霞の所へ向かってから、俺達は取り敢えず虎牢関で待てとの事で虎牢関に入った。
入れ替わりに華雄が出て行ったので俺達は取り敢えず虎牢関内の一室で待たされる事に。
牢屋に放り込まれでもするかとおもったがそんなことはなく……。
ぶっちゃけ言えば、捕虜としての待遇にしては破格。
ちゃんとまともなご飯は出てくるし、客間のような所に通された。
と言っても一部屋でみんないっしょに、という形でだけど。
若干狭かったけど不自由はなかった。
霞と華雄が帰ってきたのはそれから数日後。
まぁ連合軍を汜水関までガッツリ追撃して帰ってきた事を思えば納得の日数か。
霞達は帰ってくるとまっすぐ俺達の居る部屋へとやってきた。
「不自由かけたけど堪忍やで、ご……、いや……、一刀?」
第一声がこれ。
ご主人様と呼ぶのはマズイと思ったんだろうけど……、その呼び名も不味いって!?
止める間も無く天泣が消えたかと思えば、取り上げられていなかった大剣で霞に斬りかかる。
天泣は春蘭と一騎打ちした時のまま、つまりドレスを脱いだ本気モードのまま……。
しかし流石は霞か、激しい金属音と共に、その剣を受け止めた。
「……、あんたなぁ、確認もせんでいきなり斬りかかって来るのはどないやのん? 糜芳」
「だってあなたは敵ですからー、敵に上司の真名を呼ばれたとあっては黙ってはいられませんー。
……、あら? 私名乗りましたっけー?」
「なんとか言うたってや、今ここでやりあう気ぃ無いし」
「天泣、剣を収めてくれる? 霞……、張遼は知り合いだからさ」
「そ、ウチと華雄が多分こんなかで一番古い知り合いや」
「む、聞き捨てなりませんー、私と姉さんが一番最初のハズですよー?」
まぁ確かに、コッチの世界での括りならそうなんだけど……。
「ま、そう思うんやったらそれでもええわ。さて、まぁこんなとこにずっとおるんもアレやし洛陽に帰るとしよか」
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「ご主人様、チョイええかな?」
洛陽にたどり着いて一息ついて、それぞれがあてがわれた部屋に移動した後、霞と華雄が俺の所にやってくる。
つまりこの部屋には俺と華雄と霞しかいない。まぁ、だから霞がご主人様って呼んだんだけど
「構わないけど……」
「んー、実は連合軍に追撃かけたときな、どーも劉備軍が袁紹にムチャぶりされて殿におったらしいんやけど
そこで将を捕縛したんよ」
「将、ってことは鈴々と愛紗? 2人と本気で戦ってよく怪我しなかったね」
「主、腹を減らした鈴々が使い物になると思うか?」
「あー……。ならないな」
「愛紗にしても同様や、なんでもない風装っとったけども、動きにキレがなかったからどないんでもなったわ
まぁ腹が減っては戦はできんっちゅうこっちゃな。あと、朱里もとっ捕まえていま牢屋にぶち込んどるんやけど
ご主人様会ってみんかとおもてな」
「ん、んん。いいの? 会っても」
「かまわん。どうせ相手は牢屋の中だからな」
そういうなら、ということで華雄と霞の案内で牢屋へ。
愛紗と鈴々は隣同士の牢屋に入れられていて、戦闘したなりの格好なのだろう、衣服がところどころ破けたりしていてボロボロだ。
人の気配に気づいてか、こちらを見て本当に驚いた表情をする。
「劉備様……!?」
その驚き見開かれた目は、俺をじっと見つめていた。
「そんな、劉備様まで囚われてしまったのですか!?」
「あんた何言うてんの? ここにおるんは、曹操配下の島津北郷やで。
もっとも、今は董卓軍に下ったから曹操の配下やないけどな」
「見た目も、声もおんなじなのに、不思議なのだ」
「劉備様が2人……?」
どういうことだ? 劉備玄徳は、俺と同じ姿形をした人間ってことなのか?
「取り敢えず、詳しい話しをきかせて欲しいんだけど……」
「それは私からお話します」
鈴々の隣の牢に入っていた朱里がそういって俺に話しはじめる。
彼女らの主は姓は劉、名は備、字名は玄徳。真名は誰にも明かさないらしい。
姿形は俺と同じ。ただ、武に秀で、政にも通じ、軍師のように戦術にも長け、高い理想を持つ人物。
ただし、敵対する者を処断することに躊躇は無く、甘さというのは欠片も無いそうだ。
俺の嫌な予感はあたってたってことか。俺とおんなじ顔したやつの配下になんかなりたくないしなぁ……。
反董卓連合に劉備自身も参加していたが、袁紹に殿を押し付けられた時にどうにか劉備は公孫賛と共に行ってくれるよう説き伏せて、
劉備軍の中には居なかったため捕縛される事は免れたらしい。
「あの……」
話し終わった後に、朱里が遠慮がちに俺に問いかけてくる。
「夢の中の北郷一刀様は、あなたですか?」
「朱里!」
愛紗が朱里を咎めるように鋭く声を上げる。
「そうだよ。俺は北郷一刀。今はこの世界の習慣に倣って、姓を島、名を津、字名を北郷、真名を一刀って名乗ってるけどね。
君の事も色々覚えてるよ。例えば、3人会議。部屋にムカデが出て大騒ぎになった事とか、覚えてるかな?」
俺がそういうと、朱里の顔がパッと明るくなる。
「覚えてるっていっていいのかわからないですけど、知ってます」
「そっか。なら、夢のことについて、また話しに来てもいいかな?」
「はい!」
劉備の事について少し考えて見たかったので、俺は一度牢を後にした。
こういうことに詳しそうで、話しのできそうなのを俺は一人しか知らない。
そしてソイツは多分近場にいる。霞と華雄に頼んで街に出させてもらい、あてもなく街を歩く。
探してみると中々見つからないもので時間だけがすぎ、そろそろ夕刻という頃。
「あらぁん、ご主人様じゃなぁい? 誰かお探しかしらん?」
ソイツの方から俺に声をかけてきた。
「久しぶりって言えばいいかな? 貂蝉」
「ちゃんと覚えててくれたのねん、嬉しいわぁ」
「その特異な出で立ちは忘れたくても忘れられないからな。それより単刀直入に聞くけど、劉備玄徳についてしらないか?」
「知ってるわよん、劉備玄徳といえば、三国志の主人公といってもいい存在ね、それがどうかしたのかしらん?」
「この世界に居る劉備玄徳の事だよ」
「そうねぇ、すこーし長くなるから、お茶でも飲みながらにしましょう」
貂蝉の言葉にうなずき、貂蝉を連れて近場の店に入り、お茶を注文し、座る。
「まず、外史というものについて。これはとても簡単に言ってしまえば人々の想いによって作られる世界。
人の想いの数だけ外史というのは存在するの」
貂蝉の言葉を一つ一つ頭に叩きこむように頷きながら、続きを待つ。
「前の世界の結末で、ご主人様の想いとともに、銅鏡には多くの人の想いが入り込んだわ。
ご主人様は心の中で、自身の身だけでなく、桂花ちゃん達を守れるぐらいの力が欲しいという願望がなかったかしらぁ?
他の人の想いは、例えば、天泣ちゃんの、もっと早くにご主人様に出会いたかったという想い。
そしてみんなの共通の想いとして、ご主人様は甘すぎる、ちょっと弱すぎる、女にだらしなさすぎる。そんな想いがあったのよ」
「つまり、この世界の劉備玄徳は皆が思っていた『理想の俺』だと?」
「そのとおぉぉり。何でもこなす事が可能で、甘さが欠片もなく、女に鼻の下を伸ばす事もない、完璧超人のご主人様。それが劉備玄徳よ。
とはいえ、理想が現実になってしまえばつまらないものだけど。
人間っていうのはミロのヴィーナスのように、欠陥があるからこそ面白いものよ。
それは多分、朱里ちゃんや愛紗ちゃん達も感じてるんじゃないかしらん?
何かが違う、と。まして、夢でご主人様と過ごした事を見ているなら尚更の事」
「それは分からないけど……」
「それに。劉備玄徳はご主人様がこうであれば良かったという、皆の想いの固まり。
つまり今までのご主人様にあったものは無い。例えば、優しさとか。
考えてみなさいな、意にそぐわない者、敵対する者を徹底して排除する冷酷な君主なんて、
暴君にほかならないんじゃないかしらん? それを皆が是とするかしらねん?」
「確かに……」
「いずれ、ご主人様と劉備玄徳が相対する時が来るわよん?」
「……、皆の想念が作り上げてしまった、バケモノ。か。対策を考えないとな」
「私にできる助言はここまでよん、それじゃあ、また話しかけてくれるのを待ってるわん?」
そこまで話して俺は貂蝉と別れた。
劉備玄徳……。もう一人の俺、か。
大きくため息をつき、そのもう一人の俺をどう処理するかにしばし頭を悩ませるのだった。
あとがき
どうも黒天です。
仕事が年末のデスマーチだったので文章を書く余力がありませんでした……。
年始も大変な事になりそうで今から恐怖しております。
さて、今回明らかになった劉備の正体は一刀クローンでした。
実際登場するのはまだまだ先になりそうです。
あと、このまま行くと愛紗達、蜀軍の面々の登場がかなり後になってしまうので、
少々強引ですがここで登場させました。
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回ようやく劉備の正体が明らかに