「かみさま……かみさま、か……みさま……」
琥珀色の少女の左目。けれど右目は、真紅のように赤かった。額から垂れた血が瞳の中に入ったからだ。土気色に汚れたドレス。見苦しく乱れた髪。少女の終わりは近かった。
黒々とした夜の中、月は異常なまでに明るく、少女を照らしている。少女はそれを湖の水面を通して見ていた。煌々と輝きつつ、月は滔々と流れていた。
月の雫が湖上に落ちていく。光を宿した雫は落ちると、ポツンと音を立てて飲まれていく。それは一つでは終わらなかった。月が溶けて、泣いているかのように、雫はゆっくりと落ちていた。
「……月の、なみだ……?」
声は震えていた。けれども、それは絶望によるものではなく、一縷の望みを見つけたときの歓喜だった。
『月の涙』を手にしたものは、願いが叶う。魔法とも奇跡とも呼ばれていた。
「かみさま……」
限界を迎えた体躯を引きずりながら、少女は縋る。醜くとも、健気とも、誠実とも取れる姿。
少女は湖の中に落ちていく。沈み込んだまま浮かばない。透き通った水のなか、一筋の光を目指して飲まれていく。
深い深い湖の底。漆黒の闇の中に、光はある。
落ちていく、堕ちていく。
少女はそれを手にした。『月の涙』を。そして願う。祈りを、妬みを、復讐を。
誰かの死を少女は望む。
月は涙を流し続けていた。
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