No.657172

ランドシン伝記 第3話 (アーカーシャ・ミソロジー)

いよいよ始まった迷宮クエスト。
しかし、その中で、ヴィル達は
二人のゴブリンの出会うのだった。
そして、その出会いは、彼らの運命を
大きく変遷させる事となる。

2014-01-24 12:54:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:284   閲覧ユーザー数:284

第3話 迷宮クエスト

 

 ヴィル達は迷宮に入っていた。

トゥセ「いやぁ、カビ臭いっすね」

ヴィル「情報によれば、この迷宮の難度は-それ程、高く無い

    らしいが、気を抜くなよ」

トゥセ「分かってますよ」

 すると、奥から魔物の咆哮(ほうこう)が響いた。

アーゼ「始まったって感じですね」

ヴィル「ともかく、俺達は慎重に進もう」

 そして、ヴィル達は-罠などを確認しながら、ゆっくりと

迷宮を進むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

トゥセ「結構、来ましたね」

ヴィル「だな。だけど、周りに他のギルドが見当たらない。

    妙だな。そんなに広い迷宮じゃないハズだが」

 すると、何かが蠢(うごめ)く音がした。

 そして、奥から巨大なナメクジが数体、這(は)ってきた。

ヴィル「まずいッ、トゥセ、早く倒せッ!」

トゥセ「りょ、了解ッ!」

 そして、トゥセはカードを巨大ナメクジに向かって投げつけた。

 すると、ナメクジから体液が-ほとばしっていった。

 さらに、何枚も何枚もカードを投げつけるとナメクジ達は

沈黙した。

ヴィル「フゥ・・・・・・だが、まずいな・・・・・・」

アーゼ「ですね・・・・・・・」

 見れば、周囲はナメクジの体液で-まみれていた。

トゥセ「団長・・・・・・この体液って、メチャクチャ粘るヤツです

    よね?」

ヴィル「ああ・・・・・・毒とかは無いが、粘るな・・・・・・」

アーゼ「団長、どうします?」

ヴィル「・・・・・・仕方ないだろ。ネバネバしながら進むしか無い

    だろう・・・・・・」

トゥセ「マジっすか・・・・・・」

 そして、ヴィル達はネバネバに足を突っこむのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 一方で剣聖シオンのパーティは迷宮の最深部へと到達して

いた。他にも数組のギルドがおり、いよいよ、最深部を守る

巨大モンスターとの対決が始まるのだった。

 シオンが扉を開くと、そこには巨大な骸骨(がいこつ)が長刀を持って、

待ち構えていた。

 そして、骸骨はシオン達を認識するや、体中をカタカタさせて笑い、襲いかかってきた。

シオン「行くぞッ!」

 とのシオンの叫びと共に、戦闘が開始された。

 

 ・・・・・・・・・・

 一方で、ヴィル達はネバネバの中、必死に前に進もうと、

もがいていた。

トゥセ「チクショウッ!何で、よりによって、ナメクジと

    遭遇しちまったんだッ!」

 と、片足を上げながら叫んだ。

アーゼ「お前が、もう少し、綺麗に倒せば-こんな事になら

    なかったんだよ・・・・・・」

トゥセ「お、俺のせいかよ・・・・・・クゥ、でも、これって、

    本当は魔法を使えば、ネバネバ取れるんですよね」

ヴィル「ああ、清めの魔法でな」

トゥセ「団長。やっぱり、女魔法使いはパーティに必要ですって」

ヴィル「はいはい。ともかく、今は出る事だけ考えような」

モロン「団長・・・・・・足、疲れたよ・・・・・・」

ヴィル「モロン・・・・・・我慢だ」

モロン「うん・・・・・・」

 そして、ヴィル達は-ようやく半分程を進んだ。

 すると、一人の男が前方から-やって来た。

 その男はどこか浮き世ばなれしており、不思議な雰囲気(ふんいき)を

ただよわせていた。

男「大丈夫ですか?」

ヴィル「貴方(あなた)は?」

男「私はカシムと申します。今回は、ソロ(一人)で迷宮の

  攻略に来たのですが、行(ゆ)き詰(づ)まってしまいまして」

トゥセ「ソロ?そりゃあ、すごいっすね」

カシム「いえいえ。魔物から上手く、隠れて進んで居るだけ

    です」

 と、カシムは朗(ほが)らかに答えた。

カシム「それで、よろしければ-その粘つきを解除しましょうか?」

アーゼ「い、いいんですか?」

カシム「はい。多分、私の術で解除できます」

ヴィル「ただ、カシムさん。俺達は今、お金もレアなアイテムも無くて、その-お礼の方がちょっと・・・・・・」

カシム「いえ。お礼は要りません。私はあなた達に興味が湧(わ)きました。

    あなた達のオーラは輝いている。よろしければ、一時で良いので、

    同行させて頂(いただ)けないでしょうか?」

トゥセ「団長ッ!これぞ、渡りに船ですよ!」

ヴィル「ああ、そうだな。じゃあ、お願い出来ますか、カシムさん?」

カシム「ええ。では」

 すると、カシムは舞(ぶ)を始めた。

 そして、大気に魔力が集結し、カシムが足で床を打ち鳴らす

や、一気に術式が完成し、粘(ねば)つきを浄化していった。

アーゼ「お、おお・・・・・・」

トゥセ「すげーッ!全然、粘(ねば)つかねー」

ヴィル「今の術式は一体?」

カシム「仙人(せんにん)術(じゅつ)と呼ばれるモノです。魔物の恨みの気を晴らしました。あの粘つきは、ナメクジの怨念(おんねん)が宿っていたのです」

ヴィル「魔物の怨念(おんねん)・・・・・・」

トゥセ「ぞっとしない話っすね」

モロン「え、えぇと、カシムさん、ありがとうございました」

カシム「いえ、お気になさらず」

 そして、ヴィル達もカシムに礼を言った。

ヴィル「えぇと、ではカシムさん。今回のクエストを同行して

    くださるのですよね?」

カシム「はい。よろしければ、ですが」

ヴィル「是非(ぜひ)、お願いします」

 そう言って、ヴィルは手を差し出した。

 その手をカシムは握り、二人は握手を交(かわ)すのだった。

 

 迷宮をヴィル達は歩いていた。

トゥセ「いやぁ、しかし、ほんと、助かりましたよ」

カシム「いえいえ」

アーゼ「でも、ほんと、思わぬ所から助けが来ましたよね」

ヴィル「だな」

 すると、カシムが立ち止まった。

モロン「どうかしたんですか?」

カシム「いえ・・・・・・終わってしまいましたね・・・・・・」

ヴィル「え?」

 すると、笛の音が響いた。

 それは最深部の攻略が済んだことを示す音だった。

トゥセ「あ、あぁ・・・・・・間に合わなかった」

ヴィル「ともかく、音の方へ向かおう」

 そして、ヴィル達は駆け足で進むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 骸骨(がいこつ)の魔物は力尽き、倒れていた。

 そして、剣聖シオンは-その聖剣を鞘(さや)にしまった。

 周囲のギルド・メンバーはシオンに対し、惜しみない賞賛を

贈っていた。

シオン「フゥ・・・・・・」

エレナ「お疲れ、シオン」

シオン「あぁ。ありがとう」

ニア「しっかし、私の出番は無かったねぇ」

 などと、シオンのギルド・メンバーは-和(なご)やかに会話をしていた。

 そんな中、ヴィル達は-そこに辿(たど)り着いた。

ヴィル「お、遅かったかぁ・・・・・・」

 と、ヴィルは肩を落としながら言った。

シオン「先輩。すみません・・・・・・」

ヴィル「いや、いいんだ。実は道中でナメクジに会っちゃって

    さぁ」

シオン「あぁ・・・・・・あれは魔法使いがパーティに居ないと

    厄介(やっかい)ですよね」

ヴィル「そうなんだよ」

エレナ「・・・・・・シオン。番人を倒したんだから、奥の魔石を

    入手して、結界を張らないと。グズグズしてると、

    他の人達に取られちゃうよ」

シオン「おっと、そうだったな。じゃあ、みんな、行こう」

 そして、シオン達のギルドは-さらに奥へと進んでいった。

 

トゥセ「あーあ。惜しかったっすね」

アーゼ「いや、あんまし、惜しくは無いと思うぞ。むしろ、

    予定調和-的というか」

トゥセ「あんま、悲しくなる事、言わないでくれよ」

アーゼ「わ、悪い」

ヴィル「まぁ、ともかく、もう一段落したら戻ろう。幸い、

    他のギルドも死者は居ないみたいだし」

 とのヴィルの言葉に、皆は頷(うなず)いた。

 

 ・・・・・・・・・・

 その傭兵は番人攻略の笛を聞き、いらだっていた。

傭兵「クソッ、先を越されたかッ!」

部下「し、仕方ないですよ、今回は、剣聖が居たんですから」

傭兵「うるせぇッ!何で剣聖が-こんなへんぴな田舎に居るんだよッ!

   おかしいだろッ!くっそッ!どうせ、圧倒的な力を見せびらか

   して、俺達を見下してんだッ!そうに違いねぇッ!」

 と叫び、壁を思い切り叩いた。

 すると、壁が崩れ、隠し通路が出てきた。

傭兵「お・・・・・・おいおい、こりゃあ、ひょっとして、ひょっと

   するんじゃねぇか?」

部下「ヒョウタンから駒(こま)ってヤツっすね」

傭兵「だな。ともかく、先にすすも・・・・・・」

 そこまで言って、傭兵は言葉に詰(つ)まった。

 その視線の先には、一体の何かが居た。

傭兵「ご、ゴブリンだッッッ!」

 と、傭兵が叫ぶや、その年老いた魔族は-さっと逃げ出した。

 

 ・・・・・・・・・・

 笛の音が鳴った。

 それはゴブリンの出現を意味する笛だった。

ヴィル「この笛は・・・・・・」

アーゼ「ゴブリン・・・・・・・」

 すると、シオンが駆けだしてきた。

シオン「先輩、今の笛ッ!」

ヴィル「あぁ・・・・・・。信じたくは無いが、ゴブリンが遺跡に

    居るらしいな・・・・・・」

シオン「ともかく、手分けして探しましょう」

ヴィル「・・・・・・ああ」

シオン「では、俺達は右へ、先輩達は左をお願いします」

ヴィル「分かった・・・・・・。行くぞ、お前等(まえら)」

 そして、ヴィル達は左に進むのだった。

 

トゥセ「しかし、妙ッすね。ゴブリンの気配なんて全然、

    感じなかったっすよ」

アーゼ「確かに・・・・・・。居るとしても、少数なのか?」

ヴィル「・・・・・・ひそかに隠れて暮らしていたのか?」

 と、ヴィルは小声で呟(つぶや)いた。

 すると、カシムが口を開いた。

カシム「よろしければ、居場所を特定してみましょうか?」

ヴィル「出来るのですか?」

カシム「恐らくは。今、迷宮は最深部が封印され、気が

    弱まっています。比較的、探知しやすいと思わ

    れます」

ヴィル「・・・・・・頼みます」

カシム「はい。では、しばし-お待ちください」

 そう言って、カシムは人差し指を自らの額に当て、目をつむ

った。

 それから、数十秒後、カシムは突如(とつじょ)、目を開いた。

カシム「分かりました」

ヴィル「本当ですか?」

カシム「はい。ただ、場所は-ここからだと遠回りになります。

    それで、この迷宮の近道を利用しようかと思います」

トゥセ「近道、ですか?」

カシム「はい。ただし、これは迷宮の時空の歪みを利用する

    繊細(せんさい)な方法です。ですから、目をつぶったままでない

    と利用出来ません」

ヴィル「・・・・・・それ以外、方法は無いんですか?」

カシム「近道は-それだけです。私が手を引くので、全員、

    手を繋いでください。もし、よければ、ですが」

 とのカシムの言葉に、ヴィルは一瞬、考え込(こ)んだ。

ヴィル「お願いします」

トゥセ「まぁ、少し、怪しいですけど、仕方無いですよね」

アーゼ「こら、アーゼ。失礼だぞ」

トゥセ「あ、す、すいません」

カシム「いえ。普通なら信じて-もらえないでしょう」

ヴィル「カシムさん、早速、お願いして-よろしいですか」

カシム「はい」

 そして、ヴィル達は目をつむり、カシムの導きに従った。

 

 ヴィル達は目をつむったまま歩き続けていた。

カシム「ここから歪みに入ります。絶対に、目を開けないで

    ください」

モロン「だ、団長、少し、怖いよ」

ヴィル「大丈夫だ、モロン。俺を信じろ」

モロン「うん」

カシム「では、参ります」

 そして、カシム達は壁の中に入っていった。

 そこは異質の空間だった。

 ヴィル達は、重力と時の感覚が狂うのが分かった。

トゥセ「な。なんじゃこりゃッ!大丈夫か、これ?」

カシム「あと少しですッ!絶対に目を開けないでください」

 そして、カシム達は先を進み、壁から抜け出た。

カシム「もう大丈夫です。ゆっくり目を開けて下さい」

 すると、辺(あた)りは白い大理石で出来た通路になっていた。

ヴィル「これは・・・・・・普通の迷宮じゃないな」

アーゼ「ですね・・・・・・」

カシム「ヴィルさん、ゴブリンの気を二つ感じます。こちらです」

ヴィル「お前等(まえら)、戦闘態勢に入れ。カシムさんは、戦えますか?」

カシム「身を守る程度なら」

ヴィル「なら、モロンの傍(そば)に居てください」

カシム「承知しました」

ヴィル「じゃあ、進もう」

 そして、ヴィル達は先へと進むのだった。

 

カシム「そこです」

 と、カシムは-ただの通路の前に立ち、言うのだった。

ヴィル「隠し扉・・・・・・。開けよう」

 そして、ヴィルは隠し扉を開いた。

 そこは一つの部屋となっていた。

 その奥には二体の小さなゴブリンが居た。

 すると、年老いたゴブリンが口を開いた。

老人ゴブリン「待ってくだされ・・・・・・ワシらは、人間と争う

       気は無いんじゃ」

トゥセ「ご、ゴブリンが-しゃべった」

ヴィル「・・・・・・争う気は無いと?」

老人ゴブリン「ワシと-この子は一緒に暮らしてきた。人に

       迷惑をかけた事は無い。本当だ。信じてくれ」

ヴィル「・・・・・・」

アーゼ「団長?」

カシム「・・・・・・このゴブリンの言っている事は本当かと思われ

    ます。気に-よどみが無い」

トゥセ「ま、待てよ。だからって、ゴブリンを放置じゃマズイ

    だろ?」

ヴィル「・・・・・・そっちのゴブリンは・・・・・・子供か?」

老人ゴブリン「そうじゃ。ワシの血縁では無いが、今年、13と

       なったばかりじゃ。ワシと違い、人間の言葉は

       話せん。お願いじゃ、ワシらをそっとして-

       おいてくれ。魔石なら少しある。これで、どうか

       許してくだされ・・・・・・」

 そう言って、老人ゴブリンは魔石の入った袋を差し出した。

モロン「団長・・・・・・許してあげれないの?」

ヴィル「俺は・・・・・・俺は・・・・・・」

 ヴィルの脳裏に記憶が蘇(よみがえ)った。

 多くの仲間の死・・・・・・。

『殺せッ!殺せッッッ!あのゴブリンども-をブチ殺せッ!』

『隊長ッ・・・・・・隊長ッ・・・・・・死にたく無い・・・・・・死にたく無い

 です・・・・・・』

『いやだ、いやだ、いやだッ、母さんッ・・・・・・』

 

 そして、記憶は-さらに深層へと至(いた)った。

 血まみれで笑う男。 

 その男に対し、ヴィルは斬りかかったのだった。

 

カシム「ヴィルさん?」

 カシムの声で、ヴィルの意識は現実に戻った。

ヴィル「あ、ああ・・・・・・」

 と、ヴィルは朦朧(もうろう)としながら答えた。

 ヴィルは心臓が早鐘(はやがね)を打つのを感じた。

トゥセ「団長・・・・・・」

 と、トゥセ達は心配そうに見守った。

 すると、足音が響いた。

アーゼ「ま、まずいッ」

 すると、傭兵(ようへい)達(たち)が駆けてきた。

傭兵「ッ、そこかッ!」

 傭兵達は、ヴィル達を押しのけ、隠し部屋へと入りこもうとした。

ヴィル「や、やめろッ!」

 ヴィルは-そう叫び、傭兵を押し返した。

傭兵「は?はぁ?お前、手柄を独り占めにする気か?

   ふっざけんなッ!ぶっ殺すぞッ!」

ヴィル「違うッ!か、彼等(かれら)は敵じゃない。敵じゃないんだ。

    非戦闘員だッ!」

傭兵「ひ、戦闘員―?なぁに、言ってんだ、こいつ?頭に

   ウジわいたか?ともかく、どけよ、こんな

雑魚(ざこ)ゴブリン、大した手柄じゃねぇだろ。

なんなら、その分の報酬はやるから、俺に

ゴブリンをぶっ殺させろ。いいな。

お前には、酒場の賭(か)けで金をもらってるから

やっぱ、それで許してやる」

しかし、ヴィルは-どこうとしなかった。

ヴィル「彼等(かれら)は敵じゃ無い・・・・・・」

 そのヴィルの言葉に、傭兵は目を据(す)わらせた。

傭兵「おい、おいおいおい・・・・・・反逆者か、お前ら?」

ヴィル「違う、俺はッ」

傭兵「違わねーだろッ!ゴブリンの味方するなんてよッ!

   ぶっ殺すッ!やるぞッ!」

 との傭兵の言葉に、部下達は抜刀した。

ヴィル「やめろッ!」

傭兵「やめねーよッ!」

 そして、傭兵はヴィルに剣を振りおろした。

 しかし、次の瞬間、傭兵の手首は宙(ちゅう)を舞った。

 そして、手首に付いた剣が地面に-ぶつかり、音を立てた。

傭兵「は?はぁ?お、俺の、俺の手・・・・・・俺の右手・・・・・・?」

 そこまで言って、傭兵は気絶した。

部下「た、隊長ッ!てめぇらッ!」

 しかし、他の部下達も、トゥセとアーゼの攻撃で-あっさりと

気絶するのだった。

ヴィル「ハァ、ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

 と、ヴィルは荒い息をあげていた。

モロン「だ、団長・・・・・・どうするの?」

ヴィル「・・・・・・お前達、ここで-お別れだ・・・・・・俺は、この

    ゴブリン二人を安全な所へと送り届ける。お前達は

    別のルートで逃げろ。いいな」

 しかし、トゥセ達は頷(うなず)こうとはしなかった。

ヴィル「何してるッ!早く逃げろ。お前達だけなら、逃げ切れるだろ?」

トゥセ「あの、団長。そういうの無しにしませんか?いまさらっ

    ちゅうか」

アーゼ「そうですよ。俺達、仲間でしょう?」

モロン「ヒヨコ豆-団は、いつも一緒だよ」

ヴィル「お前等(まえら)・・・・・・」

 そう言って、ヴィルは目を拭(ぬぐ)った。

ヴィル「ありがとな。一緒に逃げよう」

 とのヴィルの言葉に、トゥセ達は頷(うなず)いた。

 すると、老人ゴブリンがヴィル達に近づいて来た。

老人ゴブリン「あ、あの・・・・・・どうして?」

ヴィル「分かりません。ただ・・・・・・あなた達を見殺しに

    出来なかったんです。だって、多分・・・・・・

    あなた達も俺達と同じヒト・・・・・・だから」

 との言葉に、トゥセ達は頷(うなず)くのだった。

老人ゴブリン「おお、おお・・・・・・これは奇跡か・・・・・・。

       まさか、まさか、彼(か)の地で-このような

       冒険者-達と出会えるとは・・・・・・」

 すると、老人ゴブリンの胸に矢が生(は)えた。

 見れば、傭兵が倒れながら、弓を片手にしていた。

傭兵「ざまーみろ・・・・・・」

 そう言って、傭兵は完全に気絶した。

 そして、老人ゴブリンは地面に倒れた。

 その体から血が-とめどなく流れ、その生(せい)は失われようとした。

 それを見(み)、幼いゴブリンは泣き叫びながら、老人ゴブリンに

駆け寄った。

 そして、血で汚れるのも気にせず、幼いゴブリンは老人に

必死に語りかけるのだった。

 それに対し、老人ゴブリンは何かを呟(つぶや)き、そして、息絶えるのだった。

トゥセ「嘘・・・・・・だろ?」

 と、呟(つぶや)く事しか出来なかった。

 あたりには幼いゴブリンの泣き声が響いた。

 すると、ヴィルは幼いゴブリンに近づいた。

 それに対し、幼いゴブリンは怯(おび)えて後ずさった。

 ヴィルは幼いゴブリンに対し、両膝(りょうひざ)を着き、頭を下げ、言うのだった。

ヴィル「俺はッ、俺は、あんたを守る。あんたを守る事を騎士として誓うッ!

    この老人のゴブリンのぶんまで-あんたを守る事を誓う。

    だからッ、ごめん、ごめんな・・・・・・」

 と、ヴィルは泣きながら、誓うのだった。

 それに対し、幼いゴブリンはヴィルを信じたのか、ヴィルの

腹に顔をうずくめ、泣きじゃくるのだった。

 それは神聖なる光景だった。

 本来、憎み、殺し合う人間とゴブリンが触れ合っているのだった。

カシム(これだ・・・・・・これだったのだ。私が、この地に導かれたのは。

    精霊達は、私に-これを見せたかったのだ。

    そして、これこそが私の運命なのだ。彼等らと共に、

    旅をし、彼らの運命を助ける事。それこそが、私の

    生まれてきた理由なのだ)

 と、カシムは悟るのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 


 
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