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真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第二部 第08話

ogany666さん

遂に戦国†恋姫の公式サイトが立ち上がりましたね。
個人的にはかんたか先生のキャラが少ないのが気になりますが楽しみです。

かんたかさんのツンデレ貧乳キャラが見たい(´・ω・`)

2013-09-14 13:20:22 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:8037   閲覧ユーザー数:5783

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「れんほーちゃーん。おなかすいたよー」

黄巾党の陣営、そのほぼ中央に位置する場所にあるひと際大きな天幕。

その中には諸侯が手を焼くほどの黄巾党を束ねているとは到底思えないような、何処にでも居そうな旅芸人の三姉妹、天和、地和、人和の姿がそこに在った。

「人和。わたしもういや。何でこんな山の中に隠れなきゃならないのよ。」

「仕方ないでしょ、糧食が焼かれちゃったんだから。それに都から私たちの討伐命令が出てるのよ、隠れないとこんな大所帯すぐに見つかっちゃう」

張三姉妹の長女である天和と次女の地和が短髪で眼鏡を掛けた末妹の人和に今の現状に対する愚痴を洩らすのだが、それも今に始まった事ではない。

人和はいつもの様に自分達が置かれている状況を説明して二人を宥めにかかる。

「なら、せめて食料の調達くらいすればいいじゃない。近くの村や町で歌えば分けてもらえるでしょ!」

「そうしたいのは山々だけど、この辺で人が住んでる場所は警備が厳重すぎてとても入ることが出来ないのよ。州境の警備はそうでもなかったから何とかなると思ったんだけどね・・・・」

地和の言い出した食料調達に関しても、今の自分達には出来ない事を逐一説明する人和。

彼女自身も姉たちが抱えている欲求不満を感じており、すぐにでもこの状況を打破したかったのだが、これといって良い案が浮かばない以上どうすることも出来なかった。

そんな彼女達の元に、虚をつかれる様な出来事が舞い込んでくる。

「た、大変です張角様!」

天幕の中に一人の慌てふためいた黄巾がやってきたのだ。

「・・・・・・天幕に入る時は了承を得てからにしてもらえますか?」

突然の来訪に意表をつかれた姉たちに代わって、人和が天幕に入ってきた黄巾に対応する。

天幕を訪れる時は必ず一声掛けるようにと言ってあるにも拘らず、いきなり入ってきた黄巾に対して、人和は些か不機嫌な対応を取ってしまう。

しかし、その黄巾は依然として慌てた様子で三人に話しかけた。

「すみません!ですが大変なんです!」

「・・・・・・・慌てているわね。何かあったの?」

「何なのー?」

その黄巾の尋常ならざる様子に、天和たちは気を取り直して話を聞くことにしたが、彼がもたらした情報は彼女達にはまさに寝耳に水であった。

「敵襲です!東側から矢の雨が降り注いでいます!」

「何ですって!?直ぐに応戦を!」

「張角様!大変です!矢が!矢が!」

「張梁様!大変です敵が攻めてきました!」

次々と敵襲を知らせるために彼女達の元へ同じ情報を持って駆けつける黄巾の者達、指揮系統がバラバラな上に組織が肥大化しているためだ。

そんな彼らに人和は順次命令を下しているが、とても彼女一人では手が足りていないと言った様子である。

「ともかく、戦える者は敵の襲撃に備えなさい。それ以外の者は矢で傷ついた者の手当てに回るように」

「張角様!西側から物凄い勢いで敵が攻めて来ました!」

「西から!?東からじゃなく!?」

人和は新たに来た敵襲の報せに戦慄する。

東から矢による攻撃をされている最中に西側から強襲を受けるということは、この陣自体が挟み撃ち、運が悪ければ包囲されていることに他ならない。

こうなってしまっては見つからない様に山奥に陣を構えた事ですら、逃げ場がない為に裏目に出たと言わざるを得ない。

「すぐに強襲してきた敵を迎撃に向かって。矢を撃ってきた方角からも敵の襲撃があるだろうからそっちの警戒も怠らないように・・・・」

「はいっ!」

人和の言葉を聞いた黄巾党の者達は直ちに各々が伝えるべきだと思う場所へと向かう。

「れ、人和・・・・。これからどうするの?」

「れんほうちゃーん・・・・」

状況に付いていけず、妹に声を掛ける二人の姉。

そんな姉の姿を見て人和は何かを決意し、天幕の端にある大きめの荷物を二人のもとに持ってくる。

「人和?」

「逃げるわよ、周りの皆が敵に目が向いているこの状況なら三人だけでここを抜け出せる・・・・・・一からやり直しましょう」

人和の言葉を聞いて腹を括ったのか、地和もさっきまでの困り果てた顔ではなく、何処か余裕のある表情で彼女に返事を返す。

「・・・・仕方ないわね。姉さんもそれでいいわよね?」

「ちーちゃんやれんほうちゃんがいれば、わたしはなんでもいいよー」

「そうと決まれば善は急げねっ!いくわよ姉さん、人和!」

「うん」

地和は威勢の良い掛け声とともに、姉と妹の二人と一緒に逃げようとする。

だが、彼女の掛け声に返事を返したのは姉の天和のみで、妹の人和からは何の返事も返ってこなかった。

「ちょっと人和!あんたが逃げるって言い出したんだから返事くらいしてよね!」

そう言いながら人和の居る方を見た時、地和は恐怖のあまり凍りついてしまった。

何故ならば、人和はいつの間にか天幕の中に入ってきた見知らぬ男に意識を刈り取られ、小脇に抱えられていたからだ。

「ヒッ・・・・!」

それを見て思わす声を上げて助けを呼ぼうとした地和であったが、彼女が声を上げる前に人和同様に意識を失ってしまい、それはかなわなかった。

いつの間にか天和も同様に捕まっており、天幕の中に居る三人の男によってそれぞれ抱えられている。

男の一人が天幕の中を見渡しながら、作戦内容を確認する様に他の男達へ声を掛けた。

「張三姉妹の身柄を確保。残る対象物を確保した後、作戦を第二段階へ移行する」

「「了解」」

 

 

 

 

「ひ、怯むな!こんな事では張角様をお守りできないぞ!」

黄巾党本陣の東側に位置する陣の入り口付近、そんな外れの場所で黄巾党は自分達の命運を掛けた戦いを強いられていた。

その最前線では、成り行きで指揮を取っている黄巾が周囲に居る者を鼓舞するが、敵と相対している者の士気は一向に上がらず、鼓舞した指揮官である彼もまた敵を目の当たりにして声が震えている始末であった。

ただ、今の彼らの事を不甲斐ないと糾弾出来る者は、この大陸に数えるほどしか居ないだろう。

何故なら、彼らが相対している敵と言うのは・・・・・。

「どうした賊徒ども!雑兵とは言え男だろうが!この程度で怯むようなら私の前に立つな!でええええいっ!」

ドグウオォォーン!

曹孟徳こと華琳が手にする最大の猛将にして後の魏武の大剣である夏侯元譲その人である。

彼女からあふれ出るまるで鬼神の様な闘気に当てられていては、足が竦んで動けなくなっても致し方ない。

その上、彼女の持つ大剣の一振りによって目の前の仲間が地面諸共吹き飛ばされてしまっては周りの者を置いて逃げ出したくなるのはごく普通の一般人がもつ常識的思考だ。

それでも彼らが逃げ出さないのは、ひとえに天和たちに対する妄信的とも言える信仰心が為せる業といえるだろう。

「えええい、鬱陶しい!ろくに戦えもしない癖に羽虫のように次から次へと沸いてくる!」

傷一つ負う事無く黄巾の兵を圧倒している春蘭ではあったが、続々と後方から押し寄せる敵によって中々前に進めない事に苛立ちを感じていた。

闘気を発する事による威嚇や、怒号と派手な攻撃によって敵の恐怖心を煽る事で敵を四散させようと試みたがあまり効果は見止められず、自分達の精兵による攻勢も次々と押し寄せる黄巾党を前にしては中々前進出来ずにいた。

「これではいつまで経っても張角の頸を取ることが出来ん!」

「春蘭さまー」

この優勢の均衡状態に悪態をついている春蘭の元に、彼女の補佐役として付いていた季衣が声を掛けてくる。

「季衣か。どうした?」

「西側から攻めていた趙雲さんたちの部隊が敵の本陣に到達したそうです」

「ダニィ!?」

季衣の持ってきた報せに春蘭は思わずナをダと発音してしまうほど驚愕してしまう。

その報せは今まさに黄巾の兵と剣を交えている彼女にとって信じられるものではなかったからだ。

幾ら一兵ごとの練度が高い精鋭部隊とは言え、彼女達の兵力と比べるのもおこがましい程の少数。

その程度の手勢でどうやってこの厚い防衛線を突破したのか、軍師ではない春蘭には凡そ考え付かなかったからだ。

それに・・・・。

「このままでは華琳さまに顔向けする事が出来ん!」

一刀が送り出した星達の部隊よりも遥かに多い兵力で攻めているにも拘らず、戦果が彼女達よりも低かったとなれば春蘭の立つ瀬がないのだ。

そんな焦りを抱えながらこれからどうするかを春蘭は考えていると、隣に居た季衣が慌てた様子で声を掛けてきた。

「しゅ、春蘭さま!大変です!」

「今度は何だ季衣!?私は今どうやって汚名を挽回するかと考えているのだ!」

「汚名は挽回するものじゃないですよ、そんな事よりあれを見てください!」

「だから何だと・・・・・なっ!」

季衣が指差す方向へと春蘭は目を向けると、そこには思いもよらないものが目に入った。

黄巾党の本陣、その中枢であろう場所からもくもくと黒い煙が天高く昇っていたのだ。

黄巾党の手によって開けた場所とはいえここは山間部、周囲の森に飛び火する恐れもあるため華琳たちはあえて火計を使わずに攻めていた。

無論、そんな事は一刀達も承知の筈であり、黄巾の本陣に辿り着いたからといって火を放つとは考えにくかった。

「あ、あれは張角様の天幕の在る辺りじゃないか?」

「てことは、張角様はもう・・・・・」

先ほどまで怯みながらも春蘭の前に立ちはだかっていた黄巾の兵達は、本陣から上がる煙を見て落胆のあまり膝をついてその場に崩れ落ちていた。

「春蘭さま、どういうことですか?」

「恐らくあの煙が立ち上る場所に張角が居たのだろう・・・・。守るものが無くなってこいつらも戦意を喪失したのだな」

春蘭たちが周りの様子について話していると秋蘭が自分達の方へ歩いてくるのが目に入る。

「姉者、季衣」

「秋蘭、これは一体どういう事なのだ?」

「つい先ほど一刀のところの間諜から報告が在ったそうだ。趙雲たちの攻めに覚悟を決めた張角は自ら天幕に火を放ち自害したとな」

秋蘭の口から発せられた言葉に春蘭は納得せざるを得なかった。

火計を使う事を避けていた自分達と一刀の部隊、それらを除くと火を放つ可能性があるのは最早張角本人しかいない。

少数にも関わらず敵の本陣にまで辿り着くほどの苛烈な攻めを目の当たりにし、周囲を山に囲まれて逃げ場がないと思ったのならば自害しても仕方がないというものだ。

「姉者、華琳様からのご命令だ。戦意を喪失した黄巾の賊徒を回収後にこの場を撤収、新平へ向かいながら一刀と合流するとな」

「・・・・・わかった」

春蘭は敵陣の奥で上がる黒煙を見ながら華琳からの命令を承諾する。

天へと昇るその煙を眺めていると、春蘭は何とも言えない後味の悪さを感じていた。

 

 

 

 

涼州の東に位置する新平と長安のある京兆を結ぶ大路。

少し前までは畦道であったこの道は、周辺地域を統治する人間が変わったこともありしっかりとした整備が施されており、立派とまでは行かないまでもそれなりには見る事は出来る様には整っていた。

その道でひと際目立っているのは黄巾党を討伐して意気揚々と凱旋する兵士達。

自信に満ち勇猛に戦った春蘭や星といった優秀な将。

そして・・・。

「すまない華琳、進軍が遅れて戦の事後処理までほとんど君にさせてしまった」

戦に間に合わず同盟相手に多大な迷惑を掛けた事を平謝りするこの辺一帯の統治者、司馬仲達こと一刀の情けない姿だった。

一刀は華琳達と合流するとすぐに彼女の前に姿を見せ、再会の挨拶もなく即座に今回の失態に対する謝罪の意を述べた。

今回の事に関しては全面的に自分が悪いと一刀は思っており、どんな責めも甘んじて受けようと彼は考えている。

その様子を、一刀を目の敵にしている桂花はニヤ付きながら見ていたが、予想に反して華琳から告げられた言葉はそう辛辣なものではなかった。

「・・・・・・頭を上げなさい一刀。今回の件に関して、私はそこまで怒ってないわよ」

「なっ!?」

「え、そうなのか?」

華琳の予想外の言葉に同じ感想を持ちながらある意味では対極的な表現をする桂花と一刀。

そんな二人の顔を気にする事無く、華琳は怒っていない理由を一刀に話し出す。

「確かにあなたの本隊は間に合わなかったけれど、先行していた趙雲達の部隊は十分過ぎるほどの働きをしたわ。それにあなたの間諜が手に入れた正確な情報が無ければ張角達を追い詰める事は出来なかったでしょうしね」

「で、ですが華琳さま!この男が挟撃に間に合わなかったのは事実です!それに対して何も面責が無いのはあまりにも手心を加えすぎです」

「ならばそうね・・・・・。では一刀、今回私達が遠征で消費した物資の七割を支払ってもらえるかしら?あと、捕縛した黄巾の賊に関しては全てあなたがどうにかなさい」

「ああ、そんな事でよければ喜んでやらせてもらうよ」

華琳の対応にいまいち納得がいっていない桂花を尻目に、一刀は要求に対してすぐに了承の答えを返す。

正直一刀にとって、今回のことに対しての責めがこの程度で済むのであれば安いものだと考えていた。

「物資の受け渡しは新平についたら直ぐに手配するよ。黄巾に関しては身内で最も信頼する人間に任せるって事でいいかな?」

「ええ、問題ないわ」

「それじゃあ戦の事もまとまったし、これからの事を話そう。新平で勝利を祝うささやかな宴を開く予定なんだけど、今回の主賓である華琳たちも参加してくれるよね?」

「そうね、兵達も休ませなければならないし、出席させてもらうわね」

その華琳の言葉を聞いていた真桜や季衣は諸手を挙げて大喜びする。

「いよっしゃあー!流石は大将やぁ」

「兄ちゃん、誘ってくれてありがとう」

飛び跳ねながら喜ぶ者達とは対照的に、少し困惑した様な表情で凪は華琳に話しかける。

「あの、華琳様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何?」

「宴のお誘いをお受けになった今なら新平に向かうのも分かるのですが、何故華琳様は最初から新平に向かっておられたのですか?」

凪の疑問に対して沙和もそういえばといった表情で反応する。

「言われてみればそうなのー。もしかしてー、隠れてお兄さんとイチャイチャする為に向かっていたのかもしれないのー」

「なっ!」

沙和の突拍子もない言葉に華琳は顔を赤らめていたが、実際の理由はそんな面白い話でもない事を知っている一刀は彼女に代わって話を始める。

「そんな理由じゃないよ于禁さん。今回の戦に関してまだ形式的な仕事が残っていてね。面倒だから新平で一緒に終わらせてしまおうって事なのさ」

「形式的な仕事・・・・ですか?」

「まぁ、新平に到着して少し経ったら解るよ」

「・・・・・・」

「ん?」

凪の疑問に応答を終えた一刀は後ろから視線を感じ、疑問に思って振り返るとそこには黙ってジッと睨む華琳の姿目に入った。

「どうかした?華琳」

「何でもないわよっ!!・・・・・・・・・・・・バカ」

声を掛けた一刀に対して華琳は怒髪天になりながら怒鳴りつけてその場を去る。

最後に何かを言ったようだが、小声で何を言ったのか一刀には聞き取る事が出来なかった。

その様子を見ていた沙和がわざと聞こえるようにして独り言を喋る。

「今のでお兄さんが乙女心の解らないボケナスフニャ○ン野郎だって事が十分わかったのー」

彼女の口にした一言は、一刀が今日聞いた中で一番心に突き刺さる辛辣な言葉であった。

 

 

 

 

一刀は春蘭達たちから今回の戦の主だった話を聞いた後、彼女達に聞かれないように気を付けつつ、風達から裏側での話を聞きながら新平へと向かう。

「それで、風。どうやってあの数で敵の守りを突破して本陣まで攻め込んだんだい?」

今回風達が連れて行った兵達は確かに精鋭ではあるが、実のところ敵陣を突破出来るほどの数ではなかったのだ。

それにも関わらず、一刀達が到着するよりも早く敵本陣に切り込む事が出来たのは、ひとえに彼女達の策によるものだろうと彼は考えていた。

風は一刀の問いに答えるために飴を舐めながら話を始めた。

「えっとですねー。まず、星ちゃんからお兄さんの考えている事と間諜がお兄さんから受けた命令の両方を聞いた時に思ったんですがー。お兄さんは張三姉妹の身柄を間諜の手で確保してから、その痕跡を表側で動く風達で消し去ろうと思ってたんですよねー?」

「ああ、その通りだよ」

一刀は自分の目的を考えると、華琳と同盟している今の現状では、天和達の身柄を確保するのに正規の兵を使うわけにはいかないと考えていた。

彼女達の身柄を確保した事を公にしてしまっては、華琳達との間でその処分についてで揉め事になるのが目に見えていたためだ。

故に一刀は諜報部隊を使って彼女達を確保した後、正規の兵が戦闘を行っているどさくさに紛れて証拠を隠蔽してしまおうと考えていた。

「主の思惑を成功させるには我等が誰よりも早く敵陣を突破する事が絶対条件、だがあの兵数で正面から挑んではとても敵陣を突破するなど出来よう筈もありませぬ」

「なので風達は間諜にもう一つ命令を出したのですよー」

一刀は風達が出したと言う命令と言うものを考える。

兵力に乏しい風達が、華琳達よりも早く敵陣を突破する方法。

それも諜報部隊を使って行うとなると考えられる手段は限られていた。

「黄巾党に扮した諜報員に情報操作をさせて敵の守りを華琳達のほうへ集中させたのかな?」

「然り。あとは手薄になったところに偃月の陣を使い一点突破を仕掛けたと言うわけですな」

「成る程ね。ただ、さっき春蘭達から聞いた話だと張角達は自ら天幕に火を放ったって事になってるらしいけど、これも風達がやったのかい?」

「ですねー」

「よくあの場で火計を使う気になったね・・・・。一歩間違えばあの場に居た全員が焼け死んでいたところだよ」

「・・・・・ぐー」

「寝るな!」

「・・・・・おおっ!!?」

狸寝入りを決め込む風に一刀は突っ込みを入れ無理やり起こす。

すると風も観念して一刀に火計を使った経緯を簡単に説明する。

「風も使いたくは無かったのですがー、証拠を隠蔽するだけの時間と人手が無いのと風達の退路を作る為に使うしかなかったのですよー」

「主、あまり風を責めてくださるな。あの場に火を放ったのは私ですゆえ」

二人は一刀から火計を使ったことに対して何かお咎めがあるものかと思っていたようだが、彼から出た言葉はそのようなものではなかった。

「風、星。俺は別に責めている訳じゃないよ。君達が心配だったから火計の事を話をしただけさ。俺の為に命を掛けてくれるのは嬉しいが、あまり無茶をしないでくれよ」

今回の事はどれ一つとっても無茶の連続だったと言える。

そもそも偃月の陣とは大将が先頭に立つ事で兵の士気を上げて敵陣を突破するという陣形。

突破力はあるものの大将自体の負傷率も非常に高く、一度瓦解したら立て直すのが難しいと言う諸刃の剣でもあるのだ。

それを戦場まで強行軍を行った兵士で実行し、退路の無い状態で敵本陣に火計を放つなど、もはや玉砕覚悟の特攻としか言いようがない。

それを彼女達の言葉から感じ取った一刀は、釘を刺す意味も込めてこの事を話したのだ。

「主、女と言うものは惚れた殿方の為ならば命を捨てられるものなのですぞ・・・・」

「だが、そんな事をしても残された者は決して喜びはしないよ。"あなたの為に私は命と引き換えにしたんだから一生覚えていてね"なんて言われても重荷にしかならない。少なくとも俺はね」

その言葉に星はハッとした表情で一刀の顔を見てしまう。

確かにそんな事を自分がされても嬉しいわけが無い。

「そんな事をされるくらいならいっそ策に失敗して兵を引いてくれた方がまだマシだよ。これからも俺を支えてもらう星達をこんな所で失うわけにはいかないからね」

「主・・・・・」

「お兄さん・・・・・」

「それはともかく、戦での事は大体分かったよ。後の事は稟に任せる事にするから二人は新平に着いたらゆっくり休んでくれ。ご苦労様」

そう言い残すと一刀は全体の指揮を取っている稟の元へ向かうためにその場を後にする。

残された二人は己が主君の後姿を見ながら彼の事を話し始める。

「策が成ることよりも臣下の身柄の方が大事と言われるとは・・・・。あのお方の懐の深さには底が見えん」

「ですねー。でも星ちゃんはそう言う人が好きでしたよねー」

「然り。だが風も人のことは言えんのではないか?」

「どうでしょうねー」

 

 


 
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