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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第50話 【愛紗拠点】

葉月さん

どうも、お久しぶりです。
生存報告を兼ねて、やっと人気投票第一位の話が書き上がったので投稿します。
時間が掛かりましたが、楽しんでいただけると幸いです。
まだまだ、仕事が忙しいですが、ちまちま書いていきますので、よろしくお願いします。

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2013-10-06 15:19:08 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:6078   閲覧ユーザー数:4631

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第50話 【愛紗拠点】

 

 

 

 

【愛の天女は、お転婆娘?】

 

 

 

《愛紗視点》

 

「では、朝議を始める。まずは各部の報告からだ」

 

皆が椅子に座る中、二つの空席が私の横にあった。

 

「……と言いたいところだが、まだご主人様と桃香様がこられていない」

 

そう、我ら二人の主であるご主人様と桃香様だ。

 

「寝坊か……はぁ、ご主人様も桃香様も困ったものだ」

 

「そう言いながらも愛想を尽かさないのだな、愛ゆえか」

 

私の対面に座る星はニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってきた。

 

「な、何を言い出すのだ星!そんなわけ無いだろ!私はただ――」

 

「ただ、主としてしっかりしていただきたいだけ、か?」

 

「ぐっ!そ、その通りだ」

 

言いたかったことを言われてしまい、勢いをそがれてしまった。

 

「お決まりの言葉だな」

 

「なっ!」

 

「あらあら、良いじゃない、そこが愛紗ちゃんのいいところだと思うわ」

 

「し、紫苑!?」

 

星の言葉に紫苑が笑いながら同意していた。

 

「ご主人様は、愛紗さんのような素振りをする女性が好きなのね、(わたくし)、も見習おうかしら」

 

「菫殿まで何を言い出すのだ!と、とにかく私は、ご主人様たちを起こしてくる!お前たちはここで待機していろ!」

 

私は、これ以上からかわれない、否。ご主人様たちを起こしに大広間を出た。

 

「まったく、星のやつめ……」

 

廊下を歩きながら文句を言う。

 

「少しは危機感というものを持ってほしいものだ」

 

白蓮の所で始めてあった時は、こんな性格だとは夢にも思わなかった。

 

「はぁ……愚痴を言っていても始まらないな。早くご主人様と桃香様を起こしにいかなくては……まずは、ご主人様からだな」

 

私は、気を取り直してご主人様の部屋へと向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ご主人様、朝ですよ。起きていますか?」

 

(……)

 

「返事が無い、やはりまだ眠っておいでなのか」

 

ご主人様の部屋に着き、扉越しから声をかけたが返事は返ってこなかった。

 

「仕方が無い、部屋に入り起こすしかないな」

 

これも起きてこないご主人様が悪いのだ。それに、あわよくばご主人様の寝顔を……

 

「ふふ……はっ!私は、何を考えているのだ!べ、別に疚しいことなど考えてはおらぬぞ!こ、これはご主人様を起こすためなのだ!」

 

にやけた所でわれに返り、誰も居ないのに言い訳を始めてしまった。

 

「うぅ……ご主人様、入りますよ」

 

ここに立っていても仕方が無いので部屋に入ることにした。

 

(がちゃ)

 

「ご主人様、おはようございま、す……」

 

部屋に入り寝台を見るがそこにご主人様はいなかった。

 

「どこへ?」

 

朝の鍛錬ならば誰かが声をかけているだろう。それに、起きているのであれば毎朝行っているので必ず来るだろう。

 

「っ!……まさか」

 

あることを思い出し私はご主人様の部屋を出た。

 

「昨日はお二人で、で、でえと(デート)をしていたはず……そして、朝議にお二人の姿が無かった……だとすると!」

 

私は、急ぎある場所へと向かった。

 

「はぁ、はぁ……ごくん」

 

………………

 

…………

 

……

 

その場所へと着いた私は思わずのどを鳴らしてしまった。なぜなら、その場所とは……

 

「入りますよ、桃香様」

 

そう、桃香様のお部屋だ。

 

私は意を決して桃香様の部屋へと入った。

 

「んんっ……すー、すー」

 

「ぐぅー、ぐぅー」

 

「やはり……」

 

私が予想した通り、桃香様の部屋にはご主人様が居た。しかも、桃香様はご主人様に抱きつくようにして眠っていた。

 

「はぁ、やれやれ」

 

溜息をつき眠っているお二人に近づく。

 

「桃香様、ご主人様、起きてください。もう朝ですよ」

 

(ゆさゆさ)

 

「んん……あと、ひょっとだけ~、むにゃむにゃ」

 

桃香様の体を揺すると予想していた返答が返ってきた。

 

「ちょっとだけではありません、もう朝議が始まります。さあ、お早く。ご主人様もですよ」

 

「う、ううん……あい、しゃ?」

 

ご主人様は目をこすり寝ぼけた顔で私のことを見上げてきた。

 

「……?……っ愛紗!?」

 

寝ぼけた顔で私を見ていたご主人様は意識がはっきりしてきたのか、私の名を呼びあわてて起き上がった。

 

「おはようございます。ご主人様」

 

「あ、ああ……おはよう、愛紗」

 

朝の挨拶をすると、ご主人様は戸惑いながら挨拶を返してきた。

 

そして、ご主人様は、抱き着かれていた桃香様の手を私に気が付かない様に外していた。まあ、バレバレなのだが。

 

「そ、その……き、今日も良い天気だな」

 

「今日は生憎の曇りですが」

 

「……」

 

私の返しに黙って窓の外を見るご主人様。

 

「あ、あ~、今日って警邏の仕事だっけ?」

 

「いいえ。今日の予定は、まず町の長老たちとの会合、昼食後は政務です」

 

「……」

 

「……」

 

私が今日の予定を訂正するとまた沈黙が訪れた。

 

「ち、違うんだ!これはえっと……と、桃香を起こそうとして!」

 

「上半身裸で、ですか?」

 

「え?あっ……」

 

ご自分の姿を見て小さく声を出すご主人様。

 

はぁ、あれこれと言い訳をすればご自身の首を絞めるだけだと言うのに……

 

桃香様と逢引をしていたことでこうなるだろうと言うことは分かっていたのだから。

 

「え、えっと……怒ってる、よな?」

 

「そうお見えなのでしたらそうなのでしょう」

 

「う……」

 

別に怒っているわけではないが、ここはそう言っておこう。

 

少しお灸をすえるために丁度良い。

 

「良いですか、ご主人様。常日頃言っていますが少しは我らの主としてじか――」

 

私がご主人様にお説教は始めようとしたその時でした。

 

「んん~……?……ん?」

 

(わさわさ)

 

眠っていた桃香様は、突然腕を動かし始め、何かを探しているような仕草をはじめた。

 

(わさわさ……ぎゅ)

 

「「え?」」

 

(ぐい)

 

「うぉ!?」

 

「ご主人様!?」

 

彷徨っていた桃香様の手はご主人様の腕を掴むとそのままご自身へと引き寄せた、その拍子にご主人様は再び寝台へと仰向けになってしまった。

 

「大丈夫ですか、ご主人様。どこかぶつけたりなどは」

 

寝ていた桃香様に再び横にさせられたご主人様に怪我は無いかを尋ねる。

 

「あ、ああ。大丈夫」

 

良かった。怪我は無いようだ。

 

「んんっ……えへへ♪」

 

(すりすり)

 

「っ!?」

 

寝ぼけているのか、桃香様は、ご主人様の腕を頬ずりして照れ笑いを浮かべていました。

 

一体どんな夢を……

 

(すりすり)

 

「……」

 

(すりすり)

 

「……」

 

(すりすり)

 

「~~~~っ!いい加減に起きてください、桃香様!」

 

「ふわぁああっ!な、なに、て、敵襲!?」

 

桃香様は、私の声に驚き慌てて起きて来た。

 

「はぁ……桃香様」

 

「え?え?あ、あれ?愛紗ちゃん?」

 

溜息を吐くと桃香様は、私を見て首を傾けた。

 

「……既に朝議が始まっています。お早く支度をして来て下さい。ご主人様もですよ」

 

「あ、う、うん!す、すぐに着替えていくね!」

 

「う、うん。すぐに行くよ」

 

「では、先に行っております」

 

慌てて頷く桃香様とご主人様を見て私は部屋を後にした。

 

「はぁ、ご主人様と桃香様は君主としての自覚が無さ過ぎる。もう少し自覚を……」

 

そこでふとさっきの光景が浮かんできた。

 

「はぁ、何をしているのだ私は……」

 

桃香様とご主人様が昨日一緒に出かけていたのは知っていたではないか。

 

そうなれば、こうなることも予想できていたはずだ。

 

なのに私はお二人の寝ている姿を見て嫉妬し、気持ちよさそうに眠っている桃香様に向かい大きな声で怒鳴ってしまった。

 

大声を出し慌てて起きた桃香様だったがそれでもご主人様の腕を離してはいなかった。

 

それを見た私は、その場に居ずらくなり、逃げるようにして桃香様の部屋から出てきたのだ。

 

「……やはり、ご主人様は、私みたいなガミガミ言う女より、桃香様のような朗らかな女性のほうが良いのだろうか……」

 

「うんうん。難しい問題だよね」

 

「っ!だ、誰だ!」

 

背後からいきなり話しかけられ慌てて振り返った。

 

「やっほ~。いつもニコニコ一刀君の隣に寄り添う客将、太史慈です♪」

 

そこには笑顔で腰に手を当てる優未殿が立っていた。

 

「……」

 

「あ、あれ?面白くなかった?呉の民衆の間だと結構人気があったんだけどな~。あっ、もちろん一刀君って言うのと客将って言うのはここに来て思いついたことなんだけどね。いつもは『いつもニコニコあなたの隣に寄り添う武将、太史慈です♪』って言ってたんだよ」

 

あっけにとられていると優未殿は、聞いてもいないことを話し始めた。

 

「……」

 

私は見なかったことにして振り向き歩き出した。

 

「うわ~ん!無視しないでよぉ!」

 

「はぁ、なぜここに優未殿が居るのだ?」

 

慌てて着いてくる優未殿に溜息を吐きながら尋ねた。

 

「え?暇だったから」

 

「……朝議があると言っておいた筈だが?」

 

そう言えば、あの場に優未殿も居なかったような……。

 

「だって、面白くないし」

 

「大事な事を話し合う場なのだ。面白くする必要は無い」

 

「はぁ……愛紗は、考え方が固いよ。もっと自由に生きていこうよ!」

 

「逆に優未殿が自由過ぎな気がするぞ」

 

「だって、一度しかない人生だよ?楽しまないと損でしょ!」

 

「損、か……」

 

確かに私は、損な性格をしているのかもしれないな。だが、今更生き方を変えるなんて事は出来ない。

 

「はぁ~、昨日の夜から一刀君に逢ってないんだよな~。夜這いでもしようかと夜、部屋にこっそりと行ったのにさ」

 

(ぴた)

 

「ち、ちょっと待て!い、今、なんと言った?」

 

優未殿の話に私は、足を止めもう一度聞き直した。

 

「え?昨日の夜から一刀君に逢ってないんだよな~って」

 

「違う、その後だ。よ、夜這いと聞こえたが聞き間違えか?」

 

「言ったよ。夜這いでもしようかと夜になって一刀君の部屋に忍び込んだよ」

 

「なっ……!」

 

しれっと、さも当然のように答える優未殿に絶句してしまった。

 

「な、何を考えているのだ、あなたは!」

 

「そんな変な事言ったかな?それじゃ、逆に聞くけど、好きなのに他人を気にして何もしないで、好きな人が他人と夫婦(めおと)になったとしたら、愛紗は諦められる?」

 

「そ、それは……」

 

優未殿の話を聞いてご主人様と桃香様が夫婦(めおと)になる姿を思い浮かべ胸が少し痛くなった。

 

「私だったら絶対無理!だから後悔しないように積極的に行かないとさ!」

 

「優未殿……」

 

笑顔で答える優未殿の顔は私にはとても輝いて見えた。

 

確かに桃香様には勝負だと言った。だが心のどこかで遠慮しているところがあった。

 

「そ・れ・に、既成事実でも作っちゃえば一刀君が呉に来てくれるかな~なんて思っちゃってるんだけどね♪」

 

「なっ!?」

 

優未殿の大胆な発言に目を丸くしてしまった。

 

じょ、冗談ではない!ご主人様が呉に行ってしまうなど、あってはならないことだ!

 

そんなことになったら、最悪、呉の方から同盟破棄を一方的に突きつけられることだってありえる。そうなってしまったらご主人様は……敵。

 

ご主人様の武は、あの恋をも凌駕する。我々に勝ち目など……いや、それよりもご主人様がいなくなったことで我らの士気がどれほど下がるか……

 

下手をすれば、呉でも、魏でもない国に滅ぼされてしまう恐れだってありうる話だ。

 

「……優未殿は、これよりご主人様の周囲、三間(一間:約180cm)以内に入ることを禁ずる」

 

「えぇええええ!?な、なんで!?横暴だ!」

 

「当たり前だ!客将とは言え優未殿は呉の将。ご主人様に孕まさられては困るのだ!」

 

「……」

 

「な、なんだ。その顔は」

 

抗議する優未殿に怒鳴るように言うと、優未殿は間の抜けた顔で私を見ていた。

 

「愛紗ってさ。たまに凄い発言するよね」

 

「どういう意味だ?」

 

「だってさ。大声で『ご主人様に孕まさられては困るのだ!』なんてよく言えるよね」

 

「○△&□☆っ!?」

 

わ、私はなんてことを口走ってしまったのだ!

 

「あはは、顔を真っ赤にしちゃってかっわいい~♪」

 

「う、うるさい!あぁ……もし今のをご主人様や桃香様に聞かれたら私は、私は……」

 

い、生きてはいけない……

 

(ぽん)

 

「お待たせ愛紗」

 

「ごめんね、愛紗ちゃん。遅くなっちゃって」

 

「っひぅ!?」

 

一人頭を抱えていると背後から肩を叩かれ、思わず肩を震わせてしまった。

 

「ひぅ?」

 

「あ、い、いえ。な、何でもありません。お早かったですね」

 

「だってこれ以上愛紗ちゃんが怒ると怖いし」

 

「お、怒られる前に自力で起きて貰いたいものですが」

 

「あ、あはは……てへ♪」

 

誤魔化すように笑う桃香様。

 

よかった。お二人には聞かれていなかったようだ。

 

一人ホッと息を吐く。

 

「やほ~、一刀君。おっはよ~♪」

 

私の背後からひょこっと顔を出し、優未殿は挨拶をした。

 

「ん?ああ、優未。おはよう」

 

「おはようございます。優未さん」

 

「桃香もおはよ~。なになに?二人一緒に登場?もしかして昨日は一緒に寝たとか?」

 

「~~~~っ!」

 

「あ、あはは……」

 

「えっ!本当にそうなの!?ずる~い!私も一刀君と一緒に寝たい!ぶー、ぶー!」

 

顔を赤らめて恥ずかしそうに頷く桃香様と苦笑いを浮かべる御主人様を見て優未殿は驚き、そして不満をぶつけていた。

 

「優未殿、私がさっき言ったことをお忘れか!」

 

「別に愛紗の部下じゃないから言う事なんて聞かないも~ん」

 

「くっ!」

 

た、確かに優未殿は部下ではないが、こればかりは聞いてもらわなければ困るのだ!

 

「ん?優未は愛紗に何か言われたのか?」

 

「そうそう、聞いてよ一刀君!愛紗ったらね。一刀君の周り、三間以内に入るなって言うんだよ。酷いよね~」

 

「え、愛紗。そんなこと言ったのか?」

 

「そ、それは……ですが、それはご主人様の身を案じて!」

 

「違う違う、愛紗ったらね。一刀君のこど――」

 

「わぁああああっ!な、なんでもありません!」

 

私は慌てて優未殿の口を押え、何でもない事を伝えた。

 

「むが~~~~っ!!」

 

優未殿は私の腕の中でもがいていた。

 

「え、えっと……」

 

「で、では、優未殿と私は先に行って待っておりますので、ご主人様たちもお早くお越しください。それでは!」

 

「ん~~!ふぁふふぉふ~~~~~ん!!(一刀く~~~~~ん!!)

 

私は、呆気にとられているご主人様と桃香様に先に行くと告げ、優未殿を抱えてその場から全速力で離れた。

 

《一刀視点》

 

「で、では、朝議を再開する」

 

「……なぜ愛紗は、息を切らせているのですかな主よ……まさか、朝だと言うのに愛紗と」

 

息を切らせている愛紗を見て星は俺に疑いの目を向けてきた。

 

「そんな訳無いだろ!?昨日は、桃香と一緒に居たんだから……あっ」

 

「ほう……なるほどなるほど、やはりそうでしたか。ふむふむ、それはそれは」

 

しまった。星に余計な事を言ってしまったぞ。

 

星はニヤリと笑い腕を組み納得したように何度も頷いていた。

 

「いや、あの!一緒に居たって言うのは――」

 

「みなまで言わずとも分かっております、主よ。そうですか、通りで桃香様の肌が艶やかで幸せそうにしておいでだと思いましたぞ」

 

星は手を前に出し俺の話を制した。

 

いやいや、分かってないだろ!確かに桃香は嬉しそうだけど。

 

「俺の言いたいことは――」

 

「ご主人様!私語は慎んでください!」

 

「うっ!す、すまん」

 

「そうですぞ、主……くっくっく」

 

愛紗に注意される俺を見て星は声を抑えて笑っていた。

 

「も~!そんなに怒ったら一刀君が可哀想でしょ~。ねぇ、一刀君♪」

 

「うぉ!?ゆ、優未!?一体どこから!」

 

俺の正面の席に居たはずの優未は、いつの間にか俺の背後から現れ抱き着いてきた。

 

「愛紗に怒られて可哀想な一刀君を慰めにきたの♪よ~しよし」

 

(なでなで)

 

優未は抱き着きながら俺の頭を撫でてきた。

 

「「なっ!?」」

 

(がたっ)

 

優未の行動を見て愛紗と桃香が声を上げて立ち上がった。

「な、なな、何をしているのですか優未殿!」

 

「え?見てわからない?慰めてるんだよ?」

 

「そ、そういう事を聞いているんじゃありません!な、なんで抱き着きながら撫でてるんですか!羨まし、じゃなくて!ふ、不謹慎です!」

 

「今、羨ましいって言ったよね。桃香」

 

「い、言ってません!言ってませんよ!ご主人様に抱き着いて、しかも、頭をなでなでするなんて、私でもしたことが無いなんて思っても無いですし、なでなでしたいとも思ってませんよ!」

 

桃香は手をバタバタと動かし、慌てながら優未に言い訳をしていた。

 

いや、あんなに慌てて言えば本当の事だと言ってるような……ん?ということは桃香は俺の頭を撫でたいってことか?

 

「ごほん!兎に角、今は朝議中だ!優未殿は自分の席に戻って貰おう」

 

「え~。私は、一刀君の横が良いな~」

 

「駄目に決まっているだろ!これ以上、言う事を聞かないようであれば」

 

「……聞かないようであれば、なにかな?……もしかして実力行使?私は、別にいいよ?負けるつもりないし」

 

「……」

 

優未と愛紗は互いにどこからともなく得物を取り出した。

 

「あわ、あわわわわっ!」

 

桃香は、ワタワタと二人を交互に見て慌てていた。

 

「ちょ!二人とも落ち着いて!」

 

「いいえ。ご主人様と言えどもその命令は聞けません」

 

「そうそう、女の戦いに一刀君は口出ししないでね。あ、でも夜の戦いなら大歓迎だよ♪」

 

「っ!?優未殿……あなたと言う人はっ!」

 

「ふふん。言ったもん勝ちだよ。どこかの誰かさんみたいにウジウジして何もしないよりずっとマシでしょ」

 

「な、なんだとっ!?」

 

挑発するように愛紗を見ながら言う優未に愛紗はまんまと乗せられてしまっていた。

 

「二人ともや――」

 

「主よ、少々お待ちくだされ」

 

二人を止めようとしたところで星に呼び止められた。

 

「何で止めるんだ、星」

 

「それはもちろん、おも……もとい、止め時があるからですぞ」

 

「……今、面白いって言おうとしなかったか?」

 

「はて、何のことですかな?それより主、そろそろですぞ」

 

「え?」

 

「もう許せん!今ここで白黒つけようではないか!」

 

「望むところ。私が勝ったら一刀君を一日自由にさせてもらうからね!」

 

「そんなことは、一生無いと思うのだな!なぜなら、私が居る限り優未殿には指一本、ご主人様には触れさせないのだからな!」

 

「それじゃ、本当にそうなのか試させてもらおうかな!はぁぁああああっ!」

 

「でやぁあああああっ!!」

 

星と話しているうちに愛紗と優未は得物を手に互いに向かって行っていた。

 

「ほれ、今ですぞ!」

 

(どんっ!)

 

「うぉ!?」

 

星は俺の背中を思いっきり押してきた。

 

「とっとっと!?」

 

くっ!?な、なんとか体勢を立て直して二人を止めないと!

 

(ぐぐっ!)

 

「ふ、二人ともそこまでだ!」

 

足に力を入れ何とは踏みとどまり、二人を止めようと声を上げ両手をそれぞれ二人へと突き出した。

 

「ご、ご主人様!?」

 

「一刀君!?」

 

(ふに)

 

(むにゅ)

 

「「っ!?」」

 

「……ん?」

 

なんだ、この感触は……凄く柔らかい……

 

(もみもみ)

 

確認する様にもう一度揉んでみる。

 

「ぁっ……んんっ!」

 

「やぁ、……だ、だめぇぇ」

 

どこかで触ったことがあるんだよな?

 

(もみもみ)

 

俺は、さらにもう一度その感触を確かめる為に手を動かした。

 

「~~~っ、だ、だめです。ご主人様ぁ……はぅ!」

 

「ぁっ、んんっ!へへ、そんなに私の胸が気に入ったの一刀君?ああんっ♪」

 

「……へ?胸?」

 

愛紗の艶めかしい声と優未のいやらしい声に俺は顔を上げて伸ばしている両腕を交互に見た。

 

「!?ご、ごめん!わ、わざとじゃないんだ!こ、これは、二人を止めようと!」

 

慌てて二人の胸から手を離し謝る。

 

「い、いえ。わざとではないことは分かります。止めに入ろうとしてくださったのですよね」

 

「あ、ああ」

 

「私たちの方こそお見苦しい所を見せてしまいました。申し訳ありません、ご主人様」

 

「たちってどういう事?喧嘩を売ってきたのは愛紗の方だよね?」

 

「まあまあ、優未も落ち着いて。優未もごめんな。その……胸触っちゃって」

 

「え?私は全然気にしてないよ。むしろ大歓迎!」

 

「だ、大歓迎?」

 

「うんうん♪胸が触りたいなら、いつでも私の胸を触りに来てくれていいんだよ!むしろ、今すぐ触れ~♪」

 

「うぉ!?ち、ちょっと、優未!?」

 

優未は、俺の腕を掴むと自分の胸へと押し当てようとしてきた。

 

それを俺は、腕を引っ張られない様に力を入れて踏ん張っていた。

 

「も~、遠慮しなくても良いんだよ?ほらほら♪」

 

「いやいやいや!こ、こんなみんなが見ている所でそんなこと出来る訳が無いだろ!?」

 

「なら、皆が見てなければ触ってくれるってこと?一刀君って見かけによらず、恥ずかしがり屋さんなんだね♪」

 

「いや、そういう意味じゃなくてだな!」

 

(がしっ!)

 

その時だった、横から手が伸びてきて優未の腕を掴んだ。

 

「ゆ、優未さん?取り合えずここは朝議を進めてもいいかな?みんなが待ってるし……ね?」

 

眉を引くつかせながら満面の笑み(全然表情は笑っていなかったが)で優未に話しかける桃香だった。

 

「え、あ、う、うん……そうだね。み、みんなに悪いもんね。あ、あはははは……」

 

優未も桃香の笑顔に冷や汗を流しながら乾いた笑いをして、俺の腕を放してくれた。

 

「と、桃香、助かったよ」

 

「……ご主人様?あとで少しお話があるので残ってくださいね?」

 

「え?で、でも今のは……」

 

「残ってくださいね?お・ね・が・い・し・ま・す」

 

「……はい。わかりました」

 

桃香の有無を言わさぬ表情に俺は頷くしかなかった。

 

とほほ……俺、今回悪くないよな?

 

《愛紗視点》

 

「はぁ……なんて失態をしてしまったのだ私は」

 

昼時、廊下を歩きながら大きな溜息を吐き、今朝の出来事を思いだし反省していた。

 

今朝の出来事とは優未殿との言い争いの事だ。

 

「団結しなければいけないこの時期に何てことを……」

 

今は大事な時期、一個人としての感情を捨てなければ……

 

「……」

 

『一刀く~ん♪』

 

「…………」

 

『一刀君が相手ならいつでも私は準備万端なんだから!』

 

「………………」

 

『ほらほら、我慢しないで。あんな堅物の愛紗なんて放っておいて私に乗り換えちゃいなよ♪』

 

「~~~~っ!ええい!忌々しい!今すぐ私の前から消えろ!」

 

忘れようとしたがなぜか優未殿の言葉が私の頭の中から出てきて思わず叫んでしまった。

 

「ふぇ!あ、あのご、ごめんなさい!す、直ぐに退きます!」

 

「え?……あ、雪華。すまない。お前の事ではないのだ。驚かせて済まない」

 

行き成り謝ってくる声が聞こえ我に返ると、目の前で頭を下げて謝っている雪華がいた。

 

「あ、そうだったんですか?てっきり、私が気付かずに愛紗さんの気分を害することをしてしまったのかと思いました」

 

「そんなことは無い。雪華は良くやってくれている。とても助かっているぞ」

 

「そ、そんな……」

 

照れる雪華は見ていてとても和む。

 

「そ、それで、何に怒っていたのですか?」

 

「うぐっ……」

 

雪華の疑問に私は思わず身を引いてしまった。

 

「?」

 

「い、いや、その、だな……」

 

「もしかして、ご主人様と何かご関係がおありですか?」

 

「うぐっ……」

 

図星だった為、何も言えなくなってしまった。

 

「……はぁ、な、なぜわかったのだ?私がご主人様の事で悩んでいたことに」

 

「その今朝の出来事でなんとなく、そうなのかなと思っただけで」

 

「そ、そうか……そうだな。あんなにご主人様の事で騒いでいたら嫌でも分かるな」

 

「い、いえ。私もちょっと嫌な気分になってご主人様の事を考えていたので」

 

「え?」

 

「ふえ!あ、いえ、なんでもありません!わ、私はこれで!朱里先生に資料を頼まれていますので!」

 

雪華は慌ててお辞儀をするとパタパタと駆け出して行った。

 

「あ、そ、そうでした!先ほど優未さんが執務室の場所を聞いてきましたけど、なにか御用があるのでしょうか?」

 

優未は、立ち止まり振り返ると優未殿が執務室を探していることを教えてくれた。

 

「なに、優未殿が?……っ!ま、まさか!」

 

今日、ご主人様の予定は昼間まで執務室で仕事だ。っと言うことは、優未殿はご主人様に会いに行ったことになる。

 

「雪華、礼を言うぞ!」

 

「え、あ、は、はい……どういたしまして」

 

私は雪華にお礼を言うと急ぎ執務室へと向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

(ばんっ!)

 

「ご主人様!」

 

私は執務室の扉を開け放った。

 

「んふふ~♪良いんだよ?私は、そのために来たんだから」

 

「いやいやいや!そ、そんなのダメだろ!」

 

「なんで?私、一刀君の事、好きなんだよ?だったらこれは、私の望むことなんだから」

 

「そ、そう言う問題じゃ……」

 

私が予想していた通り。優未殿は、ご主人様に迫っていた。

 

「……何をしておいでなのですか!」

 

「あ、愛紗!た、助けてくれ!」

 

「あちゃ~、随分早く気が付かれちゃったな~」

 

優未殿は、椅子に座るご主人様の腕を肘掛けに押し付けていた。

 

「雪華が教えてくれたからな。それに今日は、ここでご主人様と仕事をすることになっていたのでな」

 

「あ~、だってここ複雑なんだよ。だから通りかかった私の天女ちゃんである雪華ちゃんに場所を聞いたんだよ」

 

「て、天女ちゃん?」

 

「はふ~ん♪一刀君と一緒に呉にお持ち帰りしたいよ~!」

 

優未殿は、体をくねらせながらとんでもない事を言っていた。

 

「ダメに決まっているだろ!ご主人様は我々のご主人様なのだからな!」

 

「ぶーぶー!そう言う独占は良くないと思うな~。同盟を組んでいるんだから」

 

「同盟とは関係ないであろう!ご主人様は我らの主であらせられるのだから!」

 

「ん~、そこなんだよね」

 

「な、なにがだ?」

 

「だってさ、一刀君って桃香達の主、云わば君主なわけでしょ?」

 

「ああ」

 

「でもでも、桃香も主なんでしょ?二人も君主が居るっておかしくない?しかも桃香も一刀君の事をご主人様って呼んでるし、本当のところはどうなの?」

 

「それはだな」

 

「あ~、いいや。なんだか長くなりそうだし……っと、それじゃ、私はこの後、雪華ちゃんを愛でてくるからまたね~」

 

「……」

 

「……」

 

話し出そうとした瞬間、優未殿はご主人様から離れて出口へと向かっていった。

 

「それじゃ、一刀君、お仕事がんばってね~♪あ、それと、私が居ないからって愛紗に襲いかかっちゃダメだからね♪」

 

「なっ!?ゆ、ゆゆ、優未殿!」

 

「それじゃね~~♪」

 

私は、顔を赤くして優未殿に抗議しようとしたが、優未殿は、そそくさと部屋から出て行ってしまった。

 

「まったく……優未殿は嵐のようなお人だ」

 

「まあ、明るくてムードメーカーみたいで良いじゃないか」

 

「無動めか?」

 

「どんなメカだ……じゃなくて、ムードメーカー。その場にいるだけで場の重い空気や雰囲気を変えてくれる人の事だよ」

 

「はぁ、たしかに場の雰囲気は和やかになりますが……少々はた迷惑ですね」

 

「あ、あはは、まあ、優未はムードメーカーだけど、トラブルメーカーでもあるかもな」

 

「また聞き慣れない言葉ですね。どのような意味が?」

 

「さっき愛紗が言った通りだよ。問題児ってことかな。でもなんだか優未は憎めないんだけどね」

 

そう言うご主人様のお顔は本当にとてもお優しい笑顔をなさっていた。

 

「……そうですか。だから優未殿とイチャついていたのですね。仕事もせずに」

 

私は、なんだかそれが凄く腹立たしくなり、ご主人様に冷たくあたってしまった。

 

「あ、あはは、愛紗は手厳しいな~」

 

私の態度にご主人様は苦笑いを浮かべ頭を掻く。

 

「っ!」

 

私は、その表情を見て『またやってしまった』っと心の中で後悔をした。

 

「……さあ、仕事を再開しますよ。昼間までには終わらせてもらわなければ」

 

「ああ、了解」

 

表情を変えず、仕事を始める様に言うと、ご主人様は微笑みながら頷いてくれた。

 

「……」

 

「……」

 

竹簡に筆を走らせながら考える。なぜご主人様はこんなにも怒らないのだろうか、っと。

 

別に怒って欲しいわけではない。が、家臣である星や美羽の我がままにも嫌な顔一つせず(まあ、苦笑いは浮かべてはいるのだが)付き合っている。

 

そして、今もそうだ。私の言葉に怒りもせず、微笑みを浮かべていた。

 

「はぁ……」

 

「ん?どうかしたのか、愛紗?」

 

「い、いえ。何でもありません」

 

思わず溜息を吐いてしまい。それをご主人様に聞かれてしまった。

 

「もしかして、疲れてる?」

 

「いえ、そんなことはありません」

 

「そうかな?なんだか、少し氣が乱れてるような気がするんだけど……」

 

(がたっ)

 

ご主人様は立ち上がり、私の方へと近づいてきた。

 

「あ、あの、なにか?」

 

「ちょっと、じっとしててね」

 

「は、はぁ……ひゃう!?」

 

気の無い返事をしてしまった直後、思わず変な声を上げてしまった。

 

「ご、ご主人様、な、なに、はぅ!?」

 

「何って、肩もみだけど」

 

「そ、そんなことは分かっています。なぜ肩もみ、んんっ!」

 

「はいはい。愛紗は大人しく、俺に肩揉みされてればいいの」

 

「で、ですが、ご主人様にそのようなことを」

 

「俺がやりたいんだから好きにやらせてよ。それとも愛紗は『主である愛紗に命じる、愛紗の肩を揉ませろ』って言わせないのか?」

 

「ご、ご命令とあれば」

 

「……」

 

ご主人様は、苦笑いを浮かべ『やれやれ。愛紗は、堅いな』と言いたそうな顔をしていた。

 

「それじゃ、命令だ。肩を揉ませてもらうよ」

 

「……お、仰せのままに」

 

そう命令されては、頷くしかなかった。

 

「それじゃ、揉ませてもらうよ。強すぎたりしたら言ってくれて構わないから」

 

「はい」

 

ご主人様は肩に手を置き直し、肩もみを再開した。

 

「んっ……ぁ……」

 

「強すぎないか?」

 

「は、はぃ……丁度、よ、良いかと……んっ」

 

「そっか、それじゃ。これくらいの強さで続けるよ」

 

まずい、これは非常にまずいぞ。

 

何がまずいって、ご主人様の肩もみが非常に気持ちが良いのだ。

 

これは早々に止めて貰わなければ。

 

「あ、あの、ごしゅ――」

 

「愛紗にはいつも助けてもらってるからさ。少しでも返していかないとな」

 

「……」

 

ご主人様、その言い方は卑怯です。そのように言われては、本当に何も言えなくなってしまいます。

 

私がしてきたことは家臣として当然のことだ。しかし、ご主人様はそうは思っていない。

 

ご主人様は私を、いや、私たち皆を家臣などとは思ってはいない。ご主人様は、いつも言っていた『みんな俺の大切な仲間だ』っと。

 

その言葉を聞いた時、恐れ多い事だと思いながらも『私は、ご主人様の大切な仲間の一人で居られる』そのことがとても嬉しかった。

 

今でもご主人様にそう思われているのは、とても光栄で、とても嬉しい。

 

だが私は、いつからか『私だけを見てほしい』と思い始めていた。

 

でも私は、いつも己に言い聞かせてきた。『ご主人様は、みんなのご主人様』なのだっと。だから、独り占めなどしては……

 

………………

 

す、少しくらいなら。今くらいなら、ご主人様を独り占めしても……い、良いよ、な?

 

『………………』

 

そう思った時だった、どこからともなくこちらを見る視線を感じた。

 

ご主人様は肩もみに集中していて気が付いていないようだったが。一体どこから……

 

視線を彷徨わせ辺りを探る。

 

「…………っ!?」

 

視線を彷徨わせているとある一点で私とこちらを見ている人物と目があった。

 

「…………(にこっ)」

 

と、とと、桃香様!?

 

執務室の入り口で顔だけを出して微笑む桃香様がいた。

 

な、なんでここに桃香様が!?

 

確か昼過ぎの予定は、街の視察だったはずでは!

 

「…………(うんうん)」

 

桃香様は、何度か頷くとすすすっと顔を引っ込めこの場から離れて行った。

 

な、何をしに来たのだ桃香様は……

 

何をしに来たか分からないが、最後に桃香様は両手を握りしめ『頑張ってね、愛紗ちゃん!』そう言っているような気がした。

 

「よし、どうだ?少しは解れた?」

 

肩もみを終えたご主人様は、私の前に回り微笑んできた。

 

「……」

 

微笑むご主人様を私はただじっと見つめた。

 

ほんの少しの勇気……

 

「あ、愛紗?もしかして気持ち良くなかったか?」

 

私が黙っていたことが気持ち良くなかったと勘違いしたご主人様は、少し不安そうな顔をしていた。

 

「い、いえ。とても気持ち良かったです。ありがとうございます」

 

「そ、そっか。よかった~!気持ち良くなかったのかと思ったよ」

 

私の返答に安心したご主人様は、ほっとした表情になった。

 

「ただ……」

 

「た、ただ?なに?」

 

「そ、その……」

 

勇気を振り絞って……

 

「あ、あの!」

 

(がたっ!)

 

勢い良く立ち上がる拍子に椅子が倒れた。

 

「そ、そその!わ、わた、わた!」

 

「綿?」

 

「わた、私の心も解してください!」

 

「え?」

 

等々言ってしまった……

 

ご主人様は、私の言葉に呆けてしまっていた。

 

「心を解してって……流石に心臓は揉めないだろ」

 

(ずるっ!)

 

ご主人様の間の抜けた返答に思わずこけそうになってしまった。

 

「違います!そういう事では無くてですね」

 

「じゃあ、どういうこと?」

 

「で、ですから……~~~っ!こ、こういう事です!」

 

「んっ!?」

 

じれったくなった私は、勢い良くご主人様を抱きしめ接吻をした。

 

「んっ……ちゅっ……ぷは……こ、こういうことです」

 

ご主人様から離れ、恥ずかしさに耐えながら伝えた。

 

「あ、愛紗……」

 

「す、すみません、ご主人様……迷惑ですよね……あっ……」

 

謝る私に、ご主人様は、優しく私を抱きしめてくださった。

 

「気づけなくてごめん……」

 

「そ、そんな……ご主人様のせいではありません。私がっ……んっ!?」

 

喋っていると今度はご主人様が接吻をして私の口を塞いできた。

 

「愛紗は、直ぐに自虐を言い過ぎるからな。言う前に口を塞がないとね」

 

「そんな。私は、事実をっ……んふっ」

 

ご主人様は、私がまた自虐を言おうとしたことが分かったのか再び私の口を塞いできた。

 

「ご、ご主人様、お戯れを……」

 

「え?最初に口を塞いできたのは愛紗、キミだろ?」

 

「そ、それは……そうなのですが……」

 

事実を言われてしまい。思わず、口ごもってしまった。

 

「でも、俺は嬉しかったよ。愛紗から求めてきてくれたんだから。何か理由でもあったのか?」

 

「そ、それは…………………………です」

 

「え?」

 

「で、ですからご主人様を………………から、です」

 

「ごめん、肝心の所が聞き取れなかった、俺がなんだって?」

 

「~~~~っ!で、ですから、ご主人様を独り占めしたかったからです、と!な、何度も言わせないでください!は、恥ずかしいではありませんか!」

 

「~~~っ!愛紗、可愛いぞ~~~~っ!」

 

「ひゃぁあぁあああっ!ち、ちょ!ご、ご主人様!?きゃっ!」

 

(ばふんっ!)

 

ご主人様は、突然私を抱きしめて、執務室に備え付けてある仮眠用の寝台に私を押し倒した。

 

この寝台は、深夜まで仕事をするご主人様の為に用意したものだった。

 

まあ、これを作ることになった原因も御主人様なのだが。

 

溜めに溜めた政務の仕事を夜通し行い、終わると部屋に戻らず机に俯せに寝ているご主人様を見て不憫だからと桃香様が作らせたものだった。

 

それを今。私は仰向けに倒され、その上にご主人様が覆いかぶさっていた。

 

「随分と可愛い悲鳴だね、愛紗」

 

「そ、それは、ご主人様がいきなり押し倒してきたから、ちょっと驚いただけです!」

 

「それじゃ、そういう事にしておこうかな……」

 

「ご、ご主人様。まだ仕事が!」

 

「仕事ならあとでも出来るだろ。それに、こんな可愛い愛紗を見て、お預けにされる方が仕事に集中できないよ」

 

「可愛いだなんて……私は全然……んっ!?」

 

私が話している途中でまた口を塞いできた。きっと『全然可愛くない』と言うことが分かったからだろう。

 

「愛紗は、可愛いよ」

 

「ぁ……ぅ……」

 

真剣な眼差しで言われてしまい、恥ずかしさで何も言えなくなった私は、魚の様に口をパクパクとさせていた。

 

「何度でも言うよ。愛紗は、可愛い俺の女の子だよ」

 

「~~~~~~~っ!?!?」

 

そして、追い打ち。ご主人様の言葉に顔を真っ赤にして、今にも気絶しそうになってしまった。

 

ご主人様が、私の事を『可愛い俺の女の子』っと『俺の女の子』っと!……は、はぅぅ……だ、だめだ。幸せすぎて気を失ってしまいそうだ。

 

「……俺は、キミが欲しい。愛紗……」

 

「……は、はい……私も、ご……ご主人様が欲しい、です」

 

「愛紗……」

 

「ご主人様……んっ」

 

そして、私たちは体を重ね、お互いを求めあった。

 

《桃香視点》

 

「ん~~~~っ!愛紗ちゃん、今頃ご主人様の腕の中か~。羨ましいなぁ~」

 

両腕を真上に上げ、背筋を伸ばしながら廊下を歩く。

 

「執務室に忘れ物があったんだけど……あれじゃ、邪魔できないよね」

 

二人だけの時間を邪魔するのは野暮ってものだよね。

 

「さてと……でも、どうしようかな~。あれが無いと視察で困っちゃうんだよね。う~ん……どうしようかな~」

 

執務室に今日視察する地区の情報を記した書簡を忘れちゃって、取りに戻ったところ、御主人様と愛紗ちゃんのイチャイチャ現場に出くわしちゃった。

 

「「う~ん……ん?」」

 

腕を組みながらどうしようか悩み歩いていると、私とは違う悩んだ声が聞こえて辺りを見回した。

 

「あっ」

 

「あれ?桃香じゃん。どうしたの?」

 

辺りを見回すと椅子に腰かけていた優未さんを見つけた。

 

「うん。実は執務室に忘れ物しちゃって」

 

「ふ~ん……あれ?でも今、執務室の方から来たよね。でも、何か持ってるようには見えないけど」

 

「あ、うん。実はね……」

 

私は、優未さんにさっき執務室で見たご主人様と愛紗ちゃんの事を話した。

 

「ふ~ん。一刀君と愛紗がね~。なるほどなるほど……にひひ♪」

 

優未さんは、頷きながらニヤリと不敵に笑いました。

 

「だ、ダメですよ。二人の邪魔をしたら!」

 

「ん?なんで私が邪魔するって思ったの?」

 

「だって優未さんは、ご主人様の事好きなんですよね」

 

「うん。そうだね」

 

「それに今朝だって愛紗ちゃんを煽る様なことしてるし」

 

「まあ、そのおかげで愛紗は一刀君とむふふ♪なことしてるわけだし、作戦通りだね」

 

「え?」

 

「ん?もしかして、むふふ♪なことしてないの?」

 

「え、え~~っと……」

 

どう答えればいいのか分からず、言い淀んでしまいました。

 

「ああ、いいよ、言わなくて。桃香の反応見ればわかっちゃったから」

 

「で、でも、なんで優未さんは、あんなことしたんですか?」

 

「あんなことって愛紗を煽ったこと?」

 

「はい」

 

「だって、見ててじれったくない?かまって欲しいのに我慢してるのってさ」

 

「う、う~ん。まあ、私もそう思いますけど」

 

「でしょ!?だから、私がひと肌脱いだってわけ。まあ、今後、愛紗には、一刀君に近づくだけで相当警戒されるだろうけどね~」

 

そう言いながらも、優未さんは、穏やかに笑っていた。

 

「さてと!私は、雪華ちゃんを愛でに行ってこようかな。あ、視察する情報なら、朱里ちゃんたちに聞けばいいんじゃない?元々は、朱里ちゃんたちが書いた物なんでしょ?」

 

「あ、そっか」

 

当り前のことを忘れてた。確かにあの書簡は、朱里ちゃんが書いて私に手渡してくれたものだった。

 

「それじゃ、私は行くね。んじゃね~♪雪華ちゃん、待っててね~♪」

 

優未さんは、手を振って雪華ちゃんを探しに行ってしまいました。

 

「……」

 

優未さんって何も考えてないように見えて、色々考えてるんだな~。

 

私も見習ってみんなの事をしっかりと見て、考えなきゃね!うん!

 

力拳を作り、時分に気合を入れる……あれ?何か忘れてるような……

 

「……はっ!そうだ!わ、私も急いで朱里ちゃんを探して、もう一度書簡を書いてもらわないと!」

 

私は、自分のしなくちゃいけないことを思い出し、慌てて朱里ちゃんたちを探しに駆け出しました。

 

「愛紗ちゃんとご主人様の事を戻ってからゆっくりと愛紗ちゃんに報告してもらおっと♪」

 

私は、あとのご褒美を楽しみにするかのように朱里ちゃんを探しに駆け出した。

 

《To be continued...》

葉月「お、お久しぶりです。皆さん」

 

愛紗「……」

 

葉月「えっと……久々の投稿になりますね。愛紗、さん……」

 

愛紗「……」

 

葉月「お、怒ってます、よね?ま、まあ、私もリアルが大事なんで、そこは理解していただきたいと」

 

愛紗「……遺言は、それでいいか?」

 

葉月「よ、よくありません!」

 

愛紗「半年以上も放置しておいて、ただで済むとは思うなよ」

 

葉月「で、でもちゃんと書きましたよ!奥手な愛紗が一刀に迫るところとか。良い感じじゃなかったですか?」

 

愛紗「っ!そ、それは、そうだが……いやいや!そんなことで遅れた理由には!」

 

葉月「それに、ちゃんと愛してもらえたじゃないですか」

 

愛紗「うぐ……う、うむ」

 

葉月「あの後、いっぱい可愛がってもらえたんでしょ?」

 

愛紗「そ、それは……」

 

葉月「興味ありますよね。桃香」

 

桃香「うん!二人を見守り、そっと身を引いた私としても、すっっっっごく、興味があるな、愛紗ちゃん!」

 

愛紗「と、桃香様!?なぜここに!」

 

桃香「なぜって、ちょっと葉月さんに用事があったんだけど……それよりも、気になることがあるからね!それでそれで、あのあとどうなったの?私、気になります!」

 

葉月「なんか聞いた事のある台詞が出てきましたが、まあいいでしょう。それで、どうなったんですか?」

 

愛紗「う……」

 

桃香「わくわく」

 

愛紗「うぅ……」

 

葉月「わくわく」

 

愛紗「うぅぅ……だ、誰が話すものかーーーーっ!」

 

葉月「ぶべらっ!」

 

桃香「わぁ!愛紗ちゃんの右拳が、見事、葉月さんの左頬に命中して、葉月さんが吹き飛んだ!」

 

葉月「て、的確な状況説明、あ、ありがとうございます……がく」

 

桃香「わわっ!葉月さんが気を失っちゃった!」

 

愛紗「はぁ……はぁ……っ!」

 

桃香「あ、あは、あはははは……そ、そうだ!私、急用を思い出した!そ、それじゃあね、愛紗ちゃん!」

 

愛紗「……まったく。お前もいい加減、気絶した振りは止めろ」

 

葉月「あ、ばれましたか?」

 

愛紗「当り前だ。私は武人だぞ。それくらいわかる。それに加減して殴ったしな」

 

葉月「人がきりもみ回転して吹っ飛んだのに、あれで手加減って……どんだけー」

 

愛紗「何か言ったか?」

 

葉月「いいえ、何も」

 

愛紗「はぁ……それにしても私の話のはずなのに優未の登場回数がやけに多くないか?」

 

葉月「まあ、奥手な愛紗をその気にさせるには、星か優未くらいしかいないかなと思いまして」

 

愛紗「それになんだ、あの登場場面の台詞は」

 

葉月「ああ、あれはですね、某邪神アニメを見ている時に書いてたんですよ。ああ、これ優未が言ったら様になってるな~って思って、勢いで書いちゃいました♪」

 

愛紗「……」

 

葉月「まあ、そのせいか、どうかわかりませんが、もう優未の声がアスミンにしか聞こえなくなってしまいましたよ。HAHAHAHAHA!」

 

愛紗「だめだこいつ、早く何とかしないと」

 

葉月「ひどっ!」

 

愛紗「まあ、冗談はさておき」

 

葉月「……」

 

愛紗「まあ、言いたく位は無いが、云わせてもらおう。ちゃんと次回の話を書いているのだろうな?」

 

葉月「……あっ!真っ青な空に飛行機雲だ!待て~」

 

愛紗「現実逃避するな!」

 

葉月「へぶしっ!ひ、ひどい!殴るなんて、一刀に訴えて……」

 

愛紗「もう一度、殴られたいようだな」

 

葉月「ごめんなさい、嘘です。一刀には言わないので殴らないでください」

 

愛紗「わかれば良い。それで、次回の話は、書いているのだろうな?」

 

葉月「ま、まあ、合間を見てぼちぼちと書いています」

 

愛紗「ふむ。ということは、また投稿は、遅くなりそうという訳だな」

 

葉月「そうなりますね。この作品を待っている人たちには、申し訳ありませんが」

 

愛紗「ふむ……所で、次はどんな話になるのだ?」

 

葉月「次回は、いよいよ、桔梗と焔耶が本格的に話に加わってきます」

 

愛紗「いよいよ、二人の登場か」

 

葉月「今回は、一刀がチート設定なので、焔耶が一刀にに『ひ弱』って使えないんですよね。まあ、そこは、どう変わっているかは、期待せずお待ちください」

 

愛紗「いやいや、そこは、期待させるべきだろ」

 

葉月「変に期待させて、がっかりさせるのも悪いなと思いまして」

 

愛紗「……まあ、そこは、お楽しみにと言うことにしておこう。さて、そろそろ、別れの刻だな」

 

葉月「もうそんな時間ですか」

 

愛紗「もう、と言うか。いつも以上に、奥付が長いんだがな……さて、いつ仕上がるか分からぬ作品だが、次回も読んでくれると、とても嬉しい。ではさらばだ!」

 

葉月「また次回~~」


 
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