No.66484

よーろれいヨーグルト

みぃさん

恋愛ショートです。

2009-04-01 21:55:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:899   閲覧ユーザー数:869

覚えていますか?

 

 

 

 

 

 

あなたと初めて話したのは15年前、小学校5年生の始業式でした。

 

その日新しいクラスにわくわくしていた私は、とにかくすぐに学校に向かいたくて、朝一番に家を出ました。

朝食を抜いたら後がつらいと思って、冷蔵庫にあったヨーグルトを二つ、ランドセルに入れて。

 

 

 

学校に人気はありませんでしたが、クラスの編成表はもう昇降口に掲示されていました。

5年3組に自分の名前を見つけ、まっすぐその教室へ向かいます。

 

 

 

校舎は静まり返っていました。

指定してあった席に座り、暇を持て余した私は、持ってきたヨーグルトとスケッチブックと鉛筆を机に出しました。

窓の外に目を移します。風になびく桜を見ました。

スケッチブックにそれを書き写します。

簡単な輪郭を書き終えて、私はヨーグルトに手を伸ばしました。

 

 

 

 

 

 

そこに、あなたがやってきたのです。

表情には出しませんでしたが、驚きました。

あと30分は誰もこないと思っていたのだから。

 

 

 

初めて同じクラスになったあなた。

でも、名前は知っていました。

なぜなら、運動会では学年リレーのアンカー。

持久走大会では1位。

そのくせ、先生から目をつけられるほどのいたずら小僧。

大きくてにぎやかな声は、どこにいても響きます。

 

でも、興味はありませんでした。

物静かな優等生が理想の男性だった当時の私の好みとあなたは、かけ離れていたからです。

目をすぐに机に戻しました。

 

 

 

クラスメイトに挨拶をしようともしない愛想のない私に、何を思ったかあなたは近づいてきました。

私の絵を覗き込み、あなたはこう呟いたのです。

 

 

 

「へったな絵~」

 

 

 

瞬間、私は持っていたヨーグルトを掴み、あなたに投げつけました。

あんなにカーっとなったのは初めてのことです。

 

 

 

そのときまで、私は絵に関して下手と言われたことは一度もありませんでした。

自信もあったんです。

毎年絵画の展覧会の出品作に選ばれていたし、先生からも友達からもほめられたことしかなかったのだから。

 

 

 

そんな私に、あなたはもう一つあったヨーグルトを投げつけたから、二人して白いヨーグルトまみれになりました。

そして、通りがかった先生に見つけられ、怒られることになるのです。

 

 

 

それまで、私は先生に怒られたことはありませんでした。

優等生をつらぬいてきたんですから。

 

プライドを傷つけられた私は、以来あなたを天敵と認めます。

 

 

 

ときには二つのヨーグルトを持ってきていたことをばかにされ、ときには二つのおさげにした腰まである長い髪をひっぱられ。

私の生活は、大きく変わりました。

 

 

 

 

 

 

でも、心まで変わる出来事が起こるとは、思ってもいませんでした。

 

 

 

 

 

 

掃除の時間、私は誤って窓を割ってしまいました。

破片で怪我をしてしまい、あなたに促され保健室に行きましたが、戻ったときにはすべてが片付いていました。

悪気はなかった、ということがわかって、先生は許してくれたとあなたは言いましたが、実はあなたが遊んで壊してしまったと肩代わりしてくれていたと知ったのは、それからずいぶん時が経ってからのことでした。

 

なぜ、あなたはあのとき、いつものようにばかにしなかったんでしょうか。

あなたの優しさを知ったのは、あなたが離れてからだったなんて、悲しすぎます。

 

 

 

本当は、言い合っていた中でも、それを楽しんでいる自分に気づいていました。

それに、優しさも時には見え隠れしていたんです。

でも、素直になれませんでした。

出会ったときから、私は意地っ張りでしたね。

 

 

 

でも、私はあなたに恋していました。

でも、離れてからそう気づきました。

 

 

 

 

 

 

私は結婚します。

あなたへの恋を、卒業します。

 

 

 

 

 

 

初めて会った日、私とあなたはヨーグルトで真っ白になりました。

 

 

 

明日、私は真っ白いウエディングドレスに身を包みます。

そして、あなたは白いタキシードに身を包むことになります。

 

 

 

明日から私は、あなたと同じ苗字になって。

あなたと同じ屋根の下、暮らすことになります。

 

 

 

あなたと再会できたことは、私にとって、人生の中でこの上ない幸せなことでした。

まだそうと伝えていないこと、そして伝える気もないこと、お許し下さい。

でもたぶん、あなたのことだから、伝えたとしても照れ隠しのためばかにするんでしょう。

この手紙も、私の宝箱にそっと隠そうと思っています。

 

 

 

 

 

 

私たちにとって、白は始まりの色です。

 

 

 

出会った日、私たちはヨーグルトまみれになりました。

 

 

 

明日、白い晴れ着に包まれる私たち。

新しい生活を一緒に描いていきましょう。

 

 

 

出会ったあの日、確かに私の絵は未熟でした。

でも、今は少し、あなたにもほめられるものになったと思っています。

それにきっと、あなたの色が混ざることで、もっとすてきな生活が始まることでしょう。

 

 

 

一緒に、素敵な色を作っていきましょうね。

どんな色に染まっていくかはわかりませんが、これだけは、間違いありません。

 

 

 

幸せな色、そして、シロップがたっぷり入ったヨーグルトのように、甘い、色。

 

 

 

 

 

恋という言葉では足りません。

永遠に、あなたを、愛します。


 
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