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真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第二部 第09話

ogany666さん

戦国†恋姫を何処で予約しようか迷ってます。
皆さんはどこで予約されましたか?

2013-10-05 14:37:08 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8222   閲覧ユーザー数:5753

 

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

風達との会話を終えて数刻の後、一刀は自分の城が在る新平へと到着する。

城下の街道を抜け、城の門を潜ろうかという時に華琳が一刀に少し気になっていたことを問いかける。

「一刀。捕らえた黄巾は最も信頼する者に任せると言っていたけれど、あなたにそこまでの信を置かれる人物・・・・一体何者?」

「それは私も気になるな。一刀、差し支えなければ教えてもらえんか?」

「秋蘭。こいつの事だから別に了承を得ずとも教えてくれるに決まっておろう!」

華琳の問いが気になったのか、春蘭達も一刀の元へ挙って近づいてくる。

別に隠す事でもなかったので、特に何も考えず一刀は三人にそれが誰なのか話す事に・・・・。

「そんな大それた人間じゃないよ。華琳達だって良く知っている人さ」

「私達が知っている人、ねぇ・・・・」

「お、おい、秋蘭・・・・。今のこいつの発言に、何だか凄い悪寒が走ったんだが・・・・・」

「ああ・・・・奇遇だな姉者。私も良く似た感想だ・・・・・」

「お、おい一刀。そいつとはまさか」

「お帰りなさいませ、一刀様」

「「!!?」」

一刀が言う人物が何者なのか聞こうとした春蘭だったが、突如隣に現れた者の声を聞いて思わずビクついてしまう。

その声を掛けてきた人物こそ、一刀がこの世界に生れ落ちてから彼の世話役を務め、絶対的な信頼を置くこの城の侍従長、韓鄒その人であった。

「か、韓鄒っ!!」

「韓鄒殿!!」

「・・・・・久しぶりね、韓鄒」

「はい、お久しゅう御座います、曹操様、夏侯惇様、夏侯淵様。またこうしてお目に掛かる事が出来て鄒も感激しております」

突然、現れた鄒に対して特に驚いた様子も無く挨拶をする華琳だったが他の二人は驚きのあまり大きな声を上げてしまう。

その上、春蘭に至っては子供の頃のトラウマも相まって、鄒にぞんざいな態度を取ってしまう。

「な、何故貴様がここに居る!」

「一刀様のお世話をさせて頂くのが鄒の生涯の使命ですゆえ、今はこの城の侍従長を務めさせて頂いております」

「あら、そうなの。相変わらず、いえ、前にも増して美しい従者になったようね」

「ありがとう御座います、曹操様。ただ・・・・・・・・・夏侯惇様」

「な、なんだ!?」

鄒に目を付けられて一瞬たじろぐ春蘭だったが、今の彼女を支える武人としての自尊心が後ろへ下がろうとする気持ちを何とか押しとどめる。

そして春蘭は虚勢とも取れる返事を鄒に返した。

「淑女たる者、いついかなる時も取り乱してはなりません。まして、ただの侍女を脅かすような態度を取るなど許されるものでは御座いません」

「わ、私は華琳さまをお仕えする武将だ!淑女の態度など構っていられるか!だ、第一従者の貴様が主の客人である私に意見をすると言うのか!」

「確かに夏侯惇様は一刀様がお招きした大切なお客様です。ですが、鄒が心酔する書物にはこう言う言葉が御座いました。"主やお客様が誤った行いをした場合、それを正すのも従者の勤めである"と・・・・」

「う、うるさい!従者ごときが私に意見をするな!てやあああああっ!!」

「鄒!危ない!」

気が動転したあまり、思わず目の前の鄒に斬りかかる春蘭。

ただの侍女である鄒がそれを防げる筈が無いと思い、咄嗟に彼女を庇おうとする一刀であったが、鄒の取った行動は一刀にとって予想外のものだった。

「どうやら夏侯惇様には少しお灸が必要のようですね」

そう言うと鄒は春蘭の間合いに一気に詰め寄り、あろう事か彼女から振り下ろされた斬撃を上手くいなしつつ、その勢いを利用して春蘭を頭から地面に叩き付けたのだ。

傍から見ていた者には春蘭が足を滑らせて後頭部を打ったように見えただろう。

だが、ただ一人。一刀だけは鄒が何をやったのか十二分に理解していた。

「す、鄒・・・・・。今のあれはひょっとして」

「はい、一刀様がしたためられた護身術の書物に“合気”というものが御座いましたので、ご無礼を承知で使わせて頂きました。申し訳御座いません」

そう、彼女が使ったのはまさに合気だ。

それも達人が使うような紛うことなき完璧なもの。

無論、一刀自身も使う事は可能だが春蘭ほどの武人を相手にあそこまで完璧に決めるほどの腕は持ち合わせておらず、ましてや鄒に合気の手ほどきなどした覚えもなかったのだから驚愕するのも当然の事だった。

「いったい何処でやり方を習ったんだい?」

「いえ、鄒は誰からも手解きを受けた事は御座いません。一刀様が記された書物の内容を、どうして他の方からご指導を受ける事が出来ましょう」

最もな意見だ。

そもそも合気とは近代になって生まれた日本固有の武術であり、そんなものを教えられるのはこの大陸において一刀以外に居よう筈も無い。

「じゃあどうやって・・・・・」

「はい、一刀様の書物に記されております内容を元に、鄒なりの解釈を加えて独自の訓練をする事で体得するに至りました」

「・・・・・・はい?」

正直、鄒の言っている事が一刀には俄かに信じられないものだった。

文献を元に見た事も無い武術を体得するなど普通は出来るものではない。

ましてや合気は相手の力を利用して攻撃するという、この大陸には存在しない考え方を基本とする武術である。

そんな見た事も聞いた事も無い上に、ろくな型も分からないものを彼女は独学で会得したと言うのだ。

「鄒も武術に関しましては詳しくありませんでしたので、体得するのに数年も掛かってしまいました。侍女の戦闘服であるこの“冥途服”が無ければさらに時間が掛かってしまった事で御座いましょう」

「いや、メイド服はそう言う意味の服じゃないんだが・・・・・」

「作用で御座いましたか。鄒はてっきり屋敷に侵入した不届き者を冥途へと送る為の侍女の戦闘服だと思っていたのですが」

「・・・・・」

メイド服への解釈の間違いもそうだが、寧ろ合気を僅か数年で会得できた事に一刀は驚きを禁じえなかった。

当の一刀でさえ実戦で使えるまでの合気を会得するのに数十年の時間を要しているのだから。

「あ・・・・・・姉者ああああぁぁぁぁぁっ!!」

一刀が鄒と会話をしていると、倒れたままピクリとも動かない姉を心配する秋蘭の叫びが響き渡る。

そんな二人を見て、華琳が一刀と鄒に春蘭の容態を尋ねる。

「一刀、大丈夫なの?一向に起き上がる気配が無いのだけれど・・・・・」

「頭を打って気を失っているだけだから大丈夫だと思う・・・・・・多分」

「申し訳ありません。なにぶん夏侯惇様がお相手でしたので、加減をする事が出来ませんでした。夏侯惇様の介抱は鄒が自室で致しますので、曹操様や他の皆様はどうぞ城内までお入りください」

「わかったわ。韓鄒、部下が無礼をした事を謝らせて貰うわ。ごめんなさい」

「いえ、お客様にご無礼を働いたのは鄒の方で御座います。どうか平にご容赦を・・・」

鄒は華琳に対して謝罪の意を述べた後、細腕ながら春蘭を小脇に抱えてそそくさとその場を後にする。

「姉者!!死ぬな!!私を置いて逝かないでくれえええぇぇぇぇぇっ!!!」

春蘭の事を叫びながら鄒の後をついて行く秋蘭の姿を見ながら洛陽に居た頃を思い出す一刀だったが、鄒に捕縛した黄巾党のことを頼むのを忘れた事に気付く。

急いで鄒を呼び止めようと思ったのだが、既に声の届かないところまで行ってしまった為、頼む事を諦めて宴の前にでも彼女に頼む事にした。

「それじゃあ華琳。俺は君に渡す物資の手配をしてくるからここで一旦失礼するよ。城内へは星や風に案内を頼むけど別にいいかな?」

「構わないわ。・・・・・・一刀、一つ聞きたいのだけれど・・・・今夜の宴で料理をするのは韓鄒ではないわよね?」

「ああ、鄒はここに来てから色々と忙しくてね。厨房には滅多に顔を出せなくなっているよ」

「それを聞いて安心したわ。それじゃあまた後で会いましょう、一刀」

「ああ」

一刀は軽く挨拶をした後、華琳と別れて自分がやるべき最後の裏方作業へと向かう。

その途中で、一刀は些細ではあるが気になったことをふと口にする。

「何で華琳が鄒の料理下手を知っているんだ?」

 

 

 

 

華琳と別れた後、一刀は城内で一番辺鄙な場所にある、離れの様な一室に足を運んでいた。

そこは普段は滅多に足を運ばない場所ではあるが、置いてある調度品などは一級の物ばかりであり、訪れた者に失礼が無いように配慮が尽くされた、まさに至高の一室と呼べる場所であった。

何故この様な場所にそんな部屋を設けたかは大きく分けて二つの理由があり、一つは都から来た役人が城に宿泊した際、こちらの動きに気付いて妙な勘繰りを起こして城内を彷徨かれるのを防ぎ、監視をする為。

そしてもう一つが、今回の様な公には招く事が出来ない客人を通す為である。

「いやぁ、訪れるのが遅くなってすまないね。張角さん達」

一刀はそう言いながら部屋へ入ると、中にはここ数日この部屋に閉じ込められて特にする事も無く暇を持て余している、張三姉妹のだらしない姿が目に入った。

突然知らない人物が入ってきた事に驚きつつも、平静を装いながら三女の人和は一刀に何者なのかを問いかける。

「いつも食事を運んでくる侍女じゃないですね。あなたは誰ですか?」

人和は一刀が身に纏っている服装から地位の高い人物であると想像する事は出来たが、確証が持てなかったので恐る恐る言葉に気を使いながら彼に尋ねる。

一刀も自分の来訪で彼女達を驚かせてしまった事に気付き、謝罪を含めた自己紹介を始める。

「突然の来訪で驚かせてごめん。姓は司馬、名は懿、字は仲達。この新平を含めた涼州の東側一帯を統治している者で、君達をここへ連れて来るよう兵に指示を出した張本人さ」

その言葉を聞いて部屋の奥から一刀をジッと睨みつけていた地和が彼へと詰め寄る。

そして一刀に向かって思いつく限りの質問を勢い良くまくし立て始めた。

「あんたいったい何なのよ!応援してくれる子は襲うし、わたし達を攫う!目が覚めてみれば何処か分からない部屋で何日も閉じ込められる!痺れを切らせて聞いてみたら太守が帰るまで待ての一点張り、あんた本当に太守なの!?応援してくれる子達の事が気になって尋ねてみたら壊滅したって言われるし・・・・いったい何がどうなっているのか教えなさいよ!」

「駄目だ」

「駄目ぇっ!!?」

「冗談だよ、ちゃんと一から説明する」

一刀は早口でまくし立てる地和に思わず真顔で駄目だと言ってしまうが、冗談だと訂正しつつ彼女達に順を追って話す事にした。

「先ず黄巾の人たちだけど、君達を攫った後、天幕に火を放って自害した事にするとすっかり意気消沈してしまってね、身柄はこちらで預かっているけど明日にも郷里に送り返す予定さ」

「殺したりはしないのね?」

「ああ、元々は君達の歌を聞いて暴走していただけの村人とかの集まりなんだろ?君達がもう居ないと思っているなら故郷に送れば事態は収拾するからね。あとは地元の人に任せる事にするよ」

「そう」

暴走して手に負えなくなっていたとは言え、自分達を応援してくれた者達が処刑される様など、天和達も見たくは無かったに違いない。

人和は何処か安堵したような顔でただ一言返事をすると、数日間この部屋に閉じ込められて考えていた疑問を一刀に問いかけた。

「それじゃあ、次は私達の事について聞きたいんだけれど、どうしてあの場で殺さずにここまで連れてきたの?」

彼女達にしてみれば最もな疑問である。

自分達が黄巾党の首魁だと分かっているのならば、秘密裏に攫って城まで連れてくる等という回りくどい事をせず、あの場で始末してしまえばよかっただけだ。

それをここまで連れてきたという事は、何らかの意図があるに違いない、人和はそう踏まえた上で彼に問いかける。

一刀は口元に少し笑みを浮かべながら人和の問いに答え始めた。

「先ず一つ勘違いをしているようだから訂正するけど、俺の目的は君達の身柄を確保する事で、都から出ている軍令はそのついでに過ぎないんだよ」

「何でそこまでわたし達に拘るのよ!さてはわたし達の体が目当てね!?」

途中で話に割って入ってきた地和は一刀の言を早合点して襲われると思ったのか、部屋の隅まで後退り両肩を抱きながら一刀を睨みつける。

一刀は勘違いであからさまに警戒する地和の態度に軽く傷つきながらも話を続ける。

「そんなんじゃないよ。話を続けるけど、君達が首魁の張角達だと知っている者は恐らく俺の下に居る人間くらいだよ」

「え?どういうことー?」

状況に付いて行けないが、自分の名前が出たので取り合えず聞いてみる天和。

そんな彼女にも解る様に一刀は内容を噛み砕いて話す。

「君達を応援してくれてた人に聞いても、歌や踊りの話題で話を合わせないと何も教えてくれなかったんだよ。愛されてるね」

「・・・・・・要するに何が言いたいの?」

のらりくらりと話が飛躍して埒が明かないと思ったのか、人和は一刀に真意を問いかける。

「討伐令については、俺が何とかするから三人ともうちで働かないか?って事さ」

「・・・・・・どういう事?」

「俺はこれからこの乱世を平定するために動くつもりなんだけど、圧倒的に人材が不足している。そこで君達は歌や踊りを使って人を集めるのに協力して欲しいんだよ。範囲は俺の治める領地なら何処でも構わない」

「それじゃあ好きな場所に行けないじゃない!」

「いずれ大陸中を治めるつもりだからそれまでは我慢してくれ、それに協力してくれてる間は君達を全面的に支援するよ。それこそ暴走して周辺の村や町を手当たり次第襲うような事が無いようにね」

「うっ・・・・」

地和は一刀に痛いところを突かれて、思わず言葉を詰まらせてしまう。

そもそも都から討伐令が出たのは、天和達が応援してくれる人たちを管理出来なかったのが原因であり、その事を十分理解している彼女達にとっては些か耳が痛いものだった。

「もし、あなたの申し出を断れば?」

「その時は一生この部屋に幽閉されると思っていいよ。逃げようとしたら君達を攫った俺の部下が現れると言えば状況は解るよね」

その言葉を聞いた途端、彼女達の顔から一斉に血の気が引くのが見て取れた。

周りを大量の黄巾党に囲まれたあの天幕に誰にも気付かれる事無く進入し、一切の抵抗をする間も与えずに自分達を攫った者達が現れると聞けば、今度こそ殺されると思うのはごく自然な事だろう。

もちろん一刀は彼女達を殺そうなどとは微塵も考えていない。

幾ら彼女達が一刀の事を知らないとは言え、かつては自分のことを想ってくれた大切な人なのだから傷つける訳が無い。

だが、その事を言えない一刀はあえて誤解を与えるような言い方で天和達に返答する。

その返答を聞いて体を震わせながら怯えている地和は、気丈に振舞いながらも恐る恐る一刀に問いかける。

「ひ、必要無くなったからってわたしたちを殺したりしないでしょうね!?」

「そんなことはしないよ、俺の下に来たのなら裏切らない限り君達を支援し続ける。今度こそ大陸一の歌い手を目指せばいいさ」

「な、何でその事をしってるのよ!」

「俺の情報網を甘く見ない事だよ。それで、どうするんだい?」

暫しの沈黙の後、一刀の問いに対して重い口を開けたのは、まとめ役でもある三女の人和だった。

「・・・・・・解ったわ。その条件、飲ませてもらう」

「ちょっと、人和!そんな勝手に!」

「この人の話を聞いたでしょ。元々私達に選択の余地なんて残されてないのよ。それに従えば朝廷から出た討伐令も何とかしてくれる上に、私達の支援までしてくれるんだから、破格の条件だと思う。天和姉さんもそうよね?」

「お姉ちゃん、難しいこと解んないし、また三人で歌えるならそれでいいかなー」

「だ、そうよ、ちぃ姉さん。私達が大陸一の歌い手になるまで支援してくれるのだから、それまでこの人のために歌ってあげてもいいじゃない」

「あーもう解ったわよ!」

人和の説得と天和の言葉で渋々了承する地和。

その三人の様子を見て一刀は懐かしさを感じながら微笑み、この話をまとめにかかる。

「決まりだね。それじゃあ早速三人の部屋を用意させるよ。この部屋から移るのは黄巾の人たちを郷里へ送る明日以降になるけどそれまで我慢してくれ。風呂やなんかは部屋に据え付けられてあるし問題ないよね?」

「問題ないわ。少なくとも天幕に篭っていた時よりはずっといいもの」

「明日の夕方頃にはまたここに来る様にするから、その時にこれからの詳しい話をしよう。それじゃあ、失礼するよ」

一刀は軽く三人に挨拶をしてから部屋を後にした。

 

 

 

 

「これで裏での事は大体片が付いたな。後は今日中に来るであろうアレを適当にあしらうだけか・・・・・ハァ」

天和達が居る部屋から続く長い渡り廊下を歩きながら一刀はひとりごちていると、廊下の隅にある木箱から声が聞こえて来る。

「激務でお疲れのようですね。仲達様」

「・・・疲れと言うよりは、これから起こる事を考えて少し憂鬱になっていただけなんだけどね。君こそ敵本陣に潜入しての彼女達の確保、ご苦労様」

一刀の言葉を聞いて箱の中から一人の男が姿を現す。

額に黒い布を巻き、髭を生やした迷彩服のこの男は、一刀が新平の地を訪れる以前から彼に仕える、諜報部隊最古参の者達の一人だった。

彼は一刀の前で軍礼をした後、腰の位置にある袋から一冊の書物を取り出し、それを一刀に手渡す。

それは今回の黄巾の乱を引き起こした発端であり、一刀が天和達の身柄と一緒に確保する事を諜報員に命じた書物、太平妖術の書であった。

「ご命令に在りました太平妖術の書です。仲達様の私室へお持ちする事も考えたのですが、何者かに閲覧されては危険と判断したため直接お持ちしました」

「態々ありがとう。どれどれ・・・・幼女・・・香瑠秘素(かるぴす)・・・・餡本丹(あんぽんたん)・・・・・部下に突っ込まれたときは畜生め・・・・主汰阿鈴(すたありん)・・・・・・」

一刀は受け取った書物をその場で軽く目を通し始める。

そこに載っていたのは、凡そこの時代では考えられないような人身掌握術、そしてそれに使う為の妖術や術具の知識の数々。

その程度は演説で用いるちょっとしたコツからプロパガンダ、集団を洗脳するような悪質なものまで千差万別、人の心を操る為のありとあらゆるすべがそこに記されていた。

「確かに危険な書物だな。こんな物が悪意ある者の手に渡ったらと思うと恐ろしい・・・・・。もっとも、俺が書いた書物や知識も相当なものだけど」

そう呟いた一刀は、目を通していた太平妖術の書を閉じると諜報員の方へ向き直り、彼の目を見ながらそれを手渡す。

「この書は俺の書いた物と一緒にして厳重に保管するよう、鄒に渡してくれ」

「御意」

「今回の件、本当にご苦労様。悪かったね。今や君達も部下に指示を出すような立場なのに」

「仲達様のご命令ならばどんな事でも致しますので、お気に為さらないで下さい。それにこんな重要な任務、箱も被れないようなヒヨッ子に任せる訳には行きません」

箱を被れるかどうかで一人前かどうかが解るのだろうか?いや、そもそも箱を被るのに何か特殊な技術が必要なのか?

一刀はあまり深く考えないようにしつつ、彼と別れる事にする。

「とりあえずその書物については頼んだよ。あ、あと鄒に捕まえた黄巾党を明日にでも郷里に送り返すように伝えといてくれ」

「御意」

諜報員は一刀へ軍礼をすると再び箱を被り、その場を後にする。

一刀は遠ざかっていく箱を横目で見ながら、これから訪れる筈の客人を出迎える為に一人、大広間へと足を進めた。

 

 


 
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