No.633646 機動戦士インフィニットOODESTINY 第一話 楽園アインハルトさん 2013-11-02 23:55:12 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:3277 閲覧ユーザー数:3103 |
宇宙コロニー《エデン》。
その平和を守るべく存在するザフト軍基地の軍事工廠には最新鋭機《ガンダム》の試験運用を目的に造られた新造艦《ネオ・アースラ》が最終チェックを迎えていた。
「違う違う!そこは食料庫だ!!弾薬庫は第二ブロックだと言ったろ!?」
「テスト用の《アイズガンダム》かぁ!?早く移動させろ!!」
荒っぽい叫び声が飛び交い、カタパルトデッキ内は雑然としている。全長二メートルに及ぶ人型の兵器が《ネオ・アースラ》に運び込まれていくのを眺めるのは圧巻だ。もうじきこのネオ・アースラが最初のミッションに使用されると知らされてから軍事工廠は常とは違う活気に満ちていた。ここがこれほどの賑わいを見せることは、万一コロニーの崩壊でも無い限り、そうそうあるまい。
『エクシア、デュナメス。第一
騒然たる工廠内に幼い少女の声が響き渡る。それを聞いた作業員たちはより一層慌ただしくなった。そしてそれと同時にアナウンスの主である少女に対して若い男性のうち数名が一斉にラブコールを始めた。
「十秋ちゃーん!!」
「今日も愛らしいアナウンスをありがとうー!」
「俺と結婚してくれー!」
毎度毎度の光景、それを技術スタッフのユーノ・スクライアは懲りないなぁと苦笑気味に収容作業に入った。十秋・F・セイエイ。《ネオ・アースラ》の戦況オペレーターにしてザフトのマスコットキャラ、《エデン》のアイドル的存在の一角に立つ人気者である。
『え、ええっと……ごめんなさい』
「ちくしょぉぉぉ!!」
先ほど告白した男性(21歳/独身)がその場でorz状態となる。が、それは単なる遊び半分の演技で本当は振られると分かっていながら告白したのである。何故なら彼女は……
『私、お兄ちゃん一筋なので』
所謂、ブラコンと呼ばれる部類であったからだ。
と、そこにタイミングを計ったかのようにモスグリーンと白を基調としたモビルスーツが格納庫に入ってくる。
長距離型射撃支援狙撃型ガンダム、GN-002《ガンダムデュナメス》。
その後ろには青と白を基調としたモビルスーツ、近距離型単機戦闘近接型ガンダム、GN-001《ガンダムエクシア》が滑るように格納庫へと足を踏み入れていく。
二機の様子から見て、今回のテストプレイも異常は無かったようだ。技術スタッフのユーノからすればそれが一番何よりな事だった。胸元のコクピットが開き、そこからそれぞれの機体カラーと同じ色のパイロットスーツを着込んだ少年が姿を現す。どちらも年齢は15、6歳程度。軍人となるには早すぎる方だが、各人の基礎能力が高いコーディネイターにおいては既に成人とみなされる年齢だ。無論、酒や煙草は二十歳までお預けであるが
『それでは続いてキュリオス、ヴァーチェ。カタパルトデッキに移動をお願いします』
十秋のアナウンスに再びラブコール。
ユーノはエクシアのパイロット兼十秋のお兄ちゃんこと一夏・F・セイエイの方に振り向くが当の本人は疲れを癒すためか、寮に続く扉の向こうに去って行った後だった。その後ろにはデュナメスのパイロット、弾・ナカジマの姿もあった。
オレンジと白の目立つ可変機タイプのガンダム、GN-003《ガンダムキュリオス》とごつごつとしたフォルムと白と黒のカラーリングのGN-005《ガンダムヴァーチェ》がカタパルトデッキに到着したのは、それからすぐの事だった。
ロッカールームにパイロットスーツを片付けた一夏はバイクを飛ばしてとある場所へと向かっていた。
花が散る。風に吹かれて、切れ切れに吹き飛ばされる花びらの行方を、一夏は見守った。彼の前には三つの墓石があった。
織斑清春 西暦2271~2301
織斑美緒 西暦2271~2301
篠ノ之楓 西暦2291~2301
━━一夏の両親と幼馴染みの墓標だ。
だがその下に、遺体はない。政府によって存在そのものをもみ消された《白騎士事件》の他の犠牲者たちと同じ様に。
父はモルゲンレーテで働く技術者だった。母は農学の研究者。そして楓の実家は剣道を嗜んでいたが、彼女は宇宙飛行士を夢見て勉強し続けていた。父の友人曰く将来は歴史に名を残すほどの有名人になるだろうと言われたほどだ。一夏は、あまり多くの時間を両親と共にしたことがなかった。だが一緒に過ごした僅かな時間、二人は紛れもない愛情を彼に降り注いでくれた。それに楓や十秋が何時だって側にいてくれた。だから、離れていても不安はなかった。彼は立派な仕事をしている両親を誇りに思い、常に支えてくれた幼馴染みを愛していた。
彼らのように優秀な人材が、優しかった人たちが、そしてそれ以上に大切な誰かの家族である人々が、一瞬のうちに命を奪われた。それが、地球では
「……あのぅ」
声がした。一夏はその音源を辿って背後を振り向く。そこにいたのは一夏よりも年下くらい、多分十秋と同い年であろう背丈の少女がいた。少女の肩にはメタリックグリーンの鳥が留まり、首を傾げて『トリィ……?』とさえずった。良くできているが、ペットロボットの一種だろう、一夏は少女が近付いていくと、墓石が見えるように横に寄った。少女の肩から鳥の形のロボットが飛び立つ。
「……お墓……ですか?」
おそらく何となくであろう、少女は一夏に話し掛けた。それに一夏は静かな声で答える。
「ああ、六年前の《白騎士事件》の被害者たちの━━俺の両親と幼馴染みの墓なんだ」
少女は一瞬ビクッと肩を奮わせるも、一夏の話に耳を傾けていた。エデンの住民なら…………或いは地球のコーディネイターの街に住む人たちなら誰でも知っている真実だからだ。
「何が、『現行兵器全てを凌駕する』だ━━!みんな、明日の予定だって、来週の予定だってあったんだ。あんなの、人の死に方じゃない!!」
あの日、海鳴市に撃ち出されたミサイルを謎のIS《白騎士》が単機で2341発のうち約半数を撃墜した。だが、実際に撃墜出来たのはそれすら及んでいなかった。
2341発のうち341発が海、もしくは無人の山奥に落ち、海鳴市そのものに落ちたミサイルの数は総計2000発、白騎士が落とせたのはたったの500発程度だった。では残りの約1500発はどうなったのか?答えは簡単、『直撃』だ。そしてそのうちの一発が、一夏の両親と幼馴染みの命を吹き飛ばしたのである。
その真実を、偽りの最強の兵器という利益に目が眩んだ愚かな政府は跡形もなく消し去った。最強の兵器を保持するため、他国よりも優位に立つため、そんな事のために彼らは犠牲となったのだ。
「……軍人になったのは、やっぱり白騎士とご関係が?」
話題を変えようと思ったのか、少女は周りの景色を見ながら一夏に尋ねる。彼女が一夏を軍人と見抜いたのは簡単なことだ。彼が身に纏っているのが、ザフト軍のエリートのみが着る事を許される赤服だったからだ。
「……そうだな。事件から半年後、白騎士がミサイルを撃ち込んだ犯人と手を組んで自作自演してたって《エデン》から知らされて、それが許せなかったから妹と一緒に宇宙に上がったんだ」
不思議だった。隣にいる少女は今日であったばかりで昔からの知り合いでもなんでもない赤の他人のはず、それなのに親友の弾や高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンにしか話していない入隊理由や大切な人の死を、こうもあっさりと明かしている。まるで自分はこの少女のことを前から知っていた、そんな風に思えてしまう。
「……悲しいですよね」
ふと、少女が呟いた。
「え?」
少女の言葉を聞き取れなかった一夏は聞き返した。
「例えどれだけ科学が進歩しても、知識を増やしていっても……人の憎しみは、悲しみは、怒りは、太古の昔から何も変わっていないのですから……」
「き……み……?」
思わず不審げに見つめてしまう一夏。それに気付いた少女は苦笑気味に言葉を紡いだ。
「すいません。ヘンなこと言ったりして」
気まずくなった少女が慌てて踵を返した。その後ろ姿を、一夏はただ眺めることしか出来なかった。佇む彼のリストウォッチから、非常呼び出しのシグナルが鳴った。
「ホントのこと、言わなくてよかったのかよ?」
一夏の元を去った少女は今、四人乗りのエレカに乗っていた。少女に声をかけたのは運転席に座るきかん気そうな子供っぽさが残る少年だった。
「うん、むしろあの場面で素直に言えないよ」
少女は苦笑しながら少年の問いに答えた。あの空気の中で話を切り出すのにはかなり勇気がいた。少女には少なくともそんな度胸も勇気も無かった。
「ま、いいんじゃない?私たちもアースラチームも地球降下命令が降りてて、しかも同じ任務に就くみたいだし」
後部座席に座る少女の隣で赤い髪の活発そうな少女が大きめの声でそう言う。その前座席、つまり助手席に座る長めの金髪を首筋に流した、シャープな印象の少年は無言を貫いたまま任務内容を記した手紙を読んでいる。
「んじゃ、その間にさっさと言っちまえよ?出なきゃあいつ、もっと苦しむことになるだろうし」
「……うん、わかってる」
運転席の少年が一夏のいる丘の方にチラリと目を向けて、すぐに前を向いた。彼の言い分は最もだ。しかし、それでも彼女はどうにも決心仕切れなかった。
四人を乗せたエレカが、一夏たちの所属する南の基地とは反対側の、北の基地へと走っていく。
「地球に降りる?」
非常呼び出しのシグナルを受けて南の基地に戻って来た一夏に告げられたのは上層部からの任務、地球降下であった。
「ああ、一ヶ月前に地球で世界初のIS男子搭乗者が現れたのは知っているだろう?そしてIS学園への強制入学が決まったのも」
地球降下を告げたネオ・アースラの副艦長、クロノ・ハラオウンが事の発端を説明する。
「……そうなのか?」
ガタン!椅子に座っていた副艦長が盛大にずっこけた。
「き、君は相変わらずISに興味なしか……」
「敵の力量もわからず勘違いしていて挙げ句の果てに慢心してる阿呆共の情報なんかよりもモビルスーツの知識を詰め込む方が重要だからな」
相手によっては即戦争になりかねない発言。しかし事実故に仕方のないこと……なのだろうか?
「はぁ……とにかくその男子なんだけど」
机の引き出しから一枚の写真付きの書類を一夏にも見えるように机の上に置いた。それを見た途端、一夏は驚愕の色を見せた。
書類にはこう書かれていた。
『織斑百春』と、
「弟なんだろ?君の」
否定なんて出来る筈がなかった。
コーディネイターであることから慢心し、その才能の上で胡座を掻いていた愚かな恥知らずとはいえ、紛れもなく一夏の愚弟であり、十秋にとっては愚兄、それがこの少年だった。
「……どうしようもない愚弟だよ、あいつは。ってまさか……」
「そのまさかだよ
僕たちの任務はIS学園に強制入学する織斑百春の安全な学園生活を送らせること、謂わば護衛だよ」
その事を聞いて、一夏の頭は途端に痛くなった。何が悲しくてあんな元愚弟の護衛なんてしなくてはならないのだろうか?はっきり言って宇宙空間の中を数十時間コクピットの中で一人寂しく孤独でいる方が数千倍マシだ。
「ちなみに既に向こうに必要な荷物等は荷造りを終えて地球に送られてるからね」
「なん……だと?」
それはつまり、外堀は既に完成していたという事になる。そういえば以前から少しずつ物や衣服が消えていたような気がしていたが、気のせいではなかったのか。大方十秋辺りがこっそり侵入して地球に送っていたんだろうな。合い鍵持ってるの、あいつだけだし無くても俺の部屋だけはピッキング出来るし
……はぁ、正直果てしなく乗り気ではないが、こうも外堀を埋められてたら逃げようがない。
「了解しました。ザフト軍アースラチーム、ガンダムエクシアパイロット、一夏・F・セイエイ。任務を遂行します」
こうして、一夏は約六年ぶりの故郷への帰国と初の宇宙から地球へ降りる体験をするのであった。
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やっぱりSEEDDESTINYのキャラも必要だよね