No.667754

九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑩~

竜神丸さん

悪鬼と呼ばれし男

2014-03-03 20:04:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2326   閲覧ユーザー数:761

OTAKU旅団、No.16―――げんぶ。

 

かつて“悪鬼”として傭兵活動を行っていた彼と旅団の出会いは、如何なるものだったのだろうか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第97管理外世界“地球”、とある紛争地帯…

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やめでぐれ、ゆるじ―――」

 

「断る。じゃあな」

 

一発のビームが、魔導師の額を撃ち抜く。魔導師が死亡したのを確認し、全身に機体らしき装甲を纏った戦士は人間の姿に戻り、傭兵―――本郷耕也(ほんごうこうや)としての姿を見せる。

 

「チッ、やってくれやがったな…」

 

舌打ちする耕也の周囲は、血の海と化していた。自身を雇っていた軍や敵軍の兵士達、管理局の魔導師達の無惨な死体があちこちに転がっている。

 

(行く先々で管理局の連中と出くわすな……正義の組織なんざ、もう名ばかりじゃねぇか…)

 

こんな光景が出来上がった原因には、管理局の魔導師達も深く関わっている。最初は耕也を雇った軍と敵軍の両軍だけで戦争を繰り広げていたのだが、そこへ管理局の魔導師達が乱入し「自分達管理局は正義の組織だ、武装解除しない者には容赦しない」と言ってから、一方的に両軍の兵士達を虐殺し始めたのだ。見かねた耕也はすかさず“ガンダム”に変身し、魔導師達を殲滅。しかし殲滅が完了する頃には既に両軍は壊滅してしまっており、現在の光景が出来上がってしまっていたという訳である。

 

「くそ、誰か一人でも生き残りがいれば良いが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だが、生存者は君しかいないようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

耕也が振り返った先には、破壊されて黒い煙の噴いている戦車の上に立っている人物がいた。黒いトレンチコートとシルクハットが特徴の男で、手には杖が握られている。

 

「私も非常に残念だ。駆けつけた頃には、既にこんな事になっていたとは…」

 

「…誰だ、貴様」

 

「あぁすまない、勝手に話を進めてしまったな」

 

戦車の上から飛び降りて地面に立ち、その男は耕也と正面から向き合う。

 

「私の名はクライシス。OTAKU旅団を率いている者だ」

 

「!? OTAKU旅団…!?」

 

旅団の名を聞いて、耕也は素早く後退してから変身の構えを取る。

 

「OTAKU旅団……噂で何度か聞いてたが、そのボスに出会っちまうとはな…!!」

 

「あぁ、そんなに警戒しなくても構わないよ。私は別に、君を始末する為にここまで来た訳ではないのだから」

 

「…なら、何の為にここへ来た?」

 

「簡単な話さ。悪鬼……いや、本郷耕也。君をスカウトしに来た」

 

「!?」

 

驚く耕也を他所に、クライシスは右手を差し伸べる。

 

「君を、我が旅団の一員として迎え入れたい」

 

「……」

 

「君の力は実に強大だ。その力で、私達と共に戦わないかね?」

 

クライシスの発言に驚きを隠せなかった耕也だが、次第に変身の構えを解いていってから、クライシスに返事を告げる。

 

「すまないが、俺はお断りだ」

 

「…ほう?」

 

その答えはNoだった。クライシスは少しばかり目を見開く。

 

「正直、俺は組織というものがあまり信用出来ない。アンタ達のOTAKU旅団とやらもな。スカウトしてくれたところで申し訳ないが、俺は一人でも充分に戦える」

 

「一人でも充分に……それでこの様かね?」

 

「!!」

 

「君の力を持ってしても、ここの者達を守り切れてはいない。たとえ君がどれだけ強い力を持っていたとしても、所詮一人の力では限界があるという事だ―――」

 

「ッ…余計なお世話だ!!」

 

苛立ちのあまり、耕也は近くの岩を一撃で蹴り砕く。

 

「とにかく、俺はアンタ達の事が信用出来ない……俺は俺のやり方で戦うだけだ…!!」

 

それだけ言ってから、耕也はその場から立ち去って行く。その場に一人残ったクライシスは、去って行く耕也の後ろ姿を見ながら小さく溜め息をつく。

 

「…そちらから見てどうだね、竜神丸」

 

 

 

 

 

 

『どうもこうもありませんよ、団長』

 

 

 

 

 

 

クライシスの真横に映像が出現し、白衣を纏った銀髪の男が映る。

 

『あなたを相手にあそこまで言える人間なんて、今までにもそういませんでしたよ。余程あの男の覚悟が強いのか……それとも、相手の力量を見計らう事も出来ない唯の馬鹿か…』

 

「フッ……何にせよ、彼も彼で見所はある。追跡と監視はお前に任せる」

 

『了解。我等が団長の、お言葉のままに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

中東、内戦地域にて…

 

 

 

 

 

「我々は時空管理局だ!」

 

「ただちに武装解除し投降したまえ、逆らうのであれば容赦はしない!」

 

管理局の魔導師達は再び、戦場へと乱入して来た。第3勢力が出現した事に戸惑いを隠せない両軍の兵士達だったが、すぐに魔導師達に対しても攻撃を開始する。

 

「投降の意思は無しか……ふん、哀れな人間共だ」

 

「総員、攻撃開始!」

 

魔導師達は得意の魔法を繰り出し、両軍に向かって攻撃し始めた。未知の攻撃で兵士達は一方的に殺害されていき、戦車などの兵器も次々と破壊されていく。

 

その時…

 

「…ッ!? 隊長、何かがこちらに向かって来ています!!」

 

「!?」

 

魔導師部隊の隊長が振り向いた先から、一機の戦士が接近して来た。

 

「ガンダムエクシア、目標を駆逐する…!!」

 

飛来してきた戦士―――ガンダムエクシアはGNビームサーベルで魔導師の放った魔力弾を切断。両手首付近に装備されたGNバルカンで牽制しつつ、迫って来る魔導師達を順番に叩き落として行く。

 

「貴様、悪鬼か!!」

 

「だったら何だ?」

 

「貴様を逮捕する!! 我々時空管理局による、完全なる秩序の為に―――」

 

「聞き飽きたよ、その台詞は」

 

喋っている最中だった隊長の首を、エクシアは一瞬で切断する。

 

「隊長!?」

 

「貴様、よくも隊長を!!」

 

「いい加減にしろよ管理局……他所の世界にまで、しゃしゃり出るんじゃねぇっ!!!」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

その場で回転し、装備したGNソードで魔導師達を撃破する。

 

「覚悟しろ…トランザムッ!!」

 

エクシアのボディが赤く発光し、エクシアは猛スピードで周囲の魔導師達に接近する。

 

「な、速過ぎる!?」

 

「くそ、そこか…ごわぁっ!?」

 

「お、おい…ぐがっ!?」

 

魔導師達はエクシアの動きを捉えられず、首を撥ねられるか心臓を貫かれるなどして絶命していく。

 

「く、おのれ…!!」

 

生き残っていた女性魔導師がプロテクションを張った直後、エクシアが一瞬で女性魔導師の前まで移動する。

 

(この俺が、本郷耕也が…!!)

 

GNソードとプロテクションがぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

「―――俺が、ガンダムだっ!!!」

 

「ッ!?」

 

遂にGNソードが打ち勝ち、プロテクションが粉々に粉砕される。

 

「そ、そんな…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

エクシアの攻撃で女性魔導師は地上まで吹っ飛ばされ、瓦礫の中へと叩きつけられた。これで魔導師部隊が全滅した事を確認し、エクシアは地面にゆっくりと降り立ってから耕也の姿へと戻る。

 

「…くそ、また管理局か!!」

 

管理局の魔導師による襲撃は、これでもう何度目だろうか。もはや数える事も忘れてしまうくらい襲撃を受け続けてきた耕也は苛立ちのあまり、近くの岩の壁を思い切り殴りつける。

 

「管理局……何としてでも、潰すしか無いのか…!!」

 

そんな耕也の後方で…

 

「ぐ、う…!!」

 

先程倒された女性魔導師が、瓦礫の中から這い出てきた。全身ボロボロの状態でありながらも、耕也の後ろ姿を睨みつけながらデバイスを向ける。

 

「許、さない……悪鬼ぃっ!!」

 

「!? しまっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ドシュッ!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え」

 

魔力弾が放たれる事は無かった。何故なら一枚のコインが、女性魔導師の胸部をバリアジャケットごと貫いたのだから。胸部に風穴が開いた女性魔導師はその場に倒れ、あっけなく絶命した。

 

「随分と機嫌が悪そうじゃないか、本郷耕也」

 

「!!」

 

絶命して倒れた女性魔導師の後ろから、クライシスが姿を現した。右手の指で何度もコインを弾いている事から、彼が女性魔導師にトドメを刺したのだろう。

 

「…スカウトなら断った筈だぞ。それに何故ここの場所が分かった?」

 

「いや何、君の持っている力をどうも諦め切れなくてね? 君の居場所については、私の部下が監視してくれていたおかげさ……それより」

 

クライシスはシルクハットを取り、再び手を差し出す。

 

「もう一度誘うとしよう……我が旅団の一員となってはくれないかね? 本郷耕也」

 

「…俺はな」

 

耕也の右手が近くの瓦礫を拾い上げる。

 

「あんまりしつこい奴がさ、嫌いでしょうがないんだ……だから」

 

耕也の手に掴まれていた瓦礫が、粉々に握り潰される。

 

「俺もいい加減……キレても構わねぇよなぁっ!!!」

 

直後、耕也の姿が再びガンダムへと変わる。エクシアとはまた違う姿―――ゴッドガンダムだった。

 

「やはりご機嫌斜めのようだな。もう少し、カルシウムを取る事をオススメしようか」

 

「そのうるさい口、さっさと閉じて貰おうか!!」

 

ゴッドガンダムは一瞬でクライシスの前まで接近する。

 

「ほう、これは…」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

そのまま、ゴッドガンダムの拳がクライシスの顔面に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、良いパワーじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――届かなかった。

 

「ッ!?」

 

ゴッドガンダムの振るった拳は、クライシスの右手で軽々と受け止められていたのだから。

 

「馬鹿な……素手で受け止めただと…!?」

 

「如何なる相手にも、臆する事なく挑むその心。実に素晴らしい……だが」

 

「ッ…ぐぁっ!?」

 

クライシスが握る力を少しだけ強めただけで、ゴッドガンダムの拳に僅かにヒビが入る。

 

「君はまだ、世界の広さを知らない」

 

「何を…ッ!?」

 

その直後だった。ゴッドガンダムの身体が宙を舞い、近くの岩壁へと叩きつけられた。クライシスによって背負い投げの要領で投げ飛ばされたのだ。

 

「が、は…!!」

 

ゴッドガンダムに変身していたにも関わらず、そのダメージが身体中に響いた。結局は耕也の姿へと戻ってしまい、倒れたまま血を吐く彼をクライシスが見下ろす。

 

「少し、頭を冷やすと良い。その状態では碌に話も出来そうにないからな」

 

クライシスの言葉も、今の耕也の耳には届かない。頭の打ち所も悪かったからか、少しずつ意識が薄れていく。

 

(嘘、だろ……俺が…こんな、簡単……に…)

 

そのまま、耕也の意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-おやま、これまた手痛い事をしてしまったようですね-

 

 

 

 

-うむ、少し強くやり過ぎてしまったな。後でちゃんと謝罪をしておかなければ…-

 

 

 

 

-それよりも団長、やはり彼は…-

 

 

 

 

-能力などには何の文句も無い。覚悟も相当なものだ、彼も一員に加えて問題ないだろう-

 

 

 

 

-では、予定通りという事ですね-

 

 

 

 

-そうなるな。竜神丸、彼を医務室まで運んでおいてくれ。後の事は私でどうにかする-

 

 

 

 

-了解しました。イワンに運ばせます-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

耕也は目を覚ました。

 

バッとベッドから起き上がり、周囲を見渡す。ベッドの周囲はカーテンで覆われており、薬品の匂いもする事からここが医務室である事は耕也にもすぐに分かった。

 

「ここは…」

 

「目覚めたようだな」

 

「!」

 

カーテンが開けられ、クライシスが姿を見せた。

 

「ッ……アンタは…」

 

「先程はすまなかったな。加減を間違えて、君に致命傷を与えてしまった」

 

「!?」

 

クライシスが頭を下げたのを見て、流石の耕也も驚きを隠せなかった。組織のボスである人間が、アッサリと頭を下げたのだから。

 

「…凄い素直に頭を下げたな」

 

「落ち着かせる為とはいえ、必要以上の傷を君に負わせてしまった。それに私の説明も足りてない状態だったんだ、君が私に攻撃して来るのも無理は無い」

 

「……」

 

気絶する前の怒りも少しずつ消えてきたのか、耕也も落ち着いてクライシスの話を聞けていた。

 

「アンタ、何でそこまでして俺の事を…?」

 

「ガンダムの力とライダーの力、君はその両方の力を扱えている。君はその力を、世界を変えていく為に使ってみないかね?」

 

「ッ……俺は…」

 

「仲間になった方が身の為だぜ」

 

二人の会話に、一人の人物が加わってきた。

 

「!? お前は…!!」

 

「いよ、久しぶり♪ 大ショッカーのアジトで会って以来だな」

 

会話に加わってきた人物―――okakaは耕也に対して気軽に挨拶する。

 

「…お前もOTAKU旅団の一員だったのか」

 

「そういう事だ。お前の知っている人間も、この旅団にいるぜ」

 

「…?」

 

「まぁ、それはまぁ良いだろう……さて。改めて問おう」

 

クライシスは今度こそ、耕也に対して手を差し出す。

 

「我がOTAKU旅団の一員にならないかね? 本郷耕也」

 

「……」

 

耕也は目を瞑って考える。

 

確かにクライシスの言う通り、今の自分だけではどうしても限界が来る。時空管理局という巨大過ぎる組織を相手取るには、もっと強くならなければならない。管理局との戦いを生き残る為に……そして、生きて家族の下へと帰る為に。

 

「…分かった」

 

耕也は瞑っていた目を開ける。その目には、決意の篭った意志が宿っていた。

 

「俺は戦う。戦士として……OTAKU旅団の一員として」

 

「…そうか」

 

耕也とクライシスは握手を交わす。okakaもその光景を見て笑みを浮かべる。

 

「OTAKU旅団へようこそ。歓迎しよう、盛大にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、本郷耕也はOTAKU旅団に加入。

 

新たに“げんぶ”と名乗り、戦い続ける事となった。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、何でここにいるんだ……一哉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての知人であった榊一哉―――“二百式”と再会する事になる。

 


 
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