No.664603

宝物(C→D←S)

2/23ムーパラ(G08(C)TEAbreak!!!)参加します。SPNのCDスペにて。新刊はコピーで1冊のみ。S7後半のキャス/2014Dが夢の中で会う話。でもR18はあっても2014のC/D。あとは無配のペーパーですかね。こちらは、1月のインテックス大阪で無料配布した取り愛SS。兄貴が大好きなら世界は平和。

2014-02-19 19:14:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1243   閲覧ユーザー数:1241

深夜のモーテルで見た有名な冒険もの映画を、次の日になった今も、僕の兄貴であるディーン・ウィンチェスターは余韻を引きずって楽しんでいる。いつもならB級ホラー映画を好む兄貴だが、懐かしき単純明快な冒険活劇は見応えのあった物らしい。

 というか、ただ単に狩りをする物も見つからないから暇なんだなと僕が気づいたのは、午後もとうに過ぎた頃になってから。

「たまには宝探しでもしたいよな」

 モーテル近くのセルフスタンドでインパラを洗車するディーンの背中を、僕は新聞紙越しに眺める。

 今日何本目かのビールを煽りながら鼻歌まで混じるが、その実、暇を持て余しているのは明明白白。

いつもなら辟易するディーンの世間話も、幸か不幸か僕も暇をもてましていたから、悪くはない会話のきっかけだった。少なくとも見飽きた新聞を読むフリをするよりはマシ。

「トレジャーハンターに、職変えするの?ジョーンズ先生は考古学者という立派な大学教授だ」

「お前、夢が無いなー。化けモン退治するだけじゃなく、もれなく女と金銀財宝がついてくる」

「それもう、目的がすり替わってる」

「どっかにねえのか?死んだ冒険家が呪いを起こす、記事か書きこみ」

 残念ながら兄が肩越しに指す新聞は、大層平和な昨日を僕たちに教えてくれるだけの存在。どこをひっくり返しても、小ネタすらない、とても平和で平凡な昨日を享受する、有難い記事で埋め尽くされている。

 暇は脳を、別な運動へと導く。僕は横にあるクーラーボックスからビールを取り出して、一口飲む。

「ていうか、兄貴はこれ以上無い宝物を持ってるじゃないか。どこへ何を探すっていうのさ」

「んあ?お前、それは自画自賛過ぎねえか?まあ、俺も否定しねえけどよ」

「は?」

「だから、お前だろ?俺の宝物。頑固な泣き虫サミー」

暗に喋りっぱなしの口を黙らせてやるつもりだったのに、僕の思考が止まってしまった。兄貴はいとも簡単に宝の場所を探し当てたばかりか、最初から知っていたと言ってのける。

ちょっと、いや、大分恥ずかしい。でも、ちょっと、ほんのちょっとだけ満更でもない。

 暇は本当に、脳みそをよからぬ方向へと働かせる。久しぶりに味わうこの面映ゆい気持ちを、僕は「泣き虫じゃないし、サムだ」という、大きな本音で隠した。

「お前のツッコムべき所はそこかよ」

 プッと吹き出して笑いながらビールを飲んでは洗車をするディーンは、いつもより僕に対して余裕が見える。そうなると弟して面白くないのは、きっと性分だ。

「じゃあ僕の宝物もディーンだから、トレジャーハントを自称する必要は無いよな」

 だからディーンは狩り以外は出来ないよ、と開き直って言えば、ディーンの、水が出ているホースを持つ手が下ろされた。目を丸くしたのは一寸。それでも僕にはしてやったり。

 なおかつ眦を赤らめて嬉しげに僕を見下ろすものだから、これは僕の勝ち。

「狩りが無いと、お前のジョークもバニララテ並だな」

 そう言ったディーンはくるりと再び背中を向け、泡の残るインパラに水をかける。虹でも作り出さん勢いでシャワーする最中のこと。

「フィニッシュッ」と兄貴が叫んだと同時に、例のトレンチコートを着た天使がやって来た。そう、いつも通り、兄貴のする傍で。

「うわっ」

 驚くディーンが、ホースを持ったまま後ずさる。何せキャスはディーンが持っているホースの水によって、全身びしょ濡れになってしまったのだから。とはいえ僕たちからすれば、自業自得か運が悪いだけで終わる。

「あー‥‥‥キャス、いらっしゃい」

「やあディーン。そしてサム」

 僕から話しかけたのに、挨拶をするのは兄貴が先なのは気にしない。あまつさえ「何しにきた」と尋ねるディーンに「特にない」と答える天使のふてぶてしさも、気にしない。

 当の兄貴は本当に気にしないらしく、大げさなため息だけで迎え入れた。蛇口を閉めて水を止めてから、洗いたてのインパラの中からタオルを一枚取り出す。それをキャスの頭から被せる仕草に、不機嫌な様子はない。

「お前、天使なのにそんなに暇だったら、ちょっとどっかの砂漠まで飛んで、ミイラと闘ってこい。そして俺に、金銀財宝でも持って来いよ」

「私が暇だったらという条件から、砂漠に行く理由とミイラが結びつかないのだが。あと金銀財宝も」

「キャス、深く考えなくて良いよ。ただの作り話だから」

「作り話?」

 タオルの隙間から僕と目が合う。意味が分からないのは仕方がない。僕はさっきまでの複雑な心境を消し去り、苦笑混じりで、ことの経緯を説明することにした。

「宝探しをしたいんだって」

「宝……?」

 これも暇がなせる技。何百年も生きている天使に、人間が作った数年前の娯楽映画を詳細に説明させるのだから。

 そうしてそれなりに理解した天使は、まるで先ほどまでの僕たちをのぞき見してたんじゃないかっていうようなことを言ってのけた。

「理解した。宝なら探しに行く必要などない。それなら目の前にいる」

 キャスは迷いなくディーンを凝視する。

「私の宝物は君だ、ディーン」

それで私はディーンを、ディーンに渡せば良いのか?とまで言った。

「どうやって渡すのだろうか?」

 真剣な顔でディーンに訪ねるが、当の本人は二の句が告げずに立ち尽くしている。眉をあからさまに潜め、片手で顔を覆ってうつむく。

 とき折り「これだからこいつは……」や「アホだ、こいつアホしかない」やら「ここでそれは反則だ」とかブツブツ言っているのが聞こえる。

 独り言オンパレード中のディーンを、元凶が首を傾げて見下ろし、あまつさえ先ほどの続きがあったことを告げる。

「君の宝はサムと、この車なのだろう?」

 インパラと僕を言葉の順に見る眼差しに、感情は見えない。表情のかけらもない顔に何を隠しているのか、僕にはうかがい知れないが、この状況が面白くないのだけは確かだ。

 ディーンは否定も肯定もしなかった。うつむいていた顔を上げて、今度は空を見上げる。

「あー……俺はだな……」

 この状況に対して途方にくれているが、僕は助け舟を出す気にはなれなかった。

なんだろう、この試合に勝ったけど、勝負に負けた気分は。モヤモヤどこじゃない。宝の場所も分かっていて、宝の持ち主も判明しているのに、その宝を横から山分けされた感じ。

 お互いきりの兄弟に甘んじ、当然のごとく行使してきた僕に冒険心が芽生える。宝の地図はいらないし、宝を示す暗号も謎もいらない、単純明快な宝物。

 宝は争奪戦と、相場が決まっている。山分けなんて、僕はする気などない。

 

 暇つぶしなんて生優しい戦いに、僕は絶対負けないんだからな。

 

 

 


 
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