本質が悪人でなくとも、罪作りな人間はこの世に存在するものだ。
「何言ってんだこいつ?」と思う人も結構いるだろう。
何故、私が突然こんな事を言い出したのか?
それはOTAKU旅団のNo.16“げんぶ”の行動を見ながら説明した方が分かりやすいだろう―――
「あれがその奴隷商って奴か?」
「そのようですね。護衛の魔導師も、複数いるようですし」
私は現在、げんぶさんと共にとある任務を遂行しようとしている真っ最中だった。
ある奴隷商に囚われている貴族令嬢の救出及び、その令嬢を護衛しつつ本来いるべき世界まで無事に送り届ける事。それが今回の任務内容だ。
そしてたった今、私達は某次元世界にてその令嬢を連行しようとしている奴隷商の連中と、そんな奴隷商の連中を護衛中の魔導師達を発見したところである。調べによると、この奴隷商の連中は管理局の上層部とも繋がりを持っているらしい。となれば、その奴隷商を護衛している魔導師達も全員、管理局上層部の息がかかった連中だろう。
「思ってたより人数が多いな。どう攻める?」
「私達はひとまず待機です。魔導師達はイワンに殲滅させます」
かつてアンブレラによって開発された生物兵器タイラントに更なる改良を施し、完成したイワン。現在はボディーガード的な役割で私と行動を共にしており、今も私達の後ろで無言のまま待機している。
「イワン? あぁ、お前が連れてるそいつの事か……大丈夫なのか?」
「あぁ、心配はいりませんよ。高い戦闘力はもちろんの事、知能も大幅に向上させてます。AMF機能もより特殊なタイプを搭載させていますし、並の魔導師ではこのイワンに勝つのは難しいでしょう」
「…そういうものか?」
「そういうものです……ではそういう事で。行きなさい、イワン」
この私が改良して完成させたイワンです。余程面倒なトラブルでも発生しない限りは、問題なく奴等を殲滅出来る事でしょう。
私が指を鳴らし、私の背後にいたイワンが高く跳び上がる。その後は肉を磨り潰される音や骨が圧し折れる音、そして奴隷商や魔導師達の断末魔だけがしばらく続きました。
全く、断末魔がうるさいったらありゃしない。
「…断末魔の原因を作ってるお前が言うか?」
おっと、声に出てたようですね。
げんぶさんが聞いてたようです、いけないけない。
「まだ寒いか?」
「あ、はい、大丈夫です…」
イワンが奴隷商や魔導師達を排除した後、私達は目的の令嬢を無事に保護。旅団と協力関係にある運送会社のシャトルに乗って、彼女が暮らしていたであろう元の世界まで送り届ける事となった。
シャトルの貨物庫。
げんぶさんは令嬢に毛布をかけてあげており、私は木箱に座りながらタブレットを操作して作業をしていた。ちなみにイワンは、貨物庫の入り口にて見張り番を担当中である。
(戦闘終了にかかった時間は5分弱、今回の戦闘による損傷率は14.2%……まだまだ、改良は出来そうですね…)
タブレットに写っている数値を見ながら、私はイワンの戦闘データを纏める作業を続ける。今後イワンに更なる改良を施す為にも、かなり重要な作業だ。
ちなみに令嬢の世話などについては、今回は全てげんぶさんに押し付ける事にしている。私は自分のするべき作業で忙しいのだ、保護対象の面倒までいちいち見ていられる余裕など無い……というか世話をするのもハッキリ言って面倒臭い。
「あ、あの…」
「何ですか? 私はあなたに構っている暇は無いのですが」
だのにこの令嬢は、先程から私に対して何度も話しかけようとしてくる。彼女が私に礼を言おうとしている事は何となく分かるのだが、作業中である私からすれば鬱陶しい事この上ない。そもそも私は次元犯罪者で悪人なのだ、悪人が誰かに感謝されるなど私には想像もつかない。
なので、少しばかり脅してみる事にする。
「私に話しかけない方が良い。私の機嫌を損ねれば、そこにいる厳つい男が止めようとも実験台にしてしまうかも知れませんからね…」
まぁ本当にそんな事をすれば団長さんに殺されかねませんので、する訳が無いのですが。
それでも怖がらせるのには充分な効果を発揮したようで、彼女は顔を青ざめたままげんぶさんの後ろに隠れてしまいました。やれやれ、これで自分の作業に集中出来ま……ん?
「…大丈夫か?」
「ん…」
げんぶさんに頭を撫でられたからか、彼女は顔を赤くしたまま俯いています。これは頭を撫でられたから恥ずかしそうにしているのか?
それとも、彼女自身がげんぶさんに対して?
…もしそうだとすれば、これは実に面白い光景ですね。
「ぷ、くく…」
「? 何だ竜神丸」
「いえ、くくく、何でも…!!」
これを彼の奥さんが見たら、一体どんな反応を示すんでしょうかねぇ?
レーションを齧りつつ、私は作業しながらこの二人をしばらく観察する事にした。
「ほら、コーヒーだ」
「どうも」
インスタントコーヒーの入ったマグカップをげんぶさんから受け取り、私は作業を続けつつ横目でげんぶさんと令嬢の様子を観察する。現在げんぶさんは鍋の湯で温めたレトルト食品を令嬢に渡しているところだ。
「あ、ありがとうございます…」
「いや、護衛対象にひもじい思いをさせる訳にいかないからな。これぐらいは普通の事だ」
「それでも、あそこに比べたら…ッ」
おや、今にも泣き出しそうな状態ですね。それほど、売り物の奴隷として扱われ続けてきたのが堪えていたという事でしょう。私にとっては実にどうでも良い事ですが……む?
(おっと、目線が合ってしまった…!)
げんぶさんが困った様子で視線を向けてきたので、私はすぐに目線を逸らす……どうしよう。げんぶさんが困っているという今の状況が、何故か物凄く面白い。
(鬼! 悪魔!! 竜神丸!!!)
げんぶさんが何やら怖い目で睨んできてますが、私は敢えて知らん振りを貫きましょうか。
夕食後。
緊張の糸が少しずつ解けてきたからか、令嬢はどうやら眠くなってきた様子。げんぶさんが令嬢を簡易ベッドに寝かせている中、私は今もタブレットで作業を続けている。
「…む?」
チラリと横目で見ると、簡易ベッドに寝かされた令嬢がげんぶさんの服の袖を掴んでいた。ふむ、これはどういう状況なんでしょうかね。
「どうした?」
「すみません……眠るまでで良いので、そばにいて下さい…」
「う……分かった」
「ありがとうございます…」
どうやら、げんぶさんに近くにいて欲しいようですね。そんな彼女に対して、げんぶさんは若干迷いつつも了承してしまいました。
(全く……あなたも甘いですよ、げんぶさん?)
団長さんの話だと、げんぶさんは元々平凡な世界で暮らす普通の人間だったとの事。それ故にゲームやアニメなどに登場する悪役キャラクターに憧れていたようで、旅団メンバーとして活動している現在も敢えて悪人を演じようとしている事がある。しかしやはり本質が悪人ではないからか、イマイチ非情に徹し切れていないような一面も強く出てしまっている。そんな彼に対して私は「アホらしい」と呆れる気持ちと、今のように「あぁ、見ていて面白い」という楽しい気持ちの両方が存在している。
(まぁ、精々楽しませて貰うとしましょうかね。これからも…)
とにかく、まずは自身の笑いを抑えなければ。どうせげんぶさんには、私の笑い声も既に聞こえてる事でしょうし。
込み上がってくる笑いを抑えつつ、私はデータ纏めの作業を続ける。
翌日、私達は無事に目的の世界まで到着。令嬢をご家族の下まで送り届ける事で任務は完了された。げんぶさんは令嬢やご家族の方々に引き止められそうになっていましたが、何とか振り切ってこちらまで戻って来ました。
(今回は楽しませて貰って、感謝しますよ? げんぶさん)
げんぶさんは気付いているだろうか。まさか貨物庫で見張り番をしていた筈のイワンが、こっそりげんぶさんと令嬢の一部始終をサングラスのカメラで撮影していた事に。まぁ本人が気付いていようとなかろうと、私はこれを他のメンバーに見せる気満々ですが。
(いやはや、楽しみですねぇ)
あなたもある意味、罪作りな人間です。
ねぇ、げんぶさん?
ちなみに、イワンの撮った映像を他のメンバーに見せてみた結果…
「このフラグメイカーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぬぉっ!? 何だいきなり!!」
Blazが血涙を流しつつ、げんぶに突撃を仕掛けたのはここだけの話である。
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竜神丸とげんぶ(竜神丸視点)