<奴ら>をはね飛ばしながら移動を続けていた。しばらくすると、雨音の勢いがようやく衰え始め、やがて止まる。
「雨、止んだな。」
「ですね・・・・・」
砥石で刀を研ぎ終わった冴子は刃毀れが無いか見ていたが、やがて満足したのか刀を鞘に納めた。俺は一応暴発防止の為にリボルバー以外銃の薬室から弾は抜いてセーフティーをかけてある。ずっとそのままにするのはバネが傷み過ぎるのを防ぐと言う理由もあるのだが。
「冴子、心配事でもあるのか?」
「無い、と言えば嘘になりますが、この場でどうこう出来る様な事ではないので。」
「そうか。」
俺はそれ以上何も聞かなかった。立ち上がると、話し込んでいる貴理子と片桐の間に割って入る。
「どうだ?着きそうか?」
「俺達が今いる所からこのペースだと、大体一時間前後はかかる。回り道も想定していたら、もっとだ。いざとなればトラックは捨てられるが、ハンヴィーとバイクだけじゃ全員は流石に乗せられないだろう?」
確かに。俺を加えて、乗車する人数は合計十人。とてもじゃないが、座席に全員は乗せられない。バイクを使っても乗れない奴が二人から四人は出る。人間を相手にするのを想定すると屋根の上にいさせるのも危険だ。と言っても、今この場で動いている車は無さそうだし・・・・
「うぉっと!?」
トラックが急停止する。途端に銃声。フロントガラスに何発か銃弾が突き刺さっていた。7.62ミリ弾だ。またか・・・・俺はすぐさまベストやホルスターなどを装着し、コータや貴理子、片桐も戦闘準備を整える。トレーラーの屋根に上って辺りを見渡すと、再び指切りバーストの射撃音が聞こえる。トラックは防弾仕様だから大丈夫とは思うが、向こうもそれなりに重武装らしい。人数も分からない。次から次へと・・・・都市ゲリラは嫌いなんだよなあ・・・・特にこう言う予期せぬ自体が毎回起こる時は。
「コータ!トレーラーの上に登って援護だ。相手の数と武器を把握する必要がある。あさみ、手を貸してやれ。遮断物が無いから気を付けろよ?」
「「はい!!」」
「冴子は静香をカバー。沙耶、孝、貴理子は中に残って出入り口の安全を確保。チームメンバー以外の奴がドアを開けたら遠慮はいらない。頭か、胴体を狙って撃て。 お前ら、絶対に躊躇うなよ? 」
「心配ご無用よ、いざとなれば私がいるから。」
貴理子は槍の柄を握り締めて俺達に笑いかけた。確かに、彼女なら殺ってくれるだろう。
「行くぞ、片桐。」
「ラジャーっす。バイクの銃、借りますよ?流石に手持ちの物じゃ心許無い。」
「構わないがしっかり狙え、小口径でも反動はそれなりにある。一発でも十分効果ありだと思うが、念の為だ。『ダブルタップ』か『モザンビーク・ドリル』で行け。」
俺の言わんとする事を理解したのか、片桐は片方の口の端を吊り上げて、にやりと笑う。手持ちの銃のブラスチェックを行い、撃鉄を起こした。安全装置を外して発砲準備が完了する。俺もシグの薬室に弾を送り込むとホルスターに納め、そしてこのアックスガンとしか形容出来ない銃を左手に持った。
「麗。俺のモスバーグを貸してやる。至近距離なら相手は吹き飛ぶからな。ライフル撃った事無いお前には丁度良いだろう?」
そう言って俺の銃剣付きのショットガンを渡してやり、代わりに彼女が使っていたM1A1ライフルをラックから取った。作動桿を引いて7.62ミリ弾が薬室に送り込まれる。死んだ光学サイトをスコープに取り替えておいたから、実質的に中距離用の狙撃ライフルと変わらない。精度が良い物でコータのAR-10と同じ様にバイポッドが付いていたら、有効射程が倍以上に跳ね上がる。まあ、碌に狙いをつける時間があるとも思えないが、あった方が心強い。
「最初の移動地点は?」
「あの横転したセダンの後ろだ。後衛、頼むぞ?」
「お任せを♪」
銃声が一旦止むと、姿勢を低くして移動地点まで全力で走った。
「敵影、十二時から二時の方向、距離十メートル、合計十名前後です!旧式モデルですけどM16系ライフルとかMP5、UZIのサブマシンガンも見えました!」
厄介だな。特にM16から撃たれる5.56ミリNATOは銃身が長い分発射された時殺傷能力が上がる。殺したらあいつらの武器もふんだくるか。スコープを覗いて相手の位置を確認して引き金を引いた。マイ・耳栓でしっかり難聴対策をしている為問題は無かったが、やはりやかましい。遮断物から覗いた相手の膝頭をぶち抜いてからそいつの頭にもう一発7.62ミリ弾をお見舞いし、ようやく息の根を止めた。後ろからも銃声が聞こえて、ドサリと何かが落ちる音も聞こえた。
「お見事。あの平野って奴も中々やるぅ〜。SATとか入れますよ、彼?」
「あいつならSEALSだって入れるさ。何より、素人が相手だからな。」
「んじゃ、次俺行きま〜す。」
防弾ベストを着けた片桐はガバメントを持って片目を瞑ると、道路の向こう側にある車に向かって一発、二発、三発と丁寧にシグを撃った。するとその車は大爆発を起こし、叫び声や悲鳴が小さく聞こえた。断末魔である事を祈ろう。
「ガソリンタンクか。」
「撹乱にはやっぱり爆発でしょ?」
「行くぞ。あれだけで全員がくたばったとは思えない。」
俺は指笛で平野の注意を引き、俺達の後ろに付いて前進する事をハンドシグナルで伝えた。移動は足音を殺しながらも素早く遮断物の陰に隠れた。と言っても、大して物がある訳じゃない。精々乗用車やスクーターが二、三台ある程度。
電柱に付いているカーブミラーを使って相手の位置と人数を把握する。何やら怪し気な信用金庫のボロ臭いビルを本拠地にしているらしい。中にも何人かいると言うのもあり得るだろうな。見張りを何人か残して残りの男達はビルの中へと消えて行く。
「どうしますかね?隠密は無理ですよ?ビルの窓から見張りの様子は丸見えですし。」
「構わない。元々只で済むとは思ってないからな。」
念の為と言う事もあるのでクロスボウを引っ張りだして矢をセットする。
「んじゃ、遠慮無く。」
片桐は見張り四人をモザンビーク・ドリルで仕留めた。胴体に二発、そして止めに近付きながら丁寧に全員の頭に一発ずつヘッドショット。階段下でそれを見ていた奴が逃げようとしたので、そいつの背中にクロスボウの矢をぶち込んだ。流石ドローウェイトが百ポンド越えの事はある。殺傷能力は抜群だ。リカに言っとかなきゃな。
「下の方を頼む、後ろから回り込まれたくない。これ使え。」
「えー・・・・・俺ライフル撃てなくはないけど、戦争屋じゃないからさあ・・・」
黙って持って来た予備のマガジン二つを押し付けると、チンピラの一人が持っていたベネリM-1ショットガンを拾い上げて持ち主の死体を漁った。予備の弾は八発。無駄撃ちは出来ないな。チューブマガジンに弾を詰められるだけ詰め込むと、残りは着ているジャケットのポケットに入れた。
「殺した奴らから使える物があったらふんだくれ。」
「りょーかい。後、余計なお世話かもしれないけど。」
「あ?」
「死ぬなよ?床主脱出したら、お前に色々奢ってもらいたいんだから。まだ貸し一つ残ってるし。」
「言ってくれるぜ。その前に借りを返してやるよ。」
ショットガンを構えて上に登った。鼻から息を吸い、細く、長く口から吐き出す。吐息で位置を悟られるなんて事はたまにある。正確な位置が分からなくても、傭兵時代に見当付けて撃って来られて当たった事があった。
「死にやがれ、サンピンがぁぁぁーーーー!!!」
後ろからゴルフクラブで血まみれの開襟シャツを着た奴が殴り掛かって来た。いつの間に俺の後ろに来たのか、叫び声をあげるまで気付かなかった。振り下ろされるドライバーをベネリで受け止めると右手を離し、シグを引き抜いて左胸に二発、頭に一発弾丸を撃ち込んだ。これがモザンビーク・ドリルと言う、俺が知る中で9ミリ拳銃を使った最も効果的な撃ち方だ。
「俺も腕が錆び付いて来たな。」
サイレンサーを付けているとは言え、九ミリ弾との相性はイマイチだ。本当ならH&K USPを使った45ACPかスタームルガーの22LRが良いんだが、無い物を強請っても仕方無い。シグをホルスターに納めると、ショットガンのスリングを肩に引っ掛けてクロスボウを構えた。いざ撃つとなればサイレンサーが付いていても銃に比べて音は遥かに静かだ。部屋の中を手早く確認し、使えそうな物———弾薬や火炎瓶など———を片っ端からリュックに入れて行った。だが、突如聞こえて来た話し声に足を止める。
「何なんだ、あの野郎共は?」
「分からねえ。だがあの青いトラック、ありゃあ間違い無くサツのトラックだ。武器も必ずある。屋根の上のガキを先に仕留めろ。屋上の窓から撃て。」
させるかっての。クロスボウを一旦置くと、ベネリを構えて話し声がした部屋の扉の隙間から着火した火炎瓶を一つ投げ込んだ。悲鳴と怒声が入り交じる中、扉を蹴り開けた。銃を持っていてもまともに構えてすらいないのは幸運と言うべきだろう。全員を撃ち殺すと、壁に立てかけてあったスコープ付きのボルトアクション式のライフルと弾が詰まった紙箱を失敬した。クロスボウを構え直す。悲鳴を聞いた一人がやって来た。マカロフの、それも中国製のコピーを持っている。至極無感情にトリガーを絞り、カーボン製の矢は空を切りながら男の喉を貫いた。
「おっとと。」
痙攣してたたらを踏んで倒れる前に骸の一歩手前となったソイツの体を受け止める。ゆっくり寝かせて矢を引き抜くと首の静脈を切断した。その矢をもう一度クロスボウに装填する。下からも銃声が聞こえる。やっぱり片桐は優秀だな。最上階に登って誰もいない事を確認すると、下に降りて片桐と合流した。二、三分程してから返り血を浴びまくった片桐が現れる。M1A1と鉈を両肩に担いで。持っていたシグとガバメントは弾切れになったのか、二つのホルスターが空になっていた。
「一瞬死んだかと思ったぜ。」
「言っただろ?借り、返してもらわないと行けないんだ。色々奢ってもらうからそのつもりで。」
「へいへい、分かった分かった。さっさと降りるぞ。必要な物は持てるだけふんだくって来た。お前もちょっと持て。」
そう言う訳で、俺達は建物一つ分のチンピラ・ヤクザを皆殺しにして建物を後にした。すぐ近くにトラックが止まっている。運転席には貴理子が座っている。
「はぁ〜い、二人共♪ご苦労様。こっちも結構やっつけたわよ?」
「だれか怪我した奴はいないか?」
「ん〜、コータ君が左肩撃たれちゃってね。あ、でも掠り傷だからちゃんと治療すれば治るわ。他は、突発性の難聴位ね。」
それを聞いた俺達は、苦笑するしか無かった。余談だ、が俺が中に入るとすぐさま静香と冴子の世話焼き女房(仮)モードに出くわして体の隅々までウェットティッシュやら濡れタオルで拭かれた。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた!
チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。