結局あの襲撃からこちら、白装束の連中からの音沙汰は無い。
首をはねずに何か吐かせればよかったかとおもったが、アレが口を割るともおもえない。
結局忍者隊の報告待ちとなり、いつもどおり仕事三昧だ。
そして今日も今日とて仕事……のハズだったのだが。
今日はいつもと違っていた。
というのも、朝議の後に紫青が俺の独占権の行使を宣言したのだ。
褒賞ってこともあり、結構な強権となっている。
よほど緊急でなければ本人の仕事は全て翌日送りor他人に押し付けとなり、その日は休暇となる。というもの。
俺の分の仕事については翌日送りになるだけだけど。
でまぁ、どうするつもりなんだろうかと思っていたのだが。
特に街に出るとかそういうことはなく、のんびり2人でお茶を飲みながら仕事中。
俺の仕事だけど。
「何か申し訳ない気がするなぁ。街に出たいとか無いの?」
「それもいいですけど、一刀様の明日の仕事が増えてしまいますし、それに自分で気づいてらっしゃいます?
紫青には、ほんの少し、体調が悪そうに見えるのですけれど……」
「え?」
特に調子が悪いとかそういうことは無いのだが……。
「注意して聞いていると少し呼吸がおかしいですし、時々咳をしてますよね。
風邪の引き始めじゃないですか?」
「そういわれれば思い当たる節があるなぁ。……ってもしかして、俺を休ませようと思って権限使ったの?」
「そうですよ。紫青はこういう使い方をするためにそれを望んだんですし。
紫青が一刀様を独占するためには、一刀様がお休みの必要がありますし」
「いやでもなぁ……」
「申し訳ないとおもうなら、今度一刀様の休暇を私に合わせてください。
その時に街にでも連れて行ってくださればそれでいいです」
「んー、でもやっぱり何か申し訳ないし、何か紫青から要望とか無い?」
「そうですねー……」
顎に人差し指を当てて、天井を見上げ考えるような仕草をして。
「紫青は一刀様と一緒にお茶を飲んでお話ができればそれでいいです、今日は華琳さん達に邪魔されることも無いですし」
「んーでもここだと落ち着かないしなぁ……」
「どうしてですか? ここは一刀様の部屋ですし、一番落ち着ける場所だと思うのですけど」
ゆっくりとドアへと視線を向ける。どうにもドアから気配を感じる……。
俺の視線を見て、紫青が納得、というようにため息をついた。
「でも、一刀様の体調は大丈夫ですか?」
「夕方寒くなる前に帰ってくれば平気じゃないかな」
「むー……、ではお言葉に甘えちゃいます」
しばらく考えてからそういって、紫青は嬉しそうに笑うのだった。
……、というわけで紫青と2人で街に出てきた。
手を繋ぎたい、と、紫青からささやかな要望があったので仲良く手をつないでのんびり歩いている。
手を差し出したらきっちり指を絡めて恋人つなぎにされてしまったのでちょっと気恥ずかしいけど。
「おや、太守様、今日は軍師様とおでかけで?」
「ん、まぁそんなとこだけど」
「この前は確かキツい方の軍師様と歩いてましたよね。っていってもかなり前ですが、ほら、髪飾り買ってくださった時に」
「……あー、あの時の!」
「太守様はどっちの軍師様が本命なんで?」
「どっちも」
俺が迷いもせずにそういうと、店のおやじさんは楽しそうに笑う。
「一国一城の主ともなればやっぱりそれぐらいでないとね、それじゃあ、こっちの可愛い軍師さんにも何かどうです?」
「んー、そうだなぁ」
紫青の方にチラと視線を向けてみるが、じーっと俺を見ているばかりで気になる物は無いっぽい?
桂花の時はわかりやすかったんだけどなぁ……。
「んー、じゃあ……」
髪飾りを眺めて、どれが似合いそうだろうかと考えてみる。
「これとかどうだろ?」
俺が選んだのは鈍い銀色のバレッタ。
少し地味だけど、紫青の黒髪には映えるとおもってのこと。
しかし相変わらず服や装飾品関係はオーパーツじみてるなぁ……。
この時代銅鏡が主流だったはずなのに、普通にガラスの姿見があるし。
「試しにつけてみてもいい?」
「ええどうぞどうぞ」
紫青に問いかけるように視線を向けると、「つけて」と言わんばかりに背を向けて。
その長い黒髪を両手で軽く集めて、それを取り付けて。
「似合いますか?」
「うん、似合ってる。おやじさん鏡ある?」
「ほい」
普通にガラスの手鏡出てくるし……。まぁ今更ツッコミも入れるまい。
鏡2枚を使って紫青に後ろ頭が見えるようにして。
「どう?」
「いいと思います、気に入りました」
こちらを振り返ってとても嬉しそうに笑う。
この笑顔を見れただけでも街に出てきた価値があるというもの。
「じゃあ、お代ね」
店主に代金を支払って店を後にして、それから向かうのは馴染みの菓子屋。
「あら、太守様じゃないですか。今日は珍しいお連れさんですね。」
「ん、ウチの軍師の司馬仲達だよ」
「噂の3人目の軍師様ですか、これは失礼を……」
「噂?」
「ええ、北郷様の三軍師といえば有名ですよ。今は司馬様の妹の4人目もいらっしゃると聞いてますけれど。
みんなとても綺麗で、聡明だと聞いています。司馬様は笑顔を絶やさないとても穏やかな方だとも」
菓子屋の店主の言葉に紫青が少し恥ずかしそうな顔をする。
「でも、太守様の前ではどの軍師様も普通の女の子ですね、ふふ……」
「そうあって欲しいもんだよ」
と、注文してもいないのにいつものお菓子とお茶を出してくれる。
「まぁ、ゆっくりしてってくださいな。お代は結構ですので」
店の奥へと消える店主に軽く会釈をして、椅子に座る。
「いつもここのお店で買ってたんですね。桂花さんや朱里さんもここのことは?」
「ん、桂花は知ってるよ。あとは詠と華雄や霞も知ってるかな」
「むー……。私も聞けばよかったです。なんだか私だけ知らなかったのが悔しいです」
もぐもぐとお菓子を食べながらなんだか少し不服そうな顔。
「んー、じゃあ後でとっておきの場所にでも連れてってあげようか?」
「とっておきの場所、ですか?」
「そ、俺のお気に入りの場所なんだけどね。あんまり興味無いかな?」
「ぜひ行ってみたいです!」
身を乗り出して目を輝かせて、さっきの不服そうな顔が嘘のよう。
「しばらくここでのんびりしてからね。折角お茶とか出してくれたしさ」
「はい」
言葉通り、しばらくのあいだお茶とお菓子を楽しんで、他愛無い話しでもしながら時間を過ごす。
お気に入りの場所に案内する、というのが気になるようで、紫青は始終落ち着きが無い感じ。
しばらく休憩した所で菓子を買って店を後にして、紫青を連れてまっすぐに城に戻る。
「一刀様、あの、とっておきの場所って……」
「ん、城の中だよ」
城門をくぐり、城の中にはいかずに城壁に上り、隠してあるハシゴを引っ張りだしてきて屋根の上に上り、紫青を呼ぶ。
紫青は高いところは苦手なのか、なんだかビクビクしながら登ってきた。
「あっちの方見てみなよ、街が一望できるから」
「街が綺麗ですね、正直怖いですけど……。一刀様はよくここにいらっしゃるんですか?」
「ん、まぁ時々ね。星に教えてもらったんだけどすっかりお気に入りの場所だよ」
「こんな所に一刀様が来てるなんて知らなかったです」
やっぱり怖いのか、俺の右手を軽く握ったまま、視線は街の方へ。
「そろそろ夕暮れ時だから、ここから見る夕日ってのも悪く無いしね
屋根も割りとしっかりしてるから慣れれば怖くないし。
ここから街をじーっと見てるとさ、自分がした仕事がどういうふうに影響してるか分かる気がして好きなんだ。
だんだん活気が出てきてるのもわかるし、屋台の数なんかもある程度分かる。」
「そうですね、街を歩くのとはまた違ったものが見える気がします。
……所で一刀様」
「ん?」
「天に帰るかもしれないっていう話し、本当ですか?」
「ん、んー。分からないかな。でも俺はずっと紫青や桂花と一緒に居たいと思ってるから、ここに居られるように頑張ろうと思ってる」
「はい、紫青達の傍にずっと居てください。桂花さんは言ったと思います。天になんかかえさないって」
確かに、この前言われた覚えがある。
「桂花さんも紫青もきっと気持ちは同じです、一刀様を愛してますから……」
紫青の顔が赤いのは夕日のせいなんかじゃないはず、照れくさそうにそういって、俺にもたれ、肩に頭を預けてくる。
「ずっと一緒にいるよ。俺だって離れたくないから」
「約束、ですよ。もし帰ってしまったら、天に攻め入ってでも連れて帰りますから」
紫青の言葉に嬉しくなり、その肩に手を回して軽く抱く。そうすると紫青も嬉しそうな顔を見せてくれて。
「明日の朝まで、一刀様を独り占めできるんですよね」
「ん、そうだよ」
「そろそろ寒くなりますし、部屋に戻りましょう。まだまだゆっくりお話もしたいですし」
紫青の提案に頷いて部屋に戻りのんびりと過ごしていたのだが、
結局夜に我慢できなくなった紫青にお願いされて抱いた。
まぁ、風邪はひどくならずによくなったのでよしとしよう。
あとがき
どうも黒天です。
更新が遅くなって申し訳ありません。
仕事が激務で中々書く余裕がありませんでした……。
さて今回は紫青さんのお話、いつもどおり、可愛くかけてればいいなぁと思ってます。
あとは華琳さん、詠、月あたりの拠点を入れて泰山行きかなー、などと思っております
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回は紫青さんのお話です。
そこそこ甘め?