No.631627

真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第五話

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。

第九章第五話の投稿になります。

次回はあそこまで引っ張っての終了でしたから読者さま方もフラストレーションがたまってるかと思いきや、期待してお待ちいただけたようで嬉しい限りです。

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2013-10-27 00:00:08 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1770   閲覧ユーザー数:1568

 

~詠side~

 

 

 

 

 

その頃、洛陽の城内では…。

 

 

 

 

「…………ふざけているわ…。月が何したって言うのよ!? あんなに民に真摯に向き合って、この町を豊かにするように尽くしてきたのに……。どうしてこんな仕打ちをされないといけないわけ!?」

 

「………賈詡っちの言いたい事はよぉ分かる……。それもこれもあの、張譲っちゅう馬鹿の所為や…。」

 

「しくじったわ……。もっと早くあいつらを討ってしまえば良かったのに……。」

 

「…………月はどうしとるん?」

 

「…………今は部屋に居て貰ってるわ…。色んな事があって疲れてるだろうし……。」

 

 

洛陽の玉座の間には、太守である月を除き、また賊の退治に出かけている恋と華雄を除いた董卓軍のメンバーが勢ぞろいしていた。

 

 

「そか……。しかし、こりゃ、困ったことになったな~………。連合軍は総勢で百万近く居るらしいやん。」

 

「私たちは集めても十五万くらいなのです……。兵力差は歴然なのですよ……。」

 

 

ねねの言う通り、連合軍と我が軍との兵力差は圧倒的である。

 

野戦で戦って勝てる人数ではない。

 

しかし、彼らがこの洛陽へと向かってくると言うならば、通る道筋には難攻不落の関である汜水関と虎牢関がある。

 

この二つの関で時間さえ稼げれば………月を洛陽から逃がすことぐらいは出来るだろう………。

 

 

 

「とにかく時間を稼いで………月をここから逃がすことだけはやらないと………。」

 

「せやな………。それまでは何とか時間を稼ごか……。」

 

 

重い雰囲気で話している所に、急に兵士が駆け込んでくる。

 

 

「申し上げます!! 張譲を見つけました!!!!」

 

「何やて!? ほな、うちが行くわ。賈詡っち、後は頼んだで…。」

 

「………霞、頼んだわよ。」

 

「………任せとき…。月を利用するだけ利用して、最後に手を返すように見捨てるなんて真似したからには、当然の報いを受けてもらわな……。」

 

 

そう言って玉座の間を出ていく霞を目で追いながら、どこか不安な気持ちになる。

 

 

張譲はこれで捕まえた。

 

連合軍は関で時間を稼いでやれば対処は出来るはず…。

 

では何が不安だと言うのだろうか……。

 

 

「………詠。月を逃がすことに関しては私も賛成なのですよ……。でも、関で時間を稼ぐために戦う人はどうなると言うのですか……??」

 

「それは………。」

 

 

ねねに言われてようやくこの不安の正体が分かった気がした。

 

今回のこの戦は戦う前からすでに結果は決まっているのだ……。

 

だからこそ、自分たちの君主である月を逃がすことを選んだわけだが、それ以外の人がどうなるかについては分かったものではない。

 

つまり、今自分は恐怖しているのだ……。

 

自分が死ぬかもしれない事に、仲間が死ぬかもしれない事に、その決断を迫られているこの状況に………。

 

 

「どうなるかは……………分からない………。運よく逃げだせればどこかで生きることは出来るし、運が悪ければ………死ぬわ………。」

 

 

自分で口にした死と言う言葉。

 

その言葉の持つ力に体が震えている。

 

意識し始めると、急にその言葉は重く重く響いて来て、私の体の自由を奪い去る。

 

身体の震えを自分を抱きしめるようにすることでどうにか抑え、しっかりと堂々と立つ。

 

そうしなければ、こんな命令を下すことなど………私にできるはずがないのだから…。

 

 

 

もしこの場に月がいたら、この作戦は絶対に却下されたことであろう。

 

あの子は昔からずっとやさしい子だったから、自分が家族だと思っている仲間が死ぬかもしれない事をさせるはずがないのだ…。

 

だからあの子ならきっと、皆と一緒に自分も死ぬ事を選ぶだろう……。

 

 

しかし、あの子には人の上に立つ才能がある。

 

戦いで勝って人々の上に立つことは無理でも、その人柄や行動力で人々の心をつかみ、いつの間にか人々に崇められるようにして上に立っている。

 

明るい表舞台で陽光を浴びて輝くことは出来なくても、生きてさえいれば、何れ陽光を浴びて反射で輝く、暗闇の中で人々を導く月となることが出来るのだ……。

 

そんな彼女が………こんなことで………一部の人間の自己の為の私利私欲によって殺されていいはずがない…。

 

ならばこそ、断ることが出来ない様な状況を作り出すことで彼女に強制的にその選択肢を選ばせるしかないのだ…。

 

 

 

「………詠…。泣いているのですか…??」

 

「…………えっ?? あっ……。」

 

 

ねねに言われるまで、右頬を伝う涙に気付かなかった。

 

いや……気付かないようにしていたと言う方が正確だろうか……。

 

 

「…………ごめん、ねね。ちょっと外に出てくる………。城壁の上に居るから、何かあったら言って…。」

 

 

それだけを告げて、私は玉座の間から足早に退出するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城壁の上は思った以上に風が強く吹いていて、折角時間をかけてまとめた髪がぐしゃぐしゃだなと心の中でぼやく。

 

眼下に見える町は自分たちが必死になって支えてきた町……それが涙でぼやけて映る

 

それはまるで、この町が儚く消え去ってしまう前触れでもあるかのようで、不安に思えて仕方ない。

 

この町が今は戦場になろうとしていると考えると何とも悔しい限りだ……。

 

 

 

そもそも、張譲の誘いに乗ったことが失敗だったのだ…。

 

あいつら宦官共が大事にしているのは何よりも自分の権力、地位だ。

 

そんなあいつらの、誘い文句に乗ってこの洛陽の町に来た時点でこの運命は決まっていたのかもしれない。

 

あいつらにこの町の現状を見させられ、復興をさせられ、民心を集めさせられた。

 

地方に居る諸侯からすれば、それはそれは腹立たしいことだろうし、権力を牛耳られる危険を感じるのも当然のことのように思う。

 

そうして敵対心を作っておけば、いざと言う時に私たちは、今回のように全てをなすりつける先としてあいつらからに利用される…。

 

そう…。あいつら宦官共が自分たちの思うままに行かないからと、次帝の小帝弁を暗殺したと言う事実を隠ぺいするための隠れ蓑に……。

 

 

急いで宦官どもを捕縛するように動いたが、時すでに遅く。

 

洛陽以外の町では、董卓は洛陽を支配し、悪逆非道の限りを尽くし、小帝弁を殺した大罪人だと噂されるようになってしまった……。

 

そして、それを真に受けかつ、この洛陽を支配して権力を握ろうとしていた袁紹が、連合軍を作るように呼び掛け、今それが大挙として押し寄せようとしているわけだ………。

 

 

 

「本当に馬鹿みたい………。なんでこんなこと信じてるのよ……。どう考えたって嘘じゃない……。」

 

 

城壁に肘を付き、ため息を吐くが………本当は分かっている。

 

諸侯だって馬鹿ではないのだ…。

 

もう既に漢王朝の力が底をついていると言う事を、そしてこの世が戦乱の世の中に移り変わっていくと言うことも、そして………この戦で手柄を立て、名を売ることが今後の自分たちの力になると言うことも分かっているのだ……。

 

ならば、この機会に参加しないなどと言うことは、それはすなわち今後の自分たちの未来を捨てたと考えても良い。

 

そしてそれは…………今回の私たちみたいに後につぶされる運命になることを物語っている。

 

 

そう言えば、聖たちはこの戦に参加しているのだろうか……。

 

……いやっ、参加していないわけがないか…。

 

彼が私に言ってみせたことはとてもじゃないが、一諸侯に出来るようなことではない。

 

それこそ、大陸を制するようになってこそ初めて出来るようなことだ。

 

そんな彼が、この戦に参加して名を上げようとしないはずがないではないか……。

 

 

 

「………あの時の約束……。もし使えるなら、今のボクたちを助けて………ねぇ……聖……。」

 

 

 

それは、彼とした約束。

 

彼が私たちと一緒にいたときに言った、彼に出来ることなら何でもすると言った約束…。

 

勿論そんなものは口約束なわけで、必ずしも守らなければいけないわけでもないし、それに昔のことだ…。

 

天に祈ったところで、彼が現れるなんてことはあるはずがない。

 

 

「……………出来ることなら聞いてくれるって……言ってたじゃない……馬鹿……。」

 

 

そんな事を愚痴ると、自然と涙が零れだす。

 

どうやら、予想以上に自分は脆く、誰かに頼ろうとしているようだ…。

 

こんな状況で誰も助けてくれるはずがないと言うのに……。

 

 

「………いけない。 こんな時に弱気になっていたら、月をここから逃がすことさえ出来なくなる!!! それだけはどうしてもやり遂げないと…。」

 

 

手に力を入れ、ぎゅっと強く握ることで自分を奮い立たせる。

 

気づけば体の震えは治まり、涙も流れてはいなかった。

 

 

「この世界は何時でもこうなっていたんだから、今更どうこう言っても仕方ないわ。それよりも、今後の対策を考えないと……………えっ……??」

 

 

玉座の間へ戻ろうと視線を上げたところで、その一団は視界へと入る。

 

山道を進むその一団は私たちの軍ではない。

 

ではどこの軍かと言えば当然私たちを討伐するためにやってきた軍であろう。

 

だが、それにしても…………。

 

 

「…………早過ぎる……。諸侯が足並みを揃える前に既に兵を進めていたってこと……??」

 

 

だとすれば、一体誰がそんな事を………。

 

 

「とにかく、急いで迎え撃つ準備をしないと!!」

 

 

急いで城壁から玉座の間へと移動し、その勢いのまま扉を開けると、中に居たねねは驚いてこっちに振り向く。

 

 

「どうしたのです、詠。そんなにあわてて……。」

 

「敵が来たわ…。急いで迎え撃つための兵を出さないと。」

 

「何ですと~!!! しかし、今は戦える将は出払っているのです。」

 

「…………仕方ないわ…。ボクが指揮をするから、ねねは軍師として一緒に来て。」

 

「………分かったのです。覚悟をきめて戦ってやるのです!!」

 

 

短い打ち合わせでお互いの役割を確認すると、直ぐに集められるだけの兵を集めて敵を待ち構える。

 

 

目算では相手は二万近く。

 

こっちは急ではあったが三万近くの兵を集めることが出来た。

 

これならば何とか守り徹せるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵はどこの軍のものだったのですか?」

 

 

陣形を確認していると、ねねから最もな質問が上がる。

 

だが、それに答えるのは出来ない。

 

 

「………その一団を見かけただけだからどこのやつらかは分からない。でも、ボクたちの所の兵ではない以上、あれは敵でしかないわ。」

 

「そう………ですか………。」

 

 

少し落胆気味に話すねねを見て、不思議に思い問い返す。

 

 

「どうして落胆しているの……?? ボクたちの所の兵ではない以上敵でしかないでしょう?」

 

「そうなのですが…………。もしかしたら、聖たちが助けに来てくれたんじゃないかと……。」

 

 

ねねにそう言われると、私もそれを一度思っていただけに言葉が詰まる。

 

しかし、そんなことは起こりはしない…。

 

奇跡なんて言うものは唯のまやかしなのだから…。

 

 

「そんなこと……あるはずがないでしょ…。今はしっかりと現実を見なさい…。」

 

「分かってはいるのですが………でも………。」

 

「彼は来ないわ!! 来たところで彼に利益なんてない!! そんな負け戦に彼が来るなんて期待を持っちゃ駄目なのよ!! 今は、目の前の敵に対して意識を向けなきゃいけないの!!」

 

 

叱咤するようにねねに言いながら自分に言い聞かせる。

 

そう……。集中すべきは目の前の敵であると………。

 

指揮をとる人間が弱気ではいけないと……。

 

 

「…………御免なさいなのです……。」

 

 

素直に謝るねねを見ると何とも心苦しい……。

 

余裕がないからこそ、こうして強く当たってしまうことは人との心の距離を作ってしまう…。

 

これでは、戦うにも戦えないではないか……。

 

 

「…………ごめんなさい、強く言いすぎたわ……。でも、今は目の前の事を処理してからにしましょう。そうでなければ先はないわ。」

 

「……………そうなのです。今は目の前の事を片づけなければ先はないのです!!」

 

 

踏ん切りがついたのか、ねねもやる気みたいだ。

 

これなら、直ぐに負けることはないだろう。

 

それに、もう直ぐ恋や華雄の討伐隊が帰ってくるはずだ。

 

彼女たちさえ帰ってこればそう簡単には負けることはないだろう。

 

 

「さぁ、どんな相手でもかかってきなさい!! ここは、ボクが守ってみせる!!!」

 

「敵確認!!! 距離およそ十里先、森を抜けた先の平野に今はいます。旗印は…………特にありません!! ですが、どうやら黄巾賊の残党のようです。その数およそ四万!!!!!」

 

「「えっ……!?」」

 

 

伝令兵は前線から戻ってくると息も絶え絶えに一気に捲し立てる。

 

その報告に驚く私とねね。

 

賊の数は二万ほどかと思われていたが、実際の所はその倍はいたと言うのだ。

 

これで、兵の数の有利は消え去った。

 

 

「…………詠…。」

 

「……仕方ないわ…。ここで兵を減らすことになったとしても、守り徹さないと。」

 

 

賊たちは確実にこっちに侵攻してきている。

 

数の不利は策でどうにかするしかない。

 

 

「報告しますっ!!!!」

 

 

今度は別の斥候が戻ってきて、敵の情報を伝えに来る。

 

 

「どうしたの!?」

 

「それが………森に伏兵がいまして……四万の賊が一瞬の内に囲まれて、今は包囲殲滅されている所です。」

 

「何ですって!? 一体どこの誰が………。」

 

 

 

このとき私は、あまりの事についていけなくて思考が一瞬停止し、周囲への警戒が解けてしまった。

 

だからこそ、

 

 

「こんにちは、詠さん。」

 

「ひぃっ!!?」

 

 

斥候の報告を聞いている内に、急に後ろから声をかけられて普段ならあげないような悲鳴をあげてしまったのだ。

 

 

しかし、その声はどこかで聞き覚えがあって……。

 

 

 

「あ……あなたは………。」

 

「はい~。徳種軍軍師、徐元直です~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの時、離れた二つの場所で同じ内容の言葉が発せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺たち(私たち)徳種軍は、この戦において、真実を公にするため、力なき正義に尽力することとし、董卓軍と共に力を合わせ、連合軍を相手に戦を行う(行います~)!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「…………………。」」」」」」」

 

 

一方ではその天幕中が静まりかえり、一方では……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「うぉぉぉ~~!!!!!!!!!!!!」」」」」」」

 

 

大地を揺るがさんばかりの声が上がる。

 

 

その声を聞いた途端、ねねは泣き出し、私も膝から力が抜けるのだった。

 

 

 

そして、そんな私に芽衣さんは手を貸して立たせてくれると、聖から伝言があると教えてくれた。

 

 

「伝言………??」

 

「はい~。聖様から、『約束はこれで叶えられたか?』だそうです~!!」

 

 

…………馬鹿…。

 

…………馬鹿馬鹿馬鹿……。

 

 

 

「…………そんなもの……守らなくて良いのに………。」

 

「………聖様は約束は必ず守る人ですから……。」

 

「………そんな馬鹿……後にも先にもあいつくらいなものよ……。でも、ありがとう……。」

 

 

緊張感から解放された私は、大声でしゃくりあげるようにして溜まっていた涙を流しきるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓史に一生 第九章 第五話   約束の時   END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

第九章第五話の投稿が終わりました。

 

 

皆さんの期待に応えられるような作品になっているでしょうか……。

 

私的にはこれくらいの詠ちゃんが一番可愛く思えるのでこうしたんですが………ツンツンぶりが無くなってしまってこれはこれで味気ない気がするのも否めませんね…。

 

 

 

そして、反董卓連合なのにまだ月が出てこない!!!! まだ月が出てこない!!!!!!

 

大事なことなので二回言いましたが、特に複線とかそういうことではなく、ただ単に話に入ってこれていないだけと言う………作者は月好きなんですが……難しいところです…。

 

 

 

 

さて、今話でこの外史での反董卓連合が見えてきましたかね……。

 

月&徳種軍VS連合軍

 

となるわけですが、徳種さんには十分に活躍して頂きましょうか……。

 

 

 

次話はまた日曜日に!!

 

それでは、お楽しみに~!!!!

 

 


 
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