから久遠さんと呼ぶべきか、彼女は腹を空かせた俺へとご飯を用意させるために部屋を出て行った。
あの、
久遠さんが出て行った後、部屋の外の庭を眺めながら「伯父さんもげろ、あと爆発しろ」などと呟いていると、
「お客様! よろしいでしょうか!」
襖の向こうから、女の子の叫び声が聞こえてきた。
「…………はい、どうぞ」
やばい、嫌な予感しかしない。
少々投げやり気味に返事をすると、『どーん!』という叫び声と共に襖が開かれた。その向こうには――
「ただいま、お食事をお持ちしました! どや!」
やはりふざけた語尾の少女がお盆を片手に持ってドヤ顔で立っていた。
頭のてっぺんで縛り膝まで伸びる茶色のロングヘアーと、蒼く澄んだ瞳。そして良く整った顔立ち。とても綺麗な少女なんだけど……、
「給仕を承ります。私は織田三郎が妻、
色々と台無しだった。
●密談、のち奇襲
突然久遠さんの夫になった俺に対して、『どや!』とか『どーん!』とか言いながら文句を言ってきた帰蝶を適当にあしらった俺は、彼女が出て行った後すぐに再び布団に入った。
だって疲れたんだもん。あんなハイテンションの人達と会話し続けて疲れない人なんて絶対いない。もしいたとしたら、そいつの感覚は麻痺してるに違いない。
布団に入ってからしばらくして。隣の部屋に人の気配を感じた。4人ってところか。
「――! ――――! どや!」
「どや! ――! ――――! どーん!」
「――――! どや!」
「どや! どーん! どーん! どーん!!」
内容はよく聞き取れなかったが、全員ドヤ顔で会話してることだけはわかった。
もしかして、この世界の人達ってみんなこうなの?
というか最後の久遠さん。せめて日本語を喋ってくれませんか。
「どやぁあああああああ!!」
「ど――――ん!」
密談(?)の後、不審人物である俺の力量を確かめるために大声(むしろ奇声)と共に殴りこんできた巨……、いや、爆乳さん×2。
俺は布団の中に枕や焼き物を入れて擬態し、部屋の隅で息を殺して待ち受ける。
案の定、彼女達の奇襲は失敗し、姿の見えない俺を探す。そして逆に奇襲し返し、そのうちの1人の手首を捻り上げて畳に押さえつけたのだった。
「ハーッハッハッハ! やるな剣丞! それでこそ我の夫になる男! どーん!!」
なぜだろう、褒められてるはずなのにあんまり嬉しくない。
●相棒
2人の奇襲を凌いだことで、なんとか久遠さんのところに置いてもらえることになった。また、他の家中への披露は翌日に行うらしい。
久遠さんに「もう夜だからゆっくりしていろ」と言われたが、既に充分すぎる程に寝てしまったので今はあまり眠くない。そこで俺は周辺の地理を把握するために散歩に向かうことにした。少し見て回るくらいなら問題ないだろう。
外出するならばと、久遠さんから一本の刀を受け取り、ようやく俺は外へと繰り出した。
受け取った刀は、俺が伯父さんの家の蔵で見つけたものであった。スマホも財布も手元にない俺にとって、この刀が唯一の相棒。頼りにしてるぞ。
手元の刀から『どや!』という声が聞こえた気がした。……気のせいだと信じたい。
●鬼
外に出てしばらく歩いていると、どこからか何かを
音のした方、路地の奥へと進んでいく。そこでは暗闇の中、人らしき影が地面にしゃがみ込んでいた。
――ゴキン
堅いモノを砕く音。
――グチャリ
ナニカを潰す音。
――ピチャピチャ
液体が滴る音。
アレはいったい、なんだというのか。
やがてその影がこちらを向く。
「……っ!?」
目と目が合い、思わず息を飲む。
暗闇の中でもはっきりと分かる程、不快感を呼び起こすヌメリを帯びた肌。
赤黒い液体を滴らせる、鋭い爪牙。そして――
「………………(どやっ)」
――ドヤ顔だった。それはもう清々しい程に。
「えー…………」
見たこともない超が付くほど不気味な顔の
少しでも隙を見せようものなら即座に襲いかかってくるであろう目の前の
どうやって対処しようか、そう考えながら状況整理に努める。
ふと、
「人の、」
下半身。
そう、下半身のみ。
腰より上、あって然るべき上半身が、無かった。
俺の視線に気がついたナニか・・・。そいつは一瞬背後の死体に目をやり、俺の方へと向き直ると――
「どやぁあああおぉおおおお!!」
ドヤ顔で叫びながら襲いかかってきた。
「(イラッ)」
直前までのストレスとか、ドヤ顔で人肉を食らう化け物。
なんかもう、とりあえず色々とブチ切れた俺は目の前の
天国の父さん、母さん。そして、元の世界に残してきてしまった妹よ。
俺、新田剣丞はもう既に心が折れそうです。
あとがき
愛菜とか夕霧の口調、最初はイラッとしたけどすぐ慣れたでやがります! かわいければ問題ないでやがります!
それはそうと、これを書くために戦国†恋姫の序盤をプレイしてみたら、こんなセリフを初回プレイ時に見逃していたらしい。
剣丞「そこで出会った姉ちゃんたちとずっと一緒に生きてきて、んでもって俺たち兄妹のことを引き取ってくれた」
剣丞くん、妹いたんですね。
……次回作で出るかな?
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戦国†恋姫の短編その3ですぞ! どや!
愛菜で何か書こうと思ったら何故かこうなったのですぞー! どーん!
ハーメルン様とのマルチ投稿です。