No.655716 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第二十三話2014-01-18 22:00:42 投稿 / 全10ページ 総閲覧数:9073 閲覧ユーザー数:6343 |
「…ただいま」
「雪蓮?どうした、そんなにやつれた顔をして…もしかして話が決裂したのか?」
自陣に戻って来た孫策を出迎えた周瑜は、孫策の疲労困憊の顔を見て心配そうな
顔をする。
「話はするから今はお酒を一杯だけ頂戴…」
・・・・・・・
「……まさか、そんな事が…」
孫策から事の顛末を聞いた周瑜もさすがに頭が混乱していた。
「まあ、とりあえずこちらの悲願に力は貸してくれるって事だし、しばらくは様子
見って所ね」
「ああ…そうだな。しかし…」
周瑜はそれだけ言うと眉間に皺を寄せたまま考え込んでしまう。
(これは思ったより今の洛陽の力は強いと見るべきだな…文台様が一度も勝てなか
ったというあの方がいまだ健在のまま、そして新帝の手腕とそれに付き従う者の
多さ。悪いが袁家などとは役者が違うという事だな…しかも向こうは我々に役目
を負わせる代わりに悲願達成の手助けをしてくれると言ってきた。もはやどちら
に付くなど明白な話だ。問題はそれを皆に何処まで伝えるかだ…しかも、それは
袁術や張勲に洩れないようにしつつに)
そのまま考え事をしている周瑜を横目に、孫策は結局酒を飲み続けていたのであ
った。
その頃、一刀の陣にて。
「はぁ~、さすがに青州は遠かったな~」
そう言いながらやってきたのは馬超さんだった。
「翠姉様!」
「おおっ、蒲公英!元気そうじゃないか。どうだ、今の仕事は?」
「うん、たんぽぽ大活躍だよ!」
それを出迎えた蒲公英の顔も嬉しそうだ。蒲公英も連絡役として天水に来てその
まま俺の部下という形で洛陽に来たから、馬超さん会うのも久しぶりという事に
なるしな。
「…翠姉、北郷殿にもご挨拶」
しばらく蒲公英と話をしていた馬超さんの後ろから現れた女の子がたしなめるよ
うに声をかける。あれ?この娘、もしかして…。
「ああっとすまない、北郷も久しぶりだな。今回は私が母様の代理でこっちに来た。
よろしく頼む」
「こっちこそ、馬超さんが来てくれれば千人力だよ。ところでそちらの娘って…」
「北郷殿、ご無沙汰してます。その節は蒲公英ともどもお世話になりました」
少々感情の起伏が少ないような表情でそう挨拶してきたショートカットのこの娘
は、俺が始めて武威に行った時に韓遂の所から蒲公英と一緒に助け出した五胡の
姫君様だった。
「やっぱりそうだったんだ…でも何故馬超さんと一緒に?」
「私は部族と馬家の友好の証として馬家の養女に入り、名も馬鉄と改めました。真
名は雫(しずく)です。北郷殿、よろしくお願いします」
それを聞いて蒲公英が一番驚いていた。
「ええ~っ、たんぽぽ聞いてないよ!」
「…義母様はちゃんと蒲公英にも手紙を送っているはずだけど?確か一ヶ月は前に」
馬鉄さんにそう言われた蒲公英の眼が微妙に泳ぐ。
「え…ええ~っと?そうだっけ、はははっ…そうだ!それはそうと翠姉様までこっ
ちに来ちゃって向こうの方の守りは大丈夫なの?」
あっ、今強引に話題を変えた。皆の顔もそう言っているようだったが、一応それ
は流したまま馬超さんが蒲公英の問いに答える。
「ああ、あっちは母様と仄(ほのか)が残ってるから大丈夫だ」
「へぇ、仄がね~…」
「大丈夫、仄も最近強くなったから」
「そうだな、蒲公英が北郷の所で頑張ってるって聞いて自分もって随分と張り切っ
てるしな」
「ちなみに今の話に出ていたのは翠姉の実の妹の馬休の事です」
話に加わっていなかった俺に馬鉄さんは親切に説明してくれる。彼女はなかなか
気配りの出来る人のようだ。
「ありがとう、馬鉄さん」
しかし俺がそう返答した瞬間、馬鉄さんはムスッとした顔をする。
「えっ、どうかしたのk『雫…今預けた』…ああ、そうだった。ごめん、雫。あり
がとう、俺の事は一刀で良いよ」
俺が謝ると雫は顔を綻ばせる。ふむ、こうして見ると微かではあるけどちゃんと
感情の起伏はあるようだ。
「うん、これからもよろしく、一刀さん」
その後、馬超さんからも真名を預かり、俺達と西涼勢は和気あいあいと陣を共に
する事になったのであった。
それから二日後、集まった各諸侯の軍によって黄巾党の城への攻撃が始まったの
だが…。
「今日も落ちなかったようだな」
「はい、どうやら各諸侯の足並みが揃ってないようで…単発で行っては押し返され
ているようです。しかも、曹操や袁術といった兵力が大きい所は今の所、傍観に
徹しているようです」
輝里からの報告を聞いた皆からはため息も出なかった。
「しかし予想通りとはいえ、此処までとは…」
「…でも私達もこうして後方で見ているだけ」
「雫の言っている事も分かるけど、蒲公英達のいる所って大分後方でしょ?他の軍
勢を押しのけてあそこまで行けないよ」
「でも、此処でこうしてるだけじゃあまりあいつらと変わらないんじゃないのか?」
「それじゃ翠は何か有効な手立てがあるの?」
輝里にそう言われた翠は言葉に詰まった感じになる。さて、どうするか…あれ?
「なあ輝里、空様は何処にいるんだ?」
「あれ?一刀さんが行き先を知ってるんじゃないのですか?」
「いや、何も聞いてないけど?」
他の皆も知らないようだし…何だか嫌な予感がするのは気のせいか?
その頃、曹操の陣の前にて。
劉備は曹操に言われた仕事を一通りこなし…などと言えば頑張っているように見
えるが、彼女が曹操から言われた仕事は雑用ばかりなので、少々やる気を失くし
て座り込んでいた。
「はぁ~、最近愛紗ちゃん達も曹操さんの所の人達とばかり話しているし、何だか
一人ぼっちな気分…」
劉備がそう呟いていると、
「おや、此処で何をたそがれているのだ?」
そこへ兜を被った女性が話しかけてくる。
「へっ?あ、あの…私は…っていうか曹操さんに御用ですか?」
「いや、少々暇なもので散歩してただけだ。そっちこそ何を一人でしょんぼりして
る?まさかお主だけ仕事が無いとかいうわけではないだろう?」
「無いわけではないですけど…何だかつまらないものばかりなので」
「ほう、つまらぬとは?」
「元々私達は此処の人達に協力する為に来たはずなのに、私はずっと雑用みたいな
仕事ばかり…しかも他の子はだんだん此処の人とばかり交流していくし、こんな
思いをする為に義勇軍を立ち上げたわけじゃないのにって…」
劉備は初めて会った上に名も知らぬこの女性に自分の心の内を話してしまってい
る事に気付いていなかった。
「つまらぬな『そうなんですy…』違う、お主の心底がだ」
「私の…ですか?」
「そうだ、お主は何故自分が雑用みたいな事ばかりさせられているのかをまったく
考えていない。しかも、つまらぬ仕事としか考えないから結局何もかもつまらぬ
ような仕事しか出来ないのではないか?雑用とて誰かがやらねばならぬ仕事だろ
う?お前がそれをやってくれてる事で感謝している者がいるという風には考えら
れんのか?」
劉備はそう言われて考え込んでしまう。
「まあ、良い。お主にはお主の考えがあるのだろうからそれについてとやかく言う
つもりはない。後はどうするのかは自分で考えれば良い事だからな」
女性はそれだけ言うと飄然と何処かへ去ってしまった。
「何故自分がこうなっているのか…つまらぬ事としか考えられないからつまらない
仕事にしかならない…」
劉備はしばらくそれを繰り返し呟いていたのであった。
・・・・・・・
「空様…何処へ行っていたのですか?」
「何、軽い散歩だ」
「軽い散歩って…今どういう状況か分かってますよね?」
「だからこそ、だ。何時如何なる時にでも普段と同じ事をする、それが物事を冷静
に見極める為に最も必要な事ぞ」
何だか尤もらしい事を言ってるけど、要は自分のやりたいようにやるって言って
るようにか見えないのは気のせいか…どうせこれ以上言った所で聞く耳も無いの
だろうし、もしもの事がないようにこっちが気を配るしかないか。無駄なような
気もするが。
それから二日後。
「一刀さん、曹操軍が動き出しました!」
「曹操軍が!?」
ずっと傍観を決め込んでいたのにどうして今になってから?
そう思いながら曹操軍の行く先を眺めるが、どう見てもまっすぐ黄巾党の城へ向
かうようではなさそうだ。
「及川、曹操軍に探りを入れろ。出来れば劉備軍の方から潜り込ませるようにな」
「分かった!」
・・・・・・・
それから二刻後。
「かずピー、分かったで!曹操軍は黄巾党のわずかに残っていた補給路を潰しにか
かったようや!しかもそれを曹操はんに進言したんは劉備はんっちゅう話や!」
何と、劉備さんが?一体何があったんだ?
・・・・・・・
「ふふ、これで後は黄巾の連中が干上がるのを待つのみね」
曹操はそう言ってほくそ笑んでいた。
「しかしこんな経路があったとは…言われなければ誰も気付かないような所ですね」
「しかし何故劉備殿がそれを?」
「何でも、追加の兵糧を運んできた雑兵の中にこの辺りの出身の者がいて、その者
から此処に道があるのを聞いたらしいわね」
夏侯姉妹の疑問に曹操はそう答える。
「ほう…此処に来たばかりの時は自軍の者以外とはあまり会話をしなかった劉備が
一体どのような風の吹き回しで?」
「そういえばここ二日ばかりの劉備殿の様子は以前とはかなり違っているな…今ま
で嫌々やってる感じの仕事も、随分と楽しそうにやっているみたいですし」
「そう…一体何があったのかしらね?」
「桃香様、作戦は大成功だそうです」
「そう、良かった」
諸葛亮から報告を受けた劉備はホッとした顔でそう言っていた。
そんな劉備の顔を諸葛亮は不思議そうに見つめる。
「どうした、朱里?桃香様の顔に何かついているのか?」
「…愛紗さんは桃香様が変わりようにお気付きですか?」
「特に何も変わったようには見えないが?」
関羽のその言いように諸葛亮は少々乾いた笑みを浮かべる。
諸葛亮のそんな様子には気付かず関羽は劉備の元に駆け寄っていった。
「朱里ちゃん、桃香様何かあったの?何だかちょっと変わったね」
そう話しかけてきたのは鳳統であった。
「雛里ちゃんは分かったんだ。何があったのかは私も分からないけど…此処二日位
急に色々と真面目に取り組み始めて、今回の事も幾ら青州出身だっていう人から
聞いたからとはいっても、今までだったら気付きもしないような事を曹操さんに
進言してたし…本当に何があったんだろ?」
諸葛亮のその疑問に答える者は誰もいなかったのであった。
・・・・・・・
一方。
「どうするのよ~~~!あそこの道まで塞がれちゃったら、ちぃ達どうやってご飯
食べるのよ!!」
黄巾党の城内では張宝が一人そう喚いていた。
「ええ~~~っ、今までだってあんまり食べられなかったのに?お姉ちゃん、もう
限界だよ~~」
それを聞いた張角はその場にへたりこんで弱々しく呟く。
姉二人の騒ぎを余所に張梁は一人眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「ちょっと、人和!そこで仏頂面してないで何か言いなさいよ!」
「…仏頂面にもなるわよ。あの道は最後の逃げ道として考えていた道なんだから」
張梁のその言葉に二人は固まる。
「「………………………えええええええええっ!?」」
「そう言いたいのは私も同じ…こうなったらもはや手段は一つ」
張梁はそう言って暗い眼を外に向けていた。
それから二日後。
「おお~いっ、一刀~っ!元気にしとったかぁ~!」
「…霞?どうして此処に?」
「ふふ~ん、月がな、陛下に呼ばれて全軍率いて洛陽へ行ってん。そんでウチらは
一刀の手伝いをっちゅうわけで派遣されて来たっちゅうわけよ」
ら?…と思って後ろを見るとそこには少しばかり憔悴した顔の楽進さんがいた。
「ご無沙汰してます、北郷様…」
「ああ、久しぶり…何かあったのか?随分疲れてるようだけど」
「いえ、ご気遣い無く。大丈夫ですから…多分」
多分って…その時、俺の袖が引っ張られたのでそっちを向くとそこには恋とねね
がいた。
「…楽進、此処に来るまで毎日、霞の酒の相手してた」
「それも毎晩結構遅くまで…よく楽進殿は我慢出来たものです」
なるほど…そりゃ、疲れるわけだ。というよりそんなに毎日酒を飲んで何も変わ
りが無い霞の方がビックリだ。まさに霞が酒か、酒が霞かとかいう位のあれだな。
「ほう、遂に月が洛陽にか。それは重畳」
そこに空様が現れる。
「何や空はん、偉いけったいな兜被ってどないしたんです?」
「えっ、霞分かるのか?」
「…幾ら顔を隠しても闘気は一緒」
俺の疑問に恋が答える。そもそも知り合いである以上隠すのも難しいという事か。
とはいってもそれは霞と恋が一流の武人だからというのもあるだろうけど。それ
を証拠に武人ではないねねと空様を直接知らない楽進さんの頭の上には「?」マ
ークが浮かんでいる。
「何を呆けている、一刀。戦の始まりぞ!」
空様がそう言うや否や、黄巾党の城の城門が開き、中から軍勢が飛び出してきた。
よし、遂に最終決戦の始まりだな!
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
とりあえず今回は空様が色々な所に出没する
お話でした。
ちなみに空様はああ見えて気配を殺す達人で
もあったりしますので、曹操の陣の前までや
ってきても誰も気付かないという…でも普通
兜を被った人がやってきたら誰か気付きそう
ですが。その辺はご都合主義的な所でご勘弁
願いたく。
とりあえず次回はようやく黄巾党との最終決
戦の始まりです。
三姉妹の運命や如何に?
それでは次回、第二十四話にてお会いいたしましょう。
追伸 友好の証として来た五胡の部族の姫君が前線に
立つのは少々おかしいかもしれませんがご容赦
の程を。
Tweet |
|
|
49
|
2
|
追加するフォルダを選択
お待たせしました!
今回はとりあえず空と孫策の密談のその後と
続きを表示