No.629124

太守一刀と猫耳軍師 第41話

黒天さん

今回は原作だと拠点の間に入ってくるお話。+桂花さんメインな感じです。

2013-10-17 23:35:54 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7589   閲覧ユーザー数:5716

「や、景気はどう?」

 

「んー、ボチボチかなぁ。それにしても、太守様がお一人とは珍しい」

 

「たまには一人で出かけたい時もあるよ」

 

贅沢な悩みだと、笑いながら俺に柿をくれる店主に苦笑い。

 

俺はそれにかぶりつき……。

 

「渋っ!?」

 

「ありゃ、ハズレだ」

 

「うへー、口んなかがシワシワになった気分だよ」

 

「ははは、まぁそんなこともあるさ」

 

のんびりと街を見て回る。三国を平定してからこちら、前にもまして活気が出てきたとおもう。

 

治安もかなり良くなってるハズだ。

 

街をぶらぶらと歩きながら、ふと思う。

 

やはり、俺はもう不要な存在なんじゃないかと。

 

戦乱の世の平定は成ったのだ。

 

以前はよく思った。

 

この世界にいる、というのは夢で、気づいたら俺の部屋のベッドで目覚めるのではないか

 

そして、そうであってほしいと。思っていた。

 

今は、ソレが怖い。最近眠るのが怖くて寝不足気味だ。

 

ここには俺の愛する人がいる。大事な友がいる。

 

たとえここにいるのが夢だったとしてもその事実は変わらないと思う。

 

きっと、俺は現実に帰ったとしても、この世界を想い続けて生きていくんだろう。

 

一番の不安、それは俺がこの世界の住人じゃない、ということ。

 

ゆっくりと、一人になって考えてみたかった。

「さぞや満足だろうな、うだつの上がらなかったお前が今や救国の英雄なのだから」

 

俺の思考を邪魔するように、聞き覚えのある声が降ってくる。

 

以前俺が毒矢で死にかけた時に夢の中で見た薄い茶髪の男。

 

于吉の仲間だ。

 

それが俺の前に現れた瞬間……。

 

「お前は……!」

 

俺の思考は怒りで真っ白になった。屋根の上から飛び降りてくるその男の着地にあわせて小刀を投擲する。

 

「ふん、やる気満々か? いいだろう、相手になってやる」

 

小刀を蹴りで弾き飛ばし、すぐさま駆け出して俺に蹴りを入れようとして跳びかかってくる。

 

鉄扇を抜き、左からの蹴りを受け流す。

 

「チッ……」

 

夢の中のようにはいかないが、相手もそのようで動きは明らかにニブい。

 

確かあの男は言っていた。この世界では力を発揮することができない、と。

 

どうにか俺でも戦える。

 

「うらあああ──ッ!!」

 

右の鉄扇を閉じたまま、突きを二度連続で繰り出す、それを男は片手で受け流し、ついで俺の顎を狙って蹴りを放ってくる。

 

その蹴りを左の鉄扇で受け止め、後ろに飛ぶことで勢いを殺す。

 

「ふん、現実でも貴様ごときに俺の攻撃を受け止められるとは、つくづく忌々しい外史だ」

 

「わけの分からない事を言ってるんじゃない! お前は……、お前たちは……!」

 

左の鉄扇を腰にさして、羅漢銭を男の顔めがけて投擲し、それに合わせて懐に飛び込もうと駆けこんでいく。

「死ね!」

 

駆け込む俺を迎撃するべく男の繰り出した蹴りに、袖に仕込んだ小刀を抜きながら飛び込んでいく。

 

小刀で受けるつもりなのを察してか蹴りを入れるのをやめて後ろに飛び退く、その飛び退いた所を狙い、小刀を投げつける。

 

それは男の肩にかすり傷を追わせたものの、致命傷にはならない。

 

悔しそうに、ギリと歯を食いしばるのが見て取れる。

 

俺は既に息が切れている、相手はまだ余裕がありそうだ。

 

このまま続けてれいればスタミナ切れでおそらく負ける。

 

それでなくても、投げれるものの数には限りがある。残るは左右に小刀が一本ずつと羅漢銭が残るのみ。

 

それでも俺はとまれなかった。

 

雄叫びを上げながら俺は男との距離を詰め、右の鉄扇を開いて斬撃を見舞う。

 

「お前らは、月を、華歆を、周喩を、愛紗を……!」

 

「ふん、傀儡がどうなろうが俺の知ったことじゃない、もうすぐこの外史は幕になる」

 

蹴りあげるようにその斬撃を躱されるが、続けて左の鉄扇を開いて切り上げるように振り回す。

 

そこで耳に響いてくる呼子の音。そちらに視線を向ければそこに居たのは桂花。

 

「よそ見をしている暇があるのか! 北郷!」

 

その一瞬の隙を突いて俺の頭に向けて蹴りを繰り出してくる。咄嗟に俺は一歩を踏み出し、鉄扇でその腹を狙い、突きを繰り出す。

 

「っ!?」

 

蹴り飛ばされたものの、頭に喰らうことはなく、左腕に手痛い一撃を食らって弾き飛ばされ、近くの店へと突っ込んだ。

 

鉄扇による一撃も浅くではあるものの入ったらしく、苦しそうな表情を見せながらも俺の方へと歩いてくる。

 

「ここでお前を殺し、幕にしてやろう」

 

俺は両手に鉄扇を握りしめたまま立ち上がる。

 

「殺してやる……」

 

普段の俺ならまず言わない言葉が口から溢れ出る。

 

俺を突き動かしているのは于吉達への怒り以外に何も無かった。

 

右の鉄扇を投擲し、続け様に小刀を投げる。

その両方を蹴りで躱した所で、男の動きが急に止まり、その口から血が溢れだした。

 

「な……に……?」

 

「……一刀を殺させたりしない」

 

その男の背後から聞こえる桂花の声。振り返った男の背には深々と小刀が突き刺さっていた。

 

「邪魔を……するな!」

 

男が桂花に蹴りを放つと、それを桂花が避けきれるハズもなく、もろに食らって地面にたたきつけられる。

 

俺は、背を向けたところですぐさま最後の小刀を投げつける。

 

それを躱す事はかなわず、小刀は背へと突き刺ささり、男は膝をついた。

 

剣を抜き、その首へとそれを振り下ろす。華歆の時とは違い、一切の躊躇はなかった。

 

男の首は鈍い音を起てて地面に転がる。

 

「大丈夫か!?」

 

男の首を落とし、ハッと我にかえる。桂花は!?

 

どうにか起き上って地面に座り込んでいる桂花のもとへ駆け寄って。

 

「何でこんな無茶したんだよ!」

 

「それはこっちの台詞よ! なんでこんなのに立ち向かったのよ! なんですぐに人を呼ばなかったの!?」

 

涙を浮かべながらの問いかけに思わず黙りこむ。

 

「あなたが死んだら、死んだら……」

 

そこから先は言葉にならなかったようで……。

 

「ごめん」

ようやく、警邏の兵達の足音が聞こえてくる。

 

「何があったんや!? あ、コイツ!?」

 

「これはあなたがやったのかしら、北郷」

 

どうやら街の見回りに出ていたらしい霞と華琳もやってきて、この惨状を見て驚いたような表情を見せる。

 

「あなたが首をはねるとなると、よほどよね。これが例の白装束の男、なのかしら」

 

「ああ、もう一人居るはず。これがその片割れだよ」

 

そちらに視線を向けて、その背に刺さったままの小刀をみてハッとする。

 

あれは……、桂花と出会ったころに渡した物だ。まだ持ってたんだな……。

 

「とにかく、後はウチらに任せて桂花と城に戻り」

 

「そうね、2人とも手傷も負ってるようだし早めに戻る方がいいわ。その前に……」

 

華琳が兵に指示を出すと、兵が周囲から俺の投げた小刀と鉄扇を拾い集めてきた。

 

「武器は武人にとって自分の半身。ちゃんと持って帰りなさい」

 

そういいながら、男の背に刺さった2本の小刀を抜き、血を拭って小刀や鉄扇とともに、俺に手渡してくれた。

 

「ありがとう。桂花、立てる?」

 

「たてなくはないけど、ちょっと辛いわ……」

 

「抱いてくのは無理だからな?」

 

そういって桂花を背負い、霞と華琳に後を任せて俺は城へと戻った。

───────────────────────

 

「なんで今日に限って誰も連れずに一人で街に出たりしたのよ」

 

「……考えたい事があってさ」

 

城に戻り、俺は自室へと戻っていた。桂花が話したいというので、桂花も連れてきていた。

 

「考えたい事?」

 

「……。天の御遣いの役割について、桂花は知ってる?」

 

「確か、戦乱の世をおさめるために遣わされてるって愛紗が言ってたわね」

 

「なら、今現在、戦乱が終わって天の御遣いの役目は終わった事になる。

 

だったら役目が終わってしまった俺はどうなるんだろうって思ってさ」

 

「え?」

 

「もしかしたら……、俺はここに来た時と同じように、ある日突然消えてしまうかもしれない。

 

とか考えちゃってさ」

 

さっと、桂花の顔が青くなり、それから俺の服の袖を掴んできた。

 

「最近、寝て起きたら元の世界の自分の部屋で目覚めてしまうような気がして、眠るのも怖くてさ。

 

こんなこと、誰にも相談できないし、すこし一人で考えたくなってさ」

 

「そんなこと言わないでよ!」

 

その声は半ば悲鳴、また、先ほどと同じように、目に涙が浮かぶ。

 

「ごめん」

 

桂花の背に両手を回して引き寄せて、軽く抱きしめる。

 

「ちょっと前まで、ずっと帰りたい帰りたいって思ってたけど、今は……。もう帰りたくない。

 

ずっと桂花の傍にいたい」

 

その存在を確かめるように、俺は強くその体を抱きしめていた。

 

「だったら約束してよ……、ずっと私の傍に居るって」

 

その言葉が嘘になってしまうのが怖くて、答えられず、黙りこんでしまう。

 

「折角あなたの望んだ平穏になりつつあるのに、

 

私もようやく自分の気持ちがわかって、こうして素直になれて、これからだと思ってたのに、

 

あんまりじゃない……?」

 

「許されるなら、ずっと傍に居たい。桂花のことが好きだから。

 

それが叶うかどうかわからないけど、それが俺の気持ちだよ」

 

少しの間の沈黙。俺の胸に顔を埋めるようにしているから桂花の表情は分からない。

 

「なら、そうしなさいよ。私だけを見てなんて言わないから、ずっと私達の傍にいてよ。

 

私の、紫青の、朱里の……。皆の傍にずっと居なさいよ。

 

私達が、一刀を天に帰したりしないから。どうやってでもここに繋ぎ止めていてあげるから」

 

「うん、そうする。ありがとう」

 

俺がそう答えるとようやく少し落ち着いた様子。

 

俺の方も、少し心が晴れたきがした。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回は原作でもあった左慈が襲い掛かってくるシーン。

 

ただ、能力ダウンしてるために結果は見ての通りとなりました。

 

本当にもうすぐこの物語も終わりになりそうですね。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
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