俺達は燃料が切れるギリギリの所でようやく新床第三小学校に辿り着いた。孝は母親の小室美咲と、麗と貴理子は宮本正係長と感動の再開を果たした。
「片桐君、中岡君、妻や娘とその友人達を守ってくれて、本当にありがとう。いや、ありがとうでは私の気持ちは形容し切れないな。」
<奴ら>と化していない家族を目にして胸が一杯になった所為か、目尻から一筋の涙が流れた。それを拭いながら姿勢を正し、敬礼する二人に労いの言葉をかけてくれた。
「そんな!とんでもないです、係長!あさ・・・本官だけでは全く何も出来ませんでした!」
「そうですよ。自分だって偶々東署の地下でこのトラック拾って、その時に滝沢と合流したんです。一人じゃ間違い無く<奴ら>の仲間入りでしたよ。本当にお礼を言いたいなら、滝沢に言って下さい。ってあれ?いない・・・・」
だが、二人は謙遜して俺がいた所を見やる。そう、その場に俺の姿はもう無かった。静香の手を取って、人込みの中を走り回っている。俺達にはそんな事よりもまだ大事な存在の有無を確認しなければならない。リカだ。洋上空港にいたなら、床主の中で一番先に海上自衛隊に助けられた筈・・・・・
「圭吾!!」
この声。二度と聞けないと思っていた声。俺はゆっくりと振り向いた。前を大きく開けた黒いSATの制服、その下から覗く白いタンクトップ、褐色の肌、不敵な笑みを浮かべた女の顔、そして紫色の髪。
「「リカ・・・・!!」」
「やっぱり生きてたわね、ダイハード・ガイ。」
俺の愛しい女の一人、南リカが葉巻を銜えて俺を見ていた。
「お前も相変わらずしぶといな、ダイハード・ガール。」
全力で駆け寄って来る彼女を抱き止めてしっかりと抱きしめた。リカが目を閉じて顔を近づけて来る。俺もそれに答えてキスしてやる。久し振りの感触+味だ。ついさっきまで吸っていた葉巻の味が唾液と混ざっている。
「ちゃんと帰って来たぜ?」
「リ”ガぁぁ〜〜〜〜!!怖がったよぉぉ〜〜〜〜!!」
安心して緊張の糸が切れたのか、涙腺のダムが崩壊して静香の顔は瞬く間に涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになってしまった。普段とのギャップがすげえのなんの。ちなみに静香を宥めて泣き止むのにチーム全員がてこずったのはお約束だ。そして俺達の側から片時も離れようとしなかった。
「お互い掠り傷一つ付いてない。来てくれ、ここに来るまで一緒に戦ってくれた仲間を紹介したい。」
リカのメンバーに対する評価はかなり高く、時が来たらコータをSATかどこかに正式採用出来るかどうか話してみると言っていた。それに便乗して宮本係長も同じ事を言い始める。これを聞いたコータは手放しで喜び、嬉しさのあまり気が狂った様に叫んで踊り始めた。
「本当に良いのか?こいつに日本警察のルールを守らせるのは一苦労だぞ?場合によっちゃ俺の二の舞だ。」
「そうはならないと思うわ。日本政府の間抜け共は今回の事を反省してちゃんと『色々な』便宜を図ってくれる事を願うしか無いし。」
「あの・・・・」
「冴子ちゃんだっけ?」
「はい・・・・」
「聞いたわよ、圭吾。このコに手出したんだって?あたしにはもう飽きたの?」
リカがジト目で俺を睨む。
「ちげぇよ。事情が色々と込み入っててな。」
とりあえず簡潔に事の次第を説明すると、彼女も納得してくれた。
「そう言う事なら、まあ仕方無いわね。誰だって後ろ暗い事の二つや三つあるわ。今回は多目に見てあげる。」
「じゃあ・・・!!」
「ああ。大丈夫だ。ウチに住みたきゃ住め。」
冴子は人目も憚らず思いっきり俺の腕に抱きついて来た。リカと静香に加えてこいつもか・・・・こりゃあかなり大変になるだろうな。
「さてと。髭剃って水浴びでもしたいんだが・・・後、腹も少し減った。今夜はゆっくり眠りたいもんだよ。悪夢抜きで。だろ?」
「そうね。圭吾には色々と『相手』して貰わなきゃ行けないから。勿論静香や冴子ちゃんも一緒に。」
「言うだろうと思ったぜ。分かった。好きなだけ相手してやる。どうなっても俺は知らんぞ?
俺は仲間達と多くの苦難を乗り越え、生き残った。もう二度と『日常的な生活』と言う物は戻って来ない。世界に残された傷跡も、永遠に残るだろう。この日、孝、コータ、麗、沙耶、冴子、片桐、あさみ、貴理子、静香、リカ、そして俺は多いに泣き、大いに笑った。俺達と<奴ら>で溢れる地獄と化したこの世界との戦いは、これで幕を閉じた。
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とりあえず新床第三小学校に到着した所で本編終了とさせて頂きます。読了して下さった皆様、本当にありがとうございました。