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SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 ExtraEdition 後編

本郷 刃さん

今回で『Extra Edition』は終了となります。
それと前編と中編に比べて長いです・・・予想外だった。
ところどころでコーヒーも必要かとw

それではどうぞ・・・。

2014-01-19 13:36:19 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:12611   閲覧ユーザー数:11660

SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 ExtraEdition 後編

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

菊岡のカウンセリングという名の一種の事情聴取を終えた俺は校内から出てプールへと足を向けた。

既に夕焼けに染まっている空の下、本来は鍵が掛けられているが今回は俺が許可を得ているので開いており、

そこを通ってプールへと着いた。

眼前の飛び込み台の傍には明日奈たちが水着を着て後ろ姿を向けており、その反対側にはスグが1人でプールの中に居る。

浮き輪どころかスイミングボードすらその手には無い……おいおい、まさか…。

 

「それじゃ、25mに挑戦いってみよう!」

「はい!」

 

マジか…運動神経が良いのは知っているが、スグのやつ1日で泳げるようになったのかよ。

幸い、志郎たちもスグの事に集中しているお陰で俺には気付いていないので、

このまま気配を自然に馴染ませ、気付かれないようにし、妹の練習成果を見せてもらうことにした。

 

「よ~い……スタート!」

 

明日奈の掛け声と共に泳ぎ始めるスグ。

フォームは綺麗で水を蹴る脚の動きにも無駄が少なく、すいすいと綺麗に進んでいく。

5m、10m、15mと留まる事無く進んでいき、20mを超え……25mへと到達した。

 

「ぷはぁっ、やりましたー!」

「「やったー!」」

 

25mを泳ぎ切り、顔を上げて喜びの声を上げた瞬間、里香と珪子も歓声を上げてプールに飛び込んだ。

さらに刻も喜びからプールに飛び込み、スグに抱きついている……お~お~、お熱いね~(微笑)

 

「凄いよ、直葉ちゃん!」

「努力の成果だよ」

「1日で泳げるようになったからね」

 

明日奈、志郎、烈弥の3人も声を掛けていく。ふむ、それじゃあそろそろ。

 

「それならお前らもそこで一緒に祝うべきだろう(ぽん)」

「「へっ?…まっ、かずっ!?(ざぱーんっ!)」」

 

俺はそう言いながら志郎と烈弥の背中を押し、2人をプールに落とした。

ふっふっふっ、気配を馴染ませていて正解だったな、隙だらけだったぜ。

ついでに左腕を明日奈の腰に回して抱き寄せる。

 

「か、和人くんっ//////!? い、いつのまにっ//////!?」

「ま、ついさっきな。スグ、25m泳ぎきったのをしっかり見せてもらったぞ、頑張ったな」

「う、うん、ありがとうお兄ちゃん!」

 

照れと夕焼けで顔を赤くしている明日奈に微笑みかけてから、今日一日頑張ったであろう妹を労う。

 

「刻、珪子、里香、烈弥、志郎、それに明日奈も。ありがとな、みんなのお陰だよ」

「あたしからもありがとうございます!」

 

俺はみんなを見渡してから礼を述べ、スグも俺に倣って礼を言った。それにみんなも笑顔で応えてくれた。

 

「というか、俺と烈弥を落とす前に言えよ…」

「それは俺よりも先に明日奈の水着姿を見た代償だと思え」

「はは、それなら仕方がないですね」

 

呆れながら志郎は言ったが俺は何処吹く風というように言い返し、烈弥は慣れたものだという感じで苦笑している。

みんなはプールから上がり更衣室へと移動していったが、俺は明日奈を残させている…というのも、目的はただ1つ。

 

「えっと、どうかな、この水着///?」

「あぁ、似合ってるよ。綺麗で可愛くて、明日奈にぴったりだ」

「えへへ、ありがとう///♪ でも、やっぱり和人くんと遊びたかったな~///」

「夏休みも大詰めだけどまだ日はあるんだし、その時にでもゆっくりな?」

「うん///! それじゃあ、わたしも着替えてくるね///♪」

 

スキップしそうな感じで歩いて行った明日奈の姿に再び笑みが浮かんでくる。

 

「なんだ、もう少しぐらいイチャついても良かったんじゃねぇのか?」

「少しくらいは弁えるっての…ま、少しだけどな」

「だろうな」

 

明日奈と入れ替わるように俺の元へ来たのは志郎だった。

濡れた髪を荒っぽく拭いたからなのか髪は未だに濡れているが、ヘアバンドをしているから大して変わらないか。

 

「んで、鬱憤でも溜まってたんじゃないのか? 俺と烈弥を落としたくらいなんだし…あの眼鏡に何を聞かれた?」

「なんのことだ…?」

「惚けんな。見たんだよ、菊岡がカウンセリング室に入っていくところ……アイツと話したんだろ?」

「……最初から知っていたわけか…」

 

なんでも、迎えに行った里香と最初に学校に着いた志郎は職員室に鍵を取りに行く途中、

菊岡がカウンセリング室に入ったのを見たらしい。

あの野郎、素人じゃないくせしてバレてんじゃねぇよ…。

 

「別に、大したことじゃない。強いて言うなら、『SAO事件』と『ALO事件』を詳しく聞かれただけだ」

「どこが大したことじゃないだよ。十分大したことだろ…」

「詳しく聴かれたが、事細かには話しちゃいない…核心も突かれちゃいないよ」

「……まぁ、お前がそう言うなら…。烈弥と刻もなんとなく感付いてると思うから、適当に声掛けろよ」

「あぁ……と、行くか。みんな待ってるみたいだしな」

 

全員着替え終わったらしく、入り口のところに居る姿が見え、俺と志郎は揃ってそちらへ向かった。

来た時と同じでスグは私服、スグ以外の俺たちは学校の制服という格好だ。

 

「アンタたち遅いわよ。アイス2人の奢りだから」

「ゴチになるっす」

「よろしくね、お兄ちゃん」

「「お願いしま~す」」

「あはは、ごめんね2人とも」

「「はいはい…」」

 

里香を皮切りに、刻と直葉、烈弥と珪子、明日奈までがそう言ったので、

俺と志郎は早めにくればよかったと思いつつ、苦笑しながらそう返事をした。

 

 

職員室に鍵を返した後、みんなで学校近くのコンビニに向かうが、俺と志郎は自分のバイクを押していく…面倒臭い。

5分ほどかけて歩くことでコンビニに着き、それぞれが好きなアイスを選び、俺が代金を出した。

志郎には明日奈たちを見ていてもらったから、俺が礼も込めて全額出す事にしたのだ。

みんなでアイスを食べ(勿論、カップル同士で食べさせ合いをした)、あとは夜のALOダイブの為に帰宅となった。

烈弥は珪子を、志郎は里香を、俺が明日奈を送るから刻にスグを送ってもらうことになったのは当然。

さて、各自で別れて俺はバイクの後ろに跨った明日奈なのだが、俺はここで1つ提案することにした。

 

「明日奈…俺、キミの水着姿が見たいんだけど、どうかな?」

「え、えぇっ///!? で、でも、またの機会にでもって…///」

「あの時はみんなを待たせるわけにはいかなかったけど今なら2人きりだし、

 少しくらいなら時間も取れるかなって、思ったんだけど」

「そ、それって…//////」

 

俺の言葉の意味を察した明日奈は顔を真っ赤に染め、視線を逸らした。

嫌がることはないと思うけど、無理はさせたくないというのはある。

それを伝えようとしたら…。

 

「わたし、も…和人くんと、同じ……期待、してたから…/////////」

 

俺の服の裾を掴みながら、真っ赤な顔をさらに赤く染めて、けれどどこか期待している瞳を俺に向けてきた。

あ~も~、ホントにこの娘は…。

 

「可愛すぎるっての……行こうか?」

「うん…/////////」

 

可愛い返事を聞き、お互いにヘルメットを被り、適度なホテルへと向かった…。

 

和人Side Out

 

 

 

 

キリトSide

 

アスナと愛の一時を過ごした後で彼女を家まで送ってから帰宅し、

スグと共に夕食を終えてから私用を済まし、ALOへとダイブした。

待ち合わせ場所のシルフ領の南方にある『トゥーレ島』まで向かい、

すぐにやってきた他のメンバーと共に遊びながら他のメンバーの到着を待つ事にした。

水辺にて女性陣は水着姿で遊んでおり、俺たち男性陣は砂浜でビーチパラソルとビーチチェアを用意し、

水着姿でゆっくりと過ごしている。

 

「ふぅ~、落ち着くな~…」

「……英気を養うに限るということだな…」

 

ハクヤとハジメがそう会話しており、俺も心中では大変同意である。

 

「それにしてもいいよな、青い空」

「白い砂浜ですね」

「寄せて返す波、だな」

「眩しい太陽っす…」

 

クライン、ヴァル、シャイン、ルナリオが順に言葉を繋いでいき、

 

「そして水着の……」

 

最後に俺がそう言って区切り、みんなで視線を目の前の海で遊ぶ女性陣に向け、

ハジメを除く全員で揃って言おうとしたところで…、

 

「よぉ、お待たせ」

「「「「「「……エギルェ…」」」」」」

「な、なんだよ……って、おい!? クラインとシャインはなんで武器を構えてやがるっ!?」

「「うるせぇーーー!! 俺たちの潤いを汚しやがってーーー!! 一回斬られろやぁー!!」

 

突如、俺たちの前に遅れてやってきたエギルが水着姿で登場し、その筋肉溢れる肉体を俺たちの前に晒した。

ハジメ以外で揃って不貞腐れながら彼の名を呼ぶしかなく、怯んだ様子を見せたエギルに対し、

クラインが刀を、シャインが剣を持って叫びながら斬り掛かりにいった。

 

「……エギルの奴、今回はタイミングが悪かったようだな」

「同感……というわけで助けない」

 

ハジメが呆れつつ同情し、俺も同意するが助けはしない……いまの内にアスナとユイの水着姿を見て潤うとしよう。

見てみれば、ユイはピナの背中に乗っており、

シリカと一緒にリズを相手に水の掛け合いっこをしている…あ、リズがピナに倒された…。

一方、アスナが少し不安そうなリーファと話しをしている様子からして、泳ぎのことなのだろう。

それはアスナとルナリオにリーファをサポートしてもらうしかないな。

そしてお姉さん組のティアさんとカノンさんは2人で軽快に泳いでいる…どうやらアバターを水に慣らしているみたいだな。

 

「キリト、ルナリオ、今日のクエストはホントにクジラが出てくるのかぁ?」

「ユイちゃん楽しみにしてるからな~」

「これでクジラじゃない生き物とかだったら…」

「泣き、はあの娘ならしないけど、間違いなく落ち込むよな~」

「クエストの最後に巨大な水棲型モンスターが出るってのは分かったんだが、詳しい内容はな~…」

 

クラインの心配、シャインとヴァルが気に掛かること、ハクヤの言うことも分かるが、

今回ばかりはあまりにも情報が少ないのだ。エギルも調べたうえで言ってくれているがそれも仕方がない。

 

「どちらにしろ運に頼る形になるけど、今回はそれに賭けるしかないさ。よし、そろそろ行くとするか」

「「「「「「「おう(はい)!」」」」」」」

 

意気込みをし、遊んでいる女性陣に声を掛け、俺たちは準備をする。

 

 

いつもの戦闘服に装備を変え、レイドパーティーを組んでから俺たちは海底神殿のある座標へと飛行して向かった。

座標付近に辿り着いたことで神殿のある場所が光を放っていることにクラインが気付き、全員で頷き合う。

 

「それじゃあ、《ウォーターブレッシング》の魔法をかけるね」

「では、私も」

 

ウンディーネであるアスナとティアさんが水中補助の魔法のスペルワードを詠唱し、俺たちに魔法をかけた。

そして俺たちは一斉に水中へと駆け抜けた。

水中は泳ぐというよりも飛行するという感じだが、スグにとってはそうでもないようだな。

途中、スグが溺れそうになったが、アスナとルナリオが彼女の手を引くことでなんとかなった。

そして、俺たちは海底神殿をこの目にした…。

 

「凄いわね…」

「ええ、如何にもなにかありそうな感じが特に…」

「ん、神殿の入り口付近、誰かいるぞ」

 

感嘆の言葉を漏らすカノンさんとティアさん、そしてシャインが指し示す先には確かに人影が見える。

どうやらクエストNPCのようだが、果たしてどんな人物なのやら……俺は一応警戒するように指示し、みんなで近づいた。

そしてその場に降り立つことで、その人物が老人であることがわかった……名は『Nerakk』だから、読みは『ネラック』かな?

いや、だがこの名前、どこかで見たような…。

 

「どうしました、ご老人」

 

気にしつつも一応、礼儀を正して訊ねてみるとクエスト受注ウインドウが出現した。

クエスト名は『深海の略奪者』というものらしく、話しを進めるために受注する。

 

「おぉ、地上の妖精たちよ…。この老いぼれを、助けてくれるのかい?」

 

そう言って老人は話しを始めた。

古い友人への土産物を、この神殿を根城にしている盗賊に奪われてしまったとのことで、それを取り返してほしいらしい。

奪われたものはかなりの大きさの真珠とのこと。

 

「お、おおきな真珠なのね…」

「この前みたいに売り飛ばしたりするなよ…」

「し、しないわよっ!?……そ、それに、あのあと散々怒られたし…///」

 

後ろにいるリズとハクヤの会話から察するにどうやらクエストで必要な高級アイテムを売り飛ばしたようだな、リズのやつ…。

 

「どうかしたの、リーファちゃん? ティアさんも?」

「いえ、あのお爺さんの名前に見覚えがあった気がして…」

「はい、私もなんですけど、思い出せなくて…」

 

それに俺が感じた違和感のようなものをリーファとティアさんも感じ取ったようだ。

なら、この老人は神話とかに関係しているのか? ともかく、いまはクエストを進めることを優先しよう。

クエストが探し物系であること、神殿内にはモンスターも出現し、

水中での戦闘となるため前衛は武器の振りが遅くなること、

後衛は雷属性の魔法が使えないことに注意するように伝えると各々が意気込む。

 

「それじゃ、行こう」

 

みんなで神殿の内部へと向かって歩き出すが、俺はリーファとティアさんに近づき、声を掛ける。

 

「2人とも、あの爺さんの名前について、何か思い出したらすぐに教えてほしい」

「ということは、お兄ちゃんも…?」

「分かりました。気に留めておきます」

 

2人が同じく気になっていることに注意してもらうことにし、俺たちは神殿内へと進んだ。

 

 

 

 

神殿内を探索しながら奥へと進む。

移動途中で魚型や甲殻類型のモンスターと戦っているがいまのところ大きな問題は出ていない。

しかし、一度だがリーファがモンスターに遅れを取ることが起き、そちらは上手くアスナやルナリオがフォローしてくれた。

問題があるとすれば、そのリーファが焦っているということだ。

傍目から見れば気付けないが、俺たち『神霆流』の面々からすればそれが目に見えてわかる。

彼女のサポートにはルナリオがついてくれているが、何が起こるか分からないからな…注意しておくべきか。

 

「で、だ……このどこからどう見ても落とし穴というものをどうすればいいと思う?」

 

そんなこともあったが、目の前にあるのは如何にもな落とし穴であり、中は渦が巻いていることから吸い込まれるのだろう。

しかし、迂回路がない以上、この落とし穴をどうにかしないと……よし。

 

「シリカ、ピナにこの穴に向けてブレスをしてもらえるか?」

「? 分かりました、ピナお願い」

「きゅっ!」

 

シリカとピナにお願いし、ブレスを穴に向けて放ってもらった。

俺の予想がただしければ、この穴に何かをすれば塞げるはず……すると、渦の中からモンスターが出現した。

名は〈Armachthys〉、大型の魚型モンスターだ。

前衛である男性陣で前に出て、各々の武器で攻撃を仕掛ける……が、頭部は堅く、攻撃が通らなかった。

 

「俺とシャインでタゲを取る! みんなは側面から攻撃と魔法の援護を!」

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

指示をだし、戦闘を開始する。

 

俺は《武器防御》で、シャインは《武器防御》と盾による防御で攻撃を防ぎながら引き寄せ、

みんなは攻撃の通り易い側面から仕掛ける。

このままならばすぐに倒せるだろうと俺もみんなも考えたからか、

補助魔法を掛けてくれたリーファも愛刀『シルフィル』を抜刀して攻撃に参加した……その時だった。

突如として敵が俺たちから離れ、高速で泳ぐことで水中の中に竜巻、つまり渦潮を作り出した。

 

「えっ、きゃあぁぁぁっ!?」

「「リーファ!」」

 

運悪く、飛び掛かっていたリーファがそれに巻き込まれたことで高く巻き上げられ、

そのまま落とし穴の渦へと吸い込まれそうになり、必死で縁にしがみ付いているのがわかる。

こんの、魚野郎っ!

 

「ルナリオ!」

「うっす!」

 

俺とルナリオが同時に渦潮の上部へ向かって飛び込み、上手く体勢を整える。

飛び込んだ時にアスナたちの声が聞こえたが、この際は関係ない。

渦潮の上部に到達した時点で天井に足を向け、ルナリオとともに声を揃えて武器を振り下ろす。

 

「「人の妹(女)に、手ぇ出してんじゃねぇ!」」

 

俺の剣は頭部の装甲の薄い部分に突き刺さり、ルナリオの攻撃はその身に叩き付けられた。

敵はポリゴン化して消滅したことで渦潮も消滅し、俺たちはすぐさまリーファの手を掴む。

危うく手が離れそうになっていたがなんとか間に合い、2人で彼女を引き上げる。

 

「ふぅ、間に合ったか…」

「ギリギリだったっすね…。スグ、大丈夫っすか…?」

「はぁ、はぁ…うん、大丈夫…」

「キリトくん、リーファちゃん、ルナリオ君、大丈夫!?」

 

肝が冷えたが(あくまでも表現的なもの)大事に至らず何より、アスナもみんなと駆け寄ってきた。

そういえばルナリオのやつ、久しぶりにマジギレしてたな。

言葉遣いが変化してたし、いまもリーファをスグと呼んだからな。

 

「もぅ、キリトくんもルナリオ君も、いくら助けるためでも無茶しすぎだよ!」

「「どうもありがとう(っす)」」

「褒めてません!」

 

アスナに怒られるが褒めてないことくらい分かってるっての、だがこれくらいは見逃してほしいものだ。

 

「ルナくんもお兄ちゃんも、助けてくれてありがとう。それに、溺れて助けられたのは2回目(・・・)だね」

「思い出したのか、あの時のこと…?」

 

それは幼い頃の出来事、スグは家の庭にある池を眺めていたようなのだが、

誤って落ちてしまい、軽く溺れかけたことがあった。

幸い、すぐに気付いた俺が引き上げる事で大事には至らなかったが、

以来スグはその時の恐怖心(トラウマ)からなのか水中が苦手となったらしい。

本人はその恐怖心から時間が経つに連れて忘れていったようだが、いまのことで思い出したようだ。

ま、俺もあの時は背筋が冷えた思いをしたのを覚えている。

 

「大丈夫なのか?」

「うん……というか、思い出したから平気になったかも」

「そっか、まぁ無理はするなよ」

 

しっかりと頷いたことから本当にもう大丈夫なのかもしれない。

ふと、後ろを振り返ってみるとみんながニヤニヤしながら俺たち、というよりも俺のことを見ていた。

アスナとユイ、ティアさんでさえ微笑ましそうに見てくる……俺は僅かな気恥ずかしさを感じ、

咳をして紛らわせてから先に進むように促した。くっ、ネタにされないか心配だ…!

 

 

からかわれることは無かったがみんな一様にニヤニヤしてくるのでムカついたということは心に留めておくことにしよう。

他意はないはずだ、そう信じてやろうじゃないか。

さて、そんなこともあったが以降は大したこともなく、順調に進むことができた。

モンスターを蹴散らし、罠を無効化し、階段などを下っていくことで迷宮の最深部へと到達することが出来た。

そして、ついに俺たちは真珠のある場所へと辿り着いた。

 

「わぁ~、本当に大きいですね~」

「こんなに大きな鉱石系アイテムは滅多に無いからね」

「……どれくらいで売れるかしら…」

「おい、リズ…」

 

純粋に驚くシリカとヴァルに対し、リズは職人と商人の性なのか欲望丸出しでハクヤに呆れられている。

なお、同じような目をしていたのはルナリオも同じでリーファも苦笑していたり…。

 

「罠とかねぇだろうな~?」

「そうですね。見た感じではないですけど…」

「良く調べてみた方がいいかもな」

 

クラインとカノンさん、エギルの言うように罠があるかもしれないため、

注意しながら部屋の中や真珠の周りを探るが、特に怪しいものや罠の類はなかった。

 

「ティアさん、何か思い当たることはありましたか?」

「いえ、残念ながらお爺さんの名前で思い当たることは…。キリト君はどうですか?」

「俺も思い当たることはありません。リーファもあの様子だと無さそうですし…。まぁ、思い過ごしであればいいんですが…」

 

気に掛かっていたことについて訊ねてみたが、ティアさんに思い至れないのならば俺の記憶にもないだろうし、

リーファも特になかったのだろう。

 

「よし、それじゃあ運び出すか。俺が運ぶから、みんなガードよろしく。特に盗賊が出てきてないからな」

 

みんなに未だ出て来ていない盗賊を注意することを促し、俺は両手で真珠を抱える。

目的の物が手に入ったことで、俺たちは神殿から脱出することにした。

だが、俺はその間も首筋がチリチリとするいつもの予感を感じ取っており、

嫌な予感を想定することで強く注意することにした。

 

 

 

 

真珠を運んでいたからなのか、モンスターのポップ率やらエンカウント率が増したようで、

戦闘が多かったもののみんなが上手く迎撃してくれたので無事に神殿内から脱出することが出来た。

 

「俺は当分、エビやカニは見たくねぇ…」

「イカとタコもな…」

「ついでにサメと貝も…」

 

クライン、エギル、シャインの3人が神殿入り口の階段に座り込んでそういった。

まぁ、アレだけの数の魚介類や甲殻類と戦えばな(苦笑)

あとはこの真珠を渡すだけなので、俺は先に居る老人に渡そうと歩を進める。

 

「……それにしても、盗賊など1人も出てこなかったな」

「そういえばそうだな~」

 

ハジメとハクヤの声が聞こえ、そういえばと思った。

盗賊に盗まれたと言っていたにも関わらず、肝心の盗賊が神殿を徘徊するどころか真珠を守ってさえいなかった。

それに真珠は宝物庫とは言えないが祭壇のような、しかし珊瑚の上に乗せられていたということもある。

その話しを聞き、思い当たる節が浮かんでくることで俺の進む速度は下がる。

 

「ん~、なんか引っ掛かるっすね~…」

「何が?って、聞いた方がいいかな? 僕もなんだけど…」

「あの真珠があったところ……何かに似てるんっすよ。なんだっけ~…?」

 

どうにもすっきりしないのはルナリオとヴァルも同じらしく、言葉を交わしている。

相も変わらず、俺たちの勘は人並み外れておかしいようだ。

さらに短くなる歩幅とゆっくりになる足の速度、あと5mも進めば老人の元へ辿り着くのだが…。

 

「あれ祭壇なんすかね~? そりゃ宝は迷宮の一番奥とかって相場が決まってるっすけど、

 普通は宝箱の中とか財宝部屋に置かれてるとかじゃないっすか?

 それがあんな風に珊瑚で作った巣(・・・・・・・)みたいな場所に置くだけってのも…」

 

珊瑚で作った巣、確かに階段を登ったところの円形の台の上には珊瑚が敷き詰められ、

その中央にポツンと置かれている真珠の様はまるで何かの卵(・・・・)の、よう…で……たまご…?

ルナリオのその言葉を聞いた俺はたった1つの単語に思い至った……“卵”、なんてことはないはずだが、

その1つのキーワードが頭の中に警鐘を響かせる。

前に居る老人との距離は2mほどだが、俺は既に歩みを止めて警戒心を一気に高め、言葉を投げる。

 

「アンタ、何者だ…?」

「儂は友人への土産を盗賊に盗まれた只の老いぼれじゃよ。

 ささ、褒美はたんまりと用意してあるので、真珠を渡してはいただけんかの~?」

 

あくまでも模範的な解答であり、それにはおかしなところなどないだろう。

だがそれでも、俺は警鐘がやまないために警戒を続け、行動に打って出た。

自身で持っている球体が本当に真珠なのかを確かめるために、海面から差し込んできている光に向けて球体を翳した。

そして見えたものは、球体の中で赤い心臓のようなものを蠢かせ、僅かながら身じろぎをする生き物(・・・)だった…。

直感的に悟ったのはコレの持ち主がこの爺さんではないということと、

この爺さんはただのイベントNPCではなく、(・・・)かもしれないということだ。

 

「コレは俺たちが元の場所に戻してくる。

 クエスト通りの『深海の略奪者』にはなりたくないんでな……アスナ! しっかり受け取れよ!」

「えっ!? は、はいっ!」

 

爺さんに宣言してから後ろへ振り向きざまに卵をアスナにパスし、

彼女が上手くキャッチしたのを確認してすぐさま背中の剣を抜いた。

明らかな俺の行動に全員が何かしらを悟ったのか、武器を構えながら俺に並んだ。

 

「渡さぬというのならば、力ずくで奪い取るまでよぉっ!!」

「っ、戦闘陣形! アスナとユイは一番奥まで下がれ!」

 

すぐさまアスナとユイに退くように指示し、みんなには陣形を取らせる。

俺たち男一同は最前に立ち、その少し後ろにリーファ、リズ、カノンさん、

さらにその後ろにティアさんとシリカの2人、最後方にアスナとユイという陣形。

そして老人は己の姿を変貌させる……長く蓄えていた髭は吸盤を備えた8本の触腕に変化し、

体は大きく膨れ上がると巨大な軟体生物になり、その姿はまさしく巨大なタコだ。

そして、『Nerakk』となっていたスペルの順番が入れ替わると、『Kraken』となり、

さらに追加されることで〈Kraken the Abyss Lord(クラーケン・ザ・アビス・ロード)〉となった。

出現したHPバーの数は、7本だと…!?

 

「クラーケン!?」

「北欧神話の海の魔物じゃないですか!?」

「ってことは、こいつが『深海の略奪者』になるわけか!」

 

驚愕するリーファとティアさん、それにシャインは苦々しく表情を歪めている。

 

「我を拒む結界が張られた神殿から、良くぞ『御子の卵』を持ち出してくれた! さぁ、それを我に捧げよぉ!」

「はっ、お断りだ! この卵は俺たちで元の場所に戻させてもらう!」

「愚かな羽虫めが、深海の藻屑にしてくれるわぁっ!!」

「来るぞ!」

 

クラーケンの言葉に拒否を示したことが戦闘の合図となった。

 

キリトSide Out

 

 

 

 

No Side

 

先制、クラーケンは2本の触腕を振り下ろした。

1本をクラインとエギルが武器で防ぎ、2人にリーファとシリカが支援魔法で援護する。

もう1本の触腕はシャインが盾で受け止め、カノンが斬り掛かる。

キリト、ハクヤ、ハジメ、ヴァル、ルナリオは水中に飛び出し、水中を泳ぎ回ったところで胴体に斬り掛かった。

すると、それを予期していたのか残る5本の触腕を使いキリトたちの攻撃を防いだが、彼らは問答無用で斬り捨てる。

 

「効かぬわぁっ!」

「「「「「「なっ!?」」」」」」」

 

クラーケンの言葉通り、キリトたちが攻撃した触腕の部位は瞬時に再生した。

さらに追撃を行うべく、水中を泳ぎ回るキリトたちに向けて5本の触腕が襲い掛かってきた。

空を飛ぶ要領で水中を高速で泳ぎ、彼らは回避を続けるものの、

やはり地上や空中とは勝手が違うせいか動きが鈍ってしまうらしい。

即座に反転し、その勢いを利用して攻撃の威力を高め、ギリギリのところで攻撃は防いでいる。

 

「「「ぐっ、おぉっ!」」」

 

一方、シャインは1人で、クラインとエギルは2人掛かりで触腕による攻撃を防いでいる。

しかし盾役の彼らの消耗は激しく、常にHPが削られていく。そこを回復役(ヒーラー)のティアが回復魔法を行使し、回復させる。

リーファとシリカも僅かながらだが回復させる魔法を覚えているため、連続して回復魔法を行使し、

ピナも回復の技である《ヒーリングブレス》を彼らに放つ。

カノンは積極的にシャインを援護するために触腕に斬り掛かり、

リズベットもクラインとエギルがやられないように可能な限りの援護攻撃を行う。

 

キリトたちも水中を泳ぎ回ることで攪乱させつつ攻撃を行っている。

けれど、幾ら攻撃を当ててダメージを与えようとも、瞬時に部位回復とダメージ回復を行われてしまうため、キリが無い。

もう1人の剣士兼ヒーラーであるアスナは卵を抱えているため戦闘は行えない。

そして、戦況は動き出す…。

 

「虫けらがワラワラと、潰れてしまえぇっ!」

「っ、しまった!?」

 

クラーケンは声を上げると、水中を泳いでいたキリトたちを触腕で攻撃するのをやめ、

8本の触腕で目前に居るクラインたちに一斉に振り下ろそうとした。

それを防ぐべく、キリトたちは高速で泳ぐことで触腕の前に到達し、武器を振りかざし、5本の触腕を防ぐ。

残った3本の触腕の勢いは止められず、1本はシャインが、もう1本はクラインとエギルで防いだ。

しかし、防御するにはそれでは足りなかった。

 

―――ドガァァァンッ!!

 

「「「「「ぐぅっ!?」」」」」

「「「「「キリトくん(ハクヤ)(ヴァルくん)(ルナくん)(ハジメさん)!?」」」」」

 

水中だったためにまともな防御姿勢を保つことが出来なかった5人はアスナたちの前に叩き付けられ、

アスナ、リズベット、シリカ、リーファ、ユイは悲痛な声を上げた。

 

「「「ぐぉっ!?」」」

「「シャイン(クラインさん)(エギルさん)!?」」

 

足をつくことが出来ていた3人は確かに2本の触腕を防ぐことは出来たが、

残る1本の追撃が入ったことで攻撃を大きく受けることになり、ティアとカノンの悲鳴が上がる。

全員が無事ではあったものの、そのダメージは大きく、男性陣のHPは全てレッドゾーンまで到達していた。

すぐさまティア、リーファ、シリカ、ピナによる回復が行われるが全回復するまではまだ時間が掛かる。

 

「このままじゃみんなが…」

「ですがママ、あのタコさんのステータスは高過ぎます! 新生アインクラッドのフロアボスを遥かに上回っています!」

「そんな…」

 

最悪な現状に動揺するアスナ、娘のユイもさすがの状況に動揺が抑えきれない。

さらに止めだと言わんばかりにクラーケンは大きな口を開き、その中の無数の歯を蠢かせてくる。

 

「万事休す、か…!」

 

そして、倒れ伏すキリトたちをそのまま飲み込もうとクラーケンが飛び込んだ……その瞬間、

クラーケンの目前に彼をも超える1本の巨大な三叉槍(さんさそう)が突き刺さった。

 

No Side Out

 

 

 

 

キリトSide

 

なんだ、なにが起こった…? 俺たちに襲い掛かろうとしたクラーケンの前には、巨大な三叉槍が突き刺さっている。

俺たちは、助かったのか…その時、俺たちの上からまたもや巨大な人影が現れ、

その人物はアスナの後方である神殿入り口の目前に降り立った。

巨体を持つその人物にもHPバーが8本現れ、さらに名前も出現した。

その名は〈Leviathan the Sea Lord(リヴァイアサン・ザ・シー・ロード)〉、旧約聖書にその名を記す海の怪物、そして海の王を冠する者だった。

 

「久しいなと言っておこうか、古の時代よりの友よ。相変わらず悪巧みばかりしているようだな」

「そういう貴様こそ、いつまでアース神族の手先に甘んじているつもりだぁっ? 海の王の名が泣くのではないのかぁっ!?」

 

どうやらクラーケンとこのリヴァイアサンというのは既知の存在であるようだ。

だが、話しの意図が掴めない……この問答、只のNPCのものじゃないぞ…。

ともあれ、やはり助かったことに変わりはないようで、立ち上がって彼らの様子を見守る。

既にHPは全回復しているのでもしもの場合は神殿に逃げ込めばいい…。

 

「私は王であることに満足している。そしてここは私の領域、それを知りながらも戦いを挑むのか、深淵の王よ?」

「……今は退かねばなるまい…だが、儂は諦めるつもりはないぞぉっ!

 いずれは御子の力を我が物とし、忌々しい神々に生ける者の鉄槌を下す時まではぁぁぁぁっ!!」

 

最後の問答を終えたのか、クラーケンは巨体を背後に滑らせるとそのまま深海の奥底まで降りて行った。

どうやら、危機は完全に去ったみたいだな。

そう安心したところで、全員揃ってリヴァイアサンの方へ振り返ると、彼は片膝をついて話しだした。

 

「その卵はいずれ全ての海と空を支配するお方のもの…。新たな御室(みむろ)に移さねばならぬ故、返してもらうぞ…」

 

リヴァイアサンが言い終えた同時に彼は手を出して輝かせ、アスナの腕の中にあった卵が消えた。

それが終わると俺の前にはクエストクリアを示す『Congratulations!!』のウインドウが出現した。

 

「これでクリアなんですね…」

「なんか良く分からなかったっすけど…」

「あたし、小父様とタコの話しについていけなかったわ…」

「正直言うと俺も…」

「いまはそれで良い」

 

ヴァルとルナリオ、カノンさんとシャインの4人は理解が追いつかなかったようで、口々にそう言い、

他のみんなも似たような反応であるが、リヴァイアサンが最後に言ったことで俺たちは自ずと沈黙することになった。

 

「さて、そなたらを国まで送ってやろう…」

「送るって…」

「……どうする気だ…?」

 

リヴァイアサンの送るという言葉にシリカとハジメが疑問に思ったようだが、

直後に俺たちを影が覆い尽くした。上を見上げてみると、そこには…。

 

「「「「「「「「「「えぇ~~~~~~~~~~!!!???」」」」」」」」」」

 

 

―――ザッッッパァーーーーーンッ!!!!!

 

海が大きくうねりを上げ、俺たちは一気に海面へと戻ってきた。

俺たちが海上へと戻った方法、それはリヴァイアサンが呼んだ彼の眷属。

 

「クジラさん、すっごくすっごく大きいです!」

「きゅ~♪」

 

念願の鯨を見るどころか乗ることの出来た喜びからはしゃぐユイとピナ。

リヴァイアサンの呼んだ眷属が俺たちの乗っている超巨大な鯨であり、この鯨こそが目撃証言の正体だったわけだ。

鯨は特有の鳴き声をあげており、それが音楽のように響き渡っている。

大喜びのユイを見て、俺とアスナは寄り添い合い、俺はアスナの肩を抱き寄せた。

他のみんなも言葉にはせず、ただこの最高の光景を眺める…。

 

 

こうして、ユイの願いは叶い、俺たちの思い出が増えることとなった。

 

キリトSide Out

 

 

 

和人Side

 

ふと、風によって髪が靡いたことに気付き、瞳を開ける。そこは学校の屋上だった。

大分寝てしまったようだが、まさか去年の夏のことを思い出すとはな…。

 

「クラーケンは確かに言っていた、“アース神族”と“忌々しい神々”、それに“生ける者の鉄槌”と…。

 オーディンとの邂逅と『神々の黄昏(ラグナロク)』、それとも明らかに繋がりがあるだろうな…」

 

つい先日、主神との邂逅を果たした俺はあの時のリヴァイアサンやクラーケンの言葉を思いだす。

最初に彼らと邂逅した時は良く分からなかったが、『聖剣エクスキャリバー』入手時のノルン三姉妹やトールやスリュム、

先日のオーディンやヘイムダルの存在、確実に偶然ではないはずだ。

 

「やれやれ、一体何が起こるのやら……ま、何が来たとしても、俺たちが勝ってみせるさ…」

 

言葉に洩らしつつも、大切なものを思い出して決意を確かなものにする。

昼休みはまだまだ時間があるし、もう一眠りするか…。

 

和人Side Out

 

 

 

END & To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

これにて黒戦版の『Extra Edition』は完結となりました。

 

最後の和人の語りを見てお分かりかと思いますが、和人視点は彼の思い出としての夢でした。

 

オーディンと邂逅し、ヘイムダルのクエストをこなした和人が当時のことやキャリバーの時のことを思いだし、

次期になにかが起こることを考えているということです。

 

つまり、『Extra Edition』はラグナロクへのフラグということですw

 

勿論、本編のほうでもリヴァイアサンとクラーケンは登場しますのでその時をお楽しみに!

 

それでは次回の本編で・・・。

 

 

 

 


 
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