「誰もが虜になる惚れ薬」だそうですよエドガーさん」
流石は「機械と科学の国」とはいえファンタジー世界だけの事はある。
しかも王宮なだけあって色々な物が献上されるんだね。
「そうらしいな」
「興味無さそうですね。いつも女性に声掛けてるしもっと喜ぶかと思ったんですけど」
「君ならこれを使われて嬉しいかい?」
「軽蔑することはあってもその逆はないですね」
「だろう?私だってごめんだね。こんな物に頼らなくても女性を振り向かせてみせるさ」
「そりゃエドガーさんくらい、顔、体躯、身長、財力と女性が好む物持ってる人なら「こんな物」に頼らなく
てもそりゃ振り向くでしょうよ」
「誉めてくれてありがとう」
「・・・・いえ、エドガーさん相変わらずいい性格ですよね。その地位ピッタリだと思います」
「そうかい?それで・・何が云いたいんだい?」
「つまり、こういった物に頼るのは、いつも「持たざる者」ないし、「持つ努力を放棄した者」と相場が決ま
ってますよね。まぁどちらにせよ、エドガーさんには必要ない物ですよね~~~~」
「そうでもないよ。ただ、物に頼るのは私のプライドが許せないだけだから」
「つまり、虜にしたい相手がいるって事ですか?」
「・・・・正確には、「いた」かな?それにこの薬は「誰もが虜になる惚れ薬 」だろう?私は「誰もが」で
なくてもいいんだ・・・たった1人の心が掴まえられるならば・・・それで・・・・」
それはきっと、初恋の人の事なんでしょうね。
騎士を追って死んでしまったエドガーさんの初恋の人は死んでもまだなお、彼を捉えて離さない。
ううん。死んでしまったからこそ、なのかもしれない。
少し、暗くなって来た雰囲気を払拭するように、
「・・・・・ならまず、女性に声を掛ける事を止めてみてはどうですが?「今は」居なくても、今後そういった
女性がエドガーさんに出来た場合、今のエドガーさんの行動はマイナスになる事はあってもプラスになる事
はないと思いますよ」
人差し指指を立たせ、まるで授業を聞かせる教師のように振る舞う私を彼はジッと眺めてくる。
「君は・・・・止めて欲しいのかい?」
「いえ、別に。あれも城内を知る情報収集の一環だって思ってるので。人の口に戸は立てられないとはよく云
いますしね」
「なら構わないだろう」
「え?今・・・そういう話してましたっけ??」
「していたよ」
―――人の食えぬ笑顔で微笑まれ、この会話はここでお開きになってしまった。
こういった辺りが、王様なだけの事はあるといつも思う。
「とにかく、これは必要ないものだ、早々に処分させるとしようか・・・下手に出回ってもトラブルの元になり
うる物だしな」
「え・・・」
思わず残念そうな声を上げてしまったら、それを聞き咎められてしまったらしく、
「誰か使ってみたい相手でもいるのかな?」
探るように目を細められた。
「・・・・・ええ、まぁ・・」
「相手を教えてくれるなら、進呈してもかまわんよ」
「そこは何も聞かずにくれる所じゃないんですか?」
「好奇心旺盛な人間でね。それに王宮はなにかとつまらない」
「私を暇つぶしに使わないでくれ」
ボソリっと思わず呟いてしまう。
「何か云ったかね?」
「い~~え?」
ブンブンと左右に首と手を振ってみせる。
「それで・・・誰に使ってみたいんだね?」
「笑いませんか?」
「確約出来ない事はしない主義なんだが」
「・・・・なんかエドガーさん、私には他の人と違って容赦がない」
「君の資質のせいだよ。私は本来女性に優しい人間さ」
二人の間を埋めるかのように詰め寄ってくるかように近づいてくる彼から離れるべく、私は足を後ろへと動か
す。
「その方が何かと上手くいく事が多いですからね。ご英断だと思いますよ」
後ろへと移動すれば、その分だけ詰めてきて、とうとう私は、壁際に。
見上げれば、そこにはエドガーさんの顔があった。
「その女性らしからぬ考えが大変、私の興味をそそっていると気付いているかね?」
「いいえ。初耳ですね」
「なら、今度から気を付けた方がいい・・・」
追い詰められ、近づいてくる顔に、反射的に目を閉じると耳元に囁くように告げられる。それと同時に手元に
重みを感じ、開けるとソコには薬が。
「私を楽しませてくれた礼に進呈しよう。ただ、国内では使わないでくれよ。無用な面倒事は避けたいんでな」
そう云って身を返すとマントを翻しながら、数歩先を歩くエドガーさんの後ろ姿が見えるのであった。
「国内では駄目なんて・・・・今の私には無理に決まってるぢゃん・・・・」
「あ~あ・・使ってみたかったなぁ~~・・アラブの石油王にでも・・・」
この呟きは誰に聞かれるでもなく終わるのだった。
「でも、何かに使えるかもしれないし、一応取っておこう」
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遥路歴程シリーズ:シーン切り取り。
FF6 エドガーの夢小説ではなく夢小咄。
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