――暑い
太陽から顔を守るために、より帽子を深くかぶった。
ほんとは、彼から顔を隠すためでもあるんだけど。
背の高い彼からは、私の顔は完璧に帽子に隠れて見えないはずだ。
だから、顔が赤くなってることもきっと気づかれていない。
見られるわけにはいかない。
このほてりは暑いからという理由だけで済ませられるほどのものじゃないから。
「お見合いしてみない?」
突然の友達の言葉。
一瞬躊躇したものの、行く、と答えた。
そういうことにはあまり積極的なほうじゃない。
周りの人が合コンばっかりしてるという話も最近よく聞くけど、行こうと思ったこともなかった。
でも、友達に彼氏ができたって話を聞くと、やっぱりうらやましくなるもの。
女子高に通ってる私はどこにでも行ってみなきゃ、出会いなんて望めたものじゃない。
なにごとにも、行動あるのみ! だよね。
そんな感じでとりあえず初体験のお見合いをするために、やってきたというわけなんだ。
期待しなかったわけじゃない。
勧めてくれるくらいだから、結構いい人かも。と、緊張しながらも楽しみにしてた。
とはいえ、まさかこんなに理想通りの人がくるとは思わなくて、今すごく困ってる。
彼は、友達の彼氏の友達で、近くの男子校に通う同学年の人だった。
歩幅の狭い私に合わせてゆっくり歩いてくれることに、優しさを感じる。
そんなところまで理想そのものだ。
でも。
――何を話せばいいんだろう?
いろいろ考えてたはずなのに、彼が現れた瞬間に忘れてしまった。
きっと、つまらない女だと思われてる。
さっきから歩いてるだけで、挨拶以外何も話してない。
やっぱり、暑い。
汗をふき取るため、タオルに顔をうずめた。
「どこか、店入るか?」
「あ、はい! そうですね!!」
急に声をかけられて、声が裏返りそうになった。
あぶないあぶない。
近くにあった小さな喫茶店に入って、席に案内される。
対面した彼と顔を合わせるのが気まずくて、さっそくメニューに見入る。
パッと目に入ったのは宇治金時だった。
おいしそう。
「宇治金時か」
彼は私が見ているものに気づいて声に出した。
「あ、はい。やっぱり、暑い時はかき氷がいいですよね!」
不自然に声をあげてしまったせいで、周りの人がちらちらこっちを見てる。
は、恥ずかしい…
そうしてる間に、彼は店員さんを呼んで注文をしてくれてる。
宇治金時なんて、年寄りくさかったかな…
普通の女の子だったら、パフェとかケーキとか、見た目からしてかわいいものを頼むんじゃないかな?
頭の中でグルグル色んな考えが巡る。
そうしてるとまたしばらく会話が途切れてることに気づいた。
「あの、ごめんなさい!」
突然のことに、彼はあっけにとられてる。
「私みたいなつまらない女がきてがっかりしてますよね?」
「…聞いてないのか?」
「え? 何をですか?」
「いや、だったらいい」
なんだろう?
何か気に障ることしてるのかな?
呆れられちゃってるのかもしれない。
恥ずかしくて下を向いて縮こまると、彼がふっと笑った。
優しい顔だ。
「謝らせてばっかりだな。こんな顔だけど、怒ってるわけじゃないんだ。恐がらせて悪い」
「いえ、全然! 恐くなんかないですよ! さりげなくゆっくり歩いてくれるし、気遣ってお店に入ろうって言ってくれたり、すごく優しいじゃないですか!! しかもかっこいいなんて、文句なしです!!」
拳をにぎってまくし立てたところに、店員さんがやってきて、宇治金時を持ったまま困っている。
彼は頭に指を当てて、顔を隠してしまった。
しまった…また何やってるんだろう…
目の前に置かれた宇治金時。
手を伸ばす勇気が出ない。
ほんのり甘くて、ほんのり苦い味。
始まりかけた恋の終わりみたいな味が予想できるから。
「…さっきの」
「…は、はい…」
「本気でそう思って言ったのか?」
「え? はい、もちろんです」
正直に答える。
初めて会った相手に、そんなこと言うなんて、ずれた女だと思ってるのかもしれない。
上目遣いに彼をうかがうと、彼は手で隠していた顔を見せた。
…あれ?
なんか、赤いような…
もしかして、さっきの言葉に呆れたんじゃなくて、照れたのかな?
なんだかそれって、かっこいいだけじゃなくて…
かわいいかも…
「えっと…」
「今日の…」
「?」
「お前は知らなかったみたいだけど、俺が頼んだんだ。お前を紹介してほしいって。電車でたまに見かけてて、ずっと気になってた。だから…」
「へ?」
「そんなこと言われたら、期待する」
前から私のこと見ててくれてた!?
ものすごく嬉しい事実に、クーラーのよくきいた店内だってことを忘れるほど顔が熱くなる。
宇治金時に顔をつっこんだら、一気に溶けてしまうかもしれない。
期待していいです。
私も初めて会った時から惹かれています。
今度は彼への答えがグルグル頭の中を回り始めた。
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ほんのり甘い初恋ショートストーリーです。