「超うけるんですけど!!」
学校から少し離れた横丁の一角に、古いたい焼き屋があった。
都会にもこんなところがあったのかと、友達と大笑いした。
「きったね~! こんなとこじゃ、たい焼きだって絶対まずいって!」
ぎゃはは、ともう一度高笑いすると、後ろからむんずとつかまれた。
「てめーらなめてんのか?」
首の後ろから低い声が聞こえてきた。
振り返るのがためらわれる。
「ぎゃ~なまはげ!!」
私を掴むその声の主を見ると、友達は一目散に逃げ出した。
なんなの? なまはげ!? なにそれ? そんなあやしげな名前のものにつかまれてる友達を見捨てて自分だけ逃げるの? 最悪! あんなの友達じゃねー!!
…まぁしょせん、カッコが似てるってだけで一緒にいただけのやつか。
「あ? 俺から見たらケバい化粧してるお前らのほうがよっぽどなまはげに見えるけどな」
振り向いたそこに、頭にタオルを巻いた、意外と若い男が私を見下ろしていた。
「うちのたい焼きはな、ここらでは有名なんだよ。食ってもみないでまずいとかいうな!」
できあがったばかりのたい焼きを袋に入れて、なまはげが差し出してきた。
頭からぱくりとかぶりつくと、くやしいけどうまかった。
「あんた若いのにもう自分ちで働いてんの?」
うまいだろと言われて反論できる自信のなかった私は、先に質問した。
「手伝いはしてるけどな。俺は大学生。今日は休講だったんだよ。俺のことよりお前は高校生だろ! こんな時間にこんなとこぷらぷらしてんな!」
「うるせーよ! 親でもないくせに説教すんな!」
あぁたるい。
大して年も違わない変な男に説教されるとは思わなかった。
バン、と音を立ててお金を置くと、なまはげに背中を向けた。
「おい、ちょっと待て!!」
後ろから声が追いかけてきたけれど、無視してずんずん歩き出した。
「おい!」
「いい加減にしろよ! 金払っただろ!?」
声と一緒に、腕を捕まれて、私はイライラして振り返った。
でも、そこにいたのはなまはげではなく、警察官だった。
「こんな時間に何をしているんだ? 金というのは?」
やばい…
さっきからなんてついてないんだろう。
いい感じに高校デビューするつもりだったのに。
「タイ子!」
タイ子?
警察官が掴む腕とは逆の腕を、なまはげが掴んでいた。
「すいません、コイツ妹なんです。体調悪そうだったんで病院につれてったんですけど、先に帰っちゃって…」
頭を下げるなまはげの言葉に不振な顔をしながらも、警察官は去っていった。
「今時タイ子なんているかよ!」
「仕方ないだろ、お前の名前なんか知らねーし」
「なんでついてきたんだよ!」
「それは…」
なまはげは言いながら袋を差し出してきた。
「これ! さっきの金じゃもらいすぎなんだよ!! ったく、高校生のくせに無駄遣いすんな! 余分に入れといたから後で食え。」
もらった袋はずしりと重かった。
「それにお前、なんか寂しそうなんだよな。たまにたい焼き食いにこいよ。お兄さんがかまってやるからさ」
「うるせーよ、なまはげのくせになにがお兄さんだ!」
言いながらもまた背中を向ける。
なんだと!? と、声が聞こえたけど、振り返らない。
またこようと思ったから。
でも、なまはげに会うためなんかじゃない。
袋からたい焼きを一つ取り出してかぶりつく。
この、たい焼きが案外気に入ったから。
ただ、それだけなんだから。
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イマドキ高校生の恋愛(?)ショートです。