No.664276

【地球防衛軍4】ブルートフォース作戦

原内さん

書くのは久し振り。ストーリーは5分で思い付いたものを良く練りせずに勢いオンリーで書きなぐっただけ。
なんで投稿したのか自分でも分からん!

2014-02-18 04:08:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2865   閲覧ユーザー数:2824

 風が心地良い。

 視界いっぱいに広がるのは揺れる草木。空は曇天なれど閉塞感はあまり感じない。雲の切れ間から時折差し込む光がいっそ美しいくらいだ。あぁいう差し込みかたをエンジェルフォールと呼ぶんだったか。詳しくはないので何とも言えないが、そうだと良いなとは思う。

こんなにも豊かで美しい場所だと言うのに……

視線を後ろに向ける。そこには土嚢が積み上げられ、機関砲がその上から突き出している。EF24『バゼラート』が装着しているものと同じそれがなぜこのような場所に腰を落ち着けているのか……答えは至極簡単だ。今日、この場所で、大きな戦いが待っているからである。この広く、美しい草原で……だ。

「隊長。対空砲の準備も完了したとの事です」

 聞き覚えのある声に呼ばれ、私はそちらを向いた。どうやら相手は何度か私を呼んでいたらしい。その証拠に声音が少し強くなっている。

「分かった。今のうちに休んでおけ」

「了解。……しかしこんな間に合わせの装備で持つのでしょうか?」

 機関砲を見上げながら彼は呟いた。その気持ち、分からなくもない。私自身もこんな簡易銃座が数門配備された程度で圧倒的な物量差を覆せるとは思えなかった。

「持つかどうかじゃない。持たせるんだ。それしか道はない」

 そう言って私は機関砲の側へ寄ると、言葉を自らに刻み付けるように砲に触れた。地上から見上げる時は頼もしく見えたその姿が、今はどこか頼りなく感じたのはきっと気のせいだろう。そう思わなければやっていられなかった。

 

*****

 

「スカウトより報告。敵に動きがあるとのことです!」

 通信機に張り付いていた隊員の言葉で陣地は慌ただしさを増した。始まるのだ。ブルートフォース。総当たりの名を冠した作戦が。いよいよとなって私の体は震えた。武者震いなどと強がりを言うつもりはない。怖いのだ。これでも私は8年前の戦いを見ている。だからこそやつらは恐怖の対象であり、恐れるべき敵としてこの身に刻み込まれている。

あの巨体が迫りくる様を、見えない場所から降り注ぐ紫色のそれを、地平線を蠢かせるほど大挙で押し寄せるあの光景を知っているからこそ、こんな時に震えが止まらなくなる。

だがそれも今だけだ。震えはいつものように通り抜け、ゆっくりと立ち上がった時にはすでに消え去っている。そして私はいつものように戦地へと向かうのだ。勇猛ではなくとも、冷静でいなくてはいけない。冷静であるように振る舞い続けなくてはいけない。それが部隊をまとめる者としての責務だ。

「隊長!」

 機関砲の前で話した隊員が駆け寄ってくる。その顔には焦りが見て取れた。

「敵に動きが有りました。敵全軍がこちらに向けて移動を開始。どうやら本当に始まるようです」

「分かった。各員に通達! 非戦闘員は直ちに後退! 戦闘員は事前の打ち合わせ通り、配置に付け!」

 その指示を受けて隊員が三手に分かれる。一つは交代する者。一つは砲台に駆け寄る者。そして武器を持って砲台より前に出るものだ。砲手に攻撃が向かないようにするにはこれが一番だと言う判断の元に構築された隊形だが、これが正解かなどと言うのは実際に試してみなくては分からない。

「隊長……本当にこんなもので守りきれるのでしょうか」

「砲台があるだけマシだろう? ゾーン2には砲台すらない」

 言葉を失った彼にも配置に着くよう指示を出し、私も歩みを進めた。ゾーン2には特殊遊撃隊『ストームチーム』が着くことになっている。だからと言って彼らが砲台の代わりになるわけでもないのだが、本部はなぜか彼らの守るゾーン2には砲台を設置しなかった。彼らが断ったのか、それとも本部が必要ないと判断したのかは分からない。だがその分火力支援が受けられるということだ。砲台とどっちが良いかは分からない。

「ゾーン1に敵が接近したようです!」

 通信係の声にまだにわかにざわついていた陣地がピタッと静まった。

「ゾーン2にも敵が接近。」

 静かな陣地内に係の声だけが響く。そして――

「こちら前衛。敵を肉眼で確認。距離、約3km。ヘクトルのみ!」

 ついにここにも来た。双眼鏡を使うまでも無い。霞みの先にはうっすらと、しかしはっきりそれと分かる影が見て取れた。ビルよりも少し大きなそれは一つ、また一つ浮かび上がる。

ヘクトル。敵の二足歩行であり、様々なタイプの装備を持つ驚異的な兵器。随分と昔から言われていた『二足歩行兵器の有用性の無さ』を完膚なきまでに叩き潰して見せた兵器。

「こちら陣地。こちらでも確認した。車両部隊は待機。引き付けてから一斉に放つ。通信係は本部に連絡を」

 指示を出して再び正面を見る。驚異的であるとは言っても、それはこちらが射程内にあればの話だ。射程外からであればヘクトルに限らず、敵は何もできないのだ。これこそが人類を勝利に導いた方法の一つである。そして、数少ない手段の一つでもある。

「本部から。予定通り空爆を開始するとの事です」

「了解した。前衛はその場で待機。空爆終了と同時に攻撃を開始せよ。陣地も合わせて攻撃を開始する」

 言い終わるのと同時に頭上から航空機のジェット音が聞こえてきた。戦術爆撃機『カロン』がエリアに侵入したと言うことだ。『カロン』は前衛部隊を飛び越え、置き土産を残してヘクトルの頭上を駆け抜けると、そのまま空の果てへと消えていく。そして残された土産物である無誘導爆弾が弾けた。本部の演説をバックに炎がヘクトルを包み、飛び出した破片が容赦なく突き刺さる。その間にもカロンは二度、三度と飛び交っては炸薬の雨を降らせて行った。ヘクトルに直接当たらなかった爆弾は草原を抉り、その炎は草木を焼く。あれほど美しかった草原は一瞬にして炎と粉塵が支配する戦場へと変わり果てた。

「空爆完了。ヘクトル、数機の撃破を確認。残りを一掃するぞ! 総員攻撃開始!」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに前線から砲弾が飛び出した。E551『ギガンテス』が放つ砲撃はヘクトルの傷付いた外殻を貫き、内部を焼き尽くす。対甲に特化したイプシロン装甲レールガンに至っては空爆を無傷で逃れたヘクトルを一撃で貫徹して見せる。陣地からは対空砲が方針を水平にまで下げてヘクトルを穿ち、機関砲はそんな弾幕を潜り抜けたやつをねじ伏せていた。その隣では大型のエナジーユニットからエネルギーを供給しているMONSTER-SやダイナストZがここぞとばかりにその力を発揮している。前衛にいるダイバーやフェンサーは暇そうだ。

 一方的。あれほど絶望的なまでに追い込まれた相手を、いまは私達が一方的に殲滅している。だというのになぜだろうか。いやに胸騒ぎがするのだ。もちろんこれが敵の全戦力だとは思っていない。だがそれとは違う何かが私の胸の内をくすぐる。

「ゾーン2でシールドベアラーを確認!」

 来たか。私は口の中でそう呟いた。こうも一方的なのはあの盾を持ち出していないからだ。ドーム状に防御スクリーンを張るシールドベアラーが来れば嫌でも距離を詰めなくてはいけなくなる。だが。

「陣地より前衛へ。シールドベアラー接近の可能性がある。準備せよ」

 人類も射程外に逃げ続けるだけしか考えなかったわけではない。接近戦を主体とする部隊は存在するのだ。

「こちら前衛。シールドベアラーを発見。ダイバー及びフェンサーが突入します」

「了解した。突入を支援する。本部に連絡。当ゾーンにもシールドベアラーを確認」

 前衛から戦闘装甲車『グレイプ』が走り出すのを確認し、そのルート付近にいるヘクトルを中心に狙いを付けさせる。搭乗者をシールドベアラーまで送り届けることがグレイプの仕事だ。やられては困る。

『フェンサーチームが突入に成功。グレイプは目標破壊までここで「スカウトから! 巨大生物が接近しています!」っ!』

 その報に私は胸騒ぎの原因をようやく突き止めることができた。だが、それはこの作戦を大きく左右するような内容だった。

「陣地よりグレイプ! シールドベアラーの破壊を中止! すぐに戻れ!」

『巨大生物が近すぎます! 間に合いま――』

 そこで無線は途切れた。あまりにもあっけなく。そして唐突に。

 地平線の先からは黒と赤が緑を塗りつぶし、煙を吹くシールドベアラーの足元はすでに草原の姿はなかった。

「………………り……へ…………がいます! ……がいます! 前衛より陣地へ! 指示を!」

 その言葉で我に変えった時には緑はほとんどなくなっていた。速い。速すぎる。いや、私の呆けていた時間が長すぎたのだろうか。巨大生物は前衛に肉薄する手前であり、陣地から手を出すはあまりに近すぎた。

「っ部隊を後退させろ! 距離を取るんだ!」

 指示が遅れれば当然後手に回ることになる。本来であれば下げる必要のなかった分を下げなくてはいけないのは大きな痛手だ。このままだと前衛が十分な距離を取れるようになるころには陣地との距離がほとんどなくなってしまうことが容易に想像できた。

 ヘリが欲しい。だがここにヘリは無い。他のゾーンに救援要請を出せば回してもらえるかもしれないが、ここがそうであるように他のゾーンにも巨大生物が押し寄せているだろう。そんな状況で他に回せるはずはない。私は自らに問う。何か、何かほかに方法があるはずだと。

「そうだ……通信係! ホエールに機関砲での支援を要請! 前衛部隊正面の敵の足止めを頼むんだ!」

 通信係が急いで攻撃機『ホエール』と連絡を取る。その一方で数名に指示してハンドガトリングを担いで陣地から前進、前衛の支援に行かせた。ハンドガトリングがギリギリ届くほど近付かれている。陣地放棄という言葉は浮かんだ瞬間に消し去った。

「ホエールは現在ゾーン1上空のため対応不能! 代わりにカロンが機銃掃射を行うと申し出ています!」

「三連で頼む! 前衛に連絡。カロンの機銃掃射を合図に大きく――「スカウトからです! 当ゾーンに飛行ドローンが接近しています!」何っ!?」

 その言葉に私は……いや、その場にいたほとんどの人間が空を見上げた。雲の切れ間から差し込む光に照らされて銀色に輝く無数の群れが降りてくる。あれが人類を救う天使であれば、私はすぐにでもそれを祀る信仰を崇めよう。だが舞い降りたのは人類に決して微笑むことのない冷徹で機械仕掛けの天使たちだった。なぜだろうか。私の目にはそれでもなお、美しい光景として映ったのは。球体のなりそこないのような形状からなのか、それともこの状況に頭が付いて来ていないだけなのか、それとも陣地を越えたそれとして受け取ったからなのか……それは私自身にも分からない。

 だが私にはそうして眺めているような時間はない。すぐに我を取り戻す。

「対空砲構えろ! 本来の敵が来たぞ!」

 指示に応じる声は叫びにも似ていた。ガンシップ……もとい、飛行ドローンの襲来はある程度予想できていたが、タイミングが悪すぎる。まるで狙ったかのような……いや、狙ったのだ。そして私達はまんまと狙い通りに動いてしまった。巨大生物に手を焼いているうちに上から物量で押し潰す。物量押しもこのような使い方をすれば立派な作戦だろう。

 銀色に輝く天使たちは一気にその存在を具体的に表すほど接近し、矢じりではなくレーザーを降り注がせた。陣地を赤い雨が襲う中、私はそばに立てかけてあったバッファローG9を手に取ると空へ引き金を引いた。シェルが弾けて散弾が飛び出し、鏡のような飛行ドローンの体に穴を空ける。これでも8年前の戦いを生き抜いた人間だ。飛行ドローンの対処くらいできる。

だが空から降りてきたガンシップは頭上を埋め尽くさんばかりの数で襲い掛かり、私達を仕留めにくる。対空砲はすでにフル稼働しており、機関砲も上限いっぱいまで射角を取って対応しているが数は減るどころか増えているようにすら思えた。前衛だけでなく陣地からも悲鳴と怒号が響く。

撃破した。

負傷者が出た。

一人やられた。

砲台が破損した。

「通信係! 通信係はどこだ!」

 私の判断はそれだった。一時は増え続ける一方だった飛行ドローンも数を減らしてはいたが部隊はすでに連携を保てなくなっており、現状の戦力では対応しきれない。本部に指示を仰ぐ必要があった。増援を送ってもらうか、もしくは退却するか。要請は出来ても、私にはどちらも決める権限はない。

「通信係! どこだ! 通信……」

 何かが足先に当たっただけで私は悟った。通信機は土嚢の裏側で辛うじて機能を果たしている。そしてこの場にいたのは……それでもなお足元を見ると、当然ながらそこに彼はいた。うつ伏せに倒れ、アーマーの隙間から流れ出した血は硬い地面に吸い込まれていく。呼吸はすでに止まっているのが見て分かった。

 私は彼の手からヘッドセットを取り上げるとすぐさま耳に押し当てた。だが通信機としての機能は本当に辛うじてしか生き残っておらず、ノイズ混じりでよく聞き取れない。送信に至ってはまるで役目を果たしてはいなかった。それでも耳を傾けているうちにノイズに慣れて少しずつ聞き取れるようになっていく。

『……ゾーン……に……近中…………は……うを…………』

「隊長! どこですか!」

「ここだ!」

 とはいえ僅かに聞こえた内容だけでは全く役に立ちそうもなく、私は隊員の一人の呼び声に反応してそちらを向いた。そして――

 

 

 

迫る光に包まれた……

 

*****

 

 衝撃が私を暗闇から引き戻した。

 境界を失った視界で辺りを見回すと、橙がそのほとんどを占めていた。そこに輪郭がはっきりと付いて来て初めてそれが炎であると認識した私は身を捻って下半身を抑えつけている土嚢を払いのけた。飛行ドローンの残骸が辺りに散らばり、対空砲は砲身の曲がった一門を残して爆撃でもされたかのように消し飛んでいた。いや、されたかのようにではない。されたのだ。ヘクトルの迫撃型プラズマ砲に。

 前衛部隊がいるはずの方向を向く。そこにはただの荒れ野と化した草原と、我が物顔でゆっくりと歩む砲撃型ヘクトルが居るだけだった。他に見えるのはギガンテスやイプシロンの変わり果てた姿と崩れ落ちたヘクトルの残骸。そして相変わらず雲の切れ間から射しこむ光だけだった。

 ヘクトルはこちらに気付いていない。このままじっとしていれば気付かずに通り過ぎていくだろう。つまり。

「もう全部終わったつもりか……チキショウめ……」

不意打ちにはもってこいな状況だった。

「怖くないなんて言ったら嘘だ……でもな……」

 長く押さえ付けられていたからか足が上手く動かない。這うように機関砲へとにじり寄る。

「戦う術を持たない人のためにも……他のゾーンで戦う隊員のためにも……」

 最後の力で機関砲の銃座席に着くと、機能を確認する。仰角調節と照準カメラに異常はあるが問題ない。仰角自体はこのままでいい。照準は肉眼で付けれる。

「なにより……私の指揮で戦ったすべての隊員の為にも! 通せないんだよ!」

 レバーを握り込むのと同時に左右二門の機関砲が唸りを上げた。火線がヘクトルを捉え、一機、また一機と噛み千切っていく。空薬莢が地を打って転がり、最初に感じた頼りない印象を払拭し、今はこれ以上ないほどに頼もしく感じさせた。面を食らったヘクトルは面白いように薙ぎ倒されていく。

が、それも最初の三機程度で、思いもしなかった残存兵力を刈り取ろうと構えるヘクトルから順に叩かなくては持たなくなり、それすらだんだん難しくなるそして七機仕留めたところでついに弾薬が底を尽いた。

ここまでか。残るヘクトルは三機。対してこちらはライフル一丁すら持っていない私一人。どう足掻いてもこれ以上はどうしようもない。三機であればきっと仲間がどうにかしてくれる……

砲口の奥から輝きを増すのを見詰め、私は考えるのをやめた……

 

*****

 

『アルテミス3。ゾーン5への空爆完了。残存兵力の相当を確認した』

「了解。生存者は確認できるか?」

『前衛はもとより、陣地も壊滅状態だ。少なくとも上空からは確認できない』

「分かった。現地に回収部隊を向かわせろ。せめて骨だけでも拾ってやれ」

「骨が残っていれば……ですけどね」

「…………激戦区であるゾーン5を死守して見せた彼らの尊い犠牲のもとに、この勝利は成り立ったと言っても良いだろう。最大限の敬意は払わねばなるまい」

「しかし危機的な状況であると分かっていて増援を送らなかったのは……」

「言うな。戦力をいたずらに消耗しないためには時に非情な決断をせねばならない。それが上に立つものに求められるものの一つだ。どんなに恨まれようとも……な」

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択